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第四章 忍者たちとの邂逅
「絶対に勝つ」count down『0』
しおりを挟む全国大会を一ヶ月後に控えた、小春日和の放課後。モノトーンの強そうな体操服が向かいに並んだ。異様にガタイがいいわけでも、天使のように美しいわけでも、やたら小さいわけでもなかった。ただ雰囲気に圧倒される。歌舞伎役者の集団を呼んだかと思い違いそうなほどの文系オーラが相手コート内には満ちている。コートの外にも選手が七人、舞台袖で待つ大物のような雰囲気で並んでいる。ニチセイの部員は全部で十三人いるらしい。
その内に一人、女子部員がいた。東洋人らしい少し男っぽい顔つきをしている。漆黒の髪は低い位置で一つにしばっていた。オリエンタルな雰囲気を持つ、背の高い少女だ。
両校の間には古井先生がいつも通り立っていた。紫根色を着ることが多い彼だが、今日は派手な唐紅に山吹色を重ねていた。顧問も気合いが入っているらしい。全国一位は俺たちを六人でペッと倒していったけれど、全国四位という順位はつい勝てるかもしれないと考えてしまう。それに忍たちはきっと、順位に関係なく対等に向き合ってくれるいいチームだ。
「日本再生大学付属高等学校 対 新古今高等学校 練習試合 開始」
心なしかいつもより凛とした、古井先生の声と尺八が響いた。
「ほな行きまっせ。ご挨拶に変えまして、」
バックライトで忍が排球を上に投げる。そして人懐こい笑みで、こう打った。
「一期一会(この出会いに感謝)」
その粋な選択に気持ちが高揚する。確かに四字熟語も国語便覧の巻末に載っていた。こちらこそ会えて嬉しい、という意味になる知識をどうにか返したくなったが二秒じゃ思いつけない。信じられないほど球が速かったのだ。白い風を受けて、
「一字千金(それ、いい言葉だな!)」
なんとか返した。少々ずれた答えになったが、まあ気持ちは伝わってくれただろう。古井先生が懐中時計をちらと見て、眉間に縦線をいくつも作る。
「うぬぬ、四字熟語での会話とは新しい。例外とすべきか否か」
文バレの審判はジャッジが本当に大変だ。練習試合は別だが、全国大会では協会の会員にしか任されない重要な役職なのだ。会員が顧問な俺たちは本当に恵まれている。彼はうんうん唸ってから、うむ例外、とルールブックに書き足すかのように深く頷いた。
「切磋琢磨(お互い伸ばし合おうな)」
敵のフロントレフトが熱意を込めて俊敏に打つ。バックレフトのジョージが、いつもの脱力感あふれる笑みを浮かべながら遥か上空へアンダーハンドで打ち上げた。
「唯々諾々(しゃーなしオッケー)」
突如、全員の顔が引きつった。ボールを待つ敵コートに、不穏な空気が漂っている。
「ばかばか! 合点承知とか選べよ遠道」
内田が動揺した様子で後ろに振り向いた。新古今の全員が頷く。
「え? でも唯々諾々も、了解って意味っしょ」
首をかしげたジョージに、どんぐり眼のチビは深いため息をつく。ソウルが不安そうに、
「合ってるけど、はいはいっていう適当な返事を意味してるからな」
メガネの下の目を敵コートへ泳がせて補足した。
「げ、まじすか」
「うん。まじだよ」
優しげな困り顔でソウルは頷く。方や内田は容赦なかった。
「知らなかったの? 遠道っぽい四字熟語だったから、わざとかと思っちゃった」
あざとい笑顔で毒を吐く。ジョージは目尻を下げて笑い返した。
「いやいや。いつかのアトムじゃないけど、俺も素でミスっちゃった」
「思い出させんじゃねえよ」
「たは、すんまそーん」
