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追加エピソード
最終話:君が帰る場所になる
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*同居開始~本編最終話ラストに至る迄の物語*
謙太が泊まりで出張に行く日が来た。
いつもより早い時間に家を出る謙太に合わせ、龍之介も早起きして玄関先で見送る。
「行きたくない……」
「シャキッとしろ。仕事だろ!」
「三日も離れるとか無理」
「ほら、新幹線の時間に遅れるぞ」
「うう……」
今回も二泊三日で仙台だ。
際限なくグズる同居人を元気付けるようにハグして軽く背中を叩いてやると、ようやく出掛ける気になった。
「行ってくる」
「ん。気をつけて」
玄関の扉を開け、通路に出たところで謙太が振り返った。
「オレがいない間あの店に行くなよ」
「なんでだよ」
「なんでも!」
それがあの居酒屋の店主に対する嫉妬だと気付き、龍之介は呆れたように笑った。
「……ほんとバカだな」
「約束な!!」
「はいはい」
扉が閉まってからも、龍之介は玄関から動かない。バタバタと共有通路を進む音が徐々に遠退いて聞こえなくなるまでその場に留まる。これは同居を始めてからずっと続けてしまっている癖みたいなものだ。
前回の出張の時は寂しさが勝っていたが、今回はそれほどでもない。それは、謙太との気持ちの繋がりが出来たからなのかもしれない。
その夜、龍之介は迷っていた。
手には錠剤のシートがある。以前処方してもらった睡眠薬だ。色々あって結局まだ一度も飲んでいない。出張先で睡眠不足になっては仕事にならないからと、謙太にも持たせている。
まずはそのまま寝てみて、どうしても眠れないようだったら飲もうと決めた。
ワイドダブルのベッドは独りで使うには広過ぎて、大の字になってもまだ余裕がある。いつもは謙太に抱き締められて窮屈な思いをしながら寝ていたが、今日は伸び伸びと横になれる。
布団や枕から謙太の匂いがして、龍之介は安心して瞼を閉じた。
独りの夜には必ずと言っていいほど悪夢を見た。
結婚を約束した恋人に捨てられる夢だ。
それが怖くて眠れなくなった。
誰かの温もりが側にないと不安だった。
弱い心ごと包み込んでくれる存在が必要だった。
「…………眠れた……!」
翌朝、遮光カーテンの隙間から射し込む太陽の光で龍之介は目を覚ました。同居開始以来、初めて一人で朝までうなされずに眠ることができた。睡眠薬には頼っていない。
不眠を克服できたのは、やはり謙太との関係が変わったからだろう。離れていても少しも不安を感じない。もちろん多少の寂しさはあるが、それ以上に信頼している。必ず自分の元に帰ってくると分かっているから安心していられるのだと龍之介は思った。
一人で眠れたことをメールで報告すると、すぐに返事がきた。
『オレは寂しすぎて睡眠薬飲んで寝た』
「なんでだよ!」
スマホの画面をみて思わず声に出して突っ込む。
出がけの様子からみれば、恐らく謙太は龍之介と離れることにまだ不安があるのだろう。顧客に対して嫉妬したり、側から離れたがらなかったり。
「俺はもうおまえから十分気持ちを貰ったからな。今度は俺が返してやらないと」
出先から度々送られてくるメールを見て、龍之介は無意識のうちに笑顔になった。何度か文章を打ったあと、それを全部消してから『早く会いたい』とだけ返信した。
すぐ謙太から着信がきたが、それは取らず『仕事しろバカ』と追加でメールを送り、その後は無視を決め込んだ。
翌日の夜。
最寄駅に着いたとメールが届いた。その十分後、大きな足音を立てながらマンションの共有通路を走ってくる気配を感じて玄関の扉を開ける。息を切らせている姿を見て笑って出迎えた。
「ただいま、リュウ」
「おかえり、ケンタ」
『君を繋ぎとめるためのただひとつの方法』 完
謙太が泊まりで出張に行く日が来た。
いつもより早い時間に家を出る謙太に合わせ、龍之介も早起きして玄関先で見送る。
「行きたくない……」
「シャキッとしろ。仕事だろ!」
「三日も離れるとか無理」
「ほら、新幹線の時間に遅れるぞ」
「うう……」
今回も二泊三日で仙台だ。
際限なくグズる同居人を元気付けるようにハグして軽く背中を叩いてやると、ようやく出掛ける気になった。
「行ってくる」
「ん。気をつけて」
玄関の扉を開け、通路に出たところで謙太が振り返った。
「オレがいない間あの店に行くなよ」
「なんでだよ」
「なんでも!」
それがあの居酒屋の店主に対する嫉妬だと気付き、龍之介は呆れたように笑った。
「……ほんとバカだな」
「約束な!!」
「はいはい」
扉が閉まってからも、龍之介は玄関から動かない。バタバタと共有通路を進む音が徐々に遠退いて聞こえなくなるまでその場に留まる。これは同居を始めてからずっと続けてしまっている癖みたいなものだ。
前回の出張の時は寂しさが勝っていたが、今回はそれほどでもない。それは、謙太との気持ちの繋がりが出来たからなのかもしれない。
その夜、龍之介は迷っていた。
手には錠剤のシートがある。以前処方してもらった睡眠薬だ。色々あって結局まだ一度も飲んでいない。出張先で睡眠不足になっては仕事にならないからと、謙太にも持たせている。
まずはそのまま寝てみて、どうしても眠れないようだったら飲もうと決めた。
ワイドダブルのベッドは独りで使うには広過ぎて、大の字になってもまだ余裕がある。いつもは謙太に抱き締められて窮屈な思いをしながら寝ていたが、今日は伸び伸びと横になれる。
布団や枕から謙太の匂いがして、龍之介は安心して瞼を閉じた。
独りの夜には必ずと言っていいほど悪夢を見た。
結婚を約束した恋人に捨てられる夢だ。
それが怖くて眠れなくなった。
誰かの温もりが側にないと不安だった。
弱い心ごと包み込んでくれる存在が必要だった。
「…………眠れた……!」
翌朝、遮光カーテンの隙間から射し込む太陽の光で龍之介は目を覚ました。同居開始以来、初めて一人で朝までうなされずに眠ることができた。睡眠薬には頼っていない。
不眠を克服できたのは、やはり謙太との関係が変わったからだろう。離れていても少しも不安を感じない。もちろん多少の寂しさはあるが、それ以上に信頼している。必ず自分の元に帰ってくると分かっているから安心していられるのだと龍之介は思った。
一人で眠れたことをメールで報告すると、すぐに返事がきた。
『オレは寂しすぎて睡眠薬飲んで寝た』
「なんでだよ!」
スマホの画面をみて思わず声に出して突っ込む。
出がけの様子からみれば、恐らく謙太は龍之介と離れることにまだ不安があるのだろう。顧客に対して嫉妬したり、側から離れたがらなかったり。
「俺はもうおまえから十分気持ちを貰ったからな。今度は俺が返してやらないと」
出先から度々送られてくるメールを見て、龍之介は無意識のうちに笑顔になった。何度か文章を打ったあと、それを全部消してから『早く会いたい』とだけ返信した。
すぐ謙太から着信がきたが、それは取らず『仕事しろバカ』と追加でメールを送り、その後は無視を決め込んだ。
翌日の夜。
最寄駅に着いたとメールが届いた。その十分後、大きな足音を立てながらマンションの共有通路を走ってくる気配を感じて玄関の扉を開ける。息を切らせている姿を見て笑って出迎えた。
「ただいま、リュウ」
「おかえり、ケンタ」
『君を繋ぎとめるためのただひとつの方法』 完
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