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『たった一つの冴えたひらめき、というかもうこれしかない』
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『たった一つの冴えたひらめき、というかもうこれしかない』
オレは進路指導室を出ると、近くの男子トレイへ駆け込んだ。
掃除道具入れからバケツを取り出し、気休めではあるが水洗いした後、そこに水をためて戻る。
「何だ? そのバケツは?」
「はい、ドーン」
「うひゃあ!」
先生に半分ほどぶっかける。
違うものをぶっかけられなかったから代わりにというわけではないが、先生は水浸しだ。
「な、なにを!?」
「はい、ザブーン」
残りの水をかぶるオレ。
「先生、出ましょう。鍵、かけてくださいね」
呆然としている先生の手をひき、進路指導室を出る。
そのまま職員室に連れ立って歩く。
途中で早めに登校していた生徒たちとすれ違い、好奇の目を向けられるがスルーだ、時間がない。
「ど、どうするつもりだ、宮城」
小声で問いかけるつつも後を追ってくる先生。
オレはかまわず職員室までやってくると、わざと大声で。
「すみません、先生まで水浸しになってしまって!」
「あ、お、ん!?」
何の事やらという顔の先生。
「男子トイレの蛇口が止まらなくなって直してもらったのに、こんな事になるなんて。本当にすみませんでした!」
大声で説明セリフを吐くオレに、職員室の他の先生たちからも視線が集まる。
先生もオレがとっさの嘘に――けっこう苦しい嘘と思っている顔ではあるが――合わせるように。
「いやいや。私こそすまん。宮城は着替えがあるか?」
「教室にジャージはありますけど……下は濡れたままですね」
オレは学生服の上、学ランを脱ぎ白カッターシャツ姿になる。
肌着としてカッターの下には白のタンクトップを着ているのだが、濡れたそれらが肌に張り付いている姿をさらすと他の先生たちの視線が集まるのがわかる。
別に男の胸をさらしてもさほど性的対象ではないはずだが、若い男が濡れて薄着になっているとなればつい見てしまうというわけだろう。
「み、宮城。さすがにその恰好は風邪を引いてしまうぞ」
小声で先生がそう言うものの、これはこれでなかなか楽しい。
しかし春先とはいえ、まだまだ寒い。ちょっと早まったかと思っていたら。
「冬原先生。彼の着替えを用意できますか? 先生も濡れていますし、二人とも風邪をひく前になんとかした方が……」
声をかけてきたのは先日も駅で痴女警戒パトロールを一緒にしていた、他学年の進路指導の先生だった。
そして先生同時で声をひそめて話し合う。
「男子生徒を学校側の責任で風邪をひかせるというのはマズいですよ?」
「……ああ、そうですね。わかりました。一限目、私は授業がありませんから車を出して彼の着替えを用意してきます。その間、宮城にはタオルを渡して保健室で待たせましょう」
と、やりとりが聞こえた。
「宮城。すまないが一限目は欠席できるか? そのままでは風邪をひく」
「あ、はい。大丈夫です」
「なに、単位は出席扱いにしておく。ちょっと待て」
先生が職員室の壁にすえられた自分のロッカーらしき所からスポーツバックを取り出し、中からバスタオルを二枚取り出した。
「私のタオルですまんが……これを持って保健室で待っていろ」
「はい。ありがとうございます」
一枚をオレの頭にそれをかけて、ガシガシと拭く。
先生が使っている、この柔軟剤の匂いも嗅ぎ慣れてきたなと思っていた所。
それを見た進路指導の先生が驚き、とっさにタオルで拭いていた冬原先生の手を止めさせる。
「冬原先生。男子生徒に、それは、その……」
「え……あ、す、すまん、宮城」
髪をふかれていたオレもそうだが、ふいていた先生も無意識だったんだろう。
先生の部屋に泊まると、一緒にシャワーを浴びた後、オレの体をふきたがる。
その時のクセのようものが出てしまったらしい。
はたから見れば、未成年かつ教え子に対するセクハラだ。
しかも今のオレは、水がしたたるいい男である。
オレはすぐに状況を把握し、故意に幼い印象を与えるようにはにかんだ。
「ありがとうございます先生。けれどボクも子供ではないので自分でできますよ?」
「う、うむ。そうだな」
オレと冬原先生の会話を横で聞いていた進路指導の先生がホッと息をなでおろした。
オレがここで騒がなかった事に安堵しているらしい。
男子生徒というのが厄ネタだと、かつて冬原先生は言っていたが、実際にそうなんだろうと察する事ができる一幕だった。
「では先生。すみませんが、ウチのホームルームもお願いできますか。特に連絡事項はありませんので。私も着替え次第、彼の服を調達してきます」
「わかりました」
