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第七話「同人誌を作ろう!」
5,大城の決意と、成宮のプロット作り
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成宮がファミレスから家に帰る道中、大城から電話がかかってきた。
『成宮くん! 僕、スタンプラリーとは別に漫画の同人誌も描くよ!』
「急にどうした?」
走っていたのか、電話の向こうの大城は息が荒かった。知った相手でなければ、通報するところだ。
『思い出したんだ! 高校に入学する前に行った文化祭で漫研の連中に追い出された時、"いつか絶対、見返してやるんだ!"って決めてたこと! ずっと無理だって思い込んでたけど、色々あって吹っ切れた! 漫研の連中がどんな目で見てこようが、どうでもいい! 僕は、僕が描きたい絵を描くよ!』
「……そうか。大城がやりたいなら、いいんじゃないか? 音来とマネージャーも賛同すると思うぞ」
『ありがとう! そんなわけだから、今日中にストーリーとかキャラクターの設定を考えておいてくれない? 欲を言えば百合がいいけど、女の子が出て来る話なら何でもいいから! 効率を考えて、なるべくキャラクターの人数は少なめで! どんな話かざっくり送ってくれれば、こっちで調整しとく! じゃ!』
大城は一方的に注文をつけると、通話を切った。
「……えらく張り切ってたな。何か変なものでも食べたか?」
成宮は呆気に取られた様子で、スマホをポケットへ仕舞う。
とは言え、ここのところ元気がなかった大城がやる気を取り戻したのは喜ばしかった。あの分ならいずれ、スランプから脱却出来るだろう。
「百合か……確か、GLとも呼ばれている、女子同士の恋愛を描いたジャンルだったな。大城は百合じゃなくてもいいと言っていたが、他に女子がメインの話なんて思いつかないし、百合にするか」
成宮はさっそく、どんな物語を提供するか考え始めた。同人誌を作るにあたって、あらかじめどんな同人誌が存在するのか大雑把に調べていたため、大城の言う「百合」が花の名前ではないことくらいは知っていた。
「文化祭で売るんだし、学園ものの方がいいだろ。あとはストーリーとキャラクターだが……どうやって作ればいいんだ?」
成宮はスマホで手っ取り早くストーリーとキャラクターを作る方法を調べた。
起承転結がどうだとか、魅力的なキャラクターはギャップが大事だとか、色々な情報が錯綜する中、一番楽で早く作れそうな方法を見つけた。
「なになに……"実体験や実在の人物を元にする"? なるほど、これなら素人の俺でも作れそうだ」
成宮は手始めに、今まで美術部が行なってきた活動をネタとしてメモしてみた。美術部にはほぼ男子しかいないものの、全員美少女化すれば百合に出来ないこともない。
ただ、美少女化した自分達の話を書くのは、かなり抵抗があった。おそらく大城と音来も同じように思うだろう。最悪、却下される可能性が高い。
また、美術部が美少女化した百合漫画を買う人間が、はたして存在しているのか疑問だった。少なくとも、校内の人間は美術部がモデルだと気づいて、買わないだろう。
「……別の奴をモデルにした場合も考えておくか。バレても同人誌が売れて、なおかつ許可が取りやすいモデルは……」
ふと視線を感じ、振り返った。
すると四つ後ろの電柱の陰から、本加納が恨めしそうにこちらを睨んでいた。最近、何かと成宮を尾けては「恩田くんを返せ!」と文句を言ってくるのだ。
今回も成宮に見つかったと気づくや否や、堂々と電柱の陰から現れ、ズカズカと成宮の元へ近づいてきた。
「いい加減、恩田くんから離れてくれない? 彼、マラソン大会が終わってからずっとアンタの話しかしなくなったんだけど」
「それは恩田本人に言ってくれ。俺にはどうも出来ない」
「私だってアンタじゃなくて、恩田くんに言いたいわよ! でも、接近禁止命令が出てて、話しかけられないの! こっそり話しかけに行こうにも、常に道尾くんがガードしてるから近づけないし、瀬羽も"恩田くんが話してる内容を教えるから"って協力してくれないし……全部アンタのせいよ!」
「自業自得だろ? それだけ恩田に迷惑かけてるってことさ」
成宮は話を切り上げ、立ち去った。
本加納はついて来ようとしたが「それ以上近づいたら警察を呼ぶ」と脅し、踏みとどまらせた。
本加納は今でも恩田を慕っているらしい。つくづく厄介な女に目をつけられたな、と成宮は恩田に同情し……ひらめいた。
「……そうか。アイツのことを話にすればいいんだ」
成宮は同人誌のネタを書くメモ帳へ新たに「陸上部、元加納」と書き記した。
