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第八章:ほんの僅かの前進
第百話:まずね、使う武器はフィリオナ、ヴィクトリア、エリーゼにオリ姉!
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アーツの稽古を終えたエリーが部屋に戻ると、オリヴィアは既に仕事を終えたのか、魔法書を読んでいた。
既に何度も何度も読み込んで、色も変わっているその本は、オリヴィアが心を落ち着ける為に一役買っている。お姉様と呼び尊敬し憧れたお姉様の残した知識の全て。プライベートのことは書いていないことも多い為、もちろん、自分自身が直接聞いた記憶の方が知識としては多い。
それでも、居なくなってから記憶の底に沈み始めていた彼女の記憶を再び掘り起こす為に、その直筆の本は大いに役立っていることをエリーは知っている。
それを見て、過去に囚われていると考えている者も、王城で働く者の中には多かった。
しかし、そう思われていることを知っていても、オリヴィアはそれを止めず、エリーもまた、それを止めない。
魔王戦を見据えるオリヴィアにとって過去の思い出はつまり、明確な目標だ。
鬼神レインであれば魔王を無傷で倒せる。聖女サニィであれば、120mのドラゴンをいとも簡単に蒸発させられる。
それを忘れてしまっては、魔王戦で致命的なミスを犯しかねない。
だからこそ、オリヴィアはあえて過去に囚われ、エリーもそれを見守っている。
天才肌のエリーとは対照的に、オリヴィアはそうしなければ強さを維持できない。それはそう思い込んでいるわけではなく、現実として。
かつてエリーを探した二週間程の空白を取り戻すのに、一ヶ月以上の月日を費やさねばならなかった。
未来に向かうという甘い言葉で過去を忘れては、最早その戦闘能力を維持できない可能性すら、ある。
それはかつて最愛の師匠が言った教えに反する最大の禁忌だった。
エリーはそれを知っている。
いつもいつもオリヴィアは、その心を少しずつ蝕みながら、必死の努力を続けていることを、知っている。
だからこそ、エリーはオリヴィアを尊敬など出来ない。
だからこそエリーは、いつまでも、オリヴィアに勝てない。
そう、明確に勝利してしまえば、オリヴィアは自身の価値を見失ってしまうかもしれないから。
子どもも出来ない身で、王女でありながら魔王討伐などに出向き、国民の魔物化も救えず、そしてエリーに抜かれ最強から陥落してしまったオリヴィアなど、オリヴィア自身にとって価値がない。
エリーは、それを知っている。
誰よりも気丈で誰よりも美しく、誰よりも強い王女の危うさを、エリーだけは知っている。
だから、エリーは今日も彼女を見守ることに決めた。
今日もまた、少しだけ良い夢を見せてあげようと、そう決めて、話しかけた。
「お、お疲れオリ姉。アーツに聞いたんだけど、宝剣って力を指定して作れるの?」
「エリーさんもいつも弟の相手ありがとうございますわ。そうですわよ。前に一度言ったはずですけれど」
そんな風にいつも通り、他愛なく会話を進める。
「え、聞いてなかったかも」
「あなた、お勉強嫌いですものね……」
「私の宝剣に絡めた話なら覚えてたはずよ」
「確かにエリーさんの宝剣には絡めてないですけれど……」
「まあ、それは良いんだけど」
「あんまりよくないですわ」
「良いの。なんで師匠ってあえてランダムな力の宝剣をプレゼントしてくれたんだろう」
呆れ顔のオリヴィアをいつもの様に無視して、特に悩んだ様子もなく、あっけらかんとエリーは問うてみる。
「うーん、流石にエリーさんに分からないレイン様のお考えは分かりませんわ。可能性としてはやはり、エリーさんの奇天烈な戦い方を見抜いてらしたんではないかしら」
「奇天烈って……あ、良い戦い方思いついた。連携技!」
エリーが特に悩んでいる様子も無いのを見て、オリヴィアもまたいつもの様に少しだけ適当に答える。
これがまた、二人の心の平穏を維持するには、随分と役に立つ。
初めて出会ってからもう9年程。
既に姉妹の様相を呈している二人の、いつものコミュニケーションだ。
「そういうところですわ。奇天烈」
「奇天烈は良いから、対複数戦闘の最強技を思いついた、聞いて!」
こんな風に天真爛漫なエリーがオリヴィアにとっても有難いことは、もう9年間を通して実証済み。いつもと変わらないエリーに、再び少しだけ呆れながら、癒される。
いつもと違うところと言えば、オリヴィアに勝つ為の策を考えるエリーが、珍しく連携を申し出たくらいのこと。
また漏れ出た心を読んだのだろう姉弟子の少しの苦労に感謝して、オリヴィアはわざと呆れ顔を作る。いつもの様に。
「……はいはい。聞きますわ。最強技」
「うん。まずね、使う武器はフィリオナ、ヴィクトリア、エリーゼにオリ姉!」
「わたくしはあなたの武器ではありませんわ……」
そんな会話をしていた次の日。
