【完結】君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
79 / 86
番外編

あの日の面影 前編

しおりを挟む


 龍之介りゅうのすけの部屋に居着いてから三ヶ月。
 衣替えの季節になった頃、謙太けんたは一度実家に戻った。離婚の際に大半の荷物を預けていたため、春夏用の衣服を取りに行ったのだ。

「どうりで荷物が少ないと思ったよ」
「リュウが置いてくれるかどうかは賭けだったからさ、いきなり全部は持ち込めなくて」
「ふうん」

 勢いで行動しているように見えて、謙太は意外と後先を考えていた。もし同居を断られてもすんなり退去出来るよう持ち込む荷物を最小限にしていた、ということだ。
 それが少しばかり面白くなくて、龍之介はつい素っ気ない返事をした。

 今回謙太が実家から持ってきたのは主に替えのスーツと薄手の衣服。スーツはハンガーにカバーが掛かった状態のものが幾つか。異動前は営業職だったこともあり、余分に数着所持している。

 寝室のクローゼットの半分を謙太用に空け、冬服と入れ替えていく。

「あれ?」

 仕分けの最中に謙太が首を傾げた。
 スーツに掛けられた不織布のカバーを外して中身を確認していたのだが、その中に仕事用ではない衣類が紛れ込んでいた。

「ん? これ、もしかして」
「高校ん時のブレザーじゃね?」

 取り出されたのは高校時代の制服だった。上着が濃紺、スラックスはチェック柄。ハンガーに掛けられた状態では判別し辛いため、間違えて一緒に持ってきてしまったらしい。

「うわ懐かしい! 卒業以来だから七年振りか」
「随分綺麗に取っておいてあるな」
「ズボンは何度か買い替えたけど」
「知ってる。派手に自転車チャリで土手転がり落ちて膝にデカい穴開けてただろ」
「リュウも一緒にいたんだっけ」
「あん時おばさんめっちゃ怒ってたよな」
「裾直ししたばっかだったからなあ」

 自転車通学だった二人は放課後よく一緒に遊びに出掛けた。大学受験前にはあまり会わなくなったが、それでも他の友人よりは遊ぶ頻度が高かった。
 この制服にはその頃の思い出が詰まっている。

 上着をハンガーから外し、袖に腕を通してみるが、途中で引っ掛かった。

「む、キツい」
「高校ん時よりガタイ良くなったもんなあ」
「まあな」

 謙太は一人暮らしを始めてからの趣味としてジム通いをしていた。結婚して新居へ引っ越したのを機に辞めてしまったが、数年の間にかなり鍛えられた。前の部署である営業に回されたのも、体力がある若手だからだろう。
 故に、高校の制服を着ることはもう出来ない。

「リュウならイケんじゃね?」
「まあ俺は楽勝だろ」

 元々細身の龍之介は、高校時代から体型がほとんど変わっていない。むしろ少し痩せたくらいだ。

 懐かしさと好奇心に負けて、龍之介はブレザーを受け取って羽織ってみた。すんなり着れたどころか、若干余裕すらある。高校時代の謙太に体格で負けていた事実に少し凹む。

「おー……、こうしてると高校ん時にタイムスリップしたみてえ」
「ばか。違和感あるだろ流石に」

 満面の笑顔で様々な角度から見てくる謙太を手のひらで遮る。しかし、とうとう謙太はスマホを持ち出して写真を撮り始めた。

「いや、なんか記憶の中のリュウそのまんま」
「まじか」

 現在二十五歳。
 そう言われて嬉しいような悔しいような、少し複雑な心境で龍之介は苦笑いを浮かべた。

「シャツとスラックスも着てみて!」
「やだよ恥ずかしい」
「ネクタイも!」
「やだっつってんだろ!」
「リュウ~……」
「……わ、わかった。わかったから情けない声を出すな。あとその顔やめろ!」

 やはり、龍之介は謙太に弱い。
しおりを挟む
《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。
感想 37

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

処理中です...