心の落とし物

緋色刹那

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最終編『蛍火明滅、〈探し人〉のゆく先』

第五話「花屋・Alraune(アルラウネ)」⑵

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「ご乗車、ありがとうございました。まもなく、未練病院前です。お忘れ物のないよう、ご注意ください」
 〈探し人〉の車掌のアナウンスがあったのち、路面電車は止まる。病院だろうか、停留所の前には煌々と明かりを放つ巨大な建物がそびえ立っていた。
 乗客達は電車を降り、巨大な建物の中へゾロゾロと入っていく。由良とナナコも路面電車の外へ出た。
「これが……病院?」
 呆然と、建物を見上げる。
 それは膨大な数の病院をブロックのように積み上げてできた城だった。巨大すぎて、上の方は見えない。どの病院も古く、明治から昭和あたりの建物だ。
 ワスレナ診療所の場所は、大通りの停留所でマネキンの駅員に訊いた。駅員は「未練病院群にある」「詳しい位置は現地で訊いてください」とだけ答え、去っていった。
「病院の場所を教えるだけなのに、妙にはぐらかされるなと思っていたけれど……これじゃあ、教えようがないわね」
「すごい。病院って、ずいぶんへんてこな建物なんですね」
「へんてこなのは、ここだけですよ。本来は、あのパーツひとつひとつが独立して建っているんです。きっと、ワスレナ診療所もあの城の一部になっているはずです」
「見つかるかしら……」
 ナナコは不安そうに、顔を曇らせる。
 魔女の家行きのバスは見送った。ナナコをワスレナ診療所まで送り届けると約束した以上、この場で彼女と別れるわけにはいかない。



 教えてもらったとおり、花屋「Alraune」は停留所の右手を少し進んだ先に建っていた。他に建物はなく、閑散としている。
 花屋は黄緑色の壁のこじんまりとした洋館で、色とりどりの花や木、ハーブなどが店先に飾られている。店の裏はガラス張りの植物園になっており、名も知らぬ植物がジャングルのように生い茂っていた。
「こんばんは……」
 軋む木のドアを開き、中へ入る。
 店内は足の踏み場もないほどの大量の植物で埋め尽くされていた。いずれの植物にも手入れが行き届いており、みずみずしく咲き誇っている。
 由良とナナコの他に客はおらず、店員も見当たらない。
「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか?」
「はい、ここに」
 奥のドアに向かって声をかけたところ、真横から声が聞こえた。
「うわっ?!」
「ひっ?!」
 由良とナナコは驚き、後ずさる。
 サボテンと壁の間からひょこっと、花柄のエプロンをした小柄なおばあさんが顔を出した。大きさが自身の半分くらいのジョウロを、両手で抱えている。
「いらっしゃいませ。すみません、水やりに夢中で気づきませんでした」
「いえ、こちらこそ勝手にお邪魔して申し訳ありません。お店の方ですか?」
「えぇ。タナハシと申します。本日はどのようなものをお探しで?」
 ナナコは戸惑った様子で、店内を見回した。
「お見舞い用のお花をいただきたいのですが……どれがいいんでしょうか?」
「たくさん種類がありますものね。私も時々、どこに何の花を置いたか忘れてしまいます。お見舞いに贈られるなら、香りが強い花や鉢植えは避けた方がよろしいでしょう。それから、死や苦痛といった不吉な物事を連想をするものも」
 タナハシはナナコを連れ、店にある花をいろいろ紹介していく。
 花選びはナナコに任せ、由良もひとりで店内を見て回った。〈未練溜まり〉の花屋とあって、普通ではない花が多い。音の鳴るスズラン、食べられるカルミアやチョコレートコスモス、本物の時計のように雌しべが動いているトケイソウなど売っていた。
「このトケイソウ、時計なんですか?」
「えぇ。時刻も正確ですよ」
 トケイソウは三時を指している。
 戻るタイムリミットまで、残り半分。それまでにナナコを送り届け、祖母を見つけ出さなくてはならない。由良は半ば諦めていた。
(行き方は覚えた。間に合わなければ、また来ればいい)
 未練街に来てから、携帯電話の調子が悪い。由良は時計代わりにトケイソウを購入した。


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