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「ええい!」
げし、と渡辺の背中を蹴り上げ、本庄を解放する。
「すまん、斎藤」
「この!」
本庄の声と、激情した渡辺の声が重なった。
しかし、斎藤の次の動きは素早く、見よう見まねの一本背負いとばかりに渡辺の腕を取り、投げつけた。日頃の鍛錬の成果もあり、形だけは綺麗に決まっている。
が。
「ウっ!」
素人が、しかも故意に投げつけたわけであり、背中を思い切り打ちつけた渡辺は息が止まるかという程の衝撃を受け、呆然と天井を見上げた。
しかも追い討ちをかけるように本庄が「はっ!」と掌を鳩尾に打ち込む。
完全に意識を失ってしまったらしい。
「次!」
斎藤は高柳と組み合っている中浦を振り返った。
遠山や渡辺は大したことなどないことはわかっている。だが、高柳は違う。
中浦が苦戦していることは明白だった。
高柳のパンチを中浦がもろに喰らった音も、遠山を絞めている時に気付いていた。
だが、中浦はそんなものには負けず、果敢に高柳へと拳を振り上げている。
小形は遠山の頭突きのダメージが大きく、まだ座り込んでいたが、本庄は渡辺から受けた蹴り一つではどうってことのない様子である。
捻られた腕は痛むようだが、まだまだ大丈夫だといわんばかりに、中浦に加勢すべくタイミングを見計らっている。
と、互いに組み合っていた二人のバランスが崩れた。
高柳が中浦の右足を蹴り倒したのである。
その勢いで高柳が中浦に乗りかかり、左腕に全体重をかけて絞め上げ始めた。
「はうっ……」
「中浦!」
危ない、と本庄が高柳の体に蹴りを入れた。
が、寸での所で高柳が逃げる。
「このっ!」
高柳の標的が中浦から本庄へと移った。
中浦は絞められたせいでぼんやりと寝転んだままである。
「はっ!」
本庄が気合を入れて右腕を高柳の頬へと打ち込む。
しかし、そこは喧嘩慣れしている高柳に敵うはずもなく、そのまま本庄は腕を掴まれ、ぐるりと捻り上げられる。
「うああー!」
「本庄!」
斎藤が慌てて高柳の背を蹴り上げて本庄を放させたが、本庄はそのまま右腕を抱えてその場にうずくまった。
脱臼か、下手をすれば折れている可能性もある。
既に先ほど渡辺によって捻られているだけに、そのダメージは相当なもので、これ以上本庄が戦うのは難しいと思われた。
「ふん、俺に敵うわけがねーだろうが!」
高柳が鼻で嗤い、顔を上げて斎藤を見据える。
「来いよ、斎藤」
全くダメージを受けた様子のない高柳に、斎藤は大きく深呼吸して神経を集中させて身構えた。
次の瞬間高柳の回し蹴りが斎藤の左側へと飛んでくる。
さっとしゃがんで避けたが、着地した直後逆の足が振り上がって踵落としとなって斎藤の頭を直撃する。
「わっ!」
さすがに避けきれなかったそれを受けた斎藤はその場に倒れこんだ。
軽い脳震盪を起こしているようで、立ち上がれない様子である。
ぐったりとその場に倒れこんだままだ。
「ふっ、ばかめ」
そして高柳は、和巳と祐斗へとその視線を投げかけた。
咄嗟に相手をかばうように前へ歩み寄ったのは祐斗の方だった。
「和巳、下がってて。俺がやる!」
「祐斗!」
そうはさせない、と和巳も前に出たが、高柳はその様子を鼻でせせら笑うように腕を組んで眺めている。
「カワイコちゃんが二人して、何やっちょんじゃか。二人とも一緒にかわいがっちゃるけえ、来いや」
「何をっ!」
高柳の声に先に反応したのは祐斗で、そのまま走り出して高柳へと右足を蹴りだした。
「おっと、危ないな、小月ちゃん」
当然ながらそんな蹴りは、高柳も軽く左手で受け止める。
その右足を引いて床へ寝かせ、祐斗の両手をさらりとまとめてのしかかった。
「やめろ!」
和巳の脳裏に自分がされたあの屈辱が過ぎり、和巳は勢いを付けて高柳の背中を蹴り上げる。
祐斗を掴んでいたせいでそれを甘受してしまった高柳は祐斗の上から転がり落ちた。
和巳はここぞとばかりに高柳の右腕を踏みつけ、全体重をかける。
「痛っ……この、やろっ」
しかし高柳は和巳の足を左手で掴んだ。
そしてそのまま逆さに持ち上げる。
和巳の体重は高柳の三分の二程しかないので、そんなこともたやすくできてしまう。
「う……あっ!」
右足を持って振り回された和巳は次の瞬間投げ出され、格技場に敷き詰められた畳の上をざざっと滑り、壁に体ごとぶつかる。
「和巳っ!」
祐斗の悲鳴のような声が場内に響いた。