生真面目そうなバックセンター、さっき目に付いた女子部員が、
「軽佻浮薄(軽率な発言!)」
ただでさえ早い球を二倍速くらいで打った。イントネーションが少しカタコトである。声は高くも低くもない、少年声に近いものだった。体操服にある名は「李」。中国の子か。球自体はなんとか止められそうだが、返す言葉を選んでいるほんの一秒の暇もない。
「浅学非才(バーカ)」
内田が面倒くさそうに、ぼそっと呟いて打ったのに対し、相手コートでびきっと血管の切れるような音がした。
「唯我独尊(自分を棚に上げるな!)」
速い球が返ってくる。内田は急に涙目になる。
「ふええ違います、今のは遠道に言ったんですっ」
誤解を解く暇すらない。ふええ違、までしか言えなかったその声に重ねて、バックセンターの速見が勢いよく走っていって球を受けた。
「平身低頭(すごく頭下げる)」
嬉々とした表情で打ち返し胸をドンッと叩く。ボールが高く上がって飛んでいく。あからさまに褒めてほしそうだったので、
「今回は速見も予習してたもんな」
と右側から軽くコメントしておいた。でかっぱなをこすり、やつは得意気に言う。
「へへっ。ヤマが当たったんだぜ」「ヤマは張んなよ」
敵のフロントセンターが機嫌が悪いままこう返してきた。
「半信半疑(疑わしい)」
確かに。あんな笑顔で、口先だけで頭を下げられても信じられるほうがおかしい。本人は謝罪した気満々なので、怒りを込めてアタックを打っている。
「悲憤慷慨(なんてこと言うんだぜ)」
からの、言えたアピール。
「美辞麗句(どうせ綺麗事だろ)」
向こうから返ってきた素速い球を、フロントセンターのヒイロがパーツの整った精悍な顔立ちで、涼しげな無表情で悟りを開いたように叩いた。
「空理空論(むだな争いだな)」
この達観した超かっこいい返しが、ニチセイは気に入らなかったらしい。
「因果応報ーっ!(これが報いだーっ!)」
通常の五倍速は出たかもしれない。軌道が見えなかった。気づけば排球は、こちらのコート内に揺れていて、尺八が鳴っていた。
「一対零」
呆気にとられた。ジョージが頭の後ろに手をやって、へらへらと謝った。
「たは、すんまそん。唯々諾々の使い方、以後気いつけやす」
ヒイロが舌打ちをして、
「速見も、表情と言葉の組み合わせがおかしかった」
と最もなことを述べた。こんなに難しい四字熟語を知ってるんだぜえ、みたいな。
「いやあ、悪かったんだぜ。知ってる言葉を使えて嬉しくてよ」
速見は苦笑し、大きな親指を立てた。全く。
「再開したら、とりあえずもう一度謝ろう」
ソウルが色素の薄い瞳を細めて笑い、皆に提案した。
「でもソウルさん、平身低頭ならもう使えやせんぜ」
「大丈夫だよ。ボールが飛んできたら全員頭下げて。俺が打つ」
敵がもう一度サーブを飛ばしてくる。
「因果応報」
その言葉に対し、打つソウル以外、俺たちは頭を九十度に下げた。それと同時に、
「三拝九拝(何度でも頭を下げます)」
フロントライトから、申し訳なさげな声と共に排球が飛ぶ。相手コートに到着する間にソウルは重ねて「すみませんでした」と言い、誰より深く頭を下げた。敵陣で感嘆がもれる。
「温厚篤実うー!(いい人ー!)」
ニチセイのフロントレフトがはやし立てるような声で返してきた。幼なじみは振り返って、いつも通りの安心する笑みを向けてくる。大丈夫だよ、と言われなくても聞こえた。
「一目瞭然(見てわかるだろ)」
俺が相手コートへ打った。忍がにかっと笑い、
「質実剛健(見た目も才能も最高やで!)」
少々言い過ぎなくらいに褒めちぎった。ソウルは、わー、と顔をほころばせて打ち返す。
「感謝感激」
