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しおりを挟む僕は今回の料理には、白菜と玉ねぎ、トマト、そしてマッシュルームを選んだ。
トマトはグルタミン酸があるのでいいダシが出てトロトロと溶けてくれる。野菜は加熱すれば甘みも増すし、マッシュルームもグアニル酸の旨味が出て美味しい。
ラインさんには竈門の火を火打ち石でつけてもらった。三つの竈門に火が灯る。
早く作ってあげなきゃいけないから並行して作っていかないと。
僕はとりあえず、お米を入念に洗った。あまり食べられてないってことは、古いお米の可能性があるし、糠臭さをとらないと美味しくない。
木製ボウルでガシュガシュ洗って、研ぎ汁が綺麗になったら土鍋に入れて竈門にセットする。
土鍋なので、火の粉が飛び散るぐらいの強火でお米を十分程炊き、沸騰して吹きこぼれてきたら、火を弱めてちょっと長めに十五分炊いたら、枯草で水気を飛ばしてそのまま十分蒸らす。
これでご飯は大丈夫。
ご飯を炊ける間に黒曜石のような鋭い石の包丁で、白菜を細かく切って、玉ねぎも繊維を断ち切るように薄くスライスする。この包丁すごい。抵抗なくめちゃくちゃ切れる。
玉ねぎは辛み成分がツンと鼻にきたので、一度水にさらしてみると、少し辛み成分が消えてくれた。
次に土鍋に水を張り、白菜と玉ねぎ、トマトを煮ていく。野菜のアクは、やっぱり日本の野菜よりも多くのアクが出てきた。
本来なら野菜のアクはとらなくてもいいかもしれないけれど、えぐみや苦味の原因かもしれないので、丁寧に取っていく。
野菜がクタクタなるのを待っていると、ラインさんが訝しそうにアクを捨てる僕を見た。
「ルイ君は先程から何故野菜の泡を取って捨ててるんですか?勿体ないですよ?」
こちらの世界ではアクを取ったりしないんだろう。アクのいう概念がないのかもしれない。
「これはアクといって、野菜の苦味とかえぐみの元なんじゃないかなって思って。こちらの野菜は風味が強い分、えぐみも強いので、お姉ちゃんが食べれるように、えぐみがなくなったらいいなって思ってしてます」
「そうなのですか……」
ラインさんはなるほどと納得してくれたみたいでホッとする。
野菜がクタクタになってきたので、一口食べてみた。アクを取ったおかげか、えぐみが殆どなくなり、野菜の旨味が出たスープができて安心する。こちらの世界の野菜は素材の味が濃いので、短時間でもブイヨンスープのように味が深い。
「ん、美味しい」
ここでお姉ちゃん用に小鍋に野菜スープのみで取り分け。大鍋にはマッシュルームを入れる。
追加でオレガノとかのハーブを入れたら美味しいんだろうけど、どれがオレガノっぽい味が確認する時間はない。キノコの旨味を加えるだけでもさらに美味しくなるはずだ。
「ラインさん味見いいですか?」
「はい。では少し貰いますね」
小皿にスープを入れてラインさんに手渡す。ラインさんはゆっくりとスープを飲み込んだ。
「!美味しい……。長い時間煮込んで、形が崩れて正直美味しそうには見えなかったんですが、スィート草を入れたかと勘違いしてしまうぐらい甘さと……なんだか深い味がします。こんなに長い時間煮込んだことはありませんでした」
「野菜とキノコの旨味です。どうですかね?お姉ちゃんにこのスープあげていいですか?」
「ええ。キノコは消化に悪いので、キノコ自体をあげなければ大丈夫です」
「よかった」
ラインさんのお墨付きを貰って、一旦お姉ちゃん用のスープを完成させることにする。余計な味付けができないので、ミルクを入れて、ほんのちょっとだけ塩をして一煮立ちさせたら完成だ。
他のみんなにはもう少し味をつけるため、干し肉を入れることにした。
味見すると塩気が強いけれど、鶏肉に似た味のお肉をだった。肉の塩辛さは作る工程で塩抜きしないと塩辛いままだから、旨味だけをスープに移そうと、塩見がちょうどいいぐらいの味付け程度に入れて、一煮立ち。
これでグアニル酸、グルタミン酸、イノシン酸の旨味三重奏だ。
僕らには肉片は辛すぎるとラインさんに言うと、ラインさんとドンドさんが食べてくれるとのことだった。食材は無駄にできないからね、ありがとうございます。
あとは胡椒で味を整えて完成だ。味見したらちょうどいい塩味と野菜の旨味と肉の旨味が口の中で広がって美味しい。
そして隣のお米の土鍋の蓋を開けると、綺麗に炊けており、ふんわりとお米の甘い匂いが立ち上がった。
「……お米はこんな匂いがするんですね。いい匂いです」
ラインさんが鼻をヒクヒクさせる。熊さん可愛いな。
「持っていって、みんなで食べましょう」
旭とお姉ちゃんは熱々は食べれないので、先にご飯と汁物を食器に盛って冷ます。
熊さん達は猫舌じゃないんだって。熱々で食べてもらおうと、木製のサービスワゴンに土鍋ごと持っていく。
途中で匂いにつられるようにガリガリ銀熊のヴィス君が合流した。
「ヴィス。これはミルクじゃなくてミルクスープだぞ?食べれるのか?」
ラインさんが心配そうにヴィス君に聞くが、「嫁が作ったご飯なら食べる」と元気に返答していた。
そういえばラインさん、お姉ちゃんがミルクスープ飲まなかった時、ヴィス君で慣れてますって言ってた。もしかしてヴィス君も旭並みに偏食?
と言うか、ヴィス君は会ったときから僕を嫁って言ったり、キスをしてきたり、変わった熊さんだ。今も自然と僕の腰に手を回してくる。もう!今、大事なのはお姉ちゃん達のお腹事情なの!どいてどいて。
「お待たせ。ご飯出来たよ」
「きたー!お腹減ったよー!」
「僕、お腹いっぱい」
「旭は赤いのめちゃくちゃ食べてたじゃん!ママは一口も食べれてないのよ。ペコペコなの」
「キャハハ、ペコペコママ~」
お姉ちゃんと旭の楽しそうな声を聞きながらご飯をよそっていく。みんなの前にご飯を並べて僕も席に着いた。この世界の椅子は、高さが変えれるように座る板を外して調整できるようになっている。
どの身体の大きさでも合わせれるようにしているらしい。
ちょっと小さめの僕も小さい旭も机にぴったり届く。助かるね。
そしてパチンと手を合わせた。
「では食材に感謝して、」
「「「いただきまーす!」」」
「い、いただき、ます?」
ドンドさんとラインさん、ヴィス君は戸惑いながら僕らの真似をした。お姉ちゃんはまだスプーンをうまく持てないので、僕が食べさせることにする。
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