げし、と渡辺の背中を蹴り上げ、本庄を解放する。
「すまん、斎藤」
「この!」
本庄の声と、激情した渡辺の声が重なった。
しかし、斎藤の次の動きは素早く、見よう見まねの一本背負いとばかりに渡辺の腕を取り、投げつけた。日頃の鍛錬の成果もあり、形だけは綺麗に決まっている。
が。
「ウっ!」
素人が、しかも故意に投げつけたわけであり、背中を思い切り打ちつけた渡辺は息が止まるかという程の衝撃を受け、呆然と天井を見上げた。
しかも追い討ちをかけるように本庄が「はっ!」と掌を鳩尾に打ち込む。
完全に意識を失ってしまったらしい。
「次!」
斎藤は高柳と組み合っている中浦を振り返った。
遠山や渡辺は大したことなどないことはわかっている。だが、高柳は違う。
中浦が苦戦していることは明白だった。
高柳のパンチを中浦がもろに喰らった音も、遠山を絞めている時に気付いていた。
だが、中浦はそんなものには負けず、果敢に高柳へと拳を振り上げている。
小形は遠山の頭突きのダメージが大きく、まだ座り込んでいたが、本庄は渡辺から受けた蹴り一つではどうってことのない様子である。
捻られた腕は痛むようだが、まだまだ大丈夫だといわんばかりに、中浦に加勢すべくタイミングを見計らっている。
と、互いに組み合っていた二人のバランスが崩れた。
高柳が中浦の右足を蹴り倒したのである。
その勢いで高柳が中浦に乗りかかり、左腕に全体重をかけて絞め上げ始めた。
「はうっ……」
「中浦!」
危ない、と本庄が高柳の体に蹴りを入れた。
が、寸での所で高柳が逃げる。
「このっ!」
高柳の標的が中浦から本庄へと移った。
中浦は絞められたせいでぼんやりと寝転んだままである。
「はっ!」
本庄が気合を入れて右腕を高柳の頬へと打ち込む。
しかし、そこは喧嘩慣れしている高柳に敵うはずもなく、そのまま本庄は腕を掴まれ、ぐるりと捻り上げられる。
「うああー!」
「本庄!」
斎藤が慌てて高柳の背を蹴り上げて本庄を放させたが、本庄はそのまま右腕を抱えてその場にうずくまった。
脱臼か、下手をすれば折れている可能性もある。
既に先ほど渡辺によって捻られているだけに、そのダメージは相当なもので、これ以上本庄が戦うのは難しいと思われた。
「ふん、俺に敵うわけがねーだろうが!」
高柳が鼻で嗤い、顔を上げて斎藤を見据える。
「来いよ、斎藤」
全くダメージを受けた様子のない高柳に、斎藤は大きく深呼吸して神経を集中させて身構えた。
次の瞬間高柳の回し蹴りが斎藤の左側へと飛んでくる。
さっとしゃがんで避けたが、着地した直後逆の足が振り上がって踵落としとなって斎藤の頭を直撃する。
「わっ!」
さすがに避けきれなかったそれを受けた斎藤はその場に倒れこんだ。
軽い脳震盪を起こしているようで、立ち上がれない様子である。
ぐったりとその場に倒れこんだままだ。
「ふっ、ばかめ」
そして高柳は、和巳と祐斗へとその視線を投げかけた。
咄嗟に相手をかばうように前へ歩み寄ったのは祐斗の方だった。
「和巳、下がってて。俺がやる!」
「祐斗!」
そうはさせない、と和巳も前に出たが、高柳はその様子を鼻でせせら笑うように腕を組んで眺めている。
「カワイコちゃんが二人して、何やっちょんじゃか。二人とも一緒にかわいがっちゃるけえ、来いや」
「何をっ!」
高柳の声に先に反応したのは祐斗で、そのまま走り出して高柳へと右足を蹴りだした。
「おっと、危ないな、小月ちゃん」
当然ながらそんな蹴りは、高柳も軽く左手で受け止める。
その右足を引いて床へ寝かせ、祐斗の両手をさらりとまとめてのしかかった。
「やめろ!」
和巳の脳裏に自分がされたあの屈辱が過ぎり、和巳は勢いを付けて高柳の背中を蹴り上げる。
祐斗を掴んでいたせいでそれを甘受してしまった高柳は祐斗の上から転がり落ちた。
和巳はここぞとばかりに高柳の右腕を踏みつけ、全体重をかける。
「痛っ……この、やろっ」
しかし高柳は和巳の足を左手で掴んだ。
そしてそのまま逆さに持ち上げる。
和巳の体重は高柳の三分の二程しかないので、そんなこともたやすくできてしまう。
「う……あっ!」
右足を持って振り回された和巳は次の瞬間投げ出され、格技場に敷き詰められた畳の上をざざっと滑り、壁に体ごとぶつかる。
「和巳っ!」
祐斗の悲鳴のような声が場内に響いた。
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