八方美人(誰にでも言ってんだろ)とか言い出さないのがソウルらしい。忍がまた、
「千載一遇(ホンッマ、千年に一回会えるか会われへんかの人でんがな!)」
よくもまあ、恥ずかしいくらい大袈裟な四字熟語を投下してきた。大人しそうな顔をとても嬉しそうに赤らめて、ソウルはボールを打った。
「ちょっと褒めすぎ褒めすぎ! あ」
あ。コート内の時間が止まった。古井先生が懐中時計を眺めだす。
「ごめん伊賀、一分以内に戻す!」
ソウルは慌てて声を張った。相手は嫌味を感じない明るさで爆笑している。こういう具合に会話が発生した場合は、案外すぐに修正できる。タチが悪いのは、あまり仲の良くないチームと戦っている時のことだ。二対二の時点で、こっちが圧倒的有利だというのに、わざと会話に持ち込まれた場合である。最低だと怒鳴り、早く修正してみろなどと返され、大変な口論に発展して、我に返った頃に仲良く自爆するという、笑えないオチになるのだ。
「ええって。ワイらに任せい」
忍がバックライトで勇ましく歯を見せて笑った。文芸ではないボールが向こうに飛んでいく。ニチセイは全く慌てず、まず一人目がトスを上げた。
「周章狼狽(慌てているよ)」
それを受けたバックセンターの少女が言葉を続ける。
「抱腹絶倒(笑える笑える)」
まるで舞台を公演するかのように、テンポの言い響きが連なった。古井先生が秒読みを早速やめた。すげえ、と感嘆が漏れる。返ってきたボールをアンダーで向こうへ飛ばす。
「百発百中(すべて成功)」
なんか、これじゃない。忍たちの対応力を絶賛するには、なんだろう、もっと適切な言葉がありそうなものだが、俺はこれくらいしか知らなかった。フロントライトがそれを受けて真上にトスをした。俊敏なボールが相手コート内を白い風になって舞う。
「一刀両断(きっぱり解決)」
「快刀乱麻(すぐさま解決)」
相手コート内でラリーが続く。少し高めにボールが上がった。その一瞬の間に、
「見たか我らの、」
歌舞伎のようなイントネーションの合いの手を忍が挟んだ。古井先生がつい、十五分のときに叩く小太鼓をテケテン! と鳴らした。排球が下がり、
「泰然自若(この落ち着き)」
ニチセイの全員が声を揃えて言い、打つ本人である忍も一緒に言いながら、目にも止まらぬ速さのスパイクを打った。びゅおっ、ダアン、という音しか認知できなかった。まただ。ヒイロが舌打ちをして、速いと悔しげに呟いた。
「二対零」
明るい着流しの古井先生が言う。ニチセイのやつら、点を狙ってくる瞬間だけ格段に速度が上がる。さっきのコート内でのテンポの良さもすさまじい。普通のラリーと渾身の一撃を見事に使い分けている。とは言っても、とどめ以外の球も相当の速さを持っている。
ボールを相手コートへと転がして返した。
「あれっ、もうあと一点で終いでんがな。楽しい時間はホンッマ早う過ぎてまうから、難儀なこっちゃ。もっと戦いたかったわ。あははは!」
忍がもう勝ったような言い方をした。この自信。強さ。どうにも適わない。万葉の時と同じく、三対零で終わってしまうのだろうか。
「泰然自若」
試合が再開する。この落ち着き。まさにニチセイを表した言葉だと思った。
「当意即妙(お前らの機転すげえよ)」
と打ち返す。敵のバックレフトが軌道に一切の無駄がない球をよこす。
「率先垂範(我らが手本だ)」
見習いてえよ、と返したいのに思考がスピードに追いつかない。
「一例! 花鳥風月(自然サイコー)」
速見がなんの繋がりもない返しをした。視線を向けると、だってよお、と困り顔。確かに四字熟語で会話をするなんて、粋なことをしている余裕が俺たちにはもうなかった。意味の繋がりを取っ払い、知っている言葉を次々叫ぶしか、打開の道はない。
