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家族と幸せに生きる為に
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本当は知っている。
世界は邪悪なもので満ちている事も。
ルーナとノクスはそんな世界に押し潰されて、命を失いかけたのだ。
(わたくしが当たり前の様に受け取る無償の愛は、特別だと言う事。
それを世界に還す事で、人々に領地や公爵家や家族を愛してもらえれば、いい)
前世で目にした異世界転生や逆行物語では、心が読めたり、展開を知っていたり、その展開通りに人が動いたり、当たり前の様にそれを利用して、世界を攻略していく。
でも、それだけでは駄目なのだ。
思わぬ所で味方を失ったり、認識出来ないところで敵が増えたり、その対処を迫られた時に「一度失敗した人間」が、「攻略知識で先手を打つだけの人間」が、勝てるだろうか?
答えは、限りなく否だ。
だからこそ、常に細心の注意を払い、この世界を豊かで平和な方へ導く必要がある。
危険な芽は出来るだけ摘み取り、家族と幸せに生きて行くのだ。
母との昼食を終えたマリアローゼは、大量のレモーヌ・アクア、ソーダを樽に詰めた荷車と共に、小さな可愛らしい馬車で、側仕えのルーナ、シスネ、オリーヴェと練兵場へ向かった。
大き目の道幅の向かう先に、石造りの門が見え、門を過ぎた所で馬車が停まった。
馬車から降り立つと、目の前に広がったのは2階建ての大きな石造りの円形闘技場のような建物だった。
「まあ…練兵場と聞いたので、屋外だとばかり思っておりましたわ」
公爵邸では屋外に用意されていたので、仕方の無いことだが、その言葉を聞いたパーウェルが説明をしてくれた。
端正な顔立ちで身分も高い騎士だが、実力もあるという完璧騎士様なのである。
「外周には屋外修練馬や、槍試合用の馬場や騎馬戦闘用の訓練所、軍馬の訓練所もございます。
それと3階の屋上が、屋外修練所になっておりまして、1階と2階は室内での戦闘を念頭に置いた場となっていて、中々良い訓練になりますね」
マリアローゼはパーウェルの答えにこくん、と大きく頷いた。
確かに、戦争の無い今は起きるとしたら室内での戦闘の可能性も高いのだ。
特に警備の騎士や兵士にとっては、良い訓練なのかもしれない。
「それと地下では、障害物を模した野外での戦闘をする施設もございましたね」
「今、調べて参りましたが、ウルスス様とグランス様は地下で訓練されているとの事です」
ラディアータが、スッと進み出て、パーウェルの言葉に補足をしたので、マリアローゼは頷き返した。
「ではそちらに参りましょう」
建物の入口にもきちんと見張りの兵士も立っていて、大きな扉を開けると、正面には地下に下りる石段が敷かれていて、ルーナの手を借りてマリアローゼは石段を降りていく。
階段から見た1階の風景は、部屋ではなく町を模したような建物が建っていた。
多分室内を含めた市街地での戦闘訓練用なのだろう。
何とも実戦的な施設なのである。
土埃の匂いがする地下へ降りていくと、大きな円形の壁に沿うように座席のようなものが張り付いていて、中央に4つのエリアが地面を四角く刳り貫いたように、凹んでいてその中で対戦をしているらしい。
外周の客席からはそれぞれの場所が見下ろせるように造られている。
「本格的ですねぇ」
「楽しそうですね、カンナさん」
戦場を見た二人の戦乙女の目が爛々と輝いているのを見て、マリアローゼは苦笑した。
ラディアータに案内された場所で、下を見下ろすと、石像のような障害物が乱立していて、そこでウルススやグランスなどの騎士達が、複数で対戦している。
模擬戦用の武器なので、石像を壊したり相手に大怪我を負わせるような事はないものの、マリアローゼはハラハラしながら見守った。
二人とも力もある上に俊敏で次々と敵を討ち破り、同じ人数で対峙していたのかと思いきや、二人相手に複数で挑んでいたらしい。
終った後に、握手や挨拶を交わす二人に、マリアローゼが小さな手で拍手を送った。
気付いて見上げた二人が笑顔を浮かべ、壁の中に造られた階段から客席の方へと移動してくる。
「二人ともお強かったですわ!とてもお見事でした」
「有難うございます」
二人が汗と汚れに塗れながらも、笑顔で会釈を返す。
「お二人に美味しいお飲み物をお持ちしましたの。他の皆様にも」
「裏にある野外修練場に皆集めておりますので、そちらへ向かいましょう」
ラディアータがそつのない提案をして、手で別の入口を指し示した。
先程降りてきた階段とは別に、向かい側にも階段があって、そこから外へ出られるようだ。
対戦していた騎士達も一緒に、ぞろぞろと階段へと向かう。
外に出ると、飲物を積んだ荷馬車から樽が机の上に並べられており、待っている人々は杯を手にしていた。
世界は邪悪なもので満ちている事も。
ルーナとノクスはそんな世界に押し潰されて、命を失いかけたのだ。
(わたくしが当たり前の様に受け取る無償の愛は、特別だと言う事。
それを世界に還す事で、人々に領地や公爵家や家族を愛してもらえれば、いい)
前世で目にした異世界転生や逆行物語では、心が読めたり、展開を知っていたり、その展開通りに人が動いたり、当たり前の様にそれを利用して、世界を攻略していく。
でも、それだけでは駄目なのだ。
思わぬ所で味方を失ったり、認識出来ないところで敵が増えたり、その対処を迫られた時に「一度失敗した人間」が、「攻略知識で先手を打つだけの人間」が、勝てるだろうか?
