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第7章 入り乱れる思惑
41話・レベルの違い
しおりを挟む波瀾の夜が明けた。
明るくなった頃、侍女たちが洗顔用の水やタオル、着替えなどを運んでくる。その様子を諒真は居間のソファーに腰掛けてひとりで眺めていた。
昨日とは違う。今朝来た彼女たちは本職の侍女だ。色目を使うことなく淡々と仕事をこなしていく様に、妙に安心感を覚える。
昨夜リエロがすぐに追い出されなかったから夜伽に成功したと思われているのかもしれない。そう勘違いさせておけばリエロの立場も守られるし、これ以上誘惑されることもない……と言ったのは創吾だ。
彼は混乱して狼狽えるばかりだった諒真に、今の状況とこれからの対策を教えてくれた。異世界にいる間は出来る限り共に行動して隙を見せないように。そして、迅速に呪いの核を壊して元の世界に帰ろう、と。
その言葉だけが諒真の支えとなった。
「おはようございます。体調は如何ですか」
「ちょー元気!はやく行こ!」
「ははは、お元気で何よりです」
装備を固めてから大聖堂の中庭に集合した勇者一行は、同じく装備を固めた聖騎士団の面々と合流した。遠征部隊の隊長ハルクを急かす由宇斗は本当に元気いっぱいで、今にも走って何処かへ行ってしまいそうだった。
「おや、リョウマ殿。顔色があまり良くありませんね」
「あ、ああ。ちょっと寝不足で」
「……そうでしたか。ご無理なさいませんよう」
気怠げな諒真の様子に、ハルクは気遣わしげな視線を向ける。彼は聖騎士団の中堅騎士で、リエロの直属の上司だ。昨夜のことは既に耳に入っているだろう。
心配するハルクを遮るかのように創吾が間に入り込み、諒真の隣に寄り添った。
「大丈夫ですよ。僕がついてますから」
「ソウゴ殿が居られるなら安心ですな」
創吾は回復魔法を得意とする『僧侶』である。その彼が側にいる以上、他の者が近付く口実はない。
「本日はリョウマ殿の転移魔法で魔王城手前の集落まで移動し、そこで探索の準備などを進める予定です」
「え、直接魔王城まで行かなくていいのか?」
「それが、魔王が滅びた直後から魔王城周辺が崩れまして。直接転移した場合、足場が崩落する恐れがあります」
「な、なるほど」
以前とは地形が変わっているため転移には向かないのだという。そのため、数キロ手前にある集落跡地を拠点とすることに決まった。
打ち合わせをしていると、大聖堂のほうが何やら騒がしくなった。なんだろう、と諒真が視線を向けると、数人の男性が担架を抱えて運び出している最中だった。担架には包帯でぐるぐる巻きにされた若い男性が横たわっており、口には猿ぐつわが噛まされている。
「怪我人ですか」
何気なく尋ねると、ハルクは少し眉をしかめた。
「昨夜怪我をした者を実家へ送還するところです。お見苦しいものをお見せして申し訳ない」
「え、なんで。事故か何かですか」
もう魔物はいない。大型の獣はいるが、命に関わるほどの被害はもう出ていないはずだ。
この問いに、ハルクは数秒沈黙してから重い口を開いた。
「……ショウコ殿にしつこく迫った者を、ユウト殿が撃退したのです。骨が数カ所折れておるそうで」
「えっ、由宇斗が?」
振り返れば、少し離れた場所で将子と談笑する由宇斗の姿があった。こちらの会話は聞こえていないようだ。
「あんな大怪我のまま帰しちゃっていいのか」
「仕方ありません。ショウコ殿に無礼を働き、引き際を間違えた彼の自業自得です」
「そうだけど、治癒魔法で治してやらないの?」
「大聖堂にいる一般向けの治癒魔法の使い手に折れた骨を繋げられる者はおりません。痛みを和らげ、多少回復を早めるくらいです」
「えっ……」
国の中枢機関である大聖堂でもそのレベルなのかと、諒真は唖然とした。
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