陽気な吸血鬼との日々

波根 潤

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お墓参りへ

二十二、

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 「おはよ!清飛!」
「おはよ」
「ぴゃー!」
「おはよ、テテ」

 ケリーと暮らし始めてからの、普段取りの朝を迎える。ベッドの上で目を擦りながら起き上がり、テテの頭を撫でる。最近テテは俺が起きる時間になると布団の上にのるようになった。ケリーを見ると、見慣れたエプロン姿。中央にコウモリの羽のようなイラストが書いてある。

 テテを撫でていた手を広げると、ピョンと掌の上にのった。カーペットの上におろすと毛繕いをはじめたので、俺も歯を磨こうと立ち上がった。
 
 今日は母の命日。胸の中に寂しさはあるが、思いの外心は穏やかに凪いでいた。

 
 「いただきます!」
「いただきます」

 今日の朝ごはんはサンドイッチだった。たまごとレタスと、ハムときゅうりの二種類を作ってくれていた。辛子マヨがぴりっとして美味しい。お店で買うとサンドイッチって意外と高くてわざわざ選ばないから、なんだか嬉しかった。

「簡単なものでごめんね」
「ううん」
(材料用意して、挟んで、切って……サンドイッチって結構手間だと思うけど。)

「今日何時に出る?」
「食べたらすぐ出ようと思ってる。早く終わらせたい」
「わかった!」
「……本当にケリーも行く?」
「行くよ!」
「分かった」

本当に時間が潰せるような場所がないのだ。やはり付き合わせるのが少し申し訳なくなり再度確認したが、間髪入れずにそう言ってくれたのでホッとした。来てくれるなら本当に心強い。

「ケリー、晩ごはんカレーが食べたい」
「わかった!任せて!」

晩ごはんを楽しみに帰ってこよう。



 朝ごはんを食べてから出かける準備をして家を出た。まだ五月だというのにじんわりと暑い。ケリーは大丈夫なのだろうかと隣を見たら涼しそうな顔をしていて安心した。

「暑くない?」
「吸血鬼ご用達の太陽の暑さを遮断する生地の服だから大丈夫だよ!」
「そんなのあるの?でも顔とかは?」
「肌出てるとこは清飛のおかげでカバーできてる!」
「そんなこともできるのか」

俺のおかげでというのは吸血鬼が使う力のことだろう。血を吸ってるから力が使えて大丈夫だと。ということは結構使っているのだろうし、三日に一回の吸血で本当に大丈夫なのだろうか。

「もう少し血吸う日増やす?」
「ダメ!清飛の負担増やしたくない!」

(負担はないんだけど。)

不思議と血を吸われた時の方がよく眠れている気がするし、増やしても問題無いのだが聞き入れられることはなかった。

 
 二人で暮らし始めてからすでに三週間程経ったし、ケリーがどういう人物かは知っていたはずだった。少なくとも、人間では一番ケリーのことを知っていると思う。しかし、俺はアパートで一緒に暮らしてる時のことしか知らなかったようだ。

「おはようございまーす!」
「ああ、おはよう。お兄さん、この前はありがとうね、荷物持ってもらって」
「全然大丈夫だよ!また頼ってね!」

「おお、兄ちゃん!この前筍掘り手伝ってくれてありがとな!」
「いえいえ、筍わけてくれてありがと!美味しかったよ!」

「ボールとってくれたおにいちゃん!またあそんでねー!」
「うん!今日はごめんだけど、また遊ぼうね!」


 「ケリーってなんなの?」
「なにって?」
 
アパートから駅に着くまでの僅か十分程、ケリーは道ゆく人に声をかけられた。普段挨拶しかしないような人たちが、ケリーを見るなりにこやかに声をかける。二年以上この地で暮らしている俺よりも三週間程しかいないケリーの方がより馴染んでいるようだった。

「俺が学校行ってる時とか、いつも人助けしてたの?」
「人助けっていうか……交流?」
「そう」

ケリーはそう言っているが、やはり困ってる人を放っておけない性格なのだろう。明るく優しくて面倒見のいい、誰に対しても気さくに声をかける性格。
 こんなことを思うのはお門違いだが、少しショックを受けている自分がいた。
 今日来てくれたのも、「恩人だから」と言っていたが結局のところケリーの性格的に放っておけなかっただけのようにも感じる。俺じゃなくても、他の誰かでも同じようにしたのだろう。

(なんだろう、少し寂しく感じるような。)

 普段は感じないような、嫉妬のような感情に戸惑う。そのような感情を抱いてしまう自分が恥ずかしく、やはり母の命日で気が参っているのだろうとそれ以上は考えないように思考を遮断した。


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