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りゅーぼー

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小さな約束

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涼しい秋風が街を包む夕暮れ、真希はいつもの公園のベンチに腰を下ろしていた。
赤い葉が舞い落ちる中、一冊の古びたノートを手にしている。
これは彼女と幼馴染の大輔が小学六年生のときに交わした「未来の約束ノート」だ。

「二十歳になったら、もう一度この公園で会おう。」

子供の頃の小さな約束。それから10年の歳月が流れた。


真希は高校を卒業してから地元を離れ、都会で暮らしている。
仕事はそれなりに順調だったが、慌ただしい日々の中で、自分が何を目指しているのかさえ見失いそうになることもあった。そんなとき、ふとこの約束を思い出したのだ。

「本当に来るのかな……」

彼女は少し不安になり、ノートの端を無意識に折り曲げた。
昔、大輔は何かにつけて彼女を助けてくれた。運動会で転んだときも、遠足で迷子になりかけたときも、彼はいつも手を差し伸べてくれた。
だが、中学の卒業を境に彼との連絡は自然と途絶えていた。
大輔がどこで何をしているのか、真希は何も知らない。
今日来なかったとしても、それは仕方ないことだと思いながら、心のどこかでは彼が現れることを期待している自分がいた。

時計の針が午後五時を指した。
柔らかな夕陽が公園を照らし、周囲には人影も少なくなっている。ため息をつこうとしたそのとき――
「真希?」
背後から声がした。

驚いて振り向くと、そこには少し背が伸びた大輔が立っていた。
あの頃の面影を残しながらも、大人びた笑顔を浮かべている。

「久しぶりだな。よくここが分かったな。」
「……本当に来てくれたんだ。」

真希は自分でも驚くほど嬉しかった。
大輔の存在が、自分の中でどれだけ大きかったのかに今さら気づく。
言葉を探しているうちに、ふたりは自然と並んで座った。

「お互い、いろいろあったんだろうな。」
大輔がぽつりと言った。真希は頷き、ノートを取り出した。
「これ、覚えてる?」
大輔は懐かしそうに微笑み、ノートを受け取る。
「ああ、覚えてるさ。これが俺にとっても支えになってたんだ。」

真希は思わず目を見張った。「え、そうなの?」
「うん。正直、何度も投げ出しそうになったことがあった。でも、『二十歳の約束』があったから、頑張れたんだ。」

夕陽が沈みかける中、ふたりは過去の思い出や今の生活について、何も隠さずに語り合った。
しばらくして、公園の街灯がふわりと灯り、あたりを温かい光で包んだ。

「なあ、真希。」
大輔がふと真剣な表情で言った。「また10年後、この場所で会わないか?」
真希は目を細め、優しく微笑んだ。「うん、約束する。」

ふたりは小指を絡め、再び小さな約束を交わした。
10年という時間が二人の心を変えたように、これからの未来も何が起こるかは分からない。それでも――
「次は絶対、連絡を途絶えさせないから。」
大輔の言葉に、真希は静かに頷いた。

夜風が秋の香りを運び、ふたりの新しい物語がそっと始まった。
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