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第13話 BATTLE BATTLE BATTLE
しおりを挟む当面のクレイとセオルドの処遇は決まった。監視がつくだけで普段の生活とほぼ変わらない。クレイは大司教という立場のため他人から見られることに慣れているが、人見知りのセオルドには辛いかもしれない。真犯人が捕まるまでの措置だ。悪いことを企んだ罰だと思って我慢してもらうとしよう。
さて、その前に。
『ディーロ、台の上にある布を破り捨ててくれないか』
「なんですかコレは。妙な文字や図形が描き込まれておりますが」
『禁呪に用いられている魔法陣のようなものだ。禁呪を解除しない限り私はこの部屋から出られぬ』
「は。では直ちに」
怪しげな紋様がびっしりと描き込まれた布をディーロが無造作に掴み上げると、クレイが焦り始めた。
「よろしいのですか? 禁呪を解除したら、貴方がた凡人には陛下のお姿が見えなくなり、話すら出来なくなるのですよ?」
クレイの言葉を聞いたディーロは動きを止め、私を見上げた。ローガンとフレッドも難しい顔をしている。
「ジークと話せなくなったら困る」
「嫌ですね」
「オレも嫌っスわ」
三人とも布の破棄をしたがらない。何故だ。
仕方ないので女官長に頼むことにした。彼女はいつも小さな裁縫道具を持ち歩いていると知っている。怪しげな紋様が描かれた布をハサミでズタズタに切り裂いてもらおう。
しかし。
「なりません陛下。王妃様とまだお話されていないでしょう。今朝からずう~~っと塞ぎ込んでらっしゃるのですよ。せめて一度くらいお姿を見せて何かお言葉を掛けていただかないと」
『うっ』
「ディアト殿下も陛下を恋しがって何度も部屋に入ろうとしておりますよ」
『ううむ……』
悲しみに暮れるアリーラと私の死をまだ理解できないディアトの顔が浮かび、ちくりと心が痛くなる。
みなは私が生き返る道が残されていると知らず、これが最後の機会だと考えているから渋るのだ。確実に生き返られると確証がないうちは禁呪を解除しないほうが良いのかもしれない。
この部屋は王宮の敷地内とはいえ神殿の最奥。常駐する場所としては不便極まりない。私はまだ女神から出された課題を達成出来ずにいる。せめて我が国滅亡に関わる原因の一端を突き止め、ローガンたちに託さなければ死んでも死にきれない。
思い悩んでいると、クレイが挙手をした。
「禁呪を掛けた術者はわたくしです。魔法陣に少々手を加えれば陛下の魂の縛りをこの部屋から布に移すことも可能ですよ」
『どういう意味だ?』
「つまり、魔法陣が描かれた布がある場所にならどこへでも行けるようになるのです。例えば、誰かに身に付けさせれば、その者の行く先に陛下もついていける、といったような感じですね」
つまり移動可能な禁呪空間に改造するというわけか。近付けば私の姿や声が分かるし、私も一箇所に縛られずに済む。なかなか画期的な案だと思う。
ていうかクレイの奴、やけに禁呪の維持に固執しているな。私の魂の独占をまだ諦めていないのか。
ところが、またも問題が発生した。
「布は俺が身に付けよう」
「隊長ズルいっスよ、オレが持ちますんで!」
「こういうのは宰相である私の役目だ!」
布の所持権を巡って言い争いを始めたディーロとフレッド、ローガン。少し離れた場所から、セオルドが控えめに「ぼ、僕も……」と手を挙げるが全員から無視されていた。
「大体さぁ、宰相サマはいーっつも陛下にベタベタしてるじゃん? オレらだってそばにいたいけど我慢してるんスよ!」
「ベタベタとはなんだ。政治的な議論をしているだけだ!」
「はぁ~? 仕事以外だって一緒にいるっしょ! 王宮の出入りは全部把握してるんで、宰相サマが自分の屋敷にほとんど帰らずに陛下んトコに入り浸ってんのも知ってるんスからね!」
言い争いはローガンとフレッドの一騎打ちとなった。
「仕事が終わった後のことまで口を挟むな! 可愛い妹や甥と過ごして何が悪い!」
前にも言ったが私の妻、王妃アリーラはローガンの実の妹なのである。
「血縁だからって陛下の一家団欒に入り込み過ぎっスよ。さっさと結婚して自分の家族を持ちゃいいのにさぁ」
「なんだと貴様!」
「まあまあ、落ち着いてください宰相閣下」
とうとう見兼ねたディーロが止めに入った。子どものように争い続ける男どもに、女性陣が醒めた視線を送っている。
「くふふ。はしゃいでいるところ大変申し訳ありませんが、禁呪の効果を維持するためには霊力を供給せねばなりません。貴方がた凡人に持たせたところで意味はないのですよぉ!」
勝ち誇った笑みを浮かべるクレイ。要は自分が持つべきだと主張したいのだろう。独り占めは出来なくなるが、クレイにとっては私の魂がずっと傍らに置いておける状況は願ったり叶ったりだ。そうはいかん。
『ティルナ。済まないが頼まれてくれるか』
「えっ。あっ、はい」
ティルナには私や女神を感知できるほどの霊力が備わっている。移動式禁呪空間の持ち主は私の鶴の一声によりティルナに決まった。全員から文句を言われたが聞こえない振りをした。
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