南の大陸東部に大量の魔物が現れた。
ナディアとサンダルだけでは対処しきれないその量に、新しい連携技を、初めての連携技を考えついた二人は向かう。
既に何度も何度も読み込んで、色も変わっているその本は、オリヴィアが心を落ち着ける為に一役買っている。お姉様と呼び尊敬し憧れたお姉様の残した知識の全て。プライベートのことは書いていないことも多い為、もちろん、自分自身が直接聞いた記憶の方が知識としては多い。
それでも、居なくなってから記憶の底に沈み始めていた彼女の記憶を再び掘り起こす為に、その直筆の本は大いに役立っていることをエリーは知っている。
それを見て、過去に囚われていると考えている者も、王城で働く者の中には多かった。
しかし、そう思われていることを知っていても、オリヴィアはそれを止めず、エリーもまた、それを止めない。
魔王戦を見据えるオリヴィアにとって過去の思い出はつまり、明確な目標だ。
鬼神レインであれば魔王を無傷で倒せる。聖女サニィであれば、120mのドラゴンをいとも簡単に蒸発させられる。
それを忘れてしまっては、魔王戦で致命的なミスを犯しかねない。
だからこそ、オリヴィアはあえて過去に囚われ、エリーもそれを見守っている。
天才肌のエリーとは対照的に、オリヴィアはそうしなければ強さを維持できない。それはそう思い込んでいるわけではなく、現実として。
かつてエリーを探した二週間程の空白を取り戻すのに、一ヶ月以上の月日を費やさねばならなかった。
未来に向かうという甘い言葉で過去を忘れては、最早その戦闘能力を維持できない可能性すら、ある。
それはかつて最愛の師匠が言った教えに反する最大の禁忌だった。
エリーはそれを知っている。
いつもいつもオリヴィアは、その心を少しずつ蝕みながら、必死の努力を続けていることを、知っている。
だからこそ、エリーはオリヴィアを尊敬など出来ない。
だからこそエリーは、いつまでも、オリヴィアに勝てない。
そう、明確に勝利してしまえば、オリヴィアは自身の価値を見失ってしまうかもしれないから。
子どもも出来ない身で、王女でありながら魔王討伐などに出向き、国民の魔物化も救えず、そしてエリーに抜かれ最強から陥落してしまったオリヴィアなど、オリヴィア自身にとって価値がない。
エリーは、それを知っている。
誰よりも気丈で誰よりも美しく、誰よりも強い王女の危うさを、エリーだけは知っている。
だから、エリーは今日も彼女を見守ることに決めた。
今日もまた、少しだけ良い夢を見せてあげようと、そう決めて、話しかけた。
「お、お疲れオリ姉。アーツに聞いたんだけど、宝剣って力を指定して作れるの?」
「エリーさんもいつも弟の相手ありがとうございますわ。そうですわよ。前に一度言ったはずですけれど」
そんな風にいつも通り、他愛なく会話を進める。
「え、聞いてなかったかも」
「あなた、お勉強嫌いですものね……」
「私の宝剣に絡めた話なら覚えてたはずよ」
「確かにエリーさんの宝剣には絡めてないですけれど……」
「まあ、それは良いんだけど」
「あんまりよくないですわ」
「良いの。なんで師匠ってあえてランダムな力の宝剣をプレゼントしてくれたんだろう」
呆れ顔のオリヴィアをいつもの様に無視して、特に悩んだ様子もなく、あっけらかんとエリーは問うてみる。
「うーん、流石にエリーさんに分からないレイン様のお考えは分かりませんわ。可能性としてはやはり、エリーさんの奇天烈な戦い方を見抜いてらしたんではないかしら」
「奇天烈って……あ、良い戦い方思いついた。連携技!」
エリーが特に悩んでいる様子も無いのを見て、オリヴィアもまたいつもの様に少しだけ適当に答える。
これがまた、二人の心の平穏を維持するには、随分と役に立つ。
初めて出会ってからもう9年程。
既に姉妹の様相を呈している二人の、いつものコミュニケーションだ。
「そういうところですわ。奇天烈」
「奇天烈は良いから、対複数戦闘の最強技を思いついた、聞いて!」
こんな風に天真爛漫なエリーがオリヴィアにとっても有難いことは、もう9年間を通して実証済み。いつもと変わらないエリーに、再び少しだけ呆れながら、癒される。
いつもと違うところと言えば、オリヴィアに勝つ為の策を考えるエリーが、珍しく連携を申し出たくらいのこと。
また漏れ出た心を読んだのだろう姉弟子の少しの苦労に感謝して、オリヴィアはわざと呆れ顔を作る。いつもの様に。
「……はいはい。聞きますわ。最強技」
「うん。まずね、使う武器はフィリオナ、ヴィクトリア、エリーゼにオリ姉!」
「わたくしはあなたの武器ではありませんわ……」
そんな会話をしていた次の日。
南の大陸東部に大量の魔物が現れた。
ナディアとサンダルだけでは対処しきれないその量に、新しい連携技を、初めての連携技を考えついた二人は向かう。
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