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98話・ふれる

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 風呂上がりに着ていた寝間着代わりの簡素な服はすぐに取り払われた。ゼルドさんもシャツを脱ぎ、上半身を晒した。

「わあ、すごい筋肉」

 浴室でも見たけれど、改めてその身体を目の当たりにして溜め息をつく。身長差はともかく、体つきがまったく違う。太い腕や分厚い胸板に、自分と同じ成人男性とは思えなかった。

「僕もこれくらい鍛えないと剣が扱えないのかな」
「ダールは細身だが強いだろう。武器や装備が重くなければ問題はない」

 確かにダールは細身だ。しなやかな筋肉に覆われていて、まるで彫刻のような均整の取れた体付きをしている。武器は小さめの双剣、防具は革製だから重くはない。

「熱い。それに、ドキドキしてる」
「ライルくんも鼓動が早い」

 胸元に抱きつき、頬を寄せる。素肌から伝わる体温が心地良い。ずっとこうしていたい。

 顔を上げれば、身を屈めたゼルドさんが唇を重ねてきた。口付けたまま押し倒され、ベッドの上で絡み合う。僕の脚のあいだに膝をつき、閉じられないようにされる。
 大きな手のひらが頬から首筋、肩から二の腕へと降りてゆく。その手が平らな胸を撫で、思わず小さな声が出た。慣れない感覚に戸惑い、ゼルドさんの胸を手で押し退けようとしたけれど、びくともしなかった。

「嫌がってもやめないと言っただろう」
「いや、じゃなくて、はずかしくて」

 ぺたんこな胸なんか触っても楽しくないのに。僕よりゼルドさんのほうが触り甲斐がありそう。ゼルドさんの触れ方を真似て目の前にある胸板を撫でてみると、動揺したように身を固くした。

「……なるほど、確かに恥ずかしい」
「でしょう?」

 ふふっと笑い合い、再び抱きしめ合う。
 触れられているところが全部気持ち良くて、声が出そうになるたびに唇を噛んで堪える。見兼ねたゼルドさんが僕の唇に触れ、そっと指先で口をこじ開けた。

「今夜は誰もいない。私たちだけだ」
「なんで……あっ」

 そうだ。橋の完成を祝い、酒場で打ち上げをしているのだ。オクトに拠点を置く冒険者のほとんどが参加している。

「行かなくて良かったんですか。あの子たちとか、他の人たちもきっとゼルドさんと一緒に飲みたかったと……」

 今回の護衛任務を通じて、ゼルドさんに対する周りの見方が変わった。無闇に恐れられることもなくなった。親睦を深める絶好の機会なのに。

「私にとっては君と過ごす時間のほうが重要だ」
「そんなこと言ってたら僕以外の人と仲良くなれませんよ」
「君さえいればいい」
「……もう」

 他の誰より優先され、僕だけが特別なのだと言葉と態度で伝えられて嬉しくないはずがない。

 二人きりで密着しているのに、ゼルドさんはどこか遠慮しているようだった。触れる手は優しく、もどかしいくらい。

「ゼルドさん、さわって」

 耳元で囁いた途端、ゼルドさんの動きが止まった。衝動を理性で抑え込んだせいか、僅かに指先が震えている。

「怪我はもう治りましたよ」
「分かってはいるんだが……君は元から細いからな。優しくせねば」
「大丈夫ですから。ね?」
「……ッ」

 ゼルドさんの手が僕の胸元から下腹部に降りた。とっくに勃ち上がった二人のものをひとまとめに掴み、擦り上げる。

「あ、あ、あっ、んん……っ」

 ゆるやかな動きなのに、ゼルドさんの硬いものと擦れるたびにはしたない声が漏れた。

「ん、くぅ……っ!」

 数十秒と経たないうちに同時に果て、大きな手のひらの中に精を吐き出した。
そのまま濡れた手のひらが更に下に移動し、僕の後孔へとあてがわれる。

「……んんっ」

 粘りのある液を塗りたくってから、太い指が一本押し込まれた。慣れるまで浅いところを擦ってから、少しずつ奥へと進められる。今のところ痛みはない。まだ気持ち良さより違和感のほうが大きいけれど、感覚の境い目は徐々に曖昧になってきた。

「辛くはないか」
「だ、だいじょうぶ、です」

 タバクさんに襲われた時は媚薬を盛られていたから恥ずかしさより快楽が上回り、身体の奥が火照って仕方がなかった。
 今は薬を使っていないけど、好きな人ゼルドさんに触れられているという事実が頭を痺れさせ、思考をとろりと溶かしていく。

「あぁ、……っ!」

 指が増やされ、更に奥を弄られて、思わず甘い声が漏れた。僕の表情や声の高さを見ながら、ゼルドさんはじっくりと中を解していく。
 彼の腕に縋りついて刺激に耐えていると、目尻に軽くキスをされた。瞼を開ければ、興奮を押し殺したような表情のゼルドさんが僕を真っ直ぐ見つめていた。ふ、と目を細め、今度は鼻先に口付けてくる。それだけで、僕の中はどうしようもないくらいに疼いてしまった。

「ゼルドさん、きて」

 再び耳元で囁くと、ゼルドさんは指を引き抜き、一旦身体を離した。僕の腰を両手で掴んで軽く浮かせ、がちがちに固くなったものを後孔にあてがう。

「……っ」

 緊張で目を閉じると、脳裏にタバクさんの姿が浮かんだ。ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて僕を見下ろし、無理やり突っ込もうとしてきた時の姿。僕が怪我をしなかったら、きっとあのまま犯されていた。
 ぞっとして目を開け、自分を組み敷いている相手を確認する。

「……ゼルド、さん」
「うん?」

 名を呼ぶと、ゼルドさんは口元をゆるめた。僕だけに見せる甘い表情。大丈夫、怖くない。むしろ愛しくて仕方がない。

 早く彼を受け入れたくて、期待で鼓動が高鳴り、背筋が震えた。
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