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第4部 第2章「天使くんと悪魔くん」
第1話『少年ハッカー』前編
しおりを挟む夏の強い日差しが照りつける中、二人の男子中学生は木漏れ日が差す小道を駆けていく。鏡合わせのように顔がそっくりな、双子だった。
「遊魔、早く早く!」
「待ってよ、聖夜!」
活発そうな方が、内気そうな方を急かす。
二人は汗だくで「日野」と表札がかかっている自宅に着くと、玄関で靴を乱暴に脱ぎ捨てた。祖母はまだ帰ってきていないので、怒られる心配はない。
冷蔵庫から瓶ジュースを二本取り、屋根裏にある子供部屋へ向かう。部屋には二人分の生活用品の他、改造して使い勝手を良くしたパソコンが二台置かれていた。
聖夜と呼ばれた少年がパソコンを立ち上げている間に、遊魔と呼ばれた少年がカバンからメモリを取り出し、パソコンに接続する。
メモリの読み込みが終わると、保存されていた膨大なデータが画面上に表示された。その中には、二人が探し求めていたデータもあった。
「"アクムツカイ殺人事件取材まとめ"……これだ!」
「これでやっと、父さんと母さんの死の真相が分かるんだね」
二人は期待に目を輝かせた。
日野聖夜・遊魔兄弟は、四年前に不可解な死を遂げた両親の死の真相について調べていた。
当時の報道によると、両親は口論の末、互いに殺し合って死んだらしい。二人は大変仲が良く、今までケンカひとつしたことがなかった。
世間は夫婦の心変わりを「まるでアクムツカイに悪夢を見せられたようだ」とウワサした。両親の事件が「アクムツカイ殺人事件」と呼ばれているのは、単に兄弟の父親が小説「悪夢使い」の作者だったからだけではなく、そういう由縁があってのことだった。
兄弟の育ての親である父方の祖母は、事件の話をしたがらなかった。事件について詳しく知らないのもあったが、未だ息子夫婦の死のショックから立ち直れていない様子だった。兄弟が尋ねても、あからさまに話をすり替えられた。
仕方なく、兄弟は自力で事件の真相を暴くと決めた。兄弟は祖母と同じく、事件についてほとんど何も知らなかった。事件があった時間、二人は小学校で授業を受けていて、家にはいなかった。
兄弟は幼くして情報収集のスキルを磨き、表には出ていない情報をしらみつぶしに集め始めた。そして四年の月日を経て、遂に事件の真相に最も近い情報を手に入れたのだ。
それが、某編集部のパソコンから盗み出した取材データ……今しがた、パソコンに挿入したメモリだった。課外授業で出版社を訪れた際、こっそりデータをコピーしておいたのだ。
IT系雑誌の編集部だけあって、どのパソコンもセキュリティが頑丈だったが、コピーできたパソコンのセキュリティは半世紀も前の状態のままだった。どこの界隈にも機械オンチはいるのものだ。運が良かった、としか言いようがない。
フォルダには、アクムツカイ殺人事件に関わる様々な取材データが保存されていた。大半はすでに報道された情報かさほど関わりのない情報だったが、ひとつだけ明らかになっていない重要な事実を見つけた。
警察が両親のスマホを調べたところ、事件が起こる直前に非通知の電話がかかってきていた。
電話の相手は「館操江」。当時六十五歳、職業不詳の女だ。
館はわざわざ公衆電話とスマホを同時に使い、夫婦に電話をかけていた。帽子を目深に被り、サングラスとマスクで顔を覆っていたが、逃走中にそれらの変装を取ってしまったため、周辺の監視カメラに素顔を撮影されてしまい、身元が割れた。
館は当時、警察の調べに対し「空き巣に入ろうとして、電話をかけた」「夫婦とも電話に出たので諦めた」と明かしている。空き巣に入ろうとしたこと自体は立派な犯罪だが、アクムツカイ殺人事件には関係ないとして、報道はされなかった。
だが、兄弟はその名前に見覚えがあった。
「館操江って……!」
「うん! 母さんの日記に書かれてたヤツだ!」
兄弟の母親は子供の頃から日記を書いていた。悪夢を見せただの、悪夢で#
こらしめた__・__#だの、日記にしてはあまりに突拍子もない内容だったため、警察は作り話だと思い込み、大して調べもせず返却してきた。
だが、兄弟は日記の内容が全て事実だと分かっていた。生前、母が話していたのだ。
「お父さんとお母さんにはね、他人に悪夢を見せる力があるのよ」
と。
その日記の中に、館の名前があった。
館は母親の父(つまり、兄弟にとっての祖父)の再婚相手に成りすましていた女で、兄弟の両親と同じ「悪夢を見せる力」を持っていた。母も祖父も館の悪夢に囚われていたが、当時近所に住んでいた父が二人を救ってくれたらしい。
その後、館は両親に過去の罪が暴かれ、警察に逮捕された。もし、彼女が当時のことで両親を恨んでいたとしたら、両親への復讐として悪夢を見せ、殺し合わせてもおかしくない。
「んだよ、それ……悪いのはこいつじゃないか!」
館の逆恨み、という真実にたどり着き、聖夜は拳でテーブルを叩いた。遊魔も口には出さないが、静かに怒りを募らせる。
あどけない少年達の心に、確かな殺意が芽生えた瞬間だった。
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