悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
121 / 357
連載

恐怖と言う名の贈り物

しおりを挟む
「お早うございます、ユリアさん」
「お早うございます、マリアローゼ様」

デレッとした笑顔を浮かべてから、更にユリアはにっこにこと機嫌よく笑っている。

あら?お別れなのに、今日は大丈夫なのかしら?

とマリアローゼが不思議そうな顔をすると、察したユリアがえへへえと笑った。

「王国までご一緒出来る事になったんですよお。一緒に旅が出来て嬉しいです!」
「まあ…それは楽しそうですわね」

よく笑い、明るいユリアを見るのは楽しかった。
見る分には問題ない。
それに、昨日のユリアの対処は素早くて的確だった。
何だかんだ言っても、そう見えなくても優秀なのだ。

「リトリーさんの様子は如何ですか?」
「書類は預かって、シルヴァイン様に読んで頂いて、許可を貰ったので、
 護送車にご遺体と共に載せました。護衛もつけてます」
「ありがとう存じます。では、参りましょう」

「お早うローゼ」

朝から爽やかな父が、清清しい笑顔を向ける。

「お早うございます、お父様、お母様」

上品にスカートを持ち上げてお辞儀をするマリアローゼを、母が早速抱きしめた。

「ああ、ローゼやっと帰れますね」
「はい、とても嬉しいです」

「さあ、一刻も早く出立しよう」

善は急げとばかりに、父が立ち上がり、母も倣った。
マリアローゼも座ることなく、そのまま二人の後について部屋を出る。

まだ夜が明け始めたばかりだ。
薄っすらと靄のかかった町並みを、騎士に囲まれた馬車が滑るように走り抜けていく。
街を抜けるまでは馬車の鎧戸も閉めて置くように言われたので、
馬車の中は暗い。
光源は壁に据えられたランプだけなので、近くに座っている者の姿がやっと認識できる程度だ。

「あ、お嬢様。急いでいたので渡しそびれましたが、お花が届いておりました」

ぴょこん、と飛び上がるように椅子から立ち上がったルーナが、手荷物が置いてあるあたりをごそごそして、
取り出した白い花束をマリアローゼに手渡した。
前世でも今世でも直に見たことはない白い花だ。
花弁の縁がひらひらと波打っていて、まるでレースのような美しさだった。
そんな花弁が幾重にも重なって薔薇の様に豪華でありながら、可憐さも併せ持っている。

「どなたからかしら?」

綺麗な花に見惚れつつも、マリアローゼはこてん、と首を傾げた。
ルーナは、申し訳無さそうに、受け取った時の事を思い出しつつ答える。

「服装はお城の騎士様で、その方も預かって届けにきた、と仰ってました」
「ではお城の方なのかしら……」

じっと花束を見ていると、埋もれる様にカードが潜んでいる。
城で花を贈ってくれるような人間は、ヘンリクスしか思い浮かばない。
カードを取り出すと、二つ折りになっていて、開くと文面が現れた。

「貴女を害そうとした者は全て排除しました。
 いつか必ず迎えに参上致します。
   貴女の崇拝者A」

それを見た途端、マリアローゼの背中をぞわりと悪寒が駆け上がった。
脳裏に浮かんだのは、狂った熱を宿した、あの昏い紺色の瞳だ。

「……アート……」
「何……?」

シルヴァインが、マリアローゼの小さな手からカードを取り上げると、流し見た。
そして溜息を吐くと、同じくマリアローゼの手から花束を取り上げて、手の上でパキパキと凍らせた。

「保管しておいてくれ」

シルヴァインの言葉に、さっとルーナが皮袋を用意して、氷漬けの花束をその中に入れると、
手荷物がある場所へと置いた。

「アートというのは、誰です?」

カンナと並んで座っていたユリアが、疑問符を頭に浮かべて問いかけてきた。
マリアローゼの代わりに、シルヴァインが短く説明すると、ユリアはなるほどー、と頷き返す。

「城で自死した小間使いに、殺された形跡は?」
「可能性はあります。首を折って吊るしたのかもしれませんが、判別できるかどうか。
 加護持ちを呼び寄せて捜査するのも可能ですが、もう終った事件として片付けられていると思うので、
 無理かもしれません」

生々しい話に、マリアローゼは眉を下げて、外を見ようと鎧戸に手を伸ばすが、
シルヴァインに手を捕まえられて、戻されてしまう。

「まだだよ」

言われて、まだ街中だったか…と諦めたマリアローゼはしょんぼりと、窓を見る。
馬車の速度が落ちてきて、シルヴァインはマリアローゼの頭を撫でた。

「そろそろだ。あと少し我慢して」

多分、門に着いて、町から出る手続きが始まったのだろう。
徐行して停まり、程なく馬車がまた動き出した。
マリアローゼの代わりに、シルヴァインが鎧戸を開けて、窓から風景を眺める事がやっと出来た。

「今日中に出国したいから、ファートゥムは迂回して町は通らない予定だよ」
「そうですの?出国の手続きまで、今済ませたのでしょうか?」
「多分ね。昼食も休憩もなしで行軍すると聞いたから、今日は大変だな」

大変、というのは騎士達の事だろう。
行軍しながら食事を摂るのは難しい。
並足とはいえ、何時間も馬上で過ごす事も滅多にない筈だ。
自分のせいではないとはいえ、原因ではある。
一人の人間の為に、大勢が大変な思いをするのは、何だかとても罪深い気がした。
表情を曇らせたマリアローゼに、カンナが元気付けようと笑顔で言った。

「大丈夫ですよ。彼らも鍛えていますし」
「問題ないです。お嬢様の為に働けるなら命だって惜しくはないはずです!」

それはユリアさんだけじゃ…

「ユリアさんと一緒にしてはだめですって」

カンナのつっこみに、マリアローゼが笑うと、ユリアもカンナも一緒に笑った。
しおりを挟む
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
感想 135

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。