先生たちの打ち合わせを横目にオレは濡れた体にバスタオルをかけ、水で重くなった学ランを手にして保健室へと向かった。
オレは進路指導室を出ると、近くの男子トレイへ駆け込んだ。
掃除道具入れからバケツを取り出し、気休めではあるが水洗いした後、そこに水をためて戻る。
「何だ? そのバケツは?」
「はい、ドーン」
「うひゃあ!」
先生に半分ほどぶっかける。
違うものをぶっかけられなかったから代わりにというわけではないが、先生は水浸しだ。
「な、なにを!?」
「はい、ザブーン」
残りの水をかぶるオレ。
「先生、出ましょう。鍵、かけてくださいね」
呆然としている先生の手をひき、進路指導室を出る。
そのまま職員室に連れ立って歩く。
途中で早めに登校していた生徒たちとすれ違い、好奇の目を向けられるがスルーだ、時間がない。
「ど、どうするつもりだ、宮城」
小声で問いかけるつつも後を追ってくる先生。
オレはかまわず職員室までやってくると、わざと大声で。
「すみません、先生まで水浸しになってしまって!」
「あ、お、ん!?」
何の事やらという顔の先生。
「男子トイレの蛇口が止まらなくなって直してもらったのに、こんな事になるなんて。本当にすみませんでした!」
大声で説明セリフを吐くオレに、職員室の他の先生たちからも視線が集まる。
先生もオレがとっさの嘘に――けっこう苦しい嘘と思っている顔ではあるが――合わせるように。
「いやいや。私こそすまん。宮城は着替えがあるか?」
「教室にジャージはありますけど……下は濡れたままですね」
オレは学生服の上、学ランを脱ぎ白カッターシャツ姿になる。
肌着としてカッターの下には白のタンクトップを着ているのだが、濡れたそれらが肌に張り付いている姿をさらすと他の先生たちの視線が集まるのがわかる。
別に男の胸をさらしてもさほど性的対象ではないはずだが、若い男が濡れて薄着になっているとなればつい見てしまうというわけだろう。
「み、宮城。さすがにその恰好は風邪を引いてしまうぞ」
小声で先生がそう言うものの、これはこれでなかなか楽しい。
しかし春先とはいえ、まだまだ寒い。ちょっと早まったかと思っていたら。
「冬原先生。彼の着替えを用意できますか? 先生も濡れていますし、二人とも風邪をひく前になんとかした方が……」
声をかけてきたのは先日も駅で痴女警戒パトロールを一緒にしていた、他学年の進路指導の先生だった。
そして先生同時で声をひそめて話し合う。
「男子生徒を学校側の責任で風邪をひかせるというのはマズいですよ?」
「……ああ、そうですね。わかりました。一限目、私は授業がありませんから車を出して彼の着替えを用意してきます。その間、宮城にはタオルを渡して保健室で待たせましょう」
と、やりとりが聞こえた。
「宮城。すまないが一限目は欠席できるか? そのままでは風邪をひく」
「あ、はい。大丈夫です」
「なに、単位は出席扱いにしておく。ちょっと待て」
先生が職員室の壁にすえられた自分のロッカーらしき所からスポーツバックを取り出し、中からバスタオルを二枚取り出した。
「私のタオルですまんが……これを持って保健室で待っていろ」
「はい。ありがとうございます」
一枚をオレの頭にそれをかけて、ガシガシと拭く。
先生が使っている、この柔軟剤の匂いも嗅ぎ慣れてきたなと思っていた所。
それを見た進路指導の先生が驚き、とっさにタオルで拭いていた冬原先生の手を止めさせる。
「冬原先生。男子生徒に、それは、その……」
「え……あ、す、すまん、宮城」
髪をふかれていたオレもそうだが、ふいていた先生も無意識だったんだろう。
先生の部屋に泊まると、一緒にシャワーを浴びた後、オレの体をふきたがる。
その時のクセのようものが出てしまったらしい。
はたから見れば、未成年かつ教え子に対するセクハラだ。
しかも今のオレは、水がしたたるいい男である。
オレはすぐに状況を把握し、故意に幼い印象を与えるようにはにかんだ。
「ありがとうございます先生。けれどボクも子供ではないので自分でできますよ?」
「う、うむ。そうだな」
オレと冬原先生の会話を横で聞いていた進路指導の先生がホッと息をなでおろした。
オレがここで騒がなかった事に安堵しているらしい。
男子生徒というのが厄ネタだと、かつて冬原先生は言っていたが、実際にそうなんだろうと察する事ができる一幕だった。
「では先生。すみませんが、ウチのホームルームもお願いできますか。特に連絡事項はありませんので。私も着替え次第、彼の服を調達してきます」
「わかりました」
先生たちの打ち合わせを横目にオレは濡れた体にバスタオルをかけ、水で重くなった学ランを手にして保健室へと向かった。
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