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第八章:ほんの僅かの前進
第九十九話:そう。あの人は凄い。私を抜いたら最強
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「純粋の強いのはこの子かな。【短剣ヘルメス】。突き刺した相手の感覚が遅れ始めるの。と言っても遅れるのは感覚だけだから、実際の動きは変わらない。
それでも、刺された相手は自分自身も相手も速く動く様に感じちゃうから、自分の動きすら制御が危うくなる。その間に何度も突き刺せば、どんどん付いてこれなくなる。
ま、結果的には相手を遅くする、でも良いのかもしれない力だね」
エリーの紹介する三つ目の宝剣。かつて魔王から無傷で生き残った英雄の名を関する短剣。
エリーの数ある武器の中でも特に強い武器の一つ。とはいえ、それなりのデメリットはやはりある。
「それにも何か欠点みたいなのはあるの?」
先の二つを見て何かしらを気づいたのだろう。
アーツは尋ねる。
「デメリットは三つ。根元まで突き刺さないと効果がないことと、切れ味はそれほどでもないから堅い敵には効きづらいこと。後は、一日一度、しかも日の出てる時にしか使えないってことかな」
「日の出から日没までに一回ってこと?」
「そう。だから季節によって少しだけ使いやすさが変わるかな。とはいっても、ドラゴンやデーモンロードは堅いから使えないんだけどね。さて、次はー、これだ。【戦槍マルス】」
エリーが最初の一手によく使う武器。
エリーの持つ武器の中では非常にシンプルな力。
「あ、守るものが背後にあれば強くなる、それが大切なら大切なほど!」
「お、よく知ってるね」
「姉上がよく教えてくれたから。昔それでドラゴンを一撃で倒したんだって」
その時の光景をオリヴィアに鮮明に語られたことこそが、アーツがエリーのファンになった根本的な理由なのかもしれない。アーツはその話が大好きだった。
「はっはは、オリ姉はあの時のこと、結構引きずってるからね。でも、この間オリ姉は一人でドラゴン倒したんだよ」
「上がってきた報告で聞いたよ!」
エリーの言葉に、アーツは嬉しそうに答える。
「一人でドラゴンを倒したんだから、充分オリ姉も英雄の仲間入りだ。ま、まだ本人は認めてないけど」
ドラゴンを単独で倒した人間は、歴史上で三人のみだった。鬼神レイン、聖女サニィ。
そして非公式、且つ七度の死を通してではあるが、英雄の子孫サンダル。
それに新たに加わったのが、アーツの実姉であるオリヴィアだ。
一撃でドラゴンを倒したエリーの話を聞いて衝撃を受けてから、アーツにとって竜殺しは理想のヒーロー。
「姉上もやっぱり凄かったんだね!」
そう、嬉しそうに言う。
オリヴィアは、自身の功績をアーツに語ることは一切無かった。
時折上がってくる強敵の討伐報告を聞いて凄いと讃えてみても、あの時はエリーさんのサポートが、だとか、あの時は敵のミスが、とか。つまり、自身の功績を大したことないと言いながら修行に明け暮れている様子を見ていた。
いつも必ず帰ってくると言いながらも、身内にだけ見せる少しだけ弱い顔というものを、アーツは見てきていた。
それはエリーへの関心が増す言葉だったのと同時に、アーツにとって少しの不安材料だった。
エリーは相変わらず、そんな丸見えの王族の心を読んで言う。
「そう。あの人は凄い。私を抜いたら最強」
そう、とぼけた様に。
「ははは、姉上も、エリーさんだけには負けないっていつも言ってるよ」
互いに自分に対して真逆の評価をしながらも、互いには負けないと言い合う二人を、アーツは何処かおかしそうに笑う。
それはエリーの思い通り、アーツの少しの不安を取り除いていった。
「それじゃエリーさん、残りの武器も教えてください!」
「よし、それじゃ、私がオリ姉よりも強い理由をとくと聞くが良い」
そうして、エリーは話の続きを始める。
手入れをしながら、オリヴィアの話も交えながら。
――。
盾であるフィリオナと大剣ヴィクトリアは対となっている。
力を使えばフィリオナの受けたダメージはヴィクトリアに伝わり発散される。業火を受けた時ヴィクトリアは熱く燃え、衝撃を受ければ同等の衝撃波を放つ。もちろん、その間はヴィクトリアを持つことが出来なくなるが、巨大な敵に突き刺してそれを使えば内部から破壊することも容易な力。
ヴィクトリアはそんなフィリオナのダメージの捌け口となることで、その盾の強度を増している。
片手剣ベルナールは一つの不思議な効果だ。
そこから極度の視線を感じる。それ以上でも以下でもないが、切羽詰った相手の集中を乱すには十二分な効果を発揮する。
そして、白弓エリーゼ。
放った矢が光る。
――。
そんな効果を全て聞いたアーツは、無邪気に問う。
「ここ30年位で、魔物の素材を使った宝剣は効果を大体指定して作れる様になったみたいだけど、エリーさんのは変わってるんだね」
「え、そうなの?」
「うん。姉上のは古くから王家に伝わるものだからたまたま出来たものだけど、父上や団長のやつはその技術で作られてるやつだよ。騎士団はみんな使いやすい様にそういう宝剣を使うようにしてるみたい」
エリーは初めて聞くそんな事実に目を丸くして言う。
「師匠も知らなかったのかな」
「その技術は狛の村で生み出されたって聞いたけど……」
「え……?」
月光を除けば自分の武器が最高だと思っていたエリーは、そんな今や当たり前の事実を知らなかった。
もちろん師匠自身が、ランダムな力の宝剣にしてくれと頼んだことは言うまでもない。
