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中間テスト期間
十四、
しおりを挟むケリーと共に暮らし始めてから一週間程経ち、二人での生活にもすっかり慣れた。と言っても、家事の殆どをケリーが担っているので、俺はただ楽になっただけで快適な暮らしを謳歌していた。朝作ってくれたごはんを食べて、弁当を持って学校に行き、帰宅すると掃除と洗濯が終わっていてまたごはんを食べる。そんな日々を送っていた。
ふと、ケリーがなぜ料理が得意なのか気になり、一度聞いてみたところ元いた世界では料理人として働いていたようだ。所謂庶民的な料理を出す定食屋のような所で働いていた為、丼物や生姜焼きのような炒め物、その他一般的な家庭料理の数々をよく作っていたらしい。
「吸血鬼の食文化って日本式なの?」
「いや、いろんな国の料理が食べられるよ。料理だけじゃなくて暮らし方も様々だし。日本家屋に住んでる吸血鬼もいれば、ツリーハウス作って住んでる吸血鬼もいる」
そんな話を聞いていると吸血鬼の自由さに驚かされることが度々あった。ケリーの明るさを見ているとその自由さが納得できる。そんな生活をしていて、日本によく馴染むことができるなと思ったが、こっちの世界に来る時に各国の常識をしっかり学んでから来ているようだ。なんとも勤勉なことだ。なぜそこまでしてこの世界に来たいのか、吸血鬼の考えることはよく分からない。
吸血鬼の特徴として体温が無いからか、汗をかかず風呂に殆ど入らなかった。時折、気分的にさっぱりしたいのか入る時はあるが水のシャワーを浴びていた。冷たさは感じないようで、温かいお湯は苦手だと言っており、料理についても熱いものは苦手で、自分の物は冷ましてから食べているらしい。家でラーメンを出された時、氷をいくつか入れていて薄まらないかと心配になった。
そして、暮らし始めてから二回血を吸われた。初日のようなしつこい程の確認は無くなったが、いつも申し訳なさそうに「今日血をもらってもいいかな?」と頼まれる。別に確認せずとも一言「血吸うね」で良いって言っても、やはり申し訳なさそうに言われるのでそれについては面倒に感じていた。
一つ変わったことは、吸血の際にケリーが薄手の手袋をつけるようになった。あの日、直接触れられるのは嫌だと言った為、買ってきてくれた。どうやら首から血を吸われる前に頬に触れたのは下瞼をめくって貧血になっていないかの確認をしたかったらしい。
「もし貧血だったら明日にしようと思って」
と手袋をはめながら教えてくれた。血を吸ってもいいと確認を取ったあとでも、吸血鬼なりに配慮することがあるのだと知り大変だなと他人事のように思った。
以前首から吸われた時、確かに肩こりが楽になったのでこの二回ともまた首から吸ってもらった。そして、吸われている最中に緩く抱きしめられているような大勢になり、背中を優しく叩かれたり、撫でられたりする。やはり、ケリーの中で吸血=人間にとっては怖いものと認識しているみたいで、普段から優しいケリーがその前後はこちらが恥ずかしくなるくらい優しくなる。
一度、床に座っている時に動くのが面倒くさくてそのまま血を吸われた後、寝ようとベッドに向かおうと立ち上がりかけた瞬間に抱き上げられそうになった。流石に男に抱き上げられるのが恥ずかしくて、慌てて止めた。
「ちょ、ケリー!歩けるから大丈夫だって」
「ダメ!貧血になってたら危ないでしょ!俺に任せて!」
「数歩だけだから大丈夫だって」
俺が強く拒否するので、渋々といった様子でケリーが折れた。その代わり肩を貸してもらい、ベッドにあがった。以後、血を吸われる時は必ずベッドに座ってからにしようと心に決めた。
しかし、どっちにしろベッドに横になると、優しく笑いかけられながら眠るまで頭を撫でられるので、恥ずかしい気持ちはある。何か言おうにも、首から血を吸われたあとは少しぼーっとするのでされるがままであった。
この共同生活で困ることといえば本当にそれくらいだった。ケリーが優しくて、恥ずかしく感じるだけ。快適な生活を送っていて、自分がどんどん堕落していくように感じるが、今はケリーの存在がありがたい。なにしろ、今はテスト期間中なのだ。
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