答えは、限りなく否だ。
だからこそ、常に細心の注意を払い、この世界を豊かで平和な方へ導く必要がある。
危険な芽は出来るだけ摘み取り、家族と幸せに生きて行くのだ。
母との昼食を終えたマリアローゼは、大量のレモーヌ・アクア、ソーダを樽に詰めた荷車と共に、小さな可愛らしい馬車で、側仕えのルーナ、シスネ、オリーヴェと練兵場へ向かった。
大き目の道幅の向かう先に、石造りの門が見え、門を過ぎた所で馬車が停まった。
馬車から降り立つと、目の前に広がったのは2階建ての大きな石造りの円形闘技場のような建物だった。
「まあ…練兵場と聞いたので、屋外だとばかり思っておりましたわ」
公爵邸では屋外に用意されていたので、仕方の無いことだが、その言葉を聞いたパーウェルが説明をしてくれた。
端正な顔立ちで身分も高い騎士だが、実力もあるという完璧騎士様なのである。
「外周には屋外修練馬や、槍試合用の馬場や騎馬戦闘用の訓練所、軍馬の訓練所もございます。
それと3階の屋上が、屋外修練所になっておりまして、1階と2階は室内での戦闘を念頭に置いた場となっていて、中々良い訓練になりますね」
マリアローゼはパーウェルの答えにこくん、と大きく頷いた。
確かに、戦争の無い今は起きるとしたら室内での戦闘の可能性も高いのだ。
特に警備の騎士や兵士にとっては、良い訓練なのかもしれない。
「それと地下では、障害物を模した野外での戦闘をする施設もございましたね」
「今、調べて参りましたが、ウルスス様とグランス様は地下で訓練されているとの事です」
ラディアータが、スッと進み出て、パーウェルの言葉に補足をしたので、マリアローゼは頷き返した。
「ではそちらに参りましょう」
建物の入口にもきちんと見張りの兵士も立っていて、大きな扉を開けると、正面には地下に下りる石段が敷かれていて、ルーナの手を借りてマリアローゼは石段を降りていく。
階段から見た1階の風景は、部屋ではなく町を模したような建物が建っていた。
多分室内を含めた市街地での戦闘訓練用なのだろう。
何とも実戦的な施設なのである。
土埃の匂いがする地下へ降りていくと、大きな円形の壁に沿うように座席のようなものが張り付いていて、中央に4つのエリアが地面を四角く刳り貫いたように、凹んでいてその中で対戦をしているらしい。
外周の客席からはそれぞれの場所が見下ろせるように造られている。
「本格的ですねぇ」
「楽しそうですね、カンナさん」
戦場を見た二人の戦乙女の目が爛々と輝いているのを見て、マリアローゼは苦笑した。
ラディアータに案内された場所で、下を見下ろすと、石像のような障害物が乱立していて、そこでウルススやグランスなどの騎士達が、複数で対戦している。
模擬戦用の武器なので、石像を壊したり相手に大怪我を負わせるような事はないものの、マリアローゼはハラハラしながら見守った。
二人とも力もある上に俊敏で次々と敵を討ち破り、同じ人数で対峙していたのかと思いきや、二人相手に複数で挑んでいたらしい。
終った後に、握手や挨拶を交わす二人に、マリアローゼが小さな手で拍手を送った。
気付いて見上げた二人が笑顔を浮かべ、壁の中に造られた階段から客席の方へと移動してくる。
「二人ともお強かったですわ!とてもお見事でした」
「有難うございます」
二人が汗と汚れに塗れながらも、笑顔で会釈を返す。
「お二人に美味しいお飲み物をお持ちしましたの。他の皆様にも」
「裏にある野外修練場に皆集めておりますので、そちらへ向かいましょう」
ラディアータがそつのない提案をして、手で別の入口を指し示した。
先程降りてきた階段とは別に、向かい側にも階段があって、そこから外へ出られるようだ。
対戦していた騎士達も一緒に、ぞろぞろと階段へと向かう。
外に出ると、飲物を積んだ荷馬車から樽が机の上に並べられており、待っている人々は杯を手にしていた。
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