54 / 87
さよならの前のふんわりパン
五十四、
しおりを挟む
「……ケリーが?」
驚いてつい聞き返してしまう。
「うん」
「意外」
「そうだよね。兄弟たちが外で遊び回っている時にずっと家の中にいて切り絵とか工作してた。それで、ずっと親にひっついてて家事手伝ったり料理作ったりとかしてたんだよ」
切り絵と聞いてテテのおもちゃ箱に貼られていたのを思い出す。料理好きだと手先も器用なのかとあまり気に留めていなかったけど、昔から遊んでいたのか。
「一番最初に作ったのがサンドイッチだった。ハムとかレタスとか、火を使わなくてもできる具材で。不恰好だったけど、これまで手伝いしかしてなかった料理を一から作れたっていうのが嬉しくて、そこからハマっていった感じ」
「なんか、かわいいエピソード」
小さなケリーが一生懸命サンドイッチを作る姿を想像して、勝手に癒された。料理を始めたきっかけがなんともほっこりしていて、大人しい子だったというのは意外だったが、穏やかな性格のケリーなので容易に想像することができてなんだか嬉しかった。
(小さなきっかけから仕事に繋がったんだから、すごいなぁ。)
「ところで清飛って、俺と会う前って何を食べてたの?初めて料理した時、冷蔵庫に意外と食材はあったけど」
今度は逆に質問されて、ケリーと出会う前の記憶を探る。
「そのまま食べたりレンジでチンしたり、とにかく簡単に食べられるものを食べてた。学校ある日のお昼はパン買って食べてたよ」
「なるほど。自炊はしてたけど料理はあまりしてなかったんだね……。」
「とりあえずなんでも醤油かけてたら食べられたし」
豆腐、ほうれん草、もやし……適当に温めて醤油とか塩で味付けしたらそれなりに食べることはできた。卵かけご飯とかも簡単だし。
「栄養が足りてたのか心配になる……。」
「そう?日本人の食生活って意外と俺みたいなの多いと思うよ」
そう言ったのは実際に嘘では無いと思うし、明日帰ってしまうケリーに心配をかけたくなかったからだ。優しいが故に過保護な面もあったから、このままだと気がかりになってしまうかもしれないと思った。しかし、
「そっか。昨日いくつかおかず作って、タッパーに入れて冷蔵庫に保管してるから明後日から食べてね。冷凍庫には味付けしたお肉とお魚が入ってるから、ちょっと手間かもしれないけど解凍してフライパンで焼いたら食べられるから」
と言われて目を見開く。
「え、わざわざ作ってくれたの?」
「うん、勝手だけど心配だったから」
「そんな、いいのに……」
「俺が勝手にやったことだから」
「そっか……ありがと」
優しい声でそう言われて少し目が潤んだ。
(ああ、もう。寂しい気持ちになりたくないのに……。)
明後日からは元の日常に戻る、そう思っていたのにケリーとテテがいた日常の痕跡を探してしまいそうで辛い。ケリーが俺を心配して、してくれた行為はありがたいのに素直に嬉しいと思えそうになかった。そんな自分が嫌だと、悔しくなる。
悲しみを振り払うように別の話題を探す。思いつくままに色々と喋り、時々テテと遊びながら時間はあっという間に過ぎていった。
昼食は軽めにとって、パンが出来上がるのを待った。
「残り一分だ」
「待ち侘びたね」
液晶に映る文字をケリーと一緒に見る。残り一分と表示されていた文字が変わり、焼き上がりを知らせるメロディーが流れた。昼食のあとにお昼寝をしていたテテが、その音に飛び起きてキョロキョロと辺りを見渡した。俺たちがいる方を見てパンが焼けたのだと気づいたようで、一目散に駆け寄ってくる。
「パン焼けたよ、テテ」
「ぴゃん!」
「パンって言った?テテが喋った!」
蓋をパカリと開けると、まず良い香りが部屋の中に広がって、ケリーが「わー!」と声をあげた。
「できてる!」
「すごい、本当に焼けるんだ」
「ぴゃーー!!」
粉やバターでしかなかったものが、釜の上部にまで膨らんだパンに様変わりしていた。できあがった喜びがこみあげてきて、食べてもいないのに感動してしまう。
(ケリーがサンドイッチを初めて作った時の気持ちが、少し分かったかもしれない。)
材料を量って入れただけで、あとはホームベーカリーがやってくれたのにちゃんとパンが焼き上がったのが嬉しかった。今後俺もまた作ってみたいと、本当に思った。
まな板をテーブルに持ってきて、ケリーが釜から取り出してくれた。少し丸みを帯びた四角い形をした食パンで、可愛らしい。ケリーがパンに包丁を入れる。
「わ、柔らかい!」
「潰れちゃいそうだね」
よく包丁を研いでいるからしっかり切れるはずだけど、それでも柔らかいパンは少し潰れそうになった。耳の部分が切れるとあとはスムーズで、切れた断面を見る。お店で買うよりも少し粗い、手作りだと実感できるパンだった。
驚いてつい聞き返してしまう。
「うん」
「意外」
「そうだよね。兄弟たちが外で遊び回っている時にずっと家の中にいて切り絵とか工作してた。それで、ずっと親にひっついてて家事手伝ったり料理作ったりとかしてたんだよ」
切り絵と聞いてテテのおもちゃ箱に貼られていたのを思い出す。料理好きだと手先も器用なのかとあまり気に留めていなかったけど、昔から遊んでいたのか。
