運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
27 / 40

25ー理不尽を目にした者達

しおりを挟む
「私も、風に当たってくる」

苛々したようなエリンギルに、リリアーデは手を伸ばすが、以前みたいに目を合わせもしなかった。
以前といっても、たかだか数時間前だ。
それを見た国王が、厳しい顔で側近に、見張れという言葉をかけていたので、無茶な事はしないだろう、とリリアーデは椅子に座り直す。
今は追い縋ったところで、エリンギルを止めることは出来ないと確信していた。

エリンギルは足早に、兵舎へと向かっていく。
途中、騎士の集団がいて、足を止めるとエリンギルは命じた。

「付いて参れ」
「何用でございますか」

一番身分の高そうな騎士が問いかける。
苛々したように、エリンギルは地面に足を叩きつけた。

「私の番を取り戻しに行く!エデュラは私の番だ!」
「それならば同道は致し兼ねます」

王子の命令だというのに、騎士は冷たくそう断った。
逆に、呆然としたようにエリンギルはその騎士を見つめる。

「今更、捕まえて部屋にでも閉じ込めるおつもりですか?散々泣かせておきながら」
「……なっ、それは、私は気づかなかったから……!」
「気づかなかったから泣かせても良いと?」

まさか、そんな風に詰られると思わず、エリンギルはカッとして怒鳴りつけた。

「お前らに、何が分かる!」

怒声にぴくりともせず、騎士は静かに言った。

「雨が降っていました」
「……は?」
「急な夕立で、殿下が練習時間に雨が降り出したのです。そこに、エデュラ嬢が手拭いを持って…走ってはいけないからと、速足で歩いてきました。殿下は、どうされたか覚えていますか?」

そんな事があっただろうか?
エリンギルは何も言う事が出来なかった。
何をしたかも覚えていない。

「要らぬ、とその手拭いを叩き落したのです。泥にまみれたそれを、幼いエデュラ様は拾い上げて泣いておられました。そのまま捨て置けばいい物を、廊下を汚さぬように泥水を絞って、洗濯女達のいる水場まで運ばれたのです」

何も覚えていない。
欠片ほども。
だが、騎士達の目は責める様に、冷たい視線を注いでくる。

「自分は、焼き菓子を落とされていたのを見ました。廊下に散らばってしまった菓子を、エデュラ様は泣きながら拾い集めておいででした。調理人達に教わり、手ずから貴方の為に焼いた菓子です。捨てるのなら食べると、他の騎士達と言えば、エデュラ様は食べるのなら、と多めに作ったという焼き菓子を持ってきて下さいました。落ちた菓子は小さく砕いて鳥や動物に与えると」

そうだ、彼女は優しい女性だった。
エリンギルは思い出す。
自分への理不尽は泣いて耐える癖に、他人への理不尽は決して許さない。
頑固で苛烈な一面も持ち合わせているのに、自分の為には戦おうとしない控えめな女性だった。
何故それを、つまらないと切り捨ててしまったのだろう。

「城に仕える者は十年、見て参ったのですよ。貴方の理不尽を。もし、妹や娘が同じ目に遭わされていたら、死んでも殿下には渡しません」

言葉は発しない者達も、同意を表すように皆頷く。
それは、通りかかった使用人達も同じで。
番だと知らなかったのも、今知ったから狂おしく求めているのもエリンギルの事情でしかない。
彼女はもう別の幸せを見つけているのに、理性ではそう分かっていても。

しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

私のことは愛さなくても結構です

毛蟹葵葉
恋愛
サブリナは、聖騎士ジークムントからの婚約の打診の手紙をもらって有頂天になった。 一緒になって喜ぶ父親の姿を見た瞬間に前世の記憶が蘇った。 彼女は、自分が本の世界の中に生まれ変わったことに気がついた。 サブリナは、ジークムントと愛のない結婚をした後に、彼の愛する聖女アルネを嫉妬心の末に殺害しようとする。 いわゆる悪女だった。 サブリナは、ジークムントに首を切り落とされて、彼女の家族は全員死刑となった。 全ての記憶を思い出した後、サブリナは熱を出して寝込んでしまった。 そして、サブリナの妹クラリスが代打としてジークムントの婚約者になってしまう。 主役は、いわゆる悪役の妹です

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

愛しくない、あなた

野村にれ
恋愛
結婚式を八日後に控えたアイルーンは、婚約者に番が見付かり、 結婚式はおろか、婚約も白紙になった。 行き場のなくした思いを抱えたまま、 今度はアイルーンが竜帝国のディオエル皇帝の番だと言われ、 妃になって欲しいと願われることに。 周りは落ち込むアイルーンを愛してくれる人が見付かった、 これが運命だったのだと喜んでいたが、 竜帝国にアイルーンの居場所などなかった。

婚約者の番

毛蟹葵葉
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

処理中です...