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第4部 第2章「天使くんと悪魔くん」
第1話『少年ハッカー』後編
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殺意を募らせる兄弟の耳に、巨大なハエの羽音のような爆音が迫ってきた。
外では、十代後半から二十代くらいの複数人の青年達が、違法に改造したバイクを乗り回していた。昼間は車通りがほとんどないので、道を私物化しているのだ。バイクが近づくたび、耳障りな走行音も迫ってきた。
兄弟は両手で耳を塞ぎ、顔をしかめた。
「ブンブンと、ハエ並みに五月蝿い連中だな」
「まったくもって、そのとおり。目立ちたいなら、バイクの上でアクロバットでもしてみせてよ」
館へ募らせていた殺意を、そのまま青年達に向ける。同時に、彼らがバイクの上で巧みにアクロバットを披露する姿を思い浮かべた。
本気で期待してはいない。ああして他人の迷惑になることでしか自己表現できない連中に、そのような芸当が出来るとは思っていなかった。
ところが、二人が殺意を向けた瞬間、青年達の動きが変わった。バイクを走らせながら、兄弟が想像したとおりのアクロバットを始めたのだ。皆、何かに取り憑かれたような、虚な目をしていた。
「う、嘘だろ?」
「なんで……?」
兄弟は驚き、顔を見合わせる。まるで、母が話していた「他人に悪夢を見せる能力」が兄弟にも備わったようではないか。
まさかと思い、今度は青年達がバイクの上で宙返りするようイメージした。
果たして、青年達は示し合わせたかのようにシートの上に立ち、一斉に宙返りをした。イメージが完全ではなかったのか、はたまた彼らの身体能力に限界があったのか、着地の際に何人かバランスを崩し、バイクごと転倒した。
兄弟はワッと歓声を上げた。
「すごいぞ! 俺達、父さんと母さんと同じアクムツカイになったんだ!」
「うん! 母さんの話は本当だったんだね!」
両親を殺した館もアクムツカイだった。
彼女と同じ力を手に入れたことで、兄弟の悲願である「真犯人への復讐」の達成にグッと近づいた気がした。
翌日、兄弟は手に入れた力を検証するため、近くのショッピングモールを訪れた。休日からか、開店してすぐにもかかわらず、人で賑わっている。
兄弟の両親は力を使える時間帯に制限があり、父親は昼、母親は夜にしか能力を使えなかった。自分達にもそのような制限がないか、調べに来たのだ。
まずは、力を使える時間帯に限りがあるか調べた。
朝、子供向けのガチャガチャの前でイチャついているカップルがいた。やりもしないガチャガチャの景品を、話のネタに使っているらしい。
「邪魔だなぁ、アイツら」
「カプセルの中に閉じ込められちゃえばいいのに」
「いいな、それ! トーゼン、別々のカプセルな!」
そんな想像を膨らませ、兄弟が殺意を抱いた瞬間、カップルはガチャガチャの取り出し口から中へ吸い込まれていった。
中を覗くと、カップルはそれぞれ別々のカプセルに閉じ込められていた。必死にカプセルを叩き、兄弟に助けを求めている。
兄弟はニンマリ笑うと、カップルが閉じ込められたガチャガチャに「故障中」の張り紙をし立ち去った。
「朝はクリア! 昼は昨日やったし、あとは夕方と夜に試そうぜ」
「うん。僕、ちょっとトイレ行ってくるよ」
聖夜が遊魔を待っていると、ケータイで棚に並べられたお菓子の写真を撮っているおばさんを見つけた。ベタベタと垢だらけの手で商品に触れては、勝手にディスプレイを変えたり、手に取って写真を撮ったりしている。まるで私物のような扱いだった。
おばさんは写真撮影を終えると、棚の前で何やらケータイを操作し始めた。
画面を盗み見ると、お菓子を発見したことをSNSで自慢していた。SNSには「全部買い占めた」と報告していたが、実際に購入したのは一番値段が安くて量の多い菓子ひとつだけだった。
(触るだけ触っといて、一個しか買わねーのかよ! 迷惑なババァだな! ホントに全部買って、破産しちまえ!)
