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りゅーぼー

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田舎

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大学3年の秋。
一週間前、長かった実習が終わった。
大学はすでに始まっているが今期は割と暇なのだ、今は車を走らせている。
 
曽祖父が亡くなったのは何年前だろうか。
顔を思い出すことも難しいが、昔は夏休みになると毎年この道を通って海が見える家に行っていたことは覚えてい
る。
いつからだろうか。
そんな毎年の楽しみも無くなってしまった。

住所なんて分からない。
全く当てにならない記憶を頼りにただひたすら車を走らせている。

途中、道の駅を見つけた。
間違いない、毎回寄っていた場所だ。
ーここはあれが売っていたはず。
じゃこカツだ。
150円を財布から出して一つ買った。昔は100円だった気がする。
じゃこてんを揚げただけでどうしてここまで美味しくなるのだろうか。 
ーうん、この味だ。
舌はしっかりこの場所を覚えている。

道の駅を過ぎるといよいよ山に入る。
昔は、よく運転できるなと父に感心していたが案外そう難しくもない。
対向車が来ないことを祈りながら運転する。
 
何度か行き止まりに会いながら、知っている場所に出た。
ほとんど車も停まっていない駐車場の一つに車を停めた。
懐かしい、海の香りだ。
近くに広場がある。
毎年祭りが開かれていた場所だ。
今はロープで入られないようになっていた。
 
曽祖父の家を目指して家が立ち並ぶ所に入る。
誰ともすれ違わない。
代わりにカタツムリに出会った。
そんなはずもないと思うが、初めて見たような気がする。
踏まないように気をつけながら抜かした。

曖昧な記憶だけでなんとかなるものだ。
見覚えのある家にたどり着いた。
表札にはしっかり自分の苗字がある、間違いない。
鍵がないので中に入ることはできなかった。
ー次来るときは鍵をもらってこよう。

ーそろそろ帰るか。
家からは片道で4時間かかる。
移動時間のほうが多かったが、もう帰らないと明日の授業に間に合わない。
車に戻り音楽をかけて出発した。

ーおかしいな。
来た道を戻るだけなのに迷ったらしい。
さっきからよく分からない道に出る。
時間には余裕があるがこれ以上はしんどい。
自分の家の住所をナビに入れた。

…山だからかGPSの調子が悪いらしい。
30分経っても山道から抜け出せない。
が、焦っても仕方がない。
一旦車を停め落ち着くことにした。
最悪、今日は車の中で寝ればいい。
明日の授業を休むことにはなるが仕方がない。

辺りは真っ暗になった。
誰か通れば、と思っていたがこんな時間ではもう望みもないので出発することにした。
15分くらい走ると灯りが見えた。
ーまだあったのか。
よく来ていたラーメン屋だ。
車を道に停め引き戸を引いて中にはいる。昔ながらの定食屋という感じだ。
なぜかちゃんぽんが名物らしく、昔からちゃんぽんばかり食べていた。
 
「いらっしゃい」
カウンターに座って新聞を読んでいたお婆さんが言いながら水を持ってきてくれる。
どうやら客は自分だけらしい。
ちゃんぽんを頼む。
しばらくして運ばれてきたちゃんぽんには野菜がこれでもかというほどにのっている。
懐かしい味だ。
とてつもなく辛い。
胡椒のいれすぎだ。
いつ来てもこの胡椒からさはかわらなかったのを今思い出した。
辛すぎて笑ってしまう。
流石にスープは飲めなかったが、完食しお金を払う。
今の時代一杯500円というのは異常な安さなのではないだろうか。

「また来んさい」
「ごちそうさまでした、また来ます」
 
辺りは真っ暗だ。
車に乗ってエンジンをかける。

もう迷わず帰ることができる。
 
GPSは使えないが確信できた。
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