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41話・怪しい薬と不穏な噂
しおりを挟む「び、媚薬?」
「そぉ。要するに精力剤みたいなもんだな~」
ダンジョンから帰還後、戦利品をアルマさんに見せたら意外な鑑定結果を告げられた。
これまで宝箱から出てきたアイテムは武器や防具などの装備品か用途不明の金属片ばかり。今回のような液体入りの瓶は初めてだ。
「他のダンジョンでも同じ装飾の瓶がちょいちょい発見されてるぞ。むかし流行った薬なんだろな~。意外と出回ってるんだが、見たことないか?」
「あるわけないじゃないですか」
ダンジョンは遥か昔に栄えた文明の遺跡だと言われている。つまり、見つかった品は何百年か何千年か前の代物だ。そんな昔の薬がまだ残ってるなんてすごい。
アルマさんによれば、中身の液体を一滴飲み物に混ぜるだけで効果があるらしい。思わず小瓶を手に取り、まじまじと眺める。とろりとした桃色の液体が揺れ、なんだか甘そうだな、なんて思った。
「なんだライル、使いたいのか~?」
「つっ使いませんよ!」
「ちゃんと効果はあるらしいぞ~」
「使いませんってば!売ります!!」
眼帯に隠れていないほうの目を細め、からかうように笑うアルマさんに小瓶を突き返し、勢いで戦利品売却を宣言する。勝手に決めちゃって良かったかな?と後ろに立つゼルドさんに視線を向けると、賛成するように小さく頷いてくれた。
こんなもの持っていたって仕方ないし、売れるなら売ったほうがいいよね。
「ダンジョン産の媚薬は需要があるんだよな~。オクトにも娼館ができたことだし、欲しがる奴も増えそうだ~」
一週間前はまだ建設中だった娼館は、僕たちがダンジョンに潜っている間にオープンしたという。絶対行かないから関係ない話だ。
他の戦利品も鑑定と売却を済ませ、いつものように誰かが『対となる剣』を持ち込んでないか確認したけれど、今回も返事は同じだった。
受付カウンターのマージさんに挨拶をしてからギルドの建物から出る。まだ昼を過ぎたばかりの時間なので通りを行き交う人の姿は多い。とりあえず昼食を食べにいつもの定食屋へと入った。
日替わりランチを頼み、席について待っている間に離れたテーブルに座る冒険者たちの会話が聞こえてきた。なんとなく聞き耳を立て、内容を把握する。
ゼルドさんには聞き取れなかったようで、急に黙り込んで意識を他に向けた僕を見て首を傾げている。
「どうした、ライルくん」
「……後で教えますね」
「わかった」
食事を終え、宿屋に帰り、女将さんにお風呂用の湯を頼んでから部屋に入る。
「さっき定食屋で小耳に挟んだ話ですが、どうやら他のパーティーの後についてダンジョンに入るフリーの冒険者がいるみたいなんです」
「どういうことだ?」
「たぶん、取りこぼした宝箱を狙ってるんでしょう。先を行くパーティーがモンスターを倒してくれるわけですから比較的安全に宝箱を探せるし」
「ほぉ」
先ほど聞いた話をゼルドさんに伝えたら、全く理解できないみたいな顔をされた。
ギルドに『探索計画書』を提出し、許可を貰わなければダンジョンには入れない。これはダンジョンに挑戦する権利だけではなく、万が一の備えでもある。もし帰還予定日を大幅に過ぎても戻らない場合はギルドが捜索隊を派遣して救助に来てくれる。
それに、ギルド所属の鑑定士が戦利品の買い取りをする対象は許可を得た冒険者と決まっている。無許可でダンジョンに潜って戦利品を手に入れても買い取ってもらえなければ意味がない。直接店や業者に売ることもできるけど、査定額が数段落ちるため普通は避ける。
今回の場合、モンスターとの戦闘リスクが下がるため、アイテムを安く買い叩かれたとしても十分な利益になると判断したのかもしれない。
ダンジョン踏破の知らせを見た時に危惧した実力に見合わない者の単独活動。まさかギルドに許可を得ず、他パーティーに半分寄生するような形で戦利品を狙う冒険者が現れるなんて。
「私たちにもついてきていたのだろうか」
「あ、それは絶対ないですね」
ゼルドさんの疑問に即座に答える。
僕たちはダンジョンに入ってすぐ第三階層の終りまで走って向かう。モンスターはほとんど無視して先に進むので、ついてきたとしてもモンスターはそのまま残っているわけだから危険しかない。
今思えば、ギルドのフロアでも他の冒険者が似たようなことを話していた気がする。マージさんからは特に何も言われなかったし、単なる噂か事実確認ができていない段階なのだろう。
ひと通り話し終えたところで沈黙が訪れる。
ダンジョン内であの話を聞いてから努めて平静を装っているが、全然平気じゃない。ずっと頭の片隅を占め、行き場のない感情がぐるぐると渦巻いている。
十年前の出来事を切っ掛けに変わってしまったゼルドさんの人生。その変化に幼い頃の僕が関わっていたという事実が受け止めきれない。
スルトでダンジョンの大暴走が起きてしまったことは仕方ない。誰も予知できなかった災害だ。スルト以外に被害が出ずに済んだのは、駆けつけた騎士団が命懸けでモンスターを倒してくれたおかげだ。
それなのに、僕は自分が一番不幸みたいな顔をして、周りにいた騎士たちに「友だちを探して」と自分勝手な要求を押し付けた。
その結果、ゼルドさんは責任を感じてしまった。貴族として何不自由なく暮らしていけただろうに、全てを投げ打って冒険者になり、各地のダンジョンを巡るようになった。
ぜんぶ考えなしの僕のせいだ。
「ライルくん」
「は、はいっ」
床に座り込んで荷解きをする僕の隣にゼルドさんが腰を下ろした。大きな手のひらがこちらに伸び、頬にかかっていたひと房の髪を漉くように撫でる。
「やはり顔色が悪い」
きっと心配そうな表情で僕を覗き込んでいるのだろう。ゼルドさんの顔がまともに見られず、リュックの中に視線を下ろしたまま「大丈夫ですから」と愛想笑いを浮かべる。
ゼルドさんは優しい。
でも、僕が人生を狂わせた切っ掛けの『生き残りの少年』だと知っても態度を変えずに接してくれるだろうか。彼は話してくれたのに、僕は自分の素性を明かすことを恐れている。伝えた結果、もし「一緒に来てほしい」という言葉を撤回されたらと思うと何も言えない。
「疲れましたよね。そろそろお湯も沸いたでしょうし、お風呂にしますか」
「……ああ」
荷物の片付けを終え、目線を合わせぬまま立ち上がる。普段通りの声色を心掛けながら提案すると、ゼルドさんは小さく頷いた。
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