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第4章 公然の秘密と謎の男
44話・生活感のない部屋
しおりを挟む途中コンビニに寄って酒やつまみを買い、穂堂の自宅へとやってきた。「ここです」と車を乗り入れたのは、駅前に建つ高層マンションの地下駐車場だった。
この辺りの相場がどれくらいかは分からないが、その辺のアパートとは明らかに格が違う。地下でも明るく照らされている小綺麗な駐車場に並ぶのは高級車ばかりで、阿志雄は目を丸くした。車から降り、買い物袋を持って先を行く穂堂の後ろに着いて歩く。
地下駐車場からエントランスに入る前に暗証番号式のオートロックがあり、セキュリティの高さが窺えた。通路からエレベーター内に至るまでチリひとつ落ちていないところを見ると、業者を入れて日常的に清掃しているのだろう。
「随分良いマンションですね」
阿志雄がそう話し掛けると、曖昧な笑みを浮かべるだけで穂堂は何も答えなかった。
部屋に入り、リビングダイニングに通された。
一面のガラス窓から見える夜景はまるで絵画のよう。広々としたリビングにはテーブルや大きなソファーなど最低限の家具しかなく、やや寒々しく感じた。フローリングには埃ひとつ落ちていない。カウンター越しに見えるキッチンは表に物が置かれておらず、生活感は一切ない。
ぐるりと室内を見回しながら、モデルルームみたいだなと阿志雄は思った。
「グラスくらいはあったと思いますが……」
買い物袋を受け取り、すぐに飲まないぶんの酒を一旦冷蔵庫へと仕舞う。食器棚からつまみを入れる皿を出したり、グラス運びを手伝いながら、阿志雄はちらりと冷蔵庫を見た。中身はほぼ空で、何本かのミネラルウォーターのペットボトルがあるだけだった。造り付けの棚にも最低限の食器類しか入っていない。
鍬沢や阿志雄の雑然としたアパートの部屋とは根本から違う。ビールも缶から直接飲もうと考えていたが、わざわざグラスに移し替えることを了承してしまうくらい部屋の雰囲気に圧されている。
「私まで飲んだら送れなくなりますよ」
「帰りはタクシー呼びますんで、気にせず飲んでください」
まだ酒盛りが始まっていないうちから帰りの心配をされ、阿志雄は構わず穂堂のグラスに缶のビールを注いだ。ソファーに座るとテーブルに手が届かなくなるので、リビングに敷かれたラグの上で並んで腰を下ろしている。
「穂堂さん、歓迎会の時も飲んでなかったんでしょ。飲めないわけじゃないですよね?」
「人並みには。でも、だいたい車で移動してますから出先では飲みません」
「車はそこがネックですよね」
「ええ、ですから会社の飲み会では全く……あっ、もしかしたら飲むのはかなり久しぶりかもしれません」
頼まれずとも、穂堂は飲み会の送迎を進んで引き受ける。阿志雄も世話になったひとりだ。それが切っ掛けで現在こうなっているのだから、人の縁はどこで繋がるか分からない。
「そうだ。鍬沢からも言われたと思うんですけど、昇進の件……」
「阿志雄くんにも話が行ったんですか」
「営業部の部長から頼まれまして」
「はぁ、司田辺さんまで」
「受ける気はないんですか」
「全くありません」
グラスを傾けながら憂鬱そうに溜め息をつく穂堂に、先ほどから気になっていたことを尋ねる決意を固める。
「すごいマンションに住んでるし、穂堂さんて実は金持ちだったりします?」
会社に尽くすのは単なる趣味で、稼ぐことが目的ではないのなら昇進に拘らないのも納得できる。
しかし。
「そんなことはありませんよ」
「じゃあ、なんでこんな高そうなとこに」
このマンションの立地や外観、内装から考えると、少なくとも数千万はくだらない。ローンで購入したとしても月々の支払いはかなりの額になるだろう。資産家ではないという話を信じるならば、尚更昇進を断る理由が見つからない。
「この部屋は社長名義で、私は管理のために住まわせてもらっているだけです」
「へ???」
予想外の返答に、阿志雄はグラスを落としそうになった。
【営業部 阿志雄 真司】
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