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第六話 『孤児院に行く!』
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商業ギルドに報告してから数日。
二日後に孤児院のバザーがあると教えてくれたから僕は、そのバザーに来ている。だけど、アオイは「家族に話をする」と言って家に帰った。アオイが自分がやりたい事を見つけて、それを家族に話せる勇気が出たのなら、僕はそれを見守ることしかない出来ない。
会場の入り口で、僕は足を止める。
「……賑わってる」
会場内は、多くの人で賑わっていた。中でも家族連れがたくさんいて、子供のはしゃぐ声もあちこちから聞こえてくる。そんな会場に足を踏み入れて見て歩くと、出されている商品がバザーに参加している各店が用意した物で、服や小物、アイスクリームといった食べ物も売られていた。店を覗いてみると、子供のお小遣いでも買える値段の商品も売り出されていて、子供達は自分の財布の中身と相談しながら、欲しい物を買っている。それを見て、バザーは人を笑顔に出来る事なんだって思ったけど、それは僕の勘違いだった。
「これだから、孤児院の子供は……ここは良いから、あっちを片付けてくれ」
「何してんだい! これじゃあ、売り物にならないじゃないか」
孤児院の子供達が、参加している店のお手伝いをしているのは見ていて直ぐに分かるけど、店側はその事を良く思っていないみたいだった。その証拠に、手伝う子供達を煙たがる様にあしらう店の人がチラホラ目に映って、孤児院の子供達や店の人の行動や表情が気になった。孤児院の子供達は手伝いをする店の人の顔色を気にしながら行動しているように見えるし、孤児院の先生らしき人も、頭を下げて謝っている所も何度か見かけた。
そんな光景に嫌気を感じながら歩いていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「リットさん?」
「ポルン」
僕に気付いたポルンは、笑顔で僕に駆け寄って来る。
「リットさんも、来ていたんですね!」
「うん。ポルンも見に来たの?」
「僕は、孤児院の手伝いをしに来たんです」
「手伝い?」
ポルンは、孤児院の子供達が困った時に手を貸したり、孤児院で用意した物を売る子供達の手伝いをするために来ていた。
「そうなんだ。毎回、手伝ってるの?」
「はい。バザーがある日は必ず。僕に出来ることは、これくらいしかないので……」
「それだけでも凄いよ。僕は、バザー自体初めて来たし……」
「リットさん?」
初めて見に来たからなのか、やっぱり気になる。
「僕が気にしすぎかもしれないんだけど……少し孤児院の子供達と店の人達がぎこちないというか、悪い意味で互いに気にしてるみたいに感じるんだけど……」
「それは……リットさん、僕もう少しで休憩に入れるので、あそこのベンチで待っててくれませんか?」
「う、うん、良いけど……」
ポルンの言葉に、僕は近くにあるベンチでポルンを待つことにした。
その間、僕は会場内の様子を見ていた。
笑みを浮かべるお客と店の人。その陰で何かを気にしている孤児院の子供達と先生達。
(良く見ると、孤児院の子供達も先生達も、顔色が悪し、着ている服もボロボロ……)
話を聞いた限りじゃ、このバザーで得た売り上げの一部は孤児院に寄付しているらしいけど、本当に寄付なんかしているのか疑ってしまう。勿論、バザーで得られる売り上げは普通の売り上げより少ないとは思うけど、参加している店の数は多しそれなりの売り上げにはなると思う。それに、毎月、孤児院には国からの支援を受けているはず。だけど、その割には孤児院の子供達や先生達が貧しく見えるのはどうしてだろう。その答えは、想像の延長線で出てくる。国からの支援は受けていない、バザーの売り上げから得られる寄付金もない。そんな想像をしていると、ポルンが声をかけてきた。
「リットさん、お待たせしました! それじゃあ、行きましょう!」
ポルンは僕をある場所に連れてきた。
「ここは……」
「やっぱり、ここは落ち着きます……」
背伸びをしながら、ポルンは言う。
そこは静かで、使われていない花壇がある孤児院の裏庭の様な所だった。
「良く、ここには来るの?」
「バザーがある日は来ます。でも、孤児院にいた時は、毎日来ていました。静かで、とても落ち着くので……」
「孤児院にいたって……ポルンは孤児院育ちなの?」
「はい。とは言っても、僕の場合は養子になったから生粋の孤児院育ちではありませんけど……」
孤児院にいる子供達には、十二才まで孤児院で暮らす子供と、途中で養子になって孤児院を出る子供がいる。だけど、養子になって孤児院を出ていく子供は少なく、ほとんどの子供達は孤児院で暮らすことが許されている十二才まで過ごして、十二才になると、孤児院を出て仕事を探して暮らしている。
「そう、だったのか……それで、どうしてここに僕を連れてきたんだ? 落ち着けるような場所なら、一人の方が……」
「それは、そうなんですけど……リットさんは、孤児院と周りの人達の間にある壁を気にしているみたいだったから。その事を話すには、出来るだけ人がいない方が良いと思ったんです……」
例え、養子になって孤児院から出たとしても孤児院にいたことには代わりない。だから、孤児院の事を話すとなれば人の目が気になるのは当たり前の事なのかもしれない。僕は、孤児院育ちだからとか気にしないけど、人目を避けるくらいには孤児院と周りの人達の間に何かあるってことなのだろう。
「そうなんだ。それで、何があったの? 意見の食い違いとか?」
「そういう話なら、まだ良かったんですけど……このバザーに参加している人達は、孤児院の事を良く思っていないんです……」
「良く思ってないって……だったらなんでバザーに参加なんかしてるの? 嫌なら、参加しなくても……」
「僕もリットさんと同じ考えです。だけど、あの人達は、売れ残りの商品を売るために仕方なく参加しているみたいなんです……」
孤児院のバザーで売る物は、売れ残りや処分をする商品。だから、そんな物でも売れるなら嫌でも参加して利益を得た方が良いと考えるのは分からなくもない。だけど、バザーに参加したからには、孤児院側には何かしらの援助はしないといけない。それが、バザーに参加する条件のはず。
「でも、売り上げの何割かは、孤児院に寄付をしているんでしょ? それなら……」
「寄付はないんです」
「え?」
「バザーに参加する条件として、そういうことにはなってはいるんですが……実際は、孤児院はお店に場所を提供しているだけで、お店からは何も受け取っていないんです」
バザーに参加する条件があるのに、それを誰も守っていないなんて信じられないけど、もしそうだとしても、条件を守らないなら孤児院側が強く訴える事も出来るはず。それもしないのは、やっぱり何か深い訳があるのかもしれない。
「……ねぇ、ポルン」
「はい」
「話しは変わるけど……国からの援助を孤児院は受け取っているんだよ、ね?」
「それは……」
答えなんて、言葉にして聞かなくてもポルンの表情で十分だった。
「ごめん、言えないことだよね……」
「いえ……院長先生の話だと、国からの援助は一年くらい前から受け取っていないみたいです」
「それって、国が援助を打ち切ったってこと?」
「はい……」
孤児院は先代の国王が、身寄りのない子供達を救う為に建てたもので、孤児院への援助は絶えることはないとも言われているけど、その援助を打ち切っているのは国。つまり、現国王が孤児院には援助をする必要がないと判断したということになる。
「未来ある子供の為に惜しむ金はない……」
「リットさん?」
「先代の国王は、そう言って孤児院の為に行動していたって歴史書にも残ってた。現国王も、その先代の意思を強く引き継いで、孤児院には当時のままの援助金を渡しているって言っていたのに……」
「王様だって人だから、考えも変わるとは思いますけど。それでも、せめてその理由を教えて欲しかったです……」
ポルンが国からの援助が打ち切られた事を知ったは、孤児院が打ち切りの宣告を受けてから直ぐのことで、その理由は話してくれなかったと孤児院の院長から話を聞いたという。その頃から、院長は「これから、どうしたら」と悩んでいて、少し前から始めていたバザーでお金を稼げないかとポルンが提案をしたけど、何処から情報が漏れたのか、国からの援助が打ち切られたことを、バザーに参加してくれていた店の人達が知ってしまい、バザーに参加すると売り上げが孤児院に全額奪われると勘違いして、参加する店がいなくなった。そして、バザーに参加する店の人が現れても、参加条件として交わした約束は守ってもらえず、その事を話そうとすると、ある貴族が間に入ってきて話をなかった事にされた上、その貴族の目があるから強く言えないのだという。
「そもそもの原因が援助の打ち切りで、それを参加している店は上手く利用しているってことか。貴族まで使って……」
「はい。だけど、分かっていても何も打つ手が無くて、どうにかしたいと思っているんですが……」
「ポルン。院長に話が聞きたいんだけど、話しは出来る?」
「バザーが終わったら、大丈夫だと思いますけど……」
詳しい話を孤児院の院長に聞くため、ポルンと一緒に孤児院の子供達の手伝いをしながら、バザーが終わるのを待つことにした。
「リットさん、本当に良いんですか? 孤児院の事に関わって……」
「逆に、関わったら何か問題でもあるの?」
「だって、孤児院は国が作った施設なんですよ? 変に関わって、リットさんが巻き込まれたら……」
「大丈夫だよ。それに、話を聞いたら無視は出来ないし、僕が出来ることがあるなら手伝いたいから……」
バザーの手伝いをしながら、僕はもう一度、会場内を見回した。
ポルンの話を聞いたせいなのか、余計に会場内がピリピリしている感じがする。バザーをこのまま続けるにしても、この空気のままは絶対にダメだと思う。まずは、孤児院が出した「条件」がどういうものなのか知る必要があるし、場合によってはその条件を変えないといけないかもしれない。
「どうしてそこまで……」
「ポルン?」
「リットさんは、孤児院とは何の関わりもないはずなのに凄いなって。僕は孤児院の事は知っているのに、何も出来なくて……」
珍しく暗い表情を浮かべるポルンに、僕は答えた。
「僕だって、何も出来ないかもしれない。でも、やる前から決めつけたら、出来ることも出来なくなる。だから、ポルンも決めつけないで、一緒に出来ることを見つけようよ」
「リットさん。そうですよね! 僕も、何か出来ないかもう一度考えてみます!」
ポルンは少しだけ元気を取り戻し、バザーは終わりを迎えた。
お客は全員帰って行き、会場に残ったのはバザーに参加した店の人達と孤児院の子供達と先生達。そして、僕とポルンだけになった。バザーに参加した店の人達は各自の持ち場の後片付けを始め、孤児院の子供達や先生達もその手伝いをしている。僕とポルンは、孤児院が用意したテントやテーブル、椅子等を小屋に運んだりしていた。片付けが終わった店の人達から孤児院を出ていくけど、ポルンが言っていた通り、孤児院に寄付をする素振りはなかった。
「……あの、話と言うのは……」
孤児院の片付けも終わり、子供達が夕食の準備をしている中、僕とポルンは院長と話をすることになった。
「実は、ポルンから孤児院の事を聞きました。見ていても、孤児院に寄付をするような人を見ませんでしたが……」
「そ、それは……受け取っては、いません」
ポルンを見て、院長先生は話してくれた。
孤児院の院長「サーリア」先生は、三年前に前院長から後を引き継ぎ、孤児院の事を守って来た。だけど、一年くらい前に、急に国からの援助を打ち切られ、それからは、バザーで得る少しのお金と、近所の人達から残り物の食材をもらって生活をするようになった。
「国からの援助を受けていたときは、どんな生活をしていたんですか? そこに、打ち切りの理由があるのかも……」
「私もそう思ったのですが、調べても、全て子供達が食べて行くために必要な物ばかりで、とても無駄な出費があったとは思えないのです」
サーリア院長はそう言って、僕に帳簿を見せてくれた。
ざっと目を通してみたけど、帳簿には初めて見る僕でも分かるように書かれていた。その中には、記録して置かなくても良さそうな事まで書かれていて、軽く目を通した僕でも、目立つ出費があるようには思えなかった。
「……それなら、国はどうして援助の打ち切りなんか」
可能性として孤児院の不正がすぐに頭に浮かんだけど、院長の様子から見てもそんな指摘も受けていないはず。だとしたら、国が孤児院に援助しないと決断した理由は何なんだろう。僕は、あらゆる可能性を考えた。その時、ある言葉が頭を過った。
「あの、もしかしなくても……国との間に仲介者がいたりしませんか? 例えば、孤児院の管理を任せられている貴族とか……」
「え、ええ、その通りです。打ち切りのお話も、孤児院を管理しているハーリット様が教えてくださいましたが……」
「そっかだから……」
「リットさん?」
「これは、あくまで可能性なんですけど……」
国がちゃんと援助をしていたとして、孤児院が問題を起こしていないとするなら、その間に立つ者の仕業かもしれない。でも、これはあくまでも、国が孤児院にちゃんと援助をしていることが絶対条件の可能性。もしかしたら、本当に国が打ち切った可能性も無視は出来ない。どんな可能性にも、「理由」は必ずある。
「それは、ハーリット様が嘘をついていると言うことですか!?」
「あくまでも可能性です。本当の事を知るには、やっぱりどっちかの話を聞くのが一番なんだけど……」
「り、リットさん……それは平民の僕達には難しいですよ。話どころか、会ってもくれないかもしれません」
ポルンの意見はもっともだ。相手が、同じ国民なら会うことも話すことも普通に出来るけど、権力を持つ人が相手となるとそう簡単な話じゃないのは、僕にも分かっている。だけど、僕が簡単に口にするのにも理由はある。
「僕に、考えがあります。これが、上手く行けば両者から話が聞けるかもしれません」
「そんな事が出来るんですか!?」
「い、一体、どうやって……」
僕には、誰にも話していない過去が幾つもある。
その中の繋がりが使えれば、上手く可能性は十分にあるんだけど、これは賭けに近い。
「それは、まだ言えません……だけど、少しだけ僕に時間を下さい」
「リットさん……院長先生、僕からもお願いします! リットさんは僕が信用できる人です、だから!」
「……私達に出来ることはありません。ですので、リットさんの言葉を信じて、私達も頑張ってみます」
「ありがとうございます!」
何をするかも分からない僕を「信じる」と言ってくれたポルンとサーリア院長を悲しませない為にも、成功させないといけない。
家に帰った僕は考えていた。どうすれば、あの人達に会えるのかと。
「う~ん」
「リット? 帰ってきてからずっと唸ってるけど、どうしたの?」
僕が家についた時には、アオイは家に帰って来ていた。家族との話しはどうなったのか、聞かないといけないんだろうけど、今の僕は孤児院の事で頭がいっぱいになっていて、まだアオイの事が聞けていない。
「あ~、実は孤児院の内情を聞いちゃって。その対策というか、解決策を考えていたんだ……」
「えっ、バザーを見に行っただけなのに、どうしてそんな面倒な事に……それで、内情って?」
僕はアオイに孤児院の事を、簡単に話した。
「な、なるほど……国からの援助が打ち切られた理由を突き止めるって話しになって、それをリットが解決するって事になったと……いや、無理な話だよね、それ」
「確かに、一般人の僕だけじゃ、解決どころか会ってすらくれないだろうけど……」
「策があるってこと?」
「うん。まぁ、話を聞いてくれる人なのは確かなんだけど……会えるかが問題なんだよ」
僕が会いたい人は、簡単に会える人じゃない。事前に話を通す必要があるし、何よりそこまで行き着くのが一番の難関。一般人の僕が話がしたいからと言ったところで確実に、追い出されてしまうのは目に見えている。だから、話すならその人に話を聞いてもらうしかないんだけど……それもかなり難しい話だから、物凄く悩んでいる。
「それで唸ってたんだ。そのリットが会おうって思っている人は誰なの? リットが知っている人なんだよね?」
「知っているって言うか……前やってた仕事で知り合ったというか……仕事を辞めてから会ってないから、相手は忘れてる可能性もあるし……」
「な、にそれ……それって無謀に近い案なんじゃ」
「うん。だから、物凄く悩んでるんだよ……」
僕は弱々しく答えると、アオイは呆れたような表情で僕を見ていた。その視線が物凄く痛いけど、僅かな可能性があるなら、それに賭けてみようと僕は決意した。
「え、え~と。アオイの方はどうだったの?」
「え? あ~、うん。上手く話せたと思う。自分がやりたいことを家族に話せたから」
「そっか! それで、家族はなんて?」
「お前が決めた事なら、応援するって……父さん、ボクはボクの道を歩いて欲しくて後を継ぐのを認めなかったんだって、話してくれたんだ」
安心するように笑みを浮かべるアオイに、僕は少し羨ましいなと思った。
「それじゃあ、この家も出ていくんだよね?」
「そう、なるね。仲直りしたし、家に帰りたくない理由もなくなっちゃったし……」
「そっか。何時、帰るとか決めてるの?」
少し寂しく思いながら聞くと、アオイは笑って答えた。
「そうだなぁ……孤児院の事は気になるから、それが解決するまではここに居ようと思うんだけど、ダメかな?」
「アオイが良いなら、僕は構わないけど……本当に良いの? いつ、解決するかも分からないし、解決なんてしないかもしれないよ?」
「その時は、その時だよ。それに家族には、まだ当分は帰らないからって言ってあるし、大丈夫だから」
アオイはそう言うけど、僕は心配になった。
仲直りしたのに、家に暫く帰らないなんて言われて、あの父親が黙っているわけがない。きっとアオイを心配して明日にでも家に来そうな予感がする。
「ほ、本当に大丈夫なの? 特に、アオイのお父さんは……」
「まぁ、渋々許した感じだったけど……大丈夫だよ、きっと!」
「渋々って……アオイがそう言うなら、そういう事にしておくよ。明日から、忙しくなりそうだし、今日はもう寝よう」
「そうだね。ボクも、家に帰って疲れたし……」
僕とアオイは、明日の為に早めに体を休めることにした。
翌朝。
僕は、孤児院の事を考えながら、日課になっている畑と鶏の世話の準備をしていた。
(ふあ~。結局、孤児院の事を考えて、あまり眠れなかった……どうしようかなぁ~)
あくびをしながらそんなことを考えていると、声が聞こえてきた。
「あの! すみません! 誰か、いませんか?」
人の家を訪ねるにはまだ早い時間。僕は、恐る恐る声がする方に顔を出した。
「はいって……ディオンさん!?」
「お~。本当に、リットの家だったんだな」
「いや、どうしてここに……」
家を訪ねてきたのは、我が国の第一王子の側近で第二騎士団長の『ディオン』さんだった。普段は、第一王子の側にいなきゃいけないのに、なぜこんなところに来ているのか、僕は頭が混乱していた。
「そう警戒するなよ、リット。俺は、元パートナーに会いに来たんだ」
「元、パートナー?」
ディオンさんは、数週間前あることに悩んでいた。
それは、騎士団に所属してからずっと一緒にいた馬が足を怪我してしまった。
「その怪我をした馬を使ってくれる人を探していたんだが、足の事が原因でなかなか見付からなかったんだ」
(あれ? 何処かで聞いたような……まさか!)
