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冬編②『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』
第二話「液晶に映るハレスガタ」⑴
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渡来屋にマッチを渡した帰り道。
由良はふと、双子の赤い着物から思い出したことがあった。
「そういえば、成人式って来月だっけ」
来年は茅田を含め、アルバイトの何人かが成人を迎える。皆、着ていく着物は既に予約しており、後は式を待つばかりらしい。
従業員が成人になることは、由良にとっても身内のことのように喜ばしかった。同時に、今年の成人の日に起こったある出来事を思い出し、不安を覚えた。
「中林さん……来年は大丈夫かな」
その日、LAMPは成人式帰りの新成人達で賑わっていた。外で冷えきった体を温めようと、口々に温かい飲み物を注文する。ストーブの前で手をかざしている者もいた。
皆、きらびやかな振袖や真新しいスーツを纏っている。おかげで、いつもよりLAMPの店内が華やかに見えた。
「お待たせしました。苺とラズベリーの生クリームフルーツサンドと、いちごジャム入りロシアンティーのセットでございます」
由良が注文の品を運んでくると、振袖を着た二人組の女子は歓声を上げた。
「ちっちゃくて可愛い!」
「食べるのもったいないよー」
フルーツサンドはいつもと違い、ひと口サイズにカットしてあった。口紅がつかないようにと成人の日限定で行なっているサービスで、メイクの有無に関わらず「食べやすい」と好評だった。
また、ロシアンティーに入れるジャムは、おままごとで使うような小さな瓶に入っていた。ルビーを溶かしたように真っ赤な苺ジャムが、透明なガラスのジャム瓶の中で輝いている。別添えなので好みの量に調節できる上、余ったら持ち帰ってもいいことになっていた。
「紅茶のおかわりは半額で承っておりますので、お気軽にお申し付け下さい」
「やった! 半額だって!」
「帯がキツくなっちゃうから、ほどほどにしないとね」
そこへ、
「由良さーん、おかわりくーださい!」
と、常連客の真冬が文字通り"気軽に"おかわりを頼んできた。成人式帰りの客に混じり、カウンターでおやつを食べていたのだ。
「真冬さん……これで何杯目ですか?」
由良はカウンターを見て、呆れる。
どうやら真冬はおやつのピザサンドを食べた後、ひたすらロシアンティーばかりを飲んでいたらしい。彼女の前にはカラになったジャム瓶が三本、整然と並んでいた。
「んー、十杯くらいですかね」
「お腹、キツくないですか?」
「ゴムのスカートを履いてるので平気です。いくらでも飲めます」
「……そんなに振袖を見るのが楽しいですか?」
「はい!」
真冬は目をキラキラと輝かせ、頷いた。
今日彼女がLAMPへ来たのは新成人の振袖を見るためだった。現在、高校一年生の真冬もあと数年すれば成人になる。それに向けてリサーチ……というより、単純に暇だったから来たらしい。
「お花畑みたいで綺麗じゃないですかー。私も早く振袖を着て、成人式に出たいです」
「真冬さんはどんな振袖を着たいんですか?」
「もちろん、雪ちゃんの柄の振袖に決まってます!」
真冬は断言した。
雪だるま柄の振袖など見たことがない。探せばあるかもしれないが、少なくとも由良は覚えがなかった。
「売ってますかね? 雪だるまの振袖」
「無ければ、特注で作ってもらいます! そのためならいくらお金を払っても、惜しくはありません!」
「そ、そうですか。真冬さんがどんな振袖を着るのか楽しみにしてます」
「そう言う由良さんは、どんな振袖を着て成人式に参加したんですか?」
「私ですか?」
由良は十数年前に行った成人式を思い浮かべ、苦笑した。
「お金をかけたくなかったので、就活用のスーツで行きましたよ。一緒に行った友人は振袖でしたけど。レンタルで借りたり、母親からお下がりをもらったりしていました」
「その時のお友達って、もしかして日向子さんと珠緒さんですか?」
「えぇ。日向子は黄色いひまわり柄の振袖、珠緒は藤色の手毬柄の振袖でした。あの日は大変でしたよ……日向子は髪型が決まらないし、珠緒は寝坊するしで、遅刻ギリギリだったんですから。真冬さんも、当日は余裕をもって準備した方がいいですよ」
「うっす! 勉強になります!」
真冬はメモ帳に「成人式の日は、遅刻は絶対ダメ!」と書き記した。遅刻をしてはいけないのは、成人式に限った話ではないのだが。
由良はふと、双子の赤い着物から思い出したことがあった。
「そういえば、成人式って来月だっけ」
来年は茅田を含め、アルバイトの何人かが成人を迎える。皆、着ていく着物は既に予約しており、後は式を待つばかりらしい。
従業員が成人になることは、由良にとっても身内のことのように喜ばしかった。同時に、今年の成人の日に起こったある出来事を思い出し、不安を覚えた。
「中林さん……来年は大丈夫かな」
その日、LAMPは成人式帰りの新成人達で賑わっていた。外で冷えきった体を温めようと、口々に温かい飲み物を注文する。ストーブの前で手をかざしている者もいた。
皆、きらびやかな振袖や真新しいスーツを纏っている。おかげで、いつもよりLAMPの店内が華やかに見えた。
「お待たせしました。苺とラズベリーの生クリームフルーツサンドと、いちごジャム入りロシアンティーのセットでