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オリーヴェとの再会
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壮年の家令が、ピシリとした佇まいで、再度軽く会釈をする。
短めの黒髪を後ろに撫で付けた髪型に、同じく暗色の鋭い瞳をしている厳しそうな家令だ。
「本来ならば城の者達も呼び寄せて挨拶をするべき所で御座いますが、こちらには並び切れそうもなく」
「あら、いいのよ。お仕事の邪魔になってはいけませんわ」
残念そうに告げる家令に、ミルリーリウムは鷹揚に微笑んだ。
その優しい言葉に、家令はぺこりと敬礼する。
「お兄様、降ろしてくださいませ。わたくしも挨拶を致します」
馬車を降ろされる時に抱っこされたままだったマリアローゼは、小さな足をぱたぱたと動かした。
シルヴァインは、にっこりと微笑んで、言われた通りに優しく地面へ降ろした。
「皆様、お初にお目にかかります。マリアローゼと申します。これから宜しくお願い致します」
スカートを摘んでお辞儀をする小さな令嬢を見て、皆がぱああっと微笑みを浮かべて、深くお辞儀を返した。
「お嬢様、これから私達も貴方様に誠心誠意尽くさせて頂く所存で御座います。どうか、御遠慮なさいませんよう」
「はい。お世話になりますわ」
嬉しそうに微笑むマリアローゼに、家令も厳しい顔を和ませて微笑んだ。
「あら、ふふ。貴方もそんなお顔が出来るのね、コルニクス」
「失礼致しました。では、お嬢様のご案内は、オリーヴェ、お前に任せる」
コホン、と咳払いして元の冷徹な顔に戻ると、懐かしい名前を聞いて、見知った顔の少女が進み出た。
「はい。お嬢様、お部屋に御案内させて頂きます」
「まあ、オリーヴェ……お願い致しますわね」
本当はもっと気安く懐かしむ言葉をかけたかったのだが、マリアローゼは慌ててその言葉を飲み込んだ。
ここでは新参者の彼女を、いきなり使用人達の前で気安く扱うわけにはいかない。
(あんまり親しげに振る舞ったらオリーヴェに迷惑がかかってしまうわ)
この領地の屋敷でも使用人の教育は確実に厳しく統制されているとは思うが、思わぬ所で嫉妬を買う事は避けたい。
迷惑を被るのはオリーヴェなのである。
コルニクスの言葉と差配で、従業員達はそれぞれの仕事へと散っていく。
マリアローゼはまた抱き上げようと手を伸ばしてきたシルヴァインの手を小さな手でぺちりと防いだ。
「もう、わたくしは、1人で歩けますから!」
「俺が抱っこしたいんだけどな」
「もう十分抱っこ致しましたでしょう。寂しいのでしたら後でお人形をお届けさせますわ」
ぷんぷんと年上の兄に怒る妹の姿に、使用人達は微笑を零している。
シルヴァインは仕方なさそうに肩を竦めた。
「部屋の用意が済んだら、会いに行くよ」
「そうしてくださいませ。さ、ルーナ、ノクス、オリーヴェ、参りましょう」
「「「はい、お嬢様」」」
シルヴァインの申し出に頷き、傍らで待っていた三人を伴なって、マリアローゼは屋敷の中へと足を踏み入れた。
両扉の大きな入口を抜けると、金糸の刺繍で彩られた青いカーペットが敷かれている。
天井は吹き抜けになっていて、ホールを囲むような形で、左右の階段が湾曲しながら二階に通じている。
玄関から見える二階の正面には、左右の階段をつなぐ廊下の向こうに、大きな両扉が見えた。
「あのお部屋は特別なお部屋ですの?」
オリーヴェの先導で左側の階段を上りながら、マリアローゼが不思議そうに質問すると、オリーヴェは足を止めてマリアローゼを振り返って、同じ位置まで降りるとお辞儀をした。
「はい、お嬢様。あちらは図書室兼、談話室となっておりますので、食事をお待ち頂いたり、食後にお紅茶などをお楽しみ頂きながらご歓談頂けるお部屋となっております」
「まあ、オリーヴェ…見違えましたわ。分かりやすい説明を有難う」
「勿体無いお言葉です」
褒められたオリーヴェは微かに頬を上気させて、ぺこりと会釈をすると、再び階段を登って手のひらを上向きにして、扉を指し示した。
「入口はあちらになりますが、ここがマリアローゼ様のお部屋になります」
「分かりましたわ。あの騎士様がいらっしゃる場所が、そうですのね?」
「はい、お嬢様」
マリアローゼは心得た!というようにふんふんと頷くと、部屋の入口まで歩いて行く。
短めの黒髪を後ろに撫で付けた髪型に、同じく暗色の鋭い瞳をしている厳しそうな家令だ。
「本来ならば城の者達も呼び寄せて挨拶をするべき所で御座いますが、こちらには並び切れそうもなく」
「あら、いいのよ。お仕事の邪魔になってはいけませんわ」
残念そうに告げる家令に、ミルリーリウムは鷹揚に微笑んだ。
その優しい言葉に、家令はぺこりと敬礼する。
「お兄様、降ろしてくださいませ。わたくしも挨拶を致します」
馬車を降ろされる時に抱っこされたままだったマリアローゼは、小さな足をぱたぱたと動かした。
シルヴァインは、にっこりと微笑んで、言われた通りに優しく地面へ降ろした。
「皆様、お初にお目にかかります。マリアローゼと申します。これから宜しくお願い致します」
スカートを摘んでお辞儀をする小さな令嬢を見て、皆がぱああっと微笑みを浮かべて、深くお辞儀を返した。
「お嬢様、これから私達も貴方様に誠心誠意尽くさせて頂く所存で御座います。どうか、御遠慮なさいませんよう」
「はい。お世話になりますわ」
嬉しそうに微笑むマリアローゼに、家令も厳しい顔を和ませて微笑んだ。
「あら、ふふ。貴方もそんなお顔が出来るのね、コルニクス」
「失礼致しました。では、お嬢様のご案内は、オリーヴェ、お前に任せる」
コホン、と咳払いして元の冷徹な顔に戻ると、懐かしい名前を聞いて、見知った顔の少女が進み出た。
「はい。お嬢様、お部屋に御案内させて頂きます」
「まあ、オリーヴェ……お願い致しますわね」
本当はもっと気安く懐かしむ言葉をかけたかったのだが、マリアローゼは慌ててその言葉を飲み込んだ。
ここでは新参者の彼女を、いきなり使用人達の前で気安く扱うわけにはいかない。
(あんまり親しげに振る舞ったらオリーヴェに迷惑がかかってしまうわ)
この領地の屋敷でも使用人の教育は確実に厳しく統制されているとは思うが、思わぬ所で嫉妬を買う事は避けたい。
迷惑を被るのはオリーヴェなのである。
コルニクスの言葉と差配で、従業員達はそれぞれの仕事へと散っていく。
マリアローゼはまた抱き上げようと手を伸ばしてきたシルヴァインの手を小さな手でぺちりと防いだ。
「もう、わたくしは、1人で歩けますから!」
「俺が抱っこしたいんだけどな」
「もう十分抱っこ致しましたでしょう。寂しいのでしたら後でお人形をお届けさせますわ」
ぷんぷんと年上の兄に怒る妹の姿に、使用人達は微笑を零している。
シルヴァインは仕方なさそうに肩を竦めた。
「部屋の用意が済んだら、会いに行くよ」
「そうしてくださいませ。さ、ルーナ、ノクス、オリーヴェ、参りましょう」
「「「はい、お嬢様」」」
シルヴァインの申し出に頷き、傍らで待っていた三人を伴なって、マリアローゼは屋敷の中へと足を踏み入れた。
両扉の大きな入口を抜けると、金糸の刺繍で彩られた青いカーペットが敷かれている。
天井は吹き抜けになっていて、ホールを囲むような形で、左右の階段が湾曲しながら二階に通じている。
玄関から見える二階の正面には、左右の階段をつなぐ廊下の向こうに、大きな両扉が見えた。
「あのお部屋は特別なお部屋ですの?」
オリーヴェの先導で左側の階段を上りながら、マリアローゼが不思議そうに質問すると、オリーヴェは足を止めてマリアローゼを振り返って、同じ位置まで降りるとお辞儀をした。
「はい、お嬢様。あちらは図書室兼、談話室となっておりますので、食事をお待ち頂いたり、食後にお紅茶などをお楽しみ頂きながらご歓談頂けるお部屋となっております」
「まあ、オリーヴェ…見違えましたわ。分かりやすい説明を有難う」
「勿体無いお言葉です」
褒められたオリーヴェは微かに頬を上気させて、ぺこりと会釈をすると、再び階段を登って手のひらを上向きにして、扉を指し示した。
「入口はあちらになりますが、ここがマリアローゼ様のお部屋になります」
「分かりましたわ。あの騎士様がいらっしゃる場所が、そうですのね?」
「はい、お嬢様」
マリアローゼは心得た!というようにふんふんと頷くと、部屋の入口まで歩いて行く。
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