「その時、たまたま商業ギルドで、馬を探している人がいるって聞いて……」
ここまで聞いたら分かってしまう。
「もしかしなくても、クロハの……」
「そう! 俺が、クロハの元パートナーだ」
ニカッと笑うディオンさんに、僕は今更気付いたことを後悔した。まさか、知っている騎士の馬だったなんてこれっぽっちも思っていなかったし、それも騎士団長の馬を引き受けていたなんて。これじゃあ、クロハが何かある度にディオンさんは駆け付けて来そうで不安になる。
「え~と、クロハは、あの小屋にいますよ?」
「おお、そうか! 会っても良いのか?」
「駄目なんて言えませんよ。どうぞ、会ってあげてください」
クロハに会いに来たって言われたのに、会わせないなんて言えるわけないし、別に会わないで欲しいなんて思ってもいないから、僕はディオンさんをクロハに会わせることにした。
「クロハ! 元気だったか!」
「ヒヒーン!」
ディオンさんが駆け寄って声をかけると、クロハは嬉しそうに鳴き声を上げる。そんなクロハを愛おしそうに見つめ、ディオンさんはクロハの鼻筋を優しく撫でいた。
「そうだ、リット。何か困っていることはないか?」
「困っていること、ですか?」
「何かないか? クロハのお礼がしたいんだ。俺が出来ることなら何でも言ってくれ」
ディオンさんの言葉に、僕はある人に会わせてもらえないか頼んだ。それは、ディオンさんにしか頼めないことで、孤児院の事を助けるための頼みの綱だ。
「アディル殿下に会わせてください!」
「……アディルに? その理由は?」
ディオンさんの目付きが変わった。
アディル殿下。ディオンさんが仕える第一王子。僕が孤児院の為にも会いたい人は、他でもないアディル殿下だ。ディオンさんがここに来たのはきっと、神様がくれた最初で最後のチャンスかもしれない。
「大切な話があるんです。恐らく、王家にも関わる話しになるかもしれないんです!」
「……」
詳しい話をしないから、ディオンさんでも僕をアディル殿下に会わせるのは難しいかと肩を落としかけたその時、ディオンさんは答えた。
「リットは、嘘付いて王子に手を出す奴じゃないしな……分かった、アディルには伝えておくが、返事の保証は出来ない。それでも良いか?」
「話してくれるだけで十分です。ありがとうございます、ディオンさん!」
「いや、俺にしか出来ない事だからな」
笑って話すディオンさんは、あの頃と何も変わらない、頼れる兄の様な人だった。
「リット? 誰か来ているのか?」
「アオ……イ!?」
アオイは薄い白いシャツ一枚の姿で、まだ眠そうな目を擦っている。少しシャツがはだけている姿に戸惑う僕は「無防備!」「ちゃんと、服を着てよ!」と心の声が口から吐き出そうになるのをグッと我慢していると、側にいたディオンさんはしみじみ言う。
「リットも、男になったんだな……」
「え! ち、違うから、アオイは居候で!」
「リット、そんなごまかし方じゃ騙せないぞ?」
「だから、違うんだって!」
何か大きな勘違いをするディオンさんの誤解を解くのは物凄く疲れた。アオイとの事を話す度に「リットは奥手だと思っていたが……」とか「親に挨拶までしているのか!」とか、話を聞いているようで聞いてくれなくて、誤解を解くのに時間がかかった。
「……たく。そういうことなら、初めからそう言いなさい。お兄さん、喜びそうになっただろ?」
「いや、言ってたんだけど……」
「あのさ、話しは終わったの?」
僕とディオンさんが話をしている間、アオイは話の輪に入れかったのか、僕達の話が途切れるのを待っていた。
「ああ、すまない。アオイちゃん、だっけ? リットが世話になっているみたいで、ありがとう」
「い、いえ……それで、その、誰なの?」
アオイはディオンさんの正体を知らないみたいで、僕に耳打ちをしてきた。今のディオンさんの姿は、あの騎士団特有の制服を着ていないから、アオイからしてみたら街にいるお兄さんの様に思っているのかもしれない。それなら、正体を明かさない方が良いのかとも思ったけど、これから関わるかもしれないなら、正体を明かした方が後々面倒な事にならなくて済むなんて考えていると、ディオンさんが自分からアオイに自己紹介をした。
「俺は、実の兄ではないが、リットの兄の様なものだ。アオイがここに暮らしているのを知って来てみたんだ」
「お、お兄さん!」
「いや、の様な者だからね。実の兄は僕にはいないからね?」
「でも、リットの事を心配している家族みたいな存在なんでしょ?」
「そ、れは……」
折角、ディオンさんが誤魔化すために嘘を付いたのに、ここで僕が「全否定」したら逆に怪しまれてしまうから、僕は否定しそうになる口を閉ざした。
「違うの?」
「ち……違くはないけど、ディオンさんにはちゃんと家族がいるし……頼れるお兄さんみたいなだけだよ」
「ふ~ん。ま、リットが信用できる人には変わりないんでしょ? だったら、ボクも信じても良いって事だよね! ディオンさん、よろしくお願いします!」
「アオイちゃんは、良い子だね。リットにはもったいないな……」
「だから! そんなんじゃないから!」
アオイが納得したならそれで良い。
「お兄さん」。あの頃の僕は、ディオンさんの事をそんな風に思っていた。頼れて、優しくて、凍っていた心を解かしてくれた人の一人。だから、連絡を途絶えた日からも、忘れた事はなかった。城や街にいる衛兵を見かける度に思い出していた。そんな事は、恥ずかしくて言えないけど。
「それじゃ、俺は仕事に戻る。例の話しは、ちゃんと話しておくから、心配しなくても大丈夫だからな」
「よろしくお願いします」
「ああ。また来る」
ディオンさんは、手を振って帰って行った。
「ねぇ、リット。例の話しって何?」
「あ、あ~。孤児院の話をディオンさんが知っている人に相談してみるって話だよ」
「そうなの! じゃあ、孤児院の問題が解決するのかな!」
「それはまだ分からないよ。話してくれるだけだから、その人がどんな返事をしてくるか分からないし……」
そうこれは賭け。アディル殿下が「話を聞かない」と無視をすれば話はなかった事にされるし、孤児院の問題も解決出来ない。
「そう、なんだ……でも、可能性はあるんだよね?」
「返事次第だけどね」
「それなら、期待して待ってようよ。その間に、駄目だった時にどうするか考えてれば良いし!」
僕はたまにアオイを凄いと思う。
普通なら「期待しないで待つ」って言うのに、その逆の事を言って前向きに考える。明るいアオイは、どんなピンチでも乗り越えて行けそうな気がする。
「リット?」
「アオイの言う通りだなって。今からうだうだ考えていても時間の無駄だし、今出来ることをするよ」
「うん! 今日も、お仕事頑張ろう!」
「……その前に、アオイは服を着てきた方が良いよ?」
「……ギャッ!!」
アオイは大慌てで、家の中に入って行く。
その後ろ姿に苦笑いを浮かべながら、僕は止めていた手を動かして準備の続きをする。
それから、日が高くなり「夏だなぁ」と思いながら、昼を迎える僕は、家の影で休んでいた。
「リット、食べる?」
「おにぎり! 食べる!」
アオイが握ったおにぎりを受け取り、口の中に頬張る。
「ん~、美味い!」
「それは、良かった。もう、すっかり夏だね」
アオイは広がる牧場の景色を見ながら言う。
「だね。春から始めたばかりだけど、あっという間だよ。まだまだ広く出来るけど、どうしようかな」
「意外に広いからね。爺ちゃんがやってた時も、色々な事をしてたよ。土地が広いから、無駄にしたくないとか言ってたし」
「そうなんだ……農場だったなら、色々な作物を土地いっぱいに育ててたの?」
アオイの祖父がここで農場をしていたことは知っていることだけど、どんな農場だったのかはまだ聞いたことがなかったのを思い出して聞いてみた。すると、アオイは楽しそうに話し始める。
「ボクの記憶だと、作物で土地は埋め尽くしていなかったと思う。季節ごとに育てる作物と、ハウスを作って一年中育てていた作物があって……」
畑は今作物を育ている場所にあって、その横に大きなビニールハウスがあった。そのビニールハウスの中で、何種類かの花を一年中育てていた。今、鶏小屋や牛小屋がある位置には加工場があって、育てた作物の中で売りに出せない物を加工して売りに出していたらしい。
「加工?」
「うん、ジャムとか、油とか。爺ちゃんが出来る加工をしてたんだよ。ボクも、よく一緒にやってたなぁ~」
懐かしみながら、おにぎりを頬張るアオイ。
確かに売りに出せない物は出るけど、それは自分で食べていたから、加工っていうのを使ってそれを売りに出すという発想はなかった。
「……加工、か」
「後は、キノコを育てたりもしてたし、小さな田んぼを作ってたりとかもしてたよ」
「色々、やってたんだね……僕も、色々な事やってみようかな」
「それ良いと思う! きっと、楽しいよ!」
そんな話をしながら、おにぎりを食べ終わった僕とアオイは、残りの畑仕事を終えた後、外に出している鶏を小屋に戻した。 あっという間に時間は過ぎて、夕日が眩しく照らす時間になっていた。
「ん~、今日も働いたぁ!!」
背伸びをしているアオイを横目に、僕は後片付けをしていた。
「あれ? 誰か来るよ?」
「え?」
アオイの言葉に視線を出入口に向けると、朝に来たディオンさんと黒髪の青年の姿があった。
「え!? なんで!?」
僕は慌てて二人に駆け寄る。
「本当に、リットが暮らしているとはな……」
「いや、その言葉は朝に聞いたよ。それより、どうしてアディル殿下が……」