聖夜は想像し、殺意を向ける。
しかし……おばさんは平然とその場から去っていった。苦しむどころか、清々しい表情を浮かべている。
「聖夜、どうしたの?」
愕然とする聖夜のもとへ、遊魔が戻ってきた。
「遊魔! あのババァが菓子を買い占めて破産するよう、念じてくれ!」
「そんな、急に言われても……」
遊魔は渋々、おばさんに殺意を向ける。
聖夜も「破産しろ、破産しろ!」と念じた。
するとおばさんは踵を返し、棚の前まで戻ってきた。陳列されていた菓子を残らずカゴへ入れ、レジへ向かう。レジの店員は困惑しながらも、菓子をレジに通した。
無事おばさんに悪夢を見せられたものの、聖夜は困惑したままだった。
「こ、今度は上手く行った……?」
「ねぇ、聖夜。いったい、どうしたのさ?」
遊魔は訝しげに眉をひそめる。
聖夜が事情を話すと、遊魔は「もしかしたら」と、ある仮説を立てた。
「僕達は二人同時に殺意を抱かないと、悪夢を見せられないのかもしれない。ちょっと後ろを向いててくれる?」
「あ、あぁ」
聖夜は言われた通り、遊魔に背を向けた。
その間に、遊魔は先ほどのおばさんに視線をやった。
(お菓子、食べたいだろ? 食べてしまえよ)
渾身の殺意をこめ、想像する。
だが、おばさんはケータイをいじりながら、大人しくレジが終わるのを待っていた。
「聖夜、やっぱりだ。僕達は二人で一人前らしい」
その後、一日かけて他の時間帯や条件でも試してみたが、やはり二人同時に同じ殺意を向けなければ、悪夢は見せられなかった。
「なんだかなー。父さんと母さんと違って、いつでも力が使えるのは便利だけど、遊魔いなかったら使えないのはなー」
「まぁまぁ。二人一緒なら無敵なんて、僕達らしいよ」
聖夜は不満げに唇を尖らせる。
遊魔は彼をなだめながらも、内心ホッとしていた。
(……良かった、僕だけがアクムツカイじゃなくて。聖夜と一緒じゃなきゃ、復讐なんてやりたくないもん)
(第2話へ続く)
外では、十代後半から二十代くらいの複数人の青年達が、違法に改造したバイクを乗り回していた。昼間は車通りがほとんどないので、道を私物化しているのだ。バイクが近づくたび、耳障りな走行音も迫ってきた。
兄弟は両手で耳を塞ぎ、顔をしかめた。
「ブンブンと、ハエ並みに五月蝿い連中だな」
「まったくもって、そのとおり。目立ちたいなら、バイクの上でアクロバットでもしてみせてよ」
館へ募らせていた殺意を、そのまま青年達に向ける。同時に、彼らがバイクの上で巧みにアクロバットを披露する姿を思い浮かべた。
本気で期待してはいない。ああして他人の迷惑になることでしか自己表現できない連中に、そのような芸当が出来るとは思っていなかった。
ところが、二人が殺意を向けた瞬間、青年達の動きが変わった。バイクを走らせながら、兄弟が想像したとおりのアクロバットを始めたのだ。皆、何かに取り憑かれたような、虚な目をしていた。
「う、嘘だろ?」
「なんで……?」
兄弟は驚き、顔を見合わせる。まるで、母が話していた「他人に悪夢を見せる能力」が兄弟にも備わったようではないか。
まさかと思い、今度は青年達がバイクの上で宙返りするようイメージした。
果たして、青年達は示し合わせたかのようにシートの上に立ち、一斉に宙返りをした。イメージが完全ではなかったのか、はたまた彼らの身体能力に限界があったのか、着地の際に何人かバランスを崩し、バイクごと転倒した。
兄弟はワッと歓声を上げた。
「すごいぞ! 俺達、父さんと母さんと同じアクムツカイになったんだ!」
「うん! 母さんの話は本当だったんだね!」
両親を殺した館もアクムツカイだった。
彼女と同じ力を手に入れたことで、兄弟の悲願である「真犯人への復讐」の達成にグッと近づいた気がした。
翌日、兄弟は手に入れた力を検証するため、近くのショッピングモールを訪れた。休日からか、開店してすぐにもかかわらず、人で賑わっている。
