底辺男のミセカタ 〜ゴミスキルのせいで蔑まれていた俺はスキル『反射』を手に入れて憎い奴らに魅せつける〜

筋肉重太郎

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幕間 ひよりの痩せ我慢 その2

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 次の日、パートから帰ってきた私は、家事を終わらせ、ソファの上で一息ついていた。

「ふぅ……」

 家事はもともと得意だったが、家の間取りに慣れず、どこに何があるかが分かっていなくて、時間がかかった時があった。

 しかし、私は人類が持つ最強の武器、"慣れ"を所持しているのだ。初期は1時間程度かかっていた家事も、今では45分ほど。確実に私の主婦レベルが上がっている。主婦ではないが。

 そうやってソファの上でボーッとしていると、ふと、とあることを思い出した。

(あの時……私は何がしたかったんだろう)

 私が今、座っているソファに寝転び、眠っている彼に近づいてほっぺに触れたあの時。私は何をしたかったんだろう。

 今考えれば、あの時は何も考えていなかった。

 ただ近づき、ただ触れて、ただ安心する。そんな小学生のような無垢な動き。そんな事を私の体は行っていた。

(…………)

 私はどうなってしまったのだろう。敵である彼に対して、安心するなんて感情を持ってしまっている。

 彼に同情心でもわいているのだろうか。

 ……でも、これは同情心ではない。なんというか、そんな気がする。

「帰ったぞ~」

(とっ、と……)

 もうすぐ、何かがわかりそうだった時に、玄関から聞き慣れた声が聞こえる。

 私は今まで考えていた事などほっぽり出し、玄関に向かって彼を出迎える。少し前までは彼に対する恐怖心で嫌々ながらに玄関に向かっていたのに、今ではそんな感情は薄れている。

 いや、厳密に言えば、まだ恐怖心は残っているに違いない。だが、今の私の頭の中はいろんな感情がごちゃごちゃで、逆にうまいこと中和されているのだろう。

「おかえりなさい~」

 彼は私の声には反応せず、少し疲れたような、悩んでいるような表情をしたまま、リビングに向かって歩いていく。

(……何かあったのかな)

 今考えれば、彼の事を私は何も知らない。彼が今どういう状況にあるのかも、名前すらも。

 そういえば、大阪派閥本部に急に連れていかれた時には、目を疑った。大阪派閥本部に乗り込むほどの任務を彼は受けているのかと、もしかしたら今までも、このレベルの任務を受けていたのかと、愕然としたのを昨日のように覚えている。

 そして、今回もおそらく、任務関連の事なのだろう。

(……別に、それくらいなら相談してくれてもいいのに)

「さて……今日もゲームするか」

(…………!)

 そうだ。その手があった。相談してもらえないのなら、彼のストレスを軽減させてあげればいい。ゲームを通じて、少し位ならストレス発散できるはずだ。

「やりましょう! 今回は全勝しますからね!」

「無理無理、お前は俺には勝てんよ」

 私は早速、ゲームをテレビにつなげて準備し、ゲーム画面を起動させる。ゲーム内容は、初めてやったものと同じの格闘ゲーム。私と彼はコントローラーをつかみ、キャラクター画面に飛んで、ゲームをスタートした。

「おい」

「なんですか~」

 ゲームを始めた途端、急に彼が私に向かって声を出す。私はもうすぐゲームが始まるので、彼の方に目を向けず、ゲーム画面を見つめながらそう返した。

「お前、これからも任務についてくるのか?」

 瞬間、私のコントローラーを持つ手が、ピクリと震える。脳内に蘇る牛への恐怖。体に刻まれたあの痛みが、少しずつ私の精神を揺らがせる。

「…………」

 別にやらなくてもいい。私が一緒に行かなければ、少なくとも足手まといにはならないし、彼の任務を邪魔しないで済む。



 私が行かなければ…………



(……でも)

 ここで止めてしまえば、大阪にいる間、彼に頼ったままになってしまう。それは嫌だ。最低限ではない。最大限自分がやれることをするのだ。

「…………何を言ってるんですか、行きますよ、もちろん」

「……そうか」

 やるのだ。やってやるのだ。譲れないものがあるのだ。

 神奈川のチェス隊としてではなく、浅間ひよりと言う1人の人間として。
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