「曖昧模糊(わけわからんがな)」
そう言って忍は笑い、アタックをする。あいつらの対応力が恐ろしい。よもや普段の会話も四字熟語なのではあるまいか。ヒイロだけが、
「暗中模索(打開方法に悩んでいるんだ)」
速さも思考もなんとか追いついて答えた。しかしその表情には焦りが見える。相手のフロントセンターが優しげに微笑んで打ってきた。
「一生懸命(がんばってるねえ)」
くそっ、なめやがって。ジョージが引き締まった真顔で球を追う。こいつも、へらへらする余裕をなくしているらしい。
「まだだ」
赤毛の後輩は、かすかに呟いた。そして落ちてきた白いボールを、なんと、雷を落とすように、相手コートへ一直線に叩きこんだ。あいつ、いつの間にあんな技術を。
――ああ、朝練。
「乾坤一擲(これが大勝負)」
排球が空気との摩擦で燃え上がる幻覚を見た。相手のフロントセンターが伸ばしたアンダーハンドの腕と腕の間をバスケのシュートのようにすり抜け、それは床を派手に叩いた。電気を発するような摩擦音を立てて、排球は跳ねずに、一瞬床を滑った。尺八が鳴る。
「二対一」
敵のフロントセンターは、球がすり抜けていった自分の両腕をまじまじと見て、
「受けたら焼け焦げてた?」
と呟いた。ジョージは赤くなった指を骨が抜けたように下ろして、かなり痛そうに眉はしかめたが、朗らかに笑った。
「ふい。なんとかとめやしたけど、この一回が限界っすわ。この技、まだ未完成なんだな」
「そっか。あと二回よろしく」
おい内田。ジョージは魔球を打った右手をさすり、肩をすくめる。
「いやいや、むりっしょ。実は今この右手、死ぬほど痛いよ」
内田はにこっと口角を上げた。
「左手も痛めればいいんだよっ」
「利き手でしかできねえの」
「遠道、使えねえな」
「アトムもっと使えねえじゃん」
突然、内田は心を殺したような真顔になった。禁句だったな。
「そうだよね。僕なんかいつも、いつまでも足手まといだもんね」
そこまで戦力外では決してないのだが、凡ミスをしがちな自分を内田はひどく気にしている。しゃがんで目線を合わし、ジョージは左手でやつの頭を撫でた。
「ごめん、嘘。アトムはちゃんと成長してる」
「ふええええ」
敵コートでは忍が、体を反らして拍手をしている。
「かっこええ攻撃やがな常侍くん」
点を取られたくせに微塵も慌てていない。
「うっわ忍さん、ちったあ焦ってくだせえよ。俺がんばったんだよ」
ジョージは残念そうに、しょげた表情でうなだれた。バックセンターに立つ、異国の雰囲気を持つ少女が、こちらへボールを転がしてよこす。
「サーブがネ、今はそっちタから、ゆるり作戦を練るヨイヨ」
彼女はカタコトで合掌した。つやつやの白い肌が印象的だ。
「どういうことだぜ。やつら余裕綽々なんだぜ」
速見が悔しげに言う。ヒイロの舌打ちが続く。ソウルが遠くを見て述べた。
「そのはずだよ。あんなに速い球が打てるんだから」
困り果ててうつむく。知っている四字熟語は、まだたくさん残っている。なのに技術が追いつかない。幼なじみがまた、ため息をつき瓶底メガネを外そうとした。この虚ろな目を聖コトバの時にも見た。速見がベツレヘムという直前の、あの一瞬。そして、ずっと昔にも。
「やめろソウル!」
「ま、全国大会じゃないってのが、せめてもの救いっすな」
俺の叫び声にかぶって、ジョージがへらっと細長い体を揺らした。それからこっちを見て不思議そうに、どしたの大声出して、と目を丸くした。
だって、ソウルが。