「一番最初に作ったのがサンドイッチだった。ハムとかレタスとか、火を使わなくてもできる具材で。不恰好だったけど、これまで手伝いしかしてなかった料理を一から作れたっていうのが嬉しくて、そこからハマっていった感じ」
「なんか、かわいいエピソード」
小さなケリーが一生懸命サンドイッチを作る姿を想像して、勝手に癒された。料理を始めたきっかけがなんともほっこりしていて、大人しい子だったというのは意外だったが、穏やかな性格のケリーなので容易に想像することができてなんだか嬉しかった。
(小さなきっかけから仕事に繋がったんだから、すごいなぁ。)
「ところで清飛って、俺と会う前って何を食べてたの?初めて料理した時、冷蔵庫に意外と食材はあったけど」
今度は逆に質問されて、ケリーと出会う前の記憶を探る。
「そのまま食べたりレンジでチンしたり、とにかく簡単に食べられるものを食べてた。学校ある日のお昼はパン買って食べてたよ」
「なるほど。自炊はしてたけど料理はあまりしてなかったんだね……。」
「とりあえずなんでも醤油かけてたら食べられたし」
豆腐、ほうれん草、もやし……適当に温めて醤油とか塩で味付けしたらそれなりに食べることはできた。卵かけご飯とかも簡単だし。
「栄養が足りてたのか心配になる……。」
「そう?日本人の食生活って意外と俺みたいなの多いと思うよ」
そう言ったのは実際に嘘では無いと思うし、明日帰ってしまうケリーに心配をかけたくなかったからだ。優しいが故に過保護な面もあったから、このままだと気がかりになってしまうかもしれないと思った。しかし、
「そっか。昨日いくつかおかず作って、タッパーに入れて冷蔵庫に保管してるから明後日から食べてね。冷凍庫には味付けしたお肉とお魚が入ってるから、ちょっと手間かもしれないけど解凍してフライパンで焼いたら食べられるから」
と言われて目を見開く。
「え、わざわざ作ってくれたの?」
「うん、勝手だけど心配だったから」
「そんな、いいのに……」
「俺が勝手にやったことだから」
「そっか……ありがと」
優しい声でそう言われて少し目が潤んだ。
(ああ、もう。寂しい気持ちになりたくないのに……。)
明後日からは元の日常に戻る、そう思っていたのにケリーとテテがいた日常の痕跡を探してしまいそうで辛い。ケリーが俺を心配して、してくれた行為はありがたいのに素直に嬉しいと思えそうになかった。そんな自分が嫌だと、悔しくなる。
悲しみを振り払うように別の話題を探す。思いつくままに色々と喋り、時々テテと遊びながら時間はあっという間に過ぎていった。
昼食は軽めにとって、パンが出来上がるのを待った。
「残り一分だ」
「待ち侘びたね」
液晶に映る文字をケリーと一緒に見る。残り一分と表示されていた文字が変わり、焼き上がりを知らせるメロディーが流れた。昼食のあとにお昼寝をしていたテテが、その音に飛び起きてキョロキョロと辺りを見渡した。俺たちがいる方を見てパンが焼けたのだと気づいたようで、一目散に駆け寄ってくる。
「パン焼けたよ、テテ」
「ぴゃん!」
「パンって言った?テテが喋った!」
蓋をパカリと開けると、まず良い香りが部屋の中に広がって、ケリーが「わー!」と声をあげた。
「できてる!」
「すごい、本当に焼けるんだ」
「ぴゃーー!!」
粉やバターでしかなかったものが、釜の上部にまで膨らんだパンに様変わりしていた。できあがった喜びがこみあげてきて、食べてもいないのに感動してしまう。
(ケリーがサンドイッチを初めて作った時の気持ちが、少し分かったかもしれない。)
材料を量って入れただけで、あとはホームベーカリーがやってくれたのにちゃんとパンが焼き上がったのが嬉しかった。今後俺もまた作ってみたいと、本当に思った。
まな板をテーブルに持ってきて、ケリーが釜から取り出してくれた。少し丸みを帯びた四角い形をした食パンで、可愛らしい。ケリーがパンに包丁を入れる。
「わ、柔らかい!」
「潰れちゃいそうだね」
よく包丁を研いでいるからしっかり切れるはずだけど、それでも柔らかいパンは少し潰れそうになった。耳の部分が切れるとあとはスムーズで、切れた断面を見る。お店で買うよりも少し粗い、手作りだと実感できるパンだった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
守護霊は吸血鬼❤
凪子
BL
ごく普通の男子高校生・楠木聖(くすのき・ひじり)は、紅い月の夜に不思議な声に導かれ、祠(ほこら)の封印を解いてしまう。
目の前に現れた青年は、驚く聖にこう告げた。「自分は吸血鬼だ」――と。
冷酷な美貌の吸血鬼はヴァンと名乗り、二百年前の「血の契約」に基づき、いかなるときも好きなだけ聖の血を吸うことができると宣言した。
憑りつかれたままでは、殺されてしまう……!何とかして、この恐ろしい吸血鬼を祓ってしまわないと。
クラスメイトの笹倉由宇(ささくら・ゆう)、除霊師の月代遥(つきしろ・はるか)の協力を得て、聖はヴァンを追い払おうとするが……?
ツンデレ男子高校生と、ドS吸血鬼の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる