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ヒロインの人生と契約違反
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「記憶を書かせたものなんてどうするんだい?」
「お兄様にお預け致しますわ。わたくしは最初から読む気はございませんでしたの。書かせた理由は、一晩だけでも命が助かるかどうか悩ませる為ですわ。
口先だけの人であれば、試したいことも成功する確率は低いので」
「ふむ、分かった。情報はハセベー殿と共有しても大丈夫かい?」
「そちらも、お兄様の判断に従いますわ」
久しぶりの秘儀、丸投げである。
実際の所内容に興味ないこともないのだが、読んだせいで何かが変わってしまうのも嫌だった。
今後も出来れば読まずに、聞かずに過ごしたい。
ただ、一点だけどうしても気になった事があったので、地下牢で直接リトリーには質問した事がある。
マリアローゼはその時の事を思い出していた。
「一つだけ宜しくて?ヒロインではない、という事はどういう事ですの?」
「……それは、見た目が、ヒロインに似ていたので、上手く行くと思って成りすましたんです。
近くの村に、本物のリトリーはいます。ヒロインの証拠の形見はその子から貰いました。
それで思い出したんです」
「……そう。そうですのね、分かりましたわ」
転生者は悉く、魔法を使える素養が整っているのだろうか?
とは思うものの、それは検証の仕様も無い。
そして、本来のヒロインは巡り合う筈の義父も捕らえられてしまっており、形見の品すら手元にない。
彼女は平凡な人生を送るのだろうか。
だとすれば、それはそれで幸せなのかもしれない。
もしも出会う運命があるのなら、何時の日か勝手に運命のほうからやって来るだろう。
結局、見ざる聞かざるを通そう、といった考えに終着したのである。
シルヴァインが、話し始める前にかけた、防音の魔法を解いてソファに座った。
長い指をこめかみに当てて考える姿は、一幅の絵画のように美しい。
「長い一日だったな。君はもう休まないとね」
「お兄様もきちんとお休みなさいませ。守ってくださる方は沢山いらっしゃいますもの」
「もう少し、側に居てもいいかい?」
兄が危険な目にあえば、マリアローゼも不安になるだろう。
きっと、兄はそんな不安な気持を抱えているのだ。
「それなら、一緒に眠るのは如何ですか?」
「えっ?」
シルヴァインが久しぶりに本気で驚いている。
マリアローゼはフフン、とドヤ顔で笑った。
「条件がありますわ、背を向けて、わたくしの寝顔を見ないこと」
「わかった。条件を飲もう」
背中合わせにベッドに入ると、ルーナが灯りの明るさを静かに落とした。
「おにいさま」
「ん?何だい?」
「お側に居てくださって、ありがとう」
うん、という兄の返事を聞いたのは夢現だ。
マリアローゼが思うより、もっと疲れていたのかもしれない。
翌朝の目覚めは早かった。
目を開けると、もぞもぞ動きかけて窮屈な事に気がついたマリアローゼは一気に覚醒した。
背後から抱きしめられている。
「お兄様!契約違反ですわ!」
「あれは眠る時の条件だったろう?俺はもう起きているから関係ない」
屁理屈である。
マリアローゼは廻されている兄の手の甲を思い切り抓った。
「痛い、痛い」
全然痛く無さそうな、のんびり笑いを含んだ声が背後からする。
そして、やっと解放されて起き上がったマリアローゼは、そのままシルヴァインの方へ顔は向けずに、ルーナに洗顔をしてもらった。
着替えの前に、兄はきちんと部屋を出て行ったので、安心して朝の着替えを済ませる。
旅用のドレスは動きやすくて飾りも少なめだ。
ルーナが髪の毛を梳いて、頭の後ろにドレスと同じ色のリボンを結わえた。
はた、と視線に気がついたマリアローゼが部屋の隅を見ると、
何時もどおりユリアが立っていて、こちらをじっと見ている。
「お兄様にお預け致しますわ。わたくしは最初から読む気はございませんでしたの。書かせた理由は、一晩だけでも命が助かるかどうか悩ませる為ですわ。
口先だけの人であれば、試したいことも成功する確率は低いので」
「ふむ、分かった。情報はハセベー殿と共有しても大丈夫かい?」
「そちらも、お兄様の判断に従いますわ」
久しぶりの秘儀、丸投げである。
実際の所内容に興味ないこともないのだが、読んだせいで何かが変わってしまうのも嫌だった。
今後も出来れば読まずに、聞かずに過ごしたい。
ただ、一点だけどうしても気になった事があったので、地下牢で直接リトリーには質問した事がある。
マリアローゼはその時の事を思い出していた。
「一つだけ宜しくて?ヒロインではない、という事はどういう事ですの?」
「……それは、見た目が、ヒロインに似ていたので、上手く行くと思って成りすましたんです。
近くの村に、本物のリトリーはいます。ヒロインの証拠の形見はその子から貰いました。
それで思い出したんです」
「……そう。そうですのね、分かりましたわ」
転生者は悉く、魔法を使える素養が整っているのだろうか?
とは思うものの、それは検証の仕様も無い。
そして、本来のヒロインは巡り合う筈の義父も捕らえられてしまっており、形見の品すら手元にない。
彼女は平凡な人生を送るのだろうか。
だとすれば、それはそれで幸せなのかもしれない。
もしも出会う運命があるのなら、何時の日か勝手に運命のほうからやって来るだろう。
結局、見ざる聞かざるを通そう、といった考えに終着したのである。
シルヴァインが、話し始める前にかけた、防音の魔法を解いてソファに座った。
長い指をこめかみに当てて考える姿は、一幅の絵画のように美しい。
「長い一日だったな。君はもう休まないとね」
「お兄様もきちんとお休みなさいませ。守ってくださる方は沢山いらっしゃいますもの」
「もう少し、側に居てもいいかい?」
兄が危険な目にあえば、マリアローゼも不安になるだろう。
きっと、兄はそんな不安な気持を抱えているのだ。
「それなら、一緒に眠るのは如何ですか?」
「えっ?」
シルヴァインが久しぶりに本気で驚いている。
マリアローゼはフフン、とドヤ顔で笑った。
「条件がありますわ、背を向けて、わたくしの寝顔を見ないこと」
「わかった。条件を飲もう」
背中合わせにベッドに入ると、ルーナが灯りの明るさを静かに落とした。
「おにいさま」
「ん?何だい?」
「お側に居てくださって、ありがとう」
うん、という兄の返事を聞いたのは夢現だ。
マリアローゼが思うより、もっと疲れていたのかもしれない。
翌朝の目覚めは早かった。
目を開けると、もぞもぞ動きかけて窮屈な事に気がついたマリアローゼは一気に覚醒した。
背後から抱きしめられている。
「お兄様!契約違反ですわ!」
「あれは眠る時の条件だったろう?俺はもう起きているから関係ない」
屁理屈である。
マリアローゼは廻されている兄の手の甲を思い切り抓った。
「痛い、痛い」
全然痛く無さそうな、のんびり笑いを含んだ声が背後からする。
そして、やっと解放されて起き上がったマリアローゼは、そのままシルヴァインの方へ顔は向けずに、ルーナに洗顔をしてもらった。
着替えの前に、兄はきちんと部屋を出て行ったので、安心して朝の着替えを済ませる。
旅用のドレスは動きやすくて飾りも少なめだ。
ルーナが髪の毛を梳いて、頭の後ろにドレスと同じ色のリボンを結わえた。
はた、と視線に気がついたマリアローゼが部屋の隅を見ると、
何時もどおりユリアが立っていて、こちらをじっと見ている。
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