上 下
14 / 25

第14話 移動式禁呪

しおりを挟む

 禁呪の布はティルナに持たせると決まった。この布を中心に半径数メートルの中に入れば実体のない幽霊である私の姿を視認、更に言葉を交わすことも可能となる。

「わたくし以外の者に持たせるなら改造なんか致しませんからね!」

 不貞腐れたクレイは禁呪の改造を拒否している。

「あっそう」
「じゃ、諸々の悪事プラス不敬罪で即処刑コースっスね」


 しかし、ディーロとフレッドから抜き身の剣を突き付けられて観念したようで、渋々一部の呪文を書き換え始めた。最初から言うことを聞いておれば良いのに。

「おのれ、大司教たるわたくしに危害を加えようとは、神をも恐れぬ乱暴な輩ですね……」

 先に神をも恐れぬ行いをしたのはクレイだからな?

「ジーク、この後はどうする? アリーラに会いに行くか?」

 先ほど言い合いをしてから吹っ切れたローガンは、人前にも関わらず私の呼び方が愛称になっているし、妹である王妃のことも名前で呼んでいる。他の者とは立場が違うアピールだろうか。

『会いたいのはやまやまだが、こんな姿で現れたら驚かせてしまうかもしれん。せめて夜が明けてからだな』

 アリーラは妊娠中だ。私が突然死んでショックを受けている中、更に驚かせたくはない。びっくりし過ぎて腹の子に何かあったらマズい。

「では、やはり調査か」
『私を狙った犯人の特定と並行し、我が国の滅亡の原因を探りたい』
「わかった。手配しよう」

 こういう時に宰相ローガンは頼りになる。彼はすぐさまパスメナス家の隠密を呼びつけ、何やら指示を出していった。

「ティルスタン卿とガルデンディ卿に使いを出した。早ければ明日中には情報を携えて王宮に来るだろう」

 この二名は我がロトム王国屈指の大貴族である。ティルスタン家は広大な領地を、ガルデンディ家は複数の鉱山を所有している。彼らから最新の国内情勢を教えてもらうことで滅亡の原因を探るつもりなのだ。

「禁呪の改造が終わりましたよ」

 そうこうしているうちに魔法陣の修正が完了した。クレイは大判のテーブルクロスほどの禁呪が描き込まれた布を手に取り、ティルナの肩にふわりと掛けた。床に引き摺るほど長いマントの様である。

「あ、あの、大司教様? 例えばなんですけど、たたんでポケットに入れておくとかじゃダメなんですか?」
「呪文や魔法陣の大半が隠れてしまうと禁呪の効果が期待できなくなります。移動を前提とするのなら羽織っておくべきでしょう」
「えええ……」
「おや、嫌なのですか? 我が国で最も重要かつえあるお役目が?では、やはりわたくしが代わりましょうか」
「ちょっと、王様ぁ」

 クレイにウザ絡みされているティルナは嫌そうな顔を隠しもせず、私に恨みがましい目を向けてきた。

 すまん。面倒を掛けて申し訳ないが、私が生き返るまでの僅かな期間だけ我慢してくれ。給与に禁呪手当を上乗せするよう頼んでおくから。

 準備は整った。現在地は神殿の建物の最奥にある書庫である。ディーロが先導する形で部屋から出ると、全員の視線が私に集中した。移動式禁呪はきちんと効果を発揮しているようで、安堵の溜め息が其処彼処から聞こえてくる。

 薄暗い廊下を進み、幾つかの扉を潜り抜けると神殿内で一番大きな空間、礼拝堂に出た。とっくに日が落ちた時間だが、ランプが灯されているため比較的明るい。

 礼拝堂の祭壇上部には女神アスティレイアがおわすのだが、禁呪の効果は私だけに有効で、素質のない者に神の姿は視認できないらしい。大司教とティルナ以外は平然と女神の目の前を通り過ぎていく。

『……女神よ、私はまだ生き返ってはいけないのか?』

 他の者に聞こえぬよう小さな声で問うと、女神は両腕を用いて大きなバツ印を作ってみせた。まだ我が国滅亡の原因が判明していないと言いたいのだろう。光り輝く七色の髪の美しい姿を見上げ、ほんの少し落胆する。

「陛下、あまりお嬢さんから離れたらダメですよ。我々がお姿を見れなくなってしまいます」
『……済まない、いま行く』

 ディーロに笑顔で返事をして、暗く沈みそうになる気持ちを無理やり奮い立たせる。女神に一礼してから、みなが待つ神殿の出口へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

悪役令息は断罪を利用されました。

いお
BL
レオン・ディーウィンド 受 18歳 身長174cm (悪役令息、灰色の髪に黒色の目の平凡貴族、アダム・ウェアリダとは幼い頃から婚約者として共に居た アダム・ウェアリダ 攻 19歳 身長182cm (国の第2王子、腰まで長い白髪に赤目の美形、王座には興味が無く、彼の興味を引くのはただ1人しか居ない。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

5人の幼馴染と俺

まいど
BL
目を覚ますと軟禁されていた。5人のヤンデレに囲われる平凡の話。一番病んでいるのは誰なのか。

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

処理中です...