メガネの少年はそっと我に返り、長い夢から覚めたような震える声で言う。
「ああ、そうか。これは、練習試合だったな」
「ソウルさん顔色悪くないすか」
ジョージが聞く。他のメンツも心配そうにフロントライトの病弱そうなやつを見つめている。あの過去は、この中では幼なじみの俺しか知らない。ソウルはかすかに微笑み、
「大丈夫だよ、もう大丈夫」
と普段通りのおっとりした目で返した。そして俺のほうを見て苦笑する。
「ごめん小野。心配かけた」
「無茶しようとすんな」
「うん。ごめん」
よかった。なんとか、間に合った。
ジョージが白い排球を左手で持ち、申し訳なさそうに告げる。
「で、二度目のサーブなわけですが、手が痛いんでここは一つ、誰か代わっておくんなせ」
「オイラに任せるんだぜ」
やつの真横から言った速見の眼前を走り抜け、
「俺が打つーッ」
ボールを奪い、あのときのジョージの真似をしてブイサインで笑ってやった。
「借り返すね!」
聖コトバの、あの終盤のセッ……のサーブのことだ。貸し一つね、と後輩に言われた屈辱を今晴らす。ジョージは慌てて、左手でボールを取り返そうとしてきた。
「待って待ってマトペさんはだめっすよ! 貸しがなくなっちゃうっしょ、いっぱい貯めといてよ、そんでいつかまとめて倍返ししてよ」
「それが先輩に言うセリフか。はーなーせッ」
速見が目を丸くして、おう、と驚いた様子で俺たちの言い争いを見ている。まとわりついてくる片手を簡単に振り切った。
「フハハハざまあみろだ! 非力だなーッ!」
「くそーっ、右手が使えないのがくやしいーっ!」
内田が振り向き、わあい賑やか、と冷めた目でぼやいた。わあいの顔じゃない。
「よし、試合再開だ」
排球を持ち、敵コートの六人を見据える。どう考えても、もうニチセイには勝てない。しかし最後だからこそ、全力で向かってみせる。一度、目を伏せた。
相手コートを見据え、排球を上に放る。
「乾坤一擲」
本気のスパイクサーブを放った。忍が嬉しげに頷く。やつはいい笑顔で高く飛び、鋭くボールを叩いた。光速で視界から球が消える。
「画竜点睛(最後の一点)」
上方落語などで聞くリズムの声と共に、白い竜が体の横を抜けていった。そしてやはりその風のようなボールは、新古今の誰も受けることができなかった。とても軽い、濁点を感じない音が広い体育館に響いた。
「三対一。勝者、日本再生大学付属高等学校」
学校名がものすごく長いので、古井先生が言い終わる前に歓声は上がっていた。
「すごいな。さすが全国四位だ」
俺たち新古今は長い息を吐いた。背伸びをしてコートの上に指を出すと、忍は笑った。
「素直にコートの下から手出したらええがな」
俺の指先をつかみ、人のいい笑みを浮かべる。ギリギリ届くので上からいきたいのだ。ありがとうございました、と互いに言って手を離した。
「せやけど君ら、ホンッマ強いチームでんがな」
忍は個性的なツリ目を細めて、自身の腰に手を当てた。
「なんだ嫌味か」
「ちゃうちゃう。諦めへん気持ちが強いって意味でんがな。全国大会でも、戦いたいもんやで。真っ直ぐなチームが相手やとホンッマ最高でんがな」
やつの笑顔は眩しかった。俺は深く頷いた。正直あまり自信がないけど、
「美々実さんの教えだから言わせてもらう」
全国大会では、と声を張って仲間を見た。新古今の六人揃って、大声で言う。
「絶対に勝つ」
忍はにかっと並びのいい歯を見せて、歌舞伎のポーズをとった。
「モチのロンで、受けてたちまっせ」
本番は、もう目前だ。
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