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26ー番との別離
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「では……せめて、見送りに…」
悄然としたエリンギルの様子に、騎士達はやっと道を空けた。
愛馬に跨り、港へと向かう。
そこには。
数えきれない程の船の明かりで、港も海も真昼の様に照らされていた。
「帝国の、大艦隊……」
驚いたように騎士が呟く。
それは、まさに皇太子リーヴェルトの意思だ。
彼はこの日の為に、エデュラを無事帝国へと連れ帰るだけの為にここに艦隊を呼び寄せたのだ。
何かがあった時に、戦も辞さないと。
国を滅ぼしてでも連れ帰ると言っているようなものだ。
もし、愚王が我が子可愛さに間違った方向へ舵を切っていたら、この国は滅ぼされていただろう。
何事もなかった今は、のんびりと荷揚げをする荷役人達があちらこちらで働いている。
一際大きな黒い船の近くに、馬車が着けられているのを見て、馬から降りたエリンギルはふらふらとそちらに歩み寄っていく。
だが、その歩みは帝国兵によって遮られた。
「これ以上は近づけぬようにと命じられておりますので、お下がりを」
「エデュラは…エデュラはもう船に乗ったのか?」
エリンギルの問いかけに困惑する兵士の後ろから、厳しい声がかかる。
「皇太子妃殿下の御名を呼び捨てにしないで頂きたい。たとえ、一国の王子であろうとも」
現れたのは、エデュラの兄、ディンキルだった。
軍装は帝国の物だ。
エリンギルにも見覚えがある。
城に居た幼い頃に、妹を泣かせるなと苦言を呈されていた。
彼もまた、愛する家族を守る為に、準備をしてきたのだ。
鋭い眼と同じく、鋭い言葉を発する。
「皇太子殿下と共に、乗船なさっておりますが、もう御目に入ることは無いでしょう。兄として申しますが、あの子を傷つけ続けた貴方を、俺は一生許さない」
「………あ」
知らなかったのだ、とはもう言えなかった。
番だと知らなかっただけで、婚約者ではあったのだ。
その婚約者を蔑ろにして、傷つけてきたのは事実なのである。
城中の者が哀れに思うほどに。
「出立の時間だ」
ディンキルが声を上げると、周囲にいた兵達も船に乗り込んでいく。
やがて可動橋が引き上げられ、扉が閉まり、静かに暗い海を滑るように船は離れていった。
追随するように他の船も、旗艦を追い、やがて海の彼方へと消えていく。
故郷を最後に一目見るのではないかと、そんなエデュラの姿を見られるのではと期待したが無理だった。
エリンギルは悄然としたままで、馬に乗れそうにないと判断した騎士が、エデュラと皇太子が乗ってきた馬車にエリンギルを乗せて、王城へと向けて走らせる。
段々と、番が離れていくのが分かる。
耐えがたい痛みに蹲ったまま、エリンギルはただエデュラの名を呼びながら、その姿を思い描いていた。
悄然としたエリンギルの様子に、騎士達はやっと道を空けた。
愛馬に跨り、港へと向かう。
そこには。
数えきれない程の船の明かりで、港も海も真昼の様に照らされていた。
「帝国の、大艦隊……」
驚いたように騎士が呟く。
それは、まさに皇太子リーヴェルトの意思だ。
彼はこの日の為に、エデュラを無事帝国へと連れ帰るだけの為にここに艦隊を呼び寄せたのだ。
何かがあった時に、戦も辞さないと。
国を滅ぼしてでも連れ帰ると言っているようなものだ。
もし、愚王が我が子可愛さに間違った方向へ舵を切っていたら、この国は滅ぼされていただろう。
何事もなかった今は、のんびりと荷揚げをする荷役人達があちらこちらで働いている。
一際大きな黒い船の近くに、馬車が着けられているのを見て、馬から降りたエリンギルはふらふらとそちらに歩み寄っていく。
だが、その歩みは帝国兵によって遮られた。
「これ以上は近づけぬようにと命じられておりますので、お下がりを」
「エデュラは…エデュラはもう船に乗ったのか?」
エリンギルの問いかけに困惑する兵士の後ろから、厳しい声がかかる。
「皇太子妃殿下の御名を呼び捨てにしないで頂きたい。たとえ、一国の王子であろうとも」
現れたのは、エデュラの兄、ディンキルだった。
軍装は帝国の物だ。
エリンギルにも見覚えがある。
城に居た幼い頃に、妹を泣かせるなと苦言を呈されていた。
彼もまた、愛する家族を守る為に、準備をしてきたのだ。
鋭い眼と同じく、鋭い言葉を発する。
「皇太子殿下と共に、乗船なさっておりますが、もう御目に入ることは無いでしょう。兄として申しますが、あの子を傷つけ続けた貴方を、俺は一生許さない」
「………あ」
知らなかったのだ、とはもう言えなかった。
番だと知らなかっただけで、婚約者ではあったのだ。
その婚約者を蔑ろにして、傷つけてきたのは事実なのである。
城中の者が哀れに思うほどに。
「出立の時間だ」
ディンキルが声を上げると、周囲にいた兵達も船に乗り込んでいく。
やがて可動橋が引き上げられ、扉が閉まり、静かに暗い海を滑るように船は離れていった。
追随するように他の船も、旗艦を追い、やがて海の彼方へと消えていく。
故郷を最後に一目見るのではないかと、そんなエデュラの姿を見られるのではと期待したが無理だった。
エリンギルは悄然としたままで、馬に乗れそうにないと判断した騎士が、エデュラと皇太子が乗ってきた馬車にエリンギルを乗せて、王城へと向けて走らせる。
段々と、番が離れていくのが分かる。
耐えがたい痛みに蹲ったまま、エリンギルはただエデュラの名を呼びながら、その姿を思い描いていた。
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