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第8章 魔王城跡探索
51話・おかしくなったのは
しおりを挟む「うっわ、ボロボロ……」
今や廃墟を通り越して瓦礫の山と化した魔王城内部を探索しながら、諒真がぽつりと呟いた。ところどころ床が抜け落ち、数十メートルもの深さの穴が出来ている。常に足元に注意を払わねばならない状況だ。
「皆さま、こちらです!」
そんな危険な城内を先導するのはラミエナだ。小柄な彼女がまず危険がないかを確認し、安全なルートを見つけていく。
捜索隊は全部で八名。
勇者一行の四人。
遠征部隊隊長ハルク。
隊長補佐のイルダート。
斥候役の女性騎士ラミエナ。
そして、荷物持ちのリエロ。
「ちまちま進むのめんどくさーい」
「ユウト殿、先に進まれては……」
「うわー!床が抜けたーー!!」
「ユウト殿ーーーッ!!」
勝手に走り回っては穴に落ちていく由宇斗にハルクたちは振り回されている。もちろんこの程度で怪我を負うことはないが、下手に暴れて城自体が更に崩れでもしたら他の者まで巻き添えを食ってしまう。
「うーん、やっぱりおかしい」
「でしょ?」
「アイツ、もうちょい落ち着きあったよな?」
「ずーっとハイなのよね」
穴に落ちた由宇斗が這い上がってくるまでの間、諒真と将子が声をひそめて話し合う。それを聞いていた創吾がふたりの側に寄り「なんの話ですか?」と声を掛ける。
「由宇斗だよ。なんか様子おかしいだろ」
「そうですか?」
昨日、創吾は由宇斗が過剰なヤキモチで怪我をさせてしまった騎士たちを治癒する羽目になった。
しかし、将子と付き合い始めてから初めての旅なのだから以前と違った態度になるのも仕方ないのではと甘く考えていた。
「──創吾さん、諒真さん、将子となに話してんの。近くない?」
いつの間にか落ちた穴から出てきた由宇斗がふたりを睨み付けながら歩み寄ってくる。敵意丸出しの態度に、さすがの創吾もその異常性に気付いた。
「おまえの心配をしてたんだよ。な?将子」
「そうよ、あんまり無茶しないで」
将子がご機嫌取りのために腕を組んで密着すると、由宇斗はだらしなく表情をゆるめ「なぁんだ、そうだったのか~」と笑った。将子が他の男と話をするだけでこの有り様だ。
隊長のハルクと補佐のイルダートも昨夜の被害を知っている。極力将子には近寄らないように心掛け、用事がある時はラミエナを介してトラブルを避けている。
創吾と諒真は十数メートルほど後ろを歩きながら、先を行くハルクや由宇斗たちに聞こえないように魔法でこちらの音を遮断した上で現状を確認し合う。
「騎士たちに妬くのはまだ分かりますけど、僕たちにまであんな態度を取るなんて」
「将子が言うには、由宇斗がおかしくなったのは元の世界に戻る前からだってさ」
「……それ、交際を始めたからでは?」
「元々の性質がああだってか?少なくとも、オレたちにまで牙を剥くようなヤツじゃなかったぞ」
異世界に召喚され、数ヶ月一緒に過ごした。短い付き合いだが、仲間の人となりは把握している。諒真から見て、今の由宇斗は明らかに異常な状態と言える。
「それに、他にも気になってることがあるんだよ」
「なんです?」
続きを催促するように顔を寄せると、諒真は前を歩くふたりの後ろ姿を見つめながら口を開いた。
「おかしくなったのは由宇斗だけじゃない。将子もだ」
「……えっ?」
意外な言葉に、創吾が思わず間の抜けた声をあげた。
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