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「俺としては感想なんぞを聞かせていただきたいと思ったんだけどね」
和巳は旅館のロビーで購入してきた缶コーヒーを祐斗に手渡し、自分用のミネラルウオーターを呷る。
「ま、その態度が感想なんだろうなー、と。嬉しいやら鬱陶しいやら」
祐斗の目はただひたすらに和巳の中に“加寿美”を探していて。
「……こら祐斗!」
暫く放って置いたものの、出ていた月が雲に隠れてしまった瞬間、あまりにも無為に流れる時間に腹が立ち、和巳は祐斗の目の前でぱん、と掌を打った。
「あ」
「あ、じゃねーよ、あほ」
「……かずみ……」
呆然と呼んだ名前。
和巳はふっと笑った。
「あ、あ! 違う、ごめん」
「何で謝るのさ? いっつも“か、さがら”って変な呼び方してたくせに。何で和巳って呼ばねーんだよって思ってた」
真っ赤になって俯いた祐斗は、缶コーヒーを握り締めた。
「……忘れて、ないからな」
「え?」
ぽつりと呟いた和巳の声に祐斗は顔を上げる。
「あん時のおまえの言葉、俺は忘れてないから。おまえが忘れてても、俺は忘れてないから。それだけは、覚えとけよ」
「相楽?」
「……戻すなよ、だから!」
「だって……」
「いいじゃん、和巳で。俺だっておまえのこと名前で呼んでんだしさ」
再び月が雲間から現れ、祐斗の顔を薄く照らす。
その表情が少し困っていたので、和巳は軽くため息を吐いた。
困らせたいわけじゃ、ない。
「今はまあ、それでもいいけど。いずれはちゃんと和巳って呼べよ。今日は“加寿美”に惚れてくれてありがとうな。でも今度は……」
和巳は立ち上がり、言葉を止めて少し微笑んだ。
「相楽?」
「おやすみ。俺、今から明日の宿題すっから。じゃな!」
訝る祐斗に手を振り、和巳は離れへと駆け出して行った。
その後ろ姿を黙って見送った祐斗は、まだ“加寿美”ボケがしっかりと治まりきっていない頭で和巳の言葉を反芻し、
「……イミ、わからん……」
と呟いて、結局ぼんやりと母屋の私室へと帰ったのだった。
和巳は旅館のロビーで購入してきた缶コーヒーを祐斗に手渡し、自分用のミネラルウオーターを呷る。
「ま、その態度が感想なんだろうなー、と。嬉しいやら鬱陶しいやら」
祐斗の目はただひたすらに和巳の中に“加寿美”を探していて。
「……こら祐斗!」
暫く放って置いたものの、出ていた月が雲に隠れてしまった瞬間、あまりにも無為に流れる時間に腹が立ち、和巳は祐斗の目の前でぱん、と掌を打った。
「あ」
「あ、じゃねーよ、あほ」
「……かずみ……」
呆然と呼んだ名前。
和巳はふっと笑った。
「あ、あ! 違う、ごめん」
「何で謝るのさ? いっつも“か、さがら”って変な呼び方してたくせに。何で和巳って呼ばねーんだよって思ってた」
真っ赤になって俯いた祐斗は、缶コーヒーを握り締めた。
「……忘れて、ないからな」
「え?」
ぽつりと呟いた和巳の声に祐斗は顔を上げる。
「あん時のおまえの言葉、俺は忘れてないから。おまえが忘れてても、俺は忘れてないから。それだけは、覚えとけよ」
「相楽?」
「……戻すなよ、だから!」
「だって……」
「いいじゃん、和巳で。俺だっておまえのこと名前で呼んでんだしさ」
再び月が雲間から現れ、祐斗の顔を薄く照らす。
その表情が少し困っていたので、和巳は軽くため息を吐いた。
困らせたいわけじゃ、ない。
「今はまあ、それでもいいけど。いずれはちゃんと和巳って呼べよ。今日は“加寿美”に惚れてくれてありがとうな。でも今度は……」
和巳は立ち上がり、言葉を止めて少し微笑んだ。
「相楽?」
「おやすみ。俺、今から明日の宿題すっから。じゃな!」
訝る祐斗に手を振り、和巳は離れへと駆け出して行った。
その後ろ姿を黙って見送った祐斗は、まだ“加寿美”ボケがしっかりと治まりきっていない頭で和巳の言葉を反芻し、
「……イミ、わからん……」
と呟いて、結局ぼんやりと母屋の私室へと帰ったのだった。
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