悪夢症候群

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
196 / 227
第4部 第2章「天使くんと悪魔くん」

第1話『少年ハッカー』前編

しおりを挟む




 夏の強い日差しが照りつける中、二人の男子中学生は木漏れ日が差す小道を駆けていく。鏡合わせのように顔がそっくりな、双子だった。
遊魔ゆうま、早く早く!」
「待ってよ、聖夜せいや!」
 活発そうな方が、内気そうな方を急かす。
 二人は汗だくで「日野ひの」と表札がかかっている自宅に着くと、玄関で靴を乱暴に脱ぎ捨てた。祖母はまだ帰ってきていないので、怒られる心配はない。
 冷蔵庫から瓶ジュースを二本取り、屋根裏にある子供部屋へ向かう。部屋には二人分の生活用品の他、して使い勝手を良くしたパソコンが二台置かれていた。
 聖夜と呼ばれた少年がパソコンを立ち上げている間に、遊魔と呼ばれた少年がカバンからメモリを取り出し、パソコンに接続する。
 メモリの読み込みが終わると、保存されていた膨大なデータが画面上に表示された。その中には、二人が探し求めていたデータもあった。
「"アクムツカイ殺人事件取材まとめ"……これだ!」
「これでやっと、父さんと母さんの死の真相が分かるんだね」
 二人は期待に目を輝かせた。



 日野聖夜・遊魔兄弟は、四年前に不可解な死を遂げた両親の死の真相について調べていた。
 当時の報道によると、両親は口論の末、互いに殺し合って死んだらしい。二人は大変仲が良く、今までケンカひとつしたことがなかった。
 世間は夫婦の心変わりを「まるでアクムツカイに悪夢を見せられたようだ」とウワサした。両親の事件が「アクムツカイ殺人事件」と呼ばれているのは、単に兄弟の父親が小説「悪夢使い」の作者だったからだけではなく、そういう由縁があってのことだった。
 兄弟の育ての親である父方の祖母は、事件の話をしたがらなかった。事件について詳しく知らないのもあったが、未だ息子夫婦の死のショックから立ち直れていない様子だった。兄弟が尋ねても、あからさまに話をすり替えられた。
 仕方なく、兄弟は自力で事件の真相を暴くと決めた。兄弟は祖母と同じく、事件についてほとんど何も知らなかった。事件があった時間、二人は小学校で授業を受けていて、家にはいなかった。
 兄弟は幼くして情報収集のスキルを磨き、表には出ていない情報をしらみつぶしに集め始めた。そして四年の月日を経て、遂に事件の真相に最も近い情報を手に入れたのだ。
 それが、某編集部のパソコンから盗み出した取材データ……今しがた、パソコンに挿入したメモリだった。課外授業で出版社を訪れた際、こっそりデータをコピーしておいたのだ。
 IT系雑誌の編集部だけあって、どのパソコンもセキュリティが頑丈だったが、コピーできたパソコンのセキュリティは半世紀も前の状態のままだった。どこの界隈にも機械オンチはいるのものだ。運が良かった、としか言いようがない。
 フォルダには、アクムツカイ殺人事件に関わる様々な取材データが保存されていた。大半はすでに報道された情報かさほど関わりのない情報だったが、ひとつだけ明らかになっていない重要な事実を見つけた。
 警察が両親のスマホを調べたところ、事件が起こる直前に非通知の電話がかかってきていた。
 電話の相手は「たち操江みさえ」。当時六十五歳、職業不詳の女だ。
 館はわざわざ公衆電話とスマホを同時に使い、夫婦に電話をかけていた。帽子を目深に被り、サングラスとマスクで顔を覆っていたが、逃走中にそれらの変装を取ってしまったため、周辺の監視カメラに素顔を撮影されてしまい、身元が割れた。
 館は当時、警察の調べに対し「空き巣に入ろうとして、電話をかけた」「夫婦とも電話に出たので諦めた」と明かしている。空き巣に入ろうとしたこと自体は立派な犯罪だが、アクムツカイ殺人事件には関係ないとして、報道はされなかった。
 だが、兄弟はその名前に見覚えがあった。
「館操江って……!」
「うん! 母さんの日記に書かれてたヤツだ!」
 兄弟の母親は子供の頃から日記を書いていた。悪夢をだの、悪夢で#
こらしめた__・__#だの、日記にしてはあまりに突拍子もない内容だったため、警察は作り話だと思い込み、大して調べもせず返却してきた。
 だが、兄弟は日記の内容が全て事実だと分かっていた。生前、母が話していたのだ。
「お父さんとお母さんにはね、他人に悪夢を見せる力があるのよ」
 と。
 その日記の中に、館の名前があった。
 館は母親の父(つまり、兄弟にとっての祖父)の再婚相手に女で、兄弟の両親と同じ「悪夢を見せる力」を持っていた。母も祖父も館の悪夢に囚われていたが、当時近所に住んでいた父が二人を救ってくれたらしい。
 その後、館は両親に過去の罪が暴かれ、警察に逮捕された。もし、彼女が当時のことで両親を恨んでいたとしたら、両親への復讐として悪夢を見せ、殺し合わせてもおかしくない。
「んだよ、それ……悪いのはこいつじゃないか!」
 館の逆恨み、という真実にたどり着き、聖夜は拳でテーブルを叩いた。遊魔も口には出さないが、静かに怒りを募らせる。
 あどけない少年達の心に、確かな殺意が芽生えた瞬間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

