【完結】営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
44 / 142
第4章 公然の秘密と謎の男

44話・生活感のない部屋

しおりを挟む


 途中コンビニに寄って酒やつまみを買い、穂堂ほどうの自宅へとやってきた。「ここです」と車を乗り入れたのは、駅前に建つ高層マンションの地下駐車場だった。

 この辺りの相場がどれくらいかは分からないが、その辺のアパートとは明らかに格が違う。地下でも明るく照らされている小綺麗な駐車場に並ぶのは高級車ばかりで、阿志雄あしおは目を丸くした。車から降り、買い物袋を持って先を行く穂堂の後ろに着いて歩く。

 地下駐車場からエントランスに入る前に暗証番号式のオートロックがあり、セキュリティの高さが窺えた。通路からエレベーター内に至るまでチリひとつ落ちていないところを見ると、業者を入れて日常的に清掃しているのだろう。

「随分良いマンションですね」

 阿志雄がそう話し掛けると、曖昧な笑みを浮かべるだけで穂堂は何も答えなかった。

 部屋に入り、リビングダイニングに通された。
 一面のガラス窓から見える夜景はまるで絵画のよう。広々としたリビングにはテーブルや大きなソファーなど最低限の家具しかなく、やや寒々しく感じた。フローリングには埃ひとつ落ちていない。カウンター越しに見えるキッチンは表に物が置かれておらず、生活感は一切ない。
 ぐるりと室内を見回しながら、モデルルームみたいだなと阿志雄は思った。

「グラスくらいはあったと思いますが……」

 買い物袋を受け取り、すぐに飲まないぶんの酒を一旦冷蔵庫へと仕舞う。食器棚からつまみを入れる皿を出したり、グラス運びを手伝いながら、阿志雄はちらりと冷蔵庫を見た。中身はほぼ空で、何本かのミネラルウォーターのペットボトルがあるだけだった。造り付けの棚にも最低限の食器類しか入っていない。

 鍬沢くわざわや阿志雄の雑然としたアパートの部屋とは根本から違う。ビールも缶から直接飲もうと考えていたが、わざわざグラスに移し替えることを了承してしまうくらい部屋の雰囲気に圧されている。

「私まで飲んだら送れなくなりますよ」
「帰りはタクシー呼びますんで、気にせず飲んでください」

 まだ酒盛りが始まっていないうちから帰りの心配をされ、阿志雄は構わず穂堂のグラスに缶のビールを注いだ。ソファーに座るとテーブルに手が届かなくなるので、リビングに敷かれたラグの上で並んで腰を下ろしている。

「穂堂さん、歓迎会の時も飲んでなかったんでしょ。飲めないわけじゃないですよね?」
「人並みには。でも、だいたい車で移動してますから出先では飲みません」
「車はそこがネックですよね」
「ええ、ですから会社の飲み会では全く……あっ、もしかしたら飲むのはかなり久しぶりかもしれません」

 頼まれずとも、穂堂は飲み会の送迎を進んで引き受ける。阿志雄も世話になったひとりだ。それが切っ掛けで現在こうなっているのだから、人の縁はどこで繋がるか分からない。

「そうだ。鍬沢くわざわからも言われたと思うんですけど、昇進の件……」
「阿志雄くんにも話が行ったんですか」
営業部ウ チの部長から頼まれまして」
「はぁ、司田辺したべさんまで」
「受ける気はないんですか」
「全くありません」

 グラスを傾けながら憂鬱そうに溜め息をつく穂堂に、先ほどから気になっていたことを尋ねる決意を固める。

「すごいマンションに住んでるし、穂堂さんて実は金持ちだったりします?」

 会社に尽くすのは単なる趣味で、稼ぐことが目的ではないのなら昇進に拘らないのも納得できる。

 しかし。

「そんなことはありませんよ」
「じゃあ、なんでこんな高そうなとこに」

 このマンションの立地や外観、内装から考えると、少なくとも数千万はくだらない。ローンで購入したとしても月々の支払いはかなりの額になるだろう。資産家ではないという話を信じるならば、尚更昇進を断る理由が見つからない。

「この部屋は社長名義で、私は管理のために住まわせてもらっているだけです」
「へ???」

 予想外の返答に、阿志雄はグラスを落としそうになった。




     【営業部 阿志雄 真司あしお しんじ
しおりを挟む
▼▽▼ みやこ嬢のBL作品はこちら ▼▽▼

《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。

《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい

《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

《 異世界最強魔法使い総受 》
魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
感想 10

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

愛人は嫌だったので別れることにしました。

伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。 しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

with you

あんにん
BL
事故で番を失ったΩが1人のα青年と出会い再び恋をするお話です

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...