【完結】目覚めたら異世界で国境警備隊の隊員になっていた件。

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
33 / 41
裏切り者との決着

第33話・バトンタッチ

しおりを挟む

 第二分隊の管轄区域内にある森の奥で、僕は二人の男と対峙していた。

 一人は第二分隊の古参隊員で裏切り者のドレイク。もう一人はゼノンの昔馴染みでロトム王国に加担しているヴァーロ。ドレイクは身動きを封じられた状態の僕を見てニヤニヤと笑っている。

「だ、誰ですか、あなたは」
「なんだ、そのフニャフニャした話しかたは。ゼノンはそんな情けねえ顔しねえよ」

 僕が問うと、ヴァーロは苛立ちを隠さず舌打ちした。

「俺らをハメるためにひと芝居打ってんじゃねえかと思ったが、こりゃ違うな。コイツはガチで記憶がねえんだ。まったくの別人だな」
「んじゃ始末しちまっていいか?」
「ああ。構わねえ」

 二人は淡々とした会話で僕の行く末を決めていく。やはり彼らは裏で手を組んでいたのだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんだよ」

 僕の言葉にまた舌打ちするヴァーロ。記憶がないと分かった瞬間から笑顔は消えている。

「あのっ、僕、ぜんぜん動けないんですけど、コレどうなっているんですか」

 死の間際に混乱していると思われたのだろう。二対一、しかも僕は病み上がりで丸腰の状態だ。ヴァーロもドレイクも完全に警戒を解いている。

「仕方ねえな。どうせ殺すし教えてやるよ」

 ヴァーロは眼帯を指で軽く押し上げた。覆い隠されていたほうの目があらわになる。左右で虹彩の色が異なるオッドアイ。片目は綺麗な淡い金。ヴァーロは魔素適合者だ。ここまではゼノンの記憶で見たから知っている。

「俺はほんの少し魔素に適合しただけのハンパ者。魔術の類は使えねえが、ちょっとの間だけ指定したモノの動きを止められるんだよ」

 田舎では魔素適合者は忌み嫌われる。まして、ヴァーロは魔術が使えない。世渡りのため、敢えて金の瞳を隠していたのだ。

 任意の対象の動きを封じる能力は魔術ほどではないが役に立つ。あの日、飛んできたゼノンの大剣が宙で止まった原因もヴァーロの能力。彼が狩りに特化していたのも能力で獲物の動きを封じられるからだろう。戦時下で彼が生き抜いてこられた理由が分かった。

 ヴァーロの能力さえ判明すれば、もう僕に出来ることはない。

「──サイオス!」

 僕は腹の底から声を出し、銀髪の魔術師の名を呼んだ。突然大きな声で叫んだ僕に驚き、次に周辺を警戒するヴァーロとドレイク。彼らは森の中の気配を探っているようだが、サイオスは地表にはいない。熟練の隊員であるドレイクや能力が未知数だったヴァーロを警戒し、絶対に見つからない位置からずっと見張ってもらっていたのだから。

 はるか上空、魔術の力で体を浮かせたサイオスが手にした杖を下に向けた。杖の先端は真っ直ぐ対象を指している。ようやくヴァーロたちがサイオスの居場所に気付いた時、僕は不敵に笑ってこう言った。

「すぐにゼノンに会わせてあげるよ、ヴァーロ」
「なに?」

 片目だけの金の瞳が僕の姿を写し、揺らぐ。ヴァーロの動揺が伝わり、心の奥底にあるゼノンの意識を刺激した。郷愁、憧れ、友情、信頼、それらの感情をひっくり返すほどの強い使命感が体を支配していく。

 僕がヴァーロたちから離れると、上空のサイオスが杖をくるりと回した。その途端、森の木々が一斉にざわつき始める。

──無念の死を遂げた者たちよ
  未だこの地に彷徨う哀れな魂たちよ
  私と共に光の先へこう

 サイオスの澄んだ声が辺り一帯の空気まで震わせた。

 地面から黒いもやが立ち昇り、光の粒へと変化していく。サイオスの金の瞳と同じ色。あれが魔術を行使するためのエネルギーとなり、消費されることで浄化されるのだと理解する。

 ヴァーロたちは身動きが出来ない様子だったが、持っていた笛を何度も鳴らしていた。恐らく森の外に控えている仲間を呼び寄せているのだろう。一瞬不安がよぎって見上げるが、サイオスはにこりと笑ってみせた。その表情に安堵して笑い返す。

「サイチ。後は『私たち』に任せて」
「うん、お願い」

 サイオスの精神魔術が発動した瞬間、僕の意識はふつりと途切れた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!

佐倉穂波
ファンタジー
 ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。  学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。 三話完結。 ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。 2023.10.15 プリシラ視点投稿。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...