ディオンさんと一緒に来たこの黒髪の青年こそが、我が国の第一王子、アディル殿下。特徴的な漆黒の髪によく映える赤い耳飾りを好んで付けている。僕が会った時と何も変わっていなくて少し驚いた。
「お前が、大事な話があると言ったんじゃないのか?」
「た、確かにそうですけど、返事はディオンさんを通してしてくるって思っていたから……」
「他でもない、お前の話なんだ。直接話を聞くに決まっているだろ?」
何の知らせもなく家に来た二人を家に案内して、孤児院の話をした。
「それで、王家にも関わる話とは何だ?」
「……孤児院の事なんだけど」
そう切り出すと、アディル殿下は眉を動かした。
「孤児院か。何があったんだ?」
「国が孤児院に援助をしているのは知っているんだけど、それが打ち切られたみたいで孤児院の皆が辛い思いをしているんだ」
「援助を打ち切りだと? それは、孤児院が言ったのか?」
「うん、孤児院の院長に話を聞いた事だし、帳簿も見せてもらったから嘘の話じゃないよ」
孤児院の事を話すと、アディル殿下は隣に座るディオンさんに話を聞く。
「ディオン。孤児院に行った時、リットと同じ話を聞いたか?」
「ああ。援助が打ち切られ、孤児院の子供達に十分な食事も与えられない程の難しい状態だと聞いた」
「そうか……これは、動き出さないと不味いかもな」
「もしかして、孤児院の事を調べていたの?」
二人の会話からそう聞くと、アディル殿下は頷いて答えた。
アディル殿下は、孤児院についての報告を時々耳にしていて気になっていた。情報を探っていると、ある人物が浮かび上がってきた。
「ハーリットという男が、数々の不正をしている可能性が出てきた。そこで、ディオンに更に調べてもらっていたんだが、まさか、リットから情報を得るとはな」
「確か、孤児院の院長先生もハーリット様が孤児院の管理者だって言ってたけど……やっぱり、孤児院への援助金を横領してたってこと?」
「ああ。リットは、ハーリットが怪しいと先に考えたのか?」
「先代の王が決めた事業を、王家の人ならどんな理由があっても途切れさせるような事はしないと思うし、可能性が高いのは、その間に入っている人の横領かなと……」
聞かれた事を答えると、アディル殿下は深い溜め息をついた。それは、呆れているようにも感じる。
「本当に、お前は何も変わっていないな……リット、俺はこれからハーリットの不正を正す。その間、孤児院の事を頼んでも良いか?」
「それは、ハーリットが証拠隠滅をしないように、孤児院を守れって事ですか?」
「はは、そうだ。お前なら出来るだろ?」
「出来るけど、そういうのは自分の部下にやらせませんか?」
出来ないことじゃないけど、アディル殿下は出会った頃から僕を過信しているところがある。それは、久々に会っても変わっていなかった。
「あ、のさ……話が一区切りしたみたいだから聞くんだけど……三人は、どんな繋がりなの? さっきから、王家とか、貴族を調べてるとか……一般人がする話じゃないよね?」
ずっと黙って聞いていたアオイが聞いてくる。どう答えようか考えていると、アディル殿下が言う。
「リット。ここまで来たら、話しても良いぞ? お前が信用出来る者なら、俺も信じる」
「……アオイ、今から話すことは誰にも言わないって約束できる? 僕も、今まで人に言ったことがない事なんだ」
「わ、分かった。絶対、誰にも言わない!」
覚悟を決めるようにアオイは答える。
僕は、二人の事と僕との関係の事を話した。
二人と出会ったのは三年くらい前、僕が家出をして一年がたった頃だった。あの頃は、まだ家族の事を引きずっていて仕事も上手く行っていなかった。そんな時、城の書庫室の仕事が三ヶ月間の期間で募集しているのを知って、僕は駄目元で応募して試験を受けた。
その結果、合格をもらい三ヶ月間、書庫室の仕事を始めた。それから数日後くらいに、アディル殿下とディオンさんに会って、良く話をしていたのを覚えているけど、正直、何を話したかまでは覚えていない。
「そんな過去が……それじゃあ、ディオンさんが言ってた兄みたいなって言うのは……」
「当時は、リットの事を弟みたいに思ってたから」
「……何か色々な事を知りすぎて、頭がパンクしそうなんだけど……三人は、普通に話が出来る仲だって事で間違いない?」
「まぁ、普通に話せるし、仲は別に悪くないと思うけど……」
僕の答えを聞いたアオイは、少し間をおいて叫んだ。
「……もう、どうなってるのさ! リット、君は何者なの! 普通、王子とその側近の騎士様と友達みたいな関係にはならないからね! てか、まず無理だかね!」
「う、うん……何か、ごめん」
「取り敢えず、話しは分かったし、絶対に、誰にも言わない。約束する」
「ありがとう、アオイ」
何とかアオイに僕達の事を分かってもらったけど、本題の話しはまだ途中だ。
「それで、ハーリットの事はどうするの?」
「不正を正すんだ。それなりの罰は受けてもらう」
「ハーリットって、ボクでも名前くらいは知っている貴族だけど、孤児院はどうなるの?」
「大丈夫だ。孤児院の事も含め処罰を決める。孤児院の子供達を路頭に迷うような事はさせないから安心しろ」
アディル殿下は笑って言った。
その後、何かあれば僕に知らせると言って、アディル殿下とディオンさんは城に帰って行った。
あれから数週間。
「いらっしゃいませ~!」
「美味しい、トマッテはいかがですか~?」
ハーリット家の悪事から解放された孤児院は今、活気に溢れている。
「まさか、孤児院で商売をするとはな」
「俺が、後始末に追われている間に……」
アディル殿下がハーリット家の不正を暴き、その後始末に追われている頃、僕はサーリア院長と子供達にあの話を持ち掛けた。それは、孤児院で商売をするという話だ。最初は、サーリア院長は僕の話を断ったけど、話を何度かすることで子供達が「やりたい」と言い出し、サーリア院長もそんな子供達を見て僕の案に乗ってくれた。それから、孤児院の皆と僕は初売り出しに向けて準備を始めた。
「それにしても、賑やかだな」
「子供達も楽しそうで何よりだが……援助の話しはどうしたものか」
「国からの援助は打ち切ることになったの?」
「打ち切りにはしないが、今回の事もあってご老人達がピリピリしていてな。バザーの事も気にかけていた」
アディル殿下が言う「ご老人」とは、国の政治に関わっている公爵家の方達のことで、この人達が孤児院への援助は「国の無駄だ」と言い始めたらしい。つまり、先代の王が作った孤児院を「無駄」だと言っているのだ。これには、国王も黙ってはいないだろう。それと、バザーの事もこの商売のお陰でやらなくても良いようになった。参加していた店からは色々言われたけど、「ハーリット家の取り巻きだって知っている」と言い返したら何も言えなくなり帰って行った。その後は、怖いくらいに静かになり誰もバザーの事を聞きに来なくなった。
「リットさん……アディル殿下! 来てくださっていたとは知らず。申し訳ありません……」
「いや、気にするな。大盛況だな」
「はい。リットさんのお陰です。勿論、アディル殿下の計らいにも、とても感謝しております」
頭を下げるサーリア院長に、アディル殿下は聞く。
「サーリア殿。私達はこれからも孤児院へ援助をしたいと思っている……」
「アディル殿下。私達は、リットさんのお力と子供達のやる気によって生きていく術を得ました。援助は必要ありません」
「……そうか。では、せめて身の回りの事を支えさせてはくれないか? 建物の修繕や子供達の衣服。それらの支給を国にさせてはくれないか?」
アディル殿下の申し出に、サーリア院長は僕の方を見てきた。僕はそれに頷き返すと、サーリア院長は笑みを浮かべて答えた。
「はい。よろしくお願いいたします」
詳しい話しは、国が決めてから追って報告するとアディル殿下は約束をして、子供達の働きぶりや僕が育てた野菜達を見てから帰って行った。
帰って行ったといえば、アオイも自分の家に帰った。
孤児院の売り出しを手伝った翌日に、荷物を持って何事もなかったかのように笑顔で帰って行った。
これで会うこともなくなるし、家の中も寂しくなるなと思っていたんだけど……。
「リット! おっはよう!」
何故か、当たり前のように家に来る。
帰った次の日に、アオイが来た時には驚いた。また、父親と喧嘩でもしたのかと思ったけど、今度はその父親を連れてきていたから余計に焦った。
「本当に、良いの? 僕は手伝ってくれるのは嬉しいけど、お金も出ないんだよ?」
「別に、お金が欲しくて来てるわけじゃないよ。ボクは、リットの牧場に興味があるだけだから、今まで通り手伝わせてよ」
こんな感じでアオイは自分の家を手伝わず、僕の方を手伝うと言って聞かないし、アオイの父親からも頼まれたら後々が怖くて断ることも出来ないから、アオイの好きな様にさせることにした。
それと驚いた事と言えばもう一つ。
ポルンの義理の父親があの大工屋の親方「カーネ」さんだったって聞いて一番驚いた気がする。働いていたときも、今まで話していても「ポルン」の名前すら聞いたことがなかったから、まさかの義理の父親が親方だったなんて、どんな繋がりがあるのか分からないなって改めて思った。そんな事を口にしたら、アオイには「リットが言わないで」と呆れ顔で言われた。
まぁ、色々な事が一気に起きたけど、上手く解決出来て良かった。これで、僕の周りは平和になる。
これからも、緩く、働かない牧場生活を送って行こうと僕は思うのだった。
二日後に孤児院のバザーがあると教えてくれたから僕は、そのバザーに来ている。だけど、アオイは「家族に話をする」と言って家に帰った。アオイが自分がやりたい事を見つけて、それを家族に話せる勇気が出たのなら、僕はそれを見守ることしかない出来ない。