そして大層気に入った様子のそんな宝剣達の奇妙な力に、オリヴィアがわざわざ茶々を入れる様なことを言うことなどないことも、また言うまでもないことだった。
それでも、刺された相手は自分自身も相手も速く動く様に感じちゃうから、自分の動きすら制御が危うくなる。その間に何度も突き刺せば、どんどん付いてこれなくなる。
ま、結果的には相手を遅くする、でも良いのかもしれない力だね」
エリーの紹介する三つ目の宝剣。かつて魔王から無傷で生き残った英雄の名を関する短剣。
エリーの数ある武器の中でも特に強い武器の一つ。とはいえ、それなりのデメリットはやはりある。
「それにも何か欠点みたいなのはあるの?」
先の二つを見て何かしらを気づいたのだろう。
アーツは尋ねる。
「デメリットは三つ。根元まで突き刺さないと効果がないことと、切れ味はそれほどでもないから堅い敵には効きづらいこと。後は、一日一度、しかも日の出てる時にしか使えないってことかな」
「日の出から日没までに一回ってこと?」
「そう。だから季節によって少しだけ使いやすさが変わるかな。とはいっても、ドラゴンやデーモンロードは堅いから使えないんだけどね。さて、次はー、これだ。【戦槍マルス】」
エリーが最初の一手によく使う武器。
エリーの持つ武器の中では非常にシンプルな力。
「あ、守るものが背後にあれば強くなる、それが大切なら大切なほど!」
「お、よく知ってるね」
「姉上がよく教えてくれたから。昔それでドラゴンを一撃で倒したんだって」
その時の光景をオリヴィアに鮮明に語られたことこそが、アーツがエリーのファンになった根本的な理由なのかもしれない。アーツはその話が大好きだった。
「はっはは、オリ姉はあの時のこと、結構引きずってるからね。でも、この間オリ姉は一人でドラゴン倒したんだよ」
「上がってきた報告で聞いたよ!」
エリーの言葉に、アーツは嬉しそうに答える。
「一人でドラゴンを倒したんだから、充分オリ姉も英雄の仲間入りだ。ま、まだ本人は認めてないけど」
ドラゴンを単独で倒した人間は、歴史上で三人のみだった。鬼神レイン、聖女サニィ。
そして非公式、且つ七度の死を通してではあるが、英雄の子孫サンダル。
それに新たに加わったのが、アーツの実姉であるオリヴィアだ。
一撃でドラゴンを倒したエリーの話を聞いて衝撃を受けてから、アーツにとって竜殺しは理想のヒーロー。
「姉上もやっぱり凄かったんだね!」
そう、嬉しそうに言う。
オリヴィアは、自身の功績をアーツに語ることは一切無かった。
時折上がってくる強敵の討伐報告を聞いて凄いと讃えてみても、あの時はエリーさんのサポートが、だとか、あの時は敵のミスが、とか。つまり、自身の功績を大したことないと言いながら修行に明け暮れている様子を見ていた。
いつも必ず帰ってくると言いながらも、身内にだけ見せる少しだけ弱い顔というものを、アーツは見てきていた。
それはエリーへの関心が増す言葉だったのと同時に、アーツにとって少しの不安材料だった。
エリーは相変わらず、そんな丸見えの王族の心を読んで言う。
「そう。あの人は凄い。私を抜いたら最強」
そう、とぼけた様に。
「ははは、姉上も、エリーさんだけには負けないっていつも言ってるよ」
互いに自分に対して真逆の評価をしながらも、互いには負けないと言い合う二人を、アーツは何処かおかしそうに笑う。
それはエリーの思い通り、アーツの少しの不安を取り除いていった。
「それじゃエリーさん、残りの武器も教えてください!」
「よし、それじゃ、私がオリ姉よりも強い理由をとくと聞くが良い」
そうして、エリーは話の続きを始める。
手入れをしながら、オリヴィアの話も交えながら。
――。
盾であるフィリオナと大剣ヴィクトリアは対となっている。
力を使えばフィリオナの受けたダメージはヴィクトリアに伝わり発散される。業火を受けた時ヴィクトリアは熱く燃え、衝撃を受ければ同等の衝撃波を放つ。もちろん、その間はヴィクトリアを持つことが出来なくなるが、巨大な敵に突き刺してそれを使えば内部から破壊することも容易な力。
ヴィクトリアはそんなフィリオナのダメージの捌け口となることで、その盾の強度を増している。
片手剣ベルナールは一つの不思議な効果だ。
そこから極度の視線を感じる。それ以上でも以下でもないが、切羽詰った相手の集中を乱すには十二分な効果を発揮する。
そして、白弓エリーゼ。
放った矢が光る。
――。
そんな効果を全て聞いたアーツは、無邪気に問う。
「ここ30年位で、魔物の素材を使った宝剣は効果を大体指定して作れる様になったみたいだけど、エリーさんのは変わってるんだね」
「え、そうなの?」
「うん。姉上のは古くから王家に伝わるものだからたまたま出来たものだけど、父上や団長のやつはその技術で作られてるやつだよ。騎士団はみんな使いやすい様にそういう宝剣を使うようにしてるみたい」
エリーは初めて聞くそんな事実に目を丸くして言う。
「師匠も知らなかったのかな」
「その技術は狛の村で生み出されたって聞いたけど……」
「え……?」
月光を除けば自分の武器が最高だと思っていたエリーは、そんな今や当たり前の事実を知らなかった。
もちろん師匠自身が、ランダムな力の宝剣にしてくれと頼んだことは言うまでもない。
そして大層気に入った様子のそんな宝剣達の奇妙な力に、オリヴィアがわざわざ茶々を入れる様なことを言うことなどないことも、また言うまでもないことだった。
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