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第11章 向き合う覚悟
79話・魔法使いの後悔
しおりを挟む客室の床に敷かれた絨毯の上。創吾は諒真を仰向けに転がし、馬乗りになって押さえ付けた。
我慢することを放棄した今、創吾の心は晴れやかだった。あんなに苦しんでいたことが嘘のように気持ちが軽い。目の前の諒真は苦しそうに眉間に皺を寄せている。涙目で睨まれると高揚した。ずっとこうしたかったのだ。背筋がゾクゾクと痺れるような感覚。血が沸き立つほどに興奮している。
「本当に馬鹿らしい。さっきまでの自分が嫌になります。さっさとこうしておけば良かった」
「ちょ、何を……」
馬乗り状態のまま諒真の腰に手を這わせ、そのまま服の裾を捲って直に触れる。冷えた指先に温かな体温が伝わり、創吾は恍惚の表情で溜め息をもらした。
「あは、触ってるだけなのに気持ちいい。もっと触れたらどうなってしまうのかな」
「離せッ、おまえどこ触ってんだ」
「まだお腹と胸元だけですよ」
諒真の両手は拘束されてはいないが、何故かぴくりとも動かせない。見えない何かで床に縫い付けられているようだった。創吾の右手は相変わらず喉元を押さえつけている。例えこの手が退かされても諒真は自由に動けないだろう。
「脱がすの面倒だなぁ。破ってもいいですか?」
「良いワケないだろ!」
「あ、すみません破れちゃいました」
今までも何度かこうして触られることはあった。元の世界では魔力を発散させるための手段として。異世界に再召喚されてからは、様子がおかしくなる直前に少しだけ。
どちらも諒真が本気で嫌がれば中断していた。
でも、今は違う。
会話は出来るのに、創吾は諒真の意思を無視している。手を止める気配はない。熱に浮かされたように笑いながら、動けない諒真の身体を好き勝手に触りまくっている。
「っあ、」
とうとう上半身が露わになった。
晩餐会に参加するため普段着よりかっちりとした衣服を着込んでいたというのに、全て切り裂かれ、引き千切られている。素肌に舌が這い、強く吸われる度に身体が跳ねる。諒真は僅かな身動ぎしか許されない状態で、されるがままになっていた。
「やめてくれ創吾」
「嫌です」
喉元を押さえていた手が外れ、馬乗りになっていた創吾が上から退いた。それでも身体は起こせない。やはり魔法で動きを封じられている、と諒真は確信した。涙が目の端からこぼれ、絨毯を濡らしていく。
その様子を心底嬉しそうに見下ろしながら、創吾は諒真のベルトに手を掛け、金具を外した。
「創吾」
「なんです?」
鼻唄でも歌い出しそうな上機嫌な顔で聞き返すが、手は動いている。何を言っても止める気配はない。
創吾は変わってしまった。
その変化が諒真には悲しかった。
冷静で思慮深く、支えてくれる存在。
一番年上の彼に甘え過ぎていた。
彼こそ支えてやるべきだった。
後悔の念が諒真の心を埋め尽くしていく。
「ごめん、ごめん創吾」
ボロボロと涙をこぼしながら、諒真は震える声で謝罪の言葉を繰り返した。流石に様子がおかしいと気付いたか、創吾が怪訝そうに首を傾げる。
「オレが頼りないせいで、こんな真似までさせてごめん」
魔法の拘束は正しく魔力を操作すれば外せる。異世界最強の魔法使いである諒真には容易いこと。魔力の流れを解析し、無効化するまでに多少時間は掛かったが、諒真は自力で拘束を解いた。
絨毯の上に転がされたまま、腕を上げ、手のひらを創吾に向ける。
「諒真くん、何を」
「──おまえはここで寝てろ」
トラウマのせいで人に向けて発動出来なくなっていたはずの攻撃魔法。魔王城跡で『呪いの核』を破壊した時のように強力な魔法を短剣ほどの小さな一本の杭に変換し、超至近距離から放つ。
普段なら簡単に防げる攻撃だが、欲望に突き動かされていた創吾は冷静さを欠き、結果反応が遅れた。
諒真の放った杭は創吾の脇腹に深々と突き刺さり、鮮血が散った。
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