兄弟の両親は力を使える時間帯に制限があり、父親は昼、母親は夜にしか能力を使えなかった。自分達にもそのような制限がないか、調べに来たのだ。
まずは、力を使える時間帯に限りがあるか調べた。
朝、子供向けのガチャガチャの前でイチャついているカップルがいた。やりもしないガチャガチャの景品を、話のネタに使っているらしい。
「邪魔だなぁ、アイツら」
「カプセルの中に閉じ込められちゃえばいいのに」
「いいな、それ! トーゼン、別々のカプセルな!」
そんな想像を膨らませ、兄弟が殺意を抱いた瞬間、カップルはガチャガチャの取り出し口から中へ吸い込まれていった。
中を覗くと、カップルはそれぞれ別々のカプセルに閉じ込められていた。必死にカプセルを叩き、兄弟に助けを求めている。
兄弟はニンマリ笑うと、カップルが閉じ込められたガチャガチャに「故障中」の張り紙をし立ち去った。
「朝はクリア! 昼は昨日やったし、あとは夕方と夜に試そうぜ」
「うん。僕、ちょっとトイレ行ってくるよ」
聖夜が遊魔を待っていると、ケータイで棚に並べられたお菓子の写真を撮っているおばさんを見つけた。ベタベタと垢だらけの手で商品に触れては、勝手にディスプレイを変えたり、手に取って写真を撮ったりしている。まるで私物のような扱いだった。
おばさんは写真撮影を終えると、棚の前で何やらケータイを操作し始めた。
画面を盗み見ると、お菓子を発見したことをSNSで自慢していた。SNSには「全部買い占めた」と報告していたが、実際に購入したのは一番値段が安くて量の多い菓子ひとつだけだった。
(触るだけ触っといて、一個しか買わねーのかよ! 迷惑なババァだな! ホントに全部買って、破産しちまえ!)
聖夜は想像し、殺意を向ける。
しかし……おばさんは平然とその場から去っていった。苦しむどころか、清々しい表情を浮かべている。
「聖夜、どうしたの?」
愕然とする聖夜のもとへ、遊魔が戻ってきた。
「遊魔! あのババァが菓子を買い占めて破産するよう、念じてくれ!」
「そんな、急に言われても……」
遊魔は渋々、おばさんに殺意を向ける。
聖夜も「破産しろ、破産しろ!」と念じた。
するとおばさんは踵を返し、棚の前まで戻ってきた。陳列されていた菓子を残らずカゴへ入れ、レジへ向かう。レジの店員は困惑しながらも、菓子をレジに通した。
無事おばさんに悪夢を見せられたものの、聖夜は困惑したままだった。
「こ、今度は上手く行った……?」
「ねぇ、聖夜。いったい、どうしたのさ?」
遊魔は訝しげに眉をひそめる。
聖夜が事情を話すと、遊魔は「もしかしたら」と、ある仮説を立てた。
「僕達は二人同時に殺意を抱かないと、悪夢を見せられないのかもしれない。ちょっと後ろを向いててくれる?」
「あ、あぁ」
聖夜は言われた通り、遊魔に背を向けた。
その間に、遊魔は先ほどのおばさんに視線をやった。
(お菓子、食べたいだろ? 食べてしまえよ)
渾身の殺意をこめ、想像する。
だが、おばさんはケータイをいじりながら、大人しくレジが終わるのを待っていた。
「聖夜、やっぱりだ。僕達は二人で一人前らしい」
その後、一日かけて他の時間帯や条件でも試してみたが、やはり二人同時に同じ殺意を向けなければ、悪夢は見せられなかった。
「なんだかなー。父さんと母さんと違って、いつでも力が使えるのは便利だけど、遊魔いなかったら使えないのはなー」
「まぁまぁ。二人一緒なら無敵なんて、僕達らしいよ」
聖夜は不満げに唇を尖らせる。
遊魔は彼をなだめながらも、内心ホッとしていた。
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(第2話へ続く)
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