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【番外編】最終話以降のお話
25話・お誘い【FA有】
しおりを挟む風呂上がり、洗面所の鏡に映る自分の姿を見て穂堂は小さく唸った。腰回りに肉がついたような気がしたからだ。自宅には体重計がないため見た目で判断するしかない。腹が出た、というほどではないが、明らかに以前とは違う。
「ふ、太った……?」
思い当たる原因は幾つもあった。
阿志雄と暮らし始めてから食生活が劇的に改善した。これまでは昼の社員食堂以外は適当に済ませ、時には食事を抜くことすらあった。自炊を始めてからは朝晩しっかり食べている。晩酌もするようになった。阿志雄と二人、風呂上がりに軽く一杯飲むのが習慣になっている。
何より運動量が減った。
総務の雑務全般をしていた頃は毎日社内を縦横無尽に駆け回っており、自分のデスクに落ち着いて座る時間などほとんどなかった。課長に昇進した現在はデスクワークが主になり、雑務は部下に任せきり。
いつだったか、世間話の折に誰かが言っていた言葉を思い出す。
『三十超えると痩せにくくなるのよね~』
穂堂は現在二十九歳。
もうすぐ三十になる。
「穂堂さ~ん、入っていいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
洗面所の扉がノックされ、穂堂は慌てて寝間着の前を合わせて肌を隠した。すぐに阿志雄が着替えを抱えて入ってくる。
風呂に入るために服を脱ぎ始めたというのに、穂堂は洗面所から出て行こうとしなかった。上半身裸になったところで、流石の阿志雄も恥ずかしくなってしまい、ベルトに掛けた手を止める。
「ど、どうかしました?」
「いえ。別に、何も」
穂堂の視線は阿志雄の腹部に釘付けとなっており、返事をしながらも逸らされることはなかった。
「阿志雄くん、スタイルいいですよね。何か特別なことをしているんですか?」
「へ?そうですかね」
阿志雄の身体には無駄な肉など付いていないように見えた。筋肉質というほどではないが、適度に引き締まっている。
「なんもしてないっすよ。穂堂さん知ってるでしょ」
「そうなんですが……」
同棲を始めてからは仕事以外はいつも一緒。食事もほぼ同じ。むしろ阿志雄のほうがたくさん食べているくらいだ。
営業職で社外に打ち合わせに行く機会は多いが、移動には社用車やバスを利用している。そこまで運動量に変わりはない。
なのに、何故自分だけ太ってしまったのか。
やはり年齢による代謝の差だろうか、と穂堂はやや凹んだ。
会話の内容と表情から何となく察し、歩み寄って穂堂の腰に手を回す。
「もしかして、体型を気にしてます?」
「……はい」
単刀直入に尋ねれば、穂堂は誤魔化すことなく肯定した。頬を赤らめて俯く姿を見て虐めたくなる衝動に駆られ、阿志雄は必死で抑え込む。
「全然気にすることないと思うんすけど」
フォローの言葉を掛けながら確認するように背中や腹を服の上から撫でていくと、穂堂がビクッと身体を硬くした。
「そもそも、元が痩せ過ぎてたんすよ。ようやく人並みになってきたってとこじゃないですか」
「そっ、そうでしょうか……」
「うーん、まだ細いくらいかな?」
出会ったばかりの頃の穂堂は今より痩せていた。着衣姿からは分からないが、抱き締めた時に意外と細くて驚いたものだ。
阿志雄が洗面所に入ってくる直前まで体型チェックで鏡に映していたから、寝間着の前ボタンはまだ閉じられていない。少しでも身じろぎすれば肌が見えてしまう。
いつもはキッチリ上まで閉めた状態でなければ人前に出ないが、同居人である阿志雄に対しては少し気が緩み始めている。
隙を見せてくれたことが嬉しくて、阿志雄は更に言葉を続けた。
「明日は休みですよね。しますか?運動」
「えっ……」
思わぬ提案に、穂堂は顔を上げた。
至近距離で視線が交わる。
週末はそういう雰囲気になることが多い。翌日を気にせずに触れ合えるからか、二人の中で暗黙の了解となりつつある。
恋人同士のふたりが夜にする運動。
婉曲な言い回しだが意味は伝わるはずだ。
阿志雄は勿論そのつもりで『お誘い』をしたのだが──
「いいですね運動。明日行きましょう」
「明日!?行くってどこに」
「鍬沢くんにも連絡しておきますね」
「へ?なんで鍬沢に……」
表情を明るくした穂堂はすぐに洗面所から飛び出してリビングへと行ってしまう。
どうやら阿志雄の提案はかなり違う方向に解釈されたらしい。明日鍬沢を交えて何かをする予定ならば、今夜はもう期待出来ない。
阿志雄はがくりと肩を落とし、ひとり寂しく湯船に浸かった。
┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼
パジャマ姿の穂堂さんと阿志雄くんはミドリ様からいただいたファンアートです
ふたりの表情の対比が良き( ´ ▽ ` )♡
ミドリ様、ありがとうございました~!
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