会場の入り口で、僕は足を止める。
「……賑わってる」
会場内は、多くの人で賑わっていた。中でも家族連れがたくさんいて、子供のはしゃぐ声もあちこちから聞こえてくる。そんな会場に足を踏み入れて見て歩くと、出されている商品がバザーに参加している各店が用意した物で、服や小物、アイスクリームといった食べ物も売られていた。店を覗いてみると、子供のお小遣いでも買える値段の商品も売り出されていて、子供達は自分の財布の中身と相談しながら、欲しい物を買っている。それを見て、バザーは人を笑顔に出来る事なんだって思ったけど、それは僕の勘違いだった。
「これだから、孤児院の子供は……ここは良いから、あっちを片付けてくれ」
「何してんだい! これじゃあ、売り物にならないじゃないか」
孤児院の子供達が、参加している店のお手伝いをしているのは見ていて直ぐに分かるけど、店側はその事を良く思っていないみたいだった。その証拠に、手伝う子供達を煙たがる様にあしらう店の人がチラホラ目に映って、孤児院の子供達や店の人の行動や表情が気になった。孤児院の子供達は手伝いをする店の人の顔色を気にしながら行動しているように見えるし、孤児院の先生らしき人も、頭を下げて謝っている所も何度か見かけた。
そんな光景に嫌気を感じながら歩いていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「リットさん?」
「ポルン」
僕に気付いたポルンは、笑顔で僕に駆け寄って来る。
「リットさんも、来ていたんですね!」
「うん。ポルンも見に来たの?」
「僕は、孤児院の手伝いをしに来たんです」
「手伝い?」
ポルンは、孤児院の子供達が困った時に手を貸したり、孤児院で用意した物を売る子供達の手伝いをするために来ていた。
「そうなんだ。毎回、手伝ってるの?」
「はい。バザーがある日は必ず。僕に出来ることは、これくらいしかないので……」
「それだけでも凄いよ。僕は、バザー自体初めて来たし……」
「リットさん?」
初めて見に来たからなのか、やっぱり気になる。
「僕が気にしすぎかもしれないんだけど……少し孤児院の子供達と店の人達がぎこちないというか、悪い意味で互いに気にしてるみたいに感じるんだけど……」
「それは……リットさん、僕もう少しで休憩に入れるので、あそこのベンチで待っててくれませんか?」
「う、うん、良いけど……」
ポルンの言葉に、僕は近くにあるベンチでポルンを待つことにした。
その間、僕は会場内の様子を見ていた。
笑みを浮かべるお客と店の人。その陰で何かを気にしている孤児院の子供達と先生達。
(良く見ると、孤児院の子供達も先生達も、顔色が悪し、着ている服もボロボロ……)
話を聞いた限りじゃ、このバザーで得た売り上げの一部は孤児院に寄付しているらしいけど、本当に寄付なんかしているのか疑ってしまう。勿論、バザーで得られる売り上げは普通の売り上げより少ないとは思うけど、参加している店の数は多しそれなりの売り上げにはなると思う。それに、毎月、孤児院には国からの支援を受けているはず。だけど、その割には孤児院の子供達や先生達が貧しく見えるのはどうしてだろう。その答えは、想像の延長線で出てくる。国からの支援は受けていない、バザーの売り上げから得られる寄付金もない。そんな想像をしていると、ポルンが声をかけてきた。
「リットさん、お待たせしました! それじゃあ、行きましょう!」
ポルンは僕をある場所に連れてきた。
「ここは……」
「やっぱり、ここは落ち着きます……」
背伸びをしながら、ポルンは言う。
そこは静かで、使われていない花壇がある孤児院の裏庭の様な所だった。
「良く、ここには来るの?」
「バザーがある日は来ます。でも、孤児院にいた時は、毎日来ていました。静かで、とても落ち着くので……」
「孤児院にいたって……ポルンは孤児院育ちなの?」
「はい。とは言っても、僕の場合は養子になったから生粋の孤児院育ちではありませんけど……」
孤児院にいる子供達には、十二才まで孤児院で暮らす子供と、途中で養子になって孤児院を出る子供がいる。だけど、養子になって孤児院を出ていく子供は少なく、ほとんどの子供達は孤児院で暮らすことが許されている十二才まで過ごして、十二才になると、孤児院を出て仕事を探して暮らしている。
「そう、だったのか……それで、どうしてここに僕を連れてきたんだ? 落ち着けるような場所なら、一人の方が……」
「それは、そうなんですけど……リットさんは、孤児院と周りの人達の間にある壁を気にしているみたいだったから。その事を話すには、出来るだけ人がいない方が良いと思ったんです……」
例え、養子になって孤児院から出たとしても孤児院にいたことには代わりない。だから、孤児院の事を話すとなれば人の目が気になるのは当たり前の事なのかもしれない。僕は、孤児院育ちだからとか気にしないけど、人目を避けるくらいには孤児院と周りの人達の間に何かあるってことなのだろう。
「そうなんだ。それで、何があったの? 意見の食い違いとか?」
「そういう話なら、まだ良かったんですけど……このバザーに参加している人達は、孤児院の事を良く思っていないんです……」
「良く思ってないって……だったらなんでバザーに参加なんかしてるの? 嫌なら、参加しなくても……」
「僕もリットさんと同じ考えです。だけど、あの人達は、売れ残りの商品を売るために仕方なく参加しているみたいなんです……」
孤児院のバザーで売る物は、売れ残りや処分をする商品。だから、そんな物でも売れるなら嫌でも参加して利益を得た方が良いと考えるのは分からなくもない。だけど、バザーに参加したからには、孤児院側には何かしらの援助はしないといけない。それが、バザーに参加する条件のはず。
「でも、売り上げの何割かは、孤児院に寄付をしているんでしょ? それなら……」
「寄付はないんです」
「え?」
「バザーに参加する条件として、そういうことにはなってはいるんですが……実際は、孤児院はお店に場所を提供しているだけで、お店からは何も受け取っていないんです」
バザーに参加する条件があるのに、それを誰も守っていないなんて信じられないけど、もしそうだとしても、条件を守らないなら孤児院側が強く訴える事も出来るはず。それもしないのは、やっぱり何か深い訳があるのかもしれない。
「……ねぇ、ポルン」
「はい」
「話しは変わるけど……国からの援助を孤児院は受け取っているんだよ、ね?」
「それは……」
答えなんて、言葉にして聞かなくてもポルンの表情で十分だった。
「ごめん、言えないことだよね……」
「いえ……院長先生の話だと、国からの援助は一年くらい前から受け取っていないみたいです」
「それって、国が援助を打ち切ったってこと?」
「はい……」
孤児院は先代の国王が、身寄りのない子供達を救う為に建てたもので、孤児院への援助は絶えることはないとも言われているけど、その援助を打ち切っているのは国。つまり、現国王が孤児院には援助をする必要がないと判断したということになる。
「未来ある子供の為に惜しむ金はない……」
「リットさん?」
「先代の国王は、そう言って孤児院の為に行動していたって歴史書にも残ってた。現国王も、その先代の意思を強く引き継いで、孤児院には当時のままの援助金を渡しているって言っていたのに……」
「王様だって人だから、考えも変わるとは思いますけど。それでも、せめてその理由を教えて欲しかったです……」
ポルンが国からの援助が打ち切られた事を知ったは、孤児院が打ち切りの宣告を受けてから直ぐのことで、その理由は話してくれなかったと孤児院の院長から話を聞いたという。その頃から、院長は「これから、どうしたら」と悩んでいて、少し前から始めていたバザーでお金を稼げないかとポルンが提案をしたけど、何処から情報が漏れたのか、国からの援助が打ち切られたことを、バザーに参加してくれていた店の人達が知ってしまい、バザーに参加すると売り上げが孤児院に全額奪われると勘違いして、参加する店がいなくなった。そして、バザーに参加する店の人が現れても、参加条件として交わした約束は守ってもらえず、その事を話そうとすると、ある貴族が間に入ってきて話をなかった事にされた上、その貴族の目があるから強く言えないのだという。
「そもそもの原因が援助の打ち切りで、それを参加している店は上手く利用しているってことか。貴族まで使って……」
「はい。だけど、分かっていても何も打つ手が無くて、どうにかしたいと思っているんですが……」
「ポルン。院長に話が聞きたいんだけど、話しは出来る?」
「バザーが終わったら、大丈夫だと思いますけど……」
詳しい話を孤児院の院長に聞くため、ポルンと一緒に孤児院の子供達の手伝いをしながら、バザーが終わるのを待つことにした。
「リットさん、本当に良いんですか? 孤児院の事に関わって……」
「逆に、関わったら何か問題でもあるの?」
「だって、孤児院は国が作った施設なんですよ? 変に関わって、リットさんが巻き込まれたら……」
「大丈夫だよ。それに、話を聞いたら無視は出来ないし、僕が出来ることがあるなら手伝いたいから……」
バザーの手伝いをしながら、僕はもう一度、会場内を見回した。
ポルンの話を聞いたせいなのか、余計に会場内がピリピリしている感じがする。バザーをこのまま続けるにしても、この空気のままは絶対にダメだと思う。まずは、孤児院が出した「条件」がどういうものなのか知る必要があるし、場合によってはその条件を変えないといけないかもしれない。