呟怖あつめ

山岸マロニィ
ホラー
━━━━━━━━━━━━━━━      呟怖ORG.加入       呟コラOK ご希望の方は一声お掛けください ━━━━━━━━━━━━━━━ #呟怖 タグでTwitterに掲載したものをまとめました。 #このお題で呟怖をください タグのお題をお借りしています。 ── 呟怖とは ── 136文字以内の恐怖文芸。 【お題】…TL上で提供されるテーマに沿って考えたもの 【お題*】…自分が提供したお題 【自題】…お題に関係なく考えたネタ ※表紙画像は、SNAO様(pixiv)のフリー素材作品を利用しております。 ※お題の画像は、@kwaidanbattle様 または フリー素材サイト(主にPAKUTASO様、photoAC様)よりお借りしたもの、もしくは、自分で撮影し加工したものを使用しております。 ※お題によっては、著作権の都合上、イメージ画像を変更している場合がございます。 ※Twitterから転載する際の修正(段落等)により、文字数がはみ出す場合もあります。 ■続編『呟怖あつめ【おかわり】』の連載を開始しました。  そちらも良しなに。 ノベルデイズ他でも公開しています。

二番目の弱者

目黒サイファ
ホラー
いつも学校でいじめられているニシハラ君とボクは同じクラスメイトだ。ニシハラ君へのいじめは習慣化されていて、誰も止める人はいなかった。ボクも傍観者の一人である。深夜、ボクが町を徘徊していると、不気味な格好をしてニシハラ君を発見してしまった。そこから、ボクの日常が崩れていく。日常に潜む恐怖が顕現するショートショート集。※感想をお待ちしています。

夏目の怖いかもしれない日常

夏目晶
ホラー
ホラー作家夏目のちょっと不思議でちょっと怖いかもしれない毎日の話。 ちなみに「零感」です。 ツイッ○ーで突発的に語られるものからの再掲です。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

グループディスカッション

cheeery
ホラー
20XX年に発令された『クリエイティブ社会向上法』 これは、労働力よりも創造的、独創的なアイデアを持つ人達を重要視し、社会的な向上を図るための制度であるが、それは表向きの法令だった。 実際は、クリエイティブ性の無いもの排除。 全国の大学4年生を集めて、生死をかけた戦いが始まる。 審査は複数で討論を行うグループディスカッション。 それぞれグループになり指定された討論について話し合う。話し合いの内容、発言、行動を見て平等に点数を付けていく。 0点を取ったら待っているものは死ーー。 仕切るか、奪うか、裏切るか、ひっくり返すか それぞれの方法で点数を稼げ。 ~さあ、話し合え~

婚約者の形見としてもらった日記帳が気持ち悪い

七辻ゆゆ
ファンタジー
好きでもないが政略として婚約していた王子が亡くなり、王妃に押し付けられるように形見の日記帳を受け取ったルアニッチェ。 その内容はルアニッチェに執着する気持ちの悪いもので、手元から離そうとするのに、何度も戻ってきてしまう。そんなとき、王子の愛人だった女性が訪ねてきて、王子の形見が欲しいと言う。 (※ストーリーはホラーですが、異世界要素があるものはカテゴリエラーになるとのことなので、ファンタジーカテゴリにしています)

恐怖日和

黒駒臣
ホラー
ちょっとした怖い話 *他サイトに投稿した自作品を改訂、再投稿 *暴力・グロ・残酷描写等あり、閲覧注意 *15R

カミシロ様

かがみゆえ
ホラー
 中学二年生の万夏《マナツ》と秋乃《アキノ》は双子の兄妹。  二人には6年前に行方不明になった姉・来々美《ココミ》がいた。  ある日、来々美に似た人物の目撃情報を得た秋乃は真相を確かめようとカミシロ山へと足を踏み入れる。  カミシロ山は《男子禁制》の山で男性が足を踏み入れるとその者は呪われると言われていた。  秋乃がカミシロ山へ向かったことを悟った万夏は自分が男でも構わず急いで秋乃の後を追い、祠の前で秋乃を発見する。  目撃されたのが来々美なのか確かめたい秋乃と一刻もカミシロ山から離れたい万夏が祠の前で言い合いをしていると、突然辺りが光に包まれて意識を失う二人。  次に万夏が目を覚ました時、近くに秋乃の姿はなかった。  その日、万夏は来々美だけでなく秋乃もいなくなってしまうのだった。  双子の兄妹が主人公のホラー小説です。  ホラーゲームのような展開を目指して執筆していきます。 ⚠️この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 .

処理中です...