数々の困難が襲う中、美術部は文化祭の準備を始めようとしていた……。
(第八話へ続く)
『成宮くん! 僕、スタンプラリーとは別に漫画の同人誌も描くよ!』
「急にどうした?」
走っていたのか、電話の向こうの大城は息が荒かった。知った相手でなければ、通報するところだ。
『思い出したんだ! 高校に入学する前に行った文化祭で漫研の連中に追い出された時、"いつか絶対、見返してやるんだ!"って決めてたこと! ずっと無理だって思い込んでたけど、色々あって吹っ切れた! 漫研の連中がどんな目で見てこようが、どうでもいい! 僕は、僕が描きたい絵を描くよ!』
「……そうか。大城がやりたいなら、いいんじゃないか? 音来とマネージャーも賛同すると思うぞ」
『ありがとう! そんなわけだから、今日中にストーリーとかキャラクターの設定を考えておいてくれない? 欲を言えば百合がいいけど、女の子が出て来る話なら何でもいいから! 効率を考えて、なるべくキャラクターの人数は少なめで! どんな話かざっくり送ってくれれば、こっちで調整しとく! じゃ!』
大城は一方的に注文をつけると、通話を切った。
「……えらく張り切ってたな。何か変なものでも食べたか?」
成宮は呆気に取られた様子で、スマホをポケットへ仕舞う。
とは言え、ここのところ元気がなかった大城がやる気を取り戻したのは喜ばしかった。あの分ならいずれ、スランプから脱却出来るだろう。
「百合か……確か、GLとも呼ばれている、女子同士の恋愛を描いたジャンルだったな。大城は百合じゃなくてもいいと言っていたが、他に女子がメインの話なんて思いつかないし、百合にするか」
成宮はさっそく、どんな物語を提供するか考え始めた。同人誌を作るにあたって、あらかじめどんな同人誌が存在するのか大雑把に調べていたため、大城の言う「百合」が花の名前ではないことくらいは知っていた。
「文化祭で売るんだし、学園ものの方がいいだろ。あとはストーリーとキャラクターだが……どうやって作ればいいんだ?」
成宮はスマホで手っ取り早くストーリーとキャラクターを作る方法を調べた。
起承転結がどうだとか、魅力的なキャラクターはギャップが大事だとか、色々な情報が錯綜する中、一番楽で早く作れそうな方法を見つけた。
「なになに……"実体験や実在の人物を元にする"? なるほど、これなら素人の俺でも作れそうだ」
成宮は手始めに、今まで美術部が行なってきた活動をネタとしてメモしてみた。美術部にはほぼ男子しかいないものの、全員美少女化すれば百合に出来ないこともない。
ただ、美少女化した自分達の話を書くのは、かなり抵抗があった。おそらく大城と音来も同じように思うだろう。最悪、却下される可能性が高い。
また、美術部が美少女化した百合漫画を買う人間が、はたして存在しているのか疑問だった。少なくとも、校内の人間は美術部がモデルだと気づいて、買わないだろう。
「……別の奴をモデルにした場合も考えておくか。バレても同人誌が売れて、なおかつ許可が取りやすいモデルは……」
ふと視線を感じ、振り返った。
すると四つ後ろの電柱の陰から、本加納が恨めしそうにこちらを睨んでいた。最近、何かと成宮を尾けては「恩田くんを返せ!」と文句を言ってくるのだ。
今回も成宮に見つかったと気づくや否や、堂々と電柱の陰から現れ、ズカズカと成宮の元へ近づいてきた。
「いい加減、恩田くんから離れてくれない? 彼、マラソン大会が終わってからずっとアンタの話しかしなくなったんだけど」
「それは恩田本人に言ってくれ。俺にはどうも出来ない」
「私だってアンタじゃなくて、恩田くんに言いたいわよ! でも、接近禁止命令が出てて、話しかけられないの! こっそり話しかけに行こうにも、常に道尾くんがガードしてるから近づけないし、瀬羽も"恩田くんが話してる内容を教えるから"って協力してくれないし……全部アンタのせいよ!」
「自業自得だろ? それだけ恩田に迷惑かけてるってことさ」
成宮は話を切り上げ、立ち去った。
本加納はついて来ようとしたが「それ以上近づいたら警察を呼ぶ」と脅し、踏みとどまらせた。
本加納は今でも恩田を慕っているらしい。つくづく厄介な女に目をつけられたな、と成宮は恩田に同情し……ひらめいた。
「……そうか。アイツのことを話にすればいいんだ」
成宮は同人誌のネタを書くメモ帳へ新たに「陸上部、元加納」と書き記した。
数々の困難が襲う中、美術部は文化祭の準備を始めようとしていた……。
(第八話へ続く)
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