「どうしてそこまで……」
「ポルン?」
「リットさんは、孤児院とは何の関わりもないはずなのに凄いなって。僕は孤児院の事は知っているのに、何も出来なくて……」
珍しく暗い表情を浮かべるポルンに、僕は答えた。
「僕だって、何も出来ないかもしれない。でも、やる前から決めつけたら、出来ることも出来なくなる。だから、ポルンも決めつけないで、一緒に出来ることを見つけようよ」
「リットさん。そうですよね! 僕も、何か出来ないかもう一度考えてみます!」
ポルンは少しだけ元気を取り戻し、バザーは終わりを迎えた。
お客は全員帰って行き、会場に残ったのはバザーに参加した店の人達と孤児院の子供達と先生達。そして、僕とポルンだけになった。バザーに参加した店の人達は各自の持ち場の後片付けを始め、孤児院の子供達や先生達もその手伝いをしている。僕とポルンは、孤児院が用意したテントやテーブル、椅子等を小屋に運んだりしていた。片付けが終わった店の人達から孤児院を出ていくけど、ポルンが言っていた通り、孤児院に寄付をする素振りはなかった。
「……あの、話と言うのは……」
孤児院の片付けも終わり、子供達が夕食の準備をしている中、僕とポルンは院長と話をすることになった。
「実は、ポルンから孤児院の事を聞きました。見ていても、孤児院に寄付をするような人を見ませんでしたが……」
「そ、それは……受け取っては、いません」
ポルンを見て、院長先生は話してくれた。
孤児院の院長「サーリア」先生は、三年前に前院長から後を引き継ぎ、孤児院の事を守って来た。だけど、一年くらい前に、急に国からの援助を打ち切られ、それからは、バザーで得る少しのお金と、近所の人達から残り物の食材をもらって生活をするようになった。
「国からの援助を受けていたときは、どんな生活をしていたんですか? そこに、打ち切りの理由があるのかも……」
「私もそう思ったのですが、調べても、全て子供達が食べて行くために必要な物ばかりで、とても無駄な出費があったとは思えないのです」
サーリア院長はそう言って、僕に帳簿を見せてくれた。
ざっと目を通してみたけど、帳簿には初めて見る僕でも分かるように書かれていた。その中には、記録して置かなくても良さそうな事まで書かれていて、軽く目を通した僕でも、目立つ出費があるようには思えなかった。
「……それなら、国はどうして援助の打ち切りなんか」
可能性として孤児院の不正がすぐに頭に浮かんだけど、院長の様子から見てもそんな指摘も受けていないはず。だとしたら、国が孤児院に援助しないと決断した理由は何なんだろう。僕は、あらゆる可能性を考えた。その時、ある言葉が頭を過った。
「あの、もしかしなくても……国との間に仲介者がいたりしませんか? 例えば、孤児院の管理を任せられている貴族とか……」
「え、ええ、その通りです。打ち切りのお話も、孤児院を管理しているハーリット様が教えてくださいましたが……」
「そっかだから……」
「リットさん?」
「これは、あくまで可能性なんですけど……」
国がちゃんと援助をしていたとして、孤児院が問題を起こしていないとするなら、その間に立つ者の仕業かもしれない。でも、これはあくまでも、国が孤児院にちゃんと援助をしていることが絶対条件の可能性。もしかしたら、本当に国が打ち切った可能性も無視は出来ない。どんな可能性にも、「理由」は必ずある。
「それは、ハーリット様が嘘をついていると言うことですか!?」
「あくまでも可能性です。本当の事を知るには、やっぱりどっちかの話を聞くのが一番なんだけど……」
「り、リットさん……それは平民の僕達には難しいですよ。話どころか、会ってもくれないかもしれません」
ポルンの意見はもっともだ。相手が、同じ国民なら会うことも話すことも普通に出来るけど、権力を持つ人が相手となるとそう簡単な話じゃないのは、僕にも分かっている。だけど、僕が簡単に口にするのにも理由はある。
「僕に、考えがあります。これが、上手く行けば両者から話が聞けるかもしれません」
「そんな事が出来るんですか!?」
「い、一体、どうやって……」
僕には、誰にも話していない過去が幾つもある。
その中の繋がりが使えれば、上手く可能性は十分にあるんだけど、これは賭けに近い。
「それは、まだ言えません……だけど、少しだけ僕に時間を下さい」
「リットさん……院長先生、僕からもお願いします! リットさんは僕が信用できる人です、だから!」
「……私達に出来ることはありません。ですので、リットさんの言葉を信じて、私達も頑張ってみます」
「ありがとうございます!」
何をするかも分からない僕を「信じる」と言ってくれたポルンとサーリア院長を悲しませない為にも、成功させないといけない。
家に帰った僕は考えていた。どうすれば、あの人達に会えるのかと。
「う~ん」
「リット? 帰ってきてからずっと唸ってるけど、どうしたの?」
僕が家についた時には、アオイは家に帰って来ていた。家族との話しはどうなったのか、聞かないといけないんだろうけど、今の僕は孤児院の事で頭がいっぱいになっていて、まだアオイの事が聞けていない。
「あ~、実は孤児院の内情を聞いちゃって。その対策というか、解決策を考えていたんだ……」
「えっ、バザーを見に行っただけなのに、どうしてそんな面倒な事に……それで、内情って?」
僕はアオイに孤児院の事を、簡単に話した。
「な、なるほど……国からの援助が打ち切られた理由を突き止めるって話しになって、それをリットが解決するって事になったと……いや、無理な話だよね、それ」
「確かに、一般人の僕だけじゃ、解決どころか会ってすらくれないだろうけど……」
「策があるってこと?」
「うん。まぁ、話を聞いてくれる人なのは確かなんだけど……会えるかが問題なんだよ」
僕が会いたい人は、簡単に会える人じゃない。事前に話を通す必要があるし、何よりそこまで行き着くのが一番の難関。一般人の僕が話がしたいからと言ったところで確実に、追い出されてしまうのは目に見えている。だから、話すならその人に話を聞いてもらうしかないんだけど……それもかなり難しい話だから、物凄く悩んでいる。
「それで唸ってたんだ。そのリットが会おうって思っている人は誰なの? リットが知っている人なんだよね?」
「知っているって言うか……前やってた仕事で知り合ったというか……仕事を辞めてから会ってないから、相手は忘れてる可能性もあるし……」
「な、にそれ……それって無謀に近い案なんじゃ」
「うん。だから、物凄く悩んでるんだよ……」
僕は弱々しく答えると、アオイは呆れたような表情で僕を見ていた。その視線が物凄く痛いけど、僅かな可能性があるなら、それに賭けてみようと僕は決意した。
「え、え~と。アオイの方はどうだったの?」
「え? あ~、うん。上手く話せたと思う。自分がやりたいことを家族に話せたから」
「そっか! それで、家族はなんて?」
「お前が決めた事なら、応援するって……父さん、ボクはボクの道を歩いて欲しくて後を継ぐのを認めなかったんだって、話してくれたんだ」
安心するように笑みを浮かべるアオイに、僕は少し羨ましいなと思った。
「それじゃあ、この家も出ていくんだよね?」
「そう、なるね。仲直りしたし、家に帰りたくない理由もなくなっちゃったし……」
「そっか。何時、帰るとか決めてるの?」
少し寂しく思いながら聞くと、アオイは笑って答えた。
「そうだなぁ……孤児院の事は気になるから、それが解決するまではここに居ようと思うんだけど、ダメかな?」
「アオイが良いなら、僕は構わないけど……本当に良いの? いつ、解決するかも分からないし、解決なんてしないかもしれないよ?」
「その時は、その時だよ。それに家族には、まだ当分は帰らないからって言ってあるし、大丈夫だから」
アオイはそう言うけど、僕は心配になった。
仲直りしたのに、家に暫く帰らないなんて言われて、あの父親が黙っているわけがない。きっとアオイを心配して明日にでも家に来そうな予感がする。
「ほ、本当に大丈夫なの? 特に、アオイのお父さんは……」
「まぁ、渋々許した感じだったけど……大丈夫だよ、きっと!」
「渋々って……アオイがそう言うなら、そういう事にしておくよ。明日から、忙しくなりそうだし、今日はもう寝よう」
「そうだね。ボクも、家に帰って疲れたし……」
僕とアオイは、明日の為に早めに体を休めることにした。
翌朝。
僕は、孤児院の事を考えながら、日課になっている畑と鶏の世話の準備をしていた。
(ふあ~。結局、孤児院の事を考えて、あまり眠れなかった……どうしようかなぁ~)
あくびをしながらそんなことを考えていると、声が聞こえてきた。
「あの! すみません! 誰か、いませんか?」
人の家を訪ねるにはまだ早い時間。僕は、恐る恐る声がする方に顔を出した。
「はいって……ディオンさん!?」
「お~。本当に、リットの家だったんだな」
「いや、どうしてここに……」
家を訪ねてきたのは、我が国の第一王子の側近で第二騎士団長の『ディオン』さんだった。普段は、第一王子の側にいなきゃいけないのに、なぜこんなところに来ているのか、僕は頭が混乱していた。
「そう警戒するなよ、リット。俺は、元パートナーに会いに来たんだ」
「元、パートナー?」
ディオンさんは、数週間前あることに悩んでいた。
それは、騎士団に所属してからずっと一緒にいた馬が足を怪我してしまった。
「その怪我をした馬を使ってくれる人を探していたんだが、足の事が原因でなかなか見付からなかったんだ」
(あれ? 何処かで聞いたような……まさか!)
「その時、たまたま商業ギルドで、馬を探している人がいるって聞いて……」
ここまで聞いたら分かってしまう。
「もしかしなくても、クロハの……」
「そう! 俺が、クロハの元パートナーだ」
ニカッと笑うディオンさんに、僕は今更気付いたことを後悔した。まさか、知っている騎士の馬だったなんてこれっぽっちも思っていなかったし、それも騎士団長の馬を引き受けていたなんて。これじゃあ、クロハが何かある度にディオンさんは駆け付けて来そうで不安になる。
「え~と、クロハは、あの小屋にいますよ?」
「おお、そうか! 会っても良いのか?」
「駄目なんて言えませんよ。どうぞ、会ってあげてください」
クロハに会いに来たって言われたのに、会わせないなんて言えるわけないし、別に会わないで欲しいなんて思ってもいないから、僕はディオンさんをクロハに会わせることにした。
「クロハ! 元気だったか!」
「ヒヒーン!」
ディオンさんが駆け寄って声をかけると、クロハは嬉しそうに鳴き声を上げる。そんなクロハを愛おしそうに見つめ、ディオンさんはクロハの鼻筋を優しく撫でいた。
「そうだ、リット。何か困っていることはないか?」
「困っていること、ですか?」
「何かないか? クロハのお礼がしたいんだ。俺が出来ることなら何でも言ってくれ」
ディオンさんの言葉に、僕はある人に会わせてもらえないか頼んだ。それは、ディオンさんにしか頼めないことで、孤児院の事を助けるための頼みの綱だ。
「アディル殿下に会わせてください!」
「……アディルに? その理由は?」
ディオンさんの目付きが変わった。
アディル殿下。ディオンさんが仕える第一王子。僕が孤児院の為にも会いたい人は、他でもないアディル殿下だ。ディオンさんがここに来たのはきっと、神様がくれた最初で最後のチャンスかもしれない。
「大切な話があるんです。恐らく、王家にも関わる話しになるかもしれないんです!」
「……」
詳しい話をしないから、ディオンさんでも僕をアディル殿下に会わせるのは難しいかと肩を落としかけたその時、ディオンさんは答えた。
「リットは、嘘付いて王子に手を出す奴じゃないしな……分かった、アディルには伝えておくが、返事の保証は出来ない。それでも良いか?」
「話してくれるだけで十分です。ありがとうございます、ディオンさん!」
「いや、俺にしか出来ない事だからな」
笑って話すディオンさんは、あの頃と何も変わらない、頼れる兄の様な人だった。
「リット? 誰か来ているのか?」
「アオ……イ!?」
アオイは薄い白いシャツ一枚の姿で、まだ眠そうな目を擦っている。少しシャツがはだけている姿に戸惑う僕は「無防備!」「ちゃんと、服を着てよ!」と心の声が口から吐き出そうになるのをグッと我慢していると、側にいたディオンさんはしみじみ言う。
「リットも、男になったんだな……」
「え! ち、違うから、アオイは居候で!」
「リット、そんなごまかし方じゃ騙せないぞ?」
「だから、違うんだって!」
何か大きな勘違いをするディオンさんの誤解を解くのは物凄く疲れた。アオイとの事を話す度に「リットは奥手だと思っていたが……」とか「親に挨拶までしているのか!」とか、話を聞いているようで聞いてくれなくて、誤解を解くのに時間がかかった。
「……たく。そういうことなら、初めからそう言いなさい。お兄さん、喜びそうになっただろ?」
「いや、言ってたんだけど……」
「あのさ、話しは終わったの?」
僕とディオンさんが話をしている間、アオイは話の輪に入れかったのか、僕達の話が途切れるのを待っていた。
「ああ、すまない。アオイちゃん、だっけ? リットが世話になっているみたいで、ありがとう」
「い、いえ……それで、その、誰なの?」
アオイはディオンさんの正体を知らないみたいで、僕に耳打ちをしてきた。今のディオンさんの姿は、あの騎士団特有の制服を着ていないから、アオイからしてみたら街にいるお兄さんの様に思っているのかもしれない。それなら、正体を明かさない方が良いのかとも思ったけど、これから関わるかもしれないなら、正体を明かした方が後々面倒な事にならなくて済むなんて考えていると、ディオンさんが自分からアオイに自己紹介をした。
「俺は、実の兄ではないが、リットの兄の様なものだ。アオイがここに暮らしているのを知って来てみたんだ」
「お、お兄さん!」
「いや、の様な者だからね。実の兄は僕にはいないからね?」
「でも、リットの事を心配している家族みたいな存在なんでしょ?」
「そ、れは……」
折角、ディオンさんが誤魔化すために嘘を付いたのに、ここで僕が「全否定」したら逆に怪しまれてしまうから、僕は否定しそうになる口を閉ざした。
「違うの?」
「ち……違くはないけど、ディオンさんにはちゃんと家族がいるし……頼れるお兄さんみたいなだけだよ」
「ふ~ん。ま、リットが信用できる人には変わりないんでしょ? だったら、ボクも信じても良いって事だよね! ディオンさん、よろしくお願いします!」
「アオイちゃんは、良い子だね。リットにはもったいないな……」
「だから! そんなんじゃないから!」
アオイが納得したならそれで良い。
「お兄さん」。あの頃の僕は、ディオンさんの事をそんな風に思っていた。頼れて、優しくて、凍っていた心を解かしてくれた人の一人。だから、連絡を途絶えた日からも、忘れた事はなかった。城や街にいる衛兵を見かける度に思い出していた。そんな事は、恥ずかしくて言えないけど。
「それじゃ、俺は仕事に戻る。例の話しは、ちゃんと話しておくから、心配しなくても大丈夫だからな」
「よろしくお願いします」
「ああ。また来る」
ディオンさんは、手を振って帰って行った。
「ねぇ、リット。例の話しって何?」
「あ、あ~。孤児院の話をディオンさんが知っている人に相談してみるって話だよ」
「そうなの! じゃあ、孤児院の問題が解決するのかな!」
「それはまだ分からないよ。話してくれるだけだから、その人がどんな返事をしてくるか分からないし……」
そうこれは賭け。アディル殿下が「話を聞かない」と無視をすれば話はなかった事にされるし、孤児院の問題も解決出来ない。
「そう、なんだ……でも、可能性はあるんだよね?」
「返事次第だけどね」
「それなら、期待して待ってようよ。その間に、駄目だった時にどうするか考えてれば良いし!」
僕はたまにアオイを凄いと思う。
普通なら「期待しないで待つ」って言うのに、その逆の事を言って前向きに考える。明るいアオイは、どんなピンチでも乗り越えて行けそうな気がする。
「リット?」
「アオイの言う通りだなって。今からうだうだ考えていても時間の無駄だし、今出来ることをするよ」
「うん! 今日も、お仕事頑張ろう!」
「……その前に、アオイは服を着てきた方が良いよ?」
「……ギャッ!!」
アオイは大慌てで、家の中に入って行く。
その後ろ姿に苦笑いを浮かべながら、僕は止めていた手を動かして準備の続きをする。
それから、日が高くなり「夏だなぁ」と思いながら、昼を迎える僕は、家の影で休んでいた。
「リット、食べる?」
「おにぎり! 食べる!」
アオイが握ったおにぎりを受け取り、口の中に頬張る。
「ん~、美味い!」
「それは、良かった。もう、すっかり夏だね」
アオイは広がる牧場の景色を見ながら言う。
「だね。春から始めたばかりだけど、あっという間だよ。まだまだ広く出来るけど、どうしようかな」
「意外に広いからね。爺ちゃんがやってた時も、色々な事をしてたよ。土地が広いから、無駄にしたくないとか言ってたし」
「そうなんだ……農場だったなら、色々な作物を土地いっぱいに育ててたの?」
アオイの祖父がここで農場をしていたことは知っていることだけど、どんな農場だったのかはまだ聞いたことがなかったのを思い出して聞いてみた。すると、アオイは楽しそうに話し始める。
「ボクの記憶だと、作物で土地は埋め尽くしていなかったと思う。季節ごとに育てる作物と、ハウスを作って一年中育てていた作物があって……」
畑は今作物を育ている場所にあって、その横に大きなビニールハウスがあった。そのビニールハウスの中で、何種類かの花を一年中育てていた。今、鶏小屋や牛小屋がある位置には加工場があって、育てた作物の中で売りに出せない物を加工して売りに出していたらしい。
「加工?」
「うん、ジャムとか、油とか。爺ちゃんが出来る加工をしてたんだよ。ボクも、よく一緒にやってたなぁ~」
懐かしみながら、おにぎりを頬張るアオイ。
確かに売りに出せない物は出るけど、それは自分で食べていたから、加工っていうのを使ってそれを売りに出すという発想はなかった。
「……加工、か」
「後は、キノコを育てたりもしてたし、小さな田んぼを作ってたりとかもしてたよ」
「色々、やってたんだね……僕も、色々な事やってみようかな」
「それ良いと思う! きっと、楽しいよ!」
そんな話をしながら、おにぎりを食べ終わった僕とアオイは、残りの畑仕事を終えた後、外に出している鶏を小屋に戻した。 あっという間に時間は過ぎて、夕日が眩しく照らす時間になっていた。
「ん~、今日も働いたぁ!!」
背伸びをしているアオイを横目に、僕は後片付けをしていた。
「あれ? 誰か来るよ?」
「え?」
アオイの言葉に視線を出入口に向けると、朝に来たディオンさんと黒髪の青年の姿があった。
「え!? なんで!?」
僕は慌てて二人に駆け寄る。
「本当に、リットが暮らしているとはな……」
「いや、その言葉は朝に聞いたよ。それより、どうしてアディル殿下が……」
ディオンさんと一緒に来たこの黒髪の青年こそが、我が国の第一王子、アディル殿下。特徴的な漆黒の髪によく映える赤い耳飾りを好んで付けている。僕が会った時と何も変わっていなくて少し驚いた。
「お前が、大事な話があると言ったんじゃないのか?」
「た、確かにそうですけど、返事はディオンさんを通してしてくるって思っていたから……」
「他でもない、お前の話なんだ。直接話を聞くに決まっているだろ?」
何の知らせもなく家に来た二人を家に案内して、孤児院の話をした。
「それで、王家にも関わる話とは何だ?」
「……孤児院の事なんだけど」
そう切り出すと、アディル殿下は眉を動かした。
「孤児院か。何があったんだ?」
「国が孤児院に援助をしているのは知っているんだけど、それが打ち切られたみたいで孤児院の皆が辛い思いをしているんだ」
「援助を打ち切りだと? それは、孤児院が言ったのか?」
「うん、孤児院の院長に話を聞いた事だし、帳簿も見せてもらったから嘘の話じゃないよ」
孤児院の事を話すと、アディル殿下は隣に座るディオンさんに話を聞く。
「ディオン。孤児院に行った時、リットと同じ話を聞いたか?」
「ああ。援助が打ち切られ、孤児院の子供達に十分な食事も与えられない程の難しい状態だと聞いた」
「そうか……これは、動き出さないと不味いかもな」
「もしかして、孤児院の事を調べていたの?」
二人の会話からそう聞くと、アディル殿下は頷いて答えた。
アディル殿下は、孤児院についての報告を時々耳にしていて気になっていた。情報を探っていると、ある人物が浮かび上がってきた。
「ハーリットという男が、数々の不正をしている可能性が出てきた。そこで、ディオンに更に調べてもらっていたんだが、まさか、リットから情報を得るとはな」
「確か、孤児院の院長先生もハーリット様が孤児院の管理者だって言ってたけど……やっぱり、孤児院への援助金を横領してたってこと?」
「ああ。リットは、ハーリットが怪しいと先に考えたのか?」
「先代の王が決めた事業を、王家の人ならどんな理由があっても途切れさせるような事はしないと思うし、可能性が高いのは、その間に入っている人の横領かなと……」
聞かれた事を答えると、アディル殿下は深い溜め息をついた。それは、呆れているようにも感じる。
「本当に、お前は何も変わっていないな……リット、俺はこれからハーリットの不正を正す。その間、孤児院の事を頼んでも良いか?」
「それは、ハーリットが証拠隠滅をしないように、孤児院を守れって事ですか?」
「はは、そうだ。お前なら出来るだろ?」
「出来るけど、そういうのは自分の部下にやらせませんか?」
出来ないことじゃないけど、アディル殿下は出会った頃から僕を過信しているところがある。それは、久々に会っても変わっていなかった。
「あ、のさ……話が一区切りしたみたいだから聞くんだけど……三人は、どんな繋がりなの? さっきから、王家とか、貴族を調べてるとか……一般人がする話じゃないよね?」
ずっと黙って聞いていたアオイが聞いてくる。どう答えようか考えていると、アディル殿下が言う。
「リット。ここまで来たら、話しても良いぞ? お前が信用出来る者なら、俺も信じる」
「……アオイ、今から話すことは誰にも言わないって約束できる? 僕も、今まで人に言ったことがない事なんだ」
「わ、分かった。絶対、誰にも言わない!」
覚悟を決めるようにアオイは答える。
僕は、二人の事と僕との関係の事を話した。
二人と出会ったのは三年くらい前、僕が家出をして一年がたった頃だった。あの頃は、まだ家族の事を引きずっていて仕事も上手く行っていなかった。そんな時、城の書庫室の仕事が三ヶ月間の期間で募集しているのを知って、僕は駄目元で応募して試験を受けた。
その結果、合格をもらい三ヶ月間、書庫室の仕事を始めた。それから数日後くらいに、アディル殿下とディオンさんに会って、良く話をしていたのを覚えているけど、正直、何を話したかまでは覚えていない。
「そんな過去が……それじゃあ、ディオンさんが言ってた兄みたいなって言うのは……」
「当時は、リットの事を弟みたいに思ってたから」
「……何か色々な事を知りすぎて、頭がパンクしそうなんだけど……三人は、普通に話が出来る仲だって事で間違いない?」
「まぁ、普通に話せるし、仲は別に悪くないと思うけど……」
僕の答えを聞いたアオイは、少し間をおいて叫んだ。
「……もう、どうなってるのさ! リット、君は何者なの! 普通、王子とその側近の騎士様と友達みたいな関係にはならないからね! てか、まず無理だかね!」
「う、うん……何か、ごめん」
「取り敢えず、話しは分かったし、絶対に、誰にも言わない。約束する」
「ありがとう、アオイ」
何とかアオイに僕達の事を分かってもらったけど、本題の話しはまだ途中だ。
「それで、ハーリットの事はどうするの?」
「不正を正すんだ。それなりの罰は受けてもらう」
「ハーリットって、ボクでも名前くらいは知っている貴族だけど、孤児院はどうなるの?」
「大丈夫だ。孤児院の事も含め処罰を決める。孤児院の子供達を路頭に迷うような事はさせないから安心しろ」
アディル殿下は笑って言った。
その後、何かあれば僕に知らせると言って、アディル殿下とディオンさんは城に帰って行った。
あれから数週間。
「いらっしゃいませ~!」
「美味しい、トマッテはいかがですか~?」
ハーリット家の悪事から解放された孤児院は今、活気に溢れている。
「まさか、孤児院で商売をするとはな」
「俺が、後始末に追われている間に……」
アディル殿下がハーリット家の不正を暴き、その後始末に追われている頃、僕はサーリア院長と子供達にあの話を持ち掛けた。それは、孤児院で商売をするという話だ。最初は、サーリア院長は僕の話を断ったけど、話を何度かすることで子供達が「やりたい」と言い出し、サーリア院長もそんな子供達を見て僕の案に乗ってくれた。それから、孤児院の皆と僕は初売り出しに向けて準備を始めた。
「それにしても、賑やかだな」
「子供達も楽しそうで何よりだが……援助の話しはどうしたものか」
「国からの援助は打ち切ることになったの?」
「打ち切りにはしないが、今回の事もあってご老人達がピリピリしていてな。バザーの事も気にかけていた」
アディル殿下が言う「ご老人」とは、国の政治に関わっている公爵家の方達のことで、この人達が孤児院への援助は「国の無駄だ」と言い始めたらしい。つまり、先代の王が作った孤児院を「無駄」だと言っているのだ。これには、国王も黙ってはいないだろう。それと、バザーの事もこの商売のお陰でやらなくても良いようになった。参加していた店からは色々言われたけど、「ハーリット家の取り巻きだって知っている」と言い返したら何も言えなくなり帰って行った。その後は、怖いくらいに静かになり誰もバザーの事を聞きに来なくなった。
「リットさん……アディル殿下! 来てくださっていたとは知らず。申し訳ありません……」
「いや、気にするな。大盛況だな」
「はい。リットさんのお陰です。勿論、アディル殿下の計らいにも、とても感謝しております」
頭を下げるサーリア院長に、アディル殿下は聞く。
「サーリア殿。私達はこれからも孤児院へ援助をしたいと思っている……」
「アディル殿下。私達は、リットさんのお力と子供達のやる気によって生きていく術を得ました。援助は必要ありません」
「……そうか。では、せめて身の回りの事を支えさせてはくれないか? 建物の修繕や子供達の衣服。それらの支給を国にさせてはくれないか?」
アディル殿下の申し出に、サーリア院長は僕の方を見てきた。僕はそれに頷き返すと、サーリア院長は笑みを浮かべて答えた。
「はい。よろしくお願いいたします」
詳しい話しは、国が決めてから追って報告するとアディル殿下は約束をして、子供達の働きぶりや僕が育てた野菜達を見てから帰って行った。
帰って行ったといえば、アオイも自分の家に帰った。
孤児院の売り出しを手伝った翌日に、荷物を持って何事もなかったかのように笑顔で帰って行った。
これで会うこともなくなるし、家の中も寂しくなるなと思っていたんだけど……。
「リット! おっはよう!」
何故か、当たり前のように家に来る。
帰った次の日に、アオイが来た時には驚いた。また、父親と喧嘩でもしたのかと思ったけど、今度はその父親を連れてきていたから余計に焦った。
「本当に、良いの? 僕は手伝ってくれるのは嬉しいけど、お金も出ないんだよ?」
「別に、お金が欲しくて来てるわけじゃないよ。ボクは、リットの牧場に興味があるだけだから、今まで通り手伝わせてよ」
こんな感じでアオイは自分の家を手伝わず、僕の方を手伝うと言って聞かないし、アオイの父親からも頼まれたら後々が怖くて断ることも出来ないから、アオイの好きな様にさせることにした。
それと驚いた事と言えばもう一つ。
ポルンの義理の父親があの大工屋の親方「カーネ」さんだったって聞いて一番驚いた気がする。働いていたときも、今まで話していても「ポルン」の名前すら聞いたことがなかったから、まさかの義理の父親が親方だったなんて、どんな繋がりがあるのか分からないなって改めて思った。そんな事を口にしたら、アオイには「リットが言わないで」と呆れ顔で言われた。
まぁ、色々な事が一気に起きたけど、上手く解決出来て良かった。これで、僕の周りは平和になる。
これからも、緩く、働かない牧場生活を送って行こうと僕は思うのだった。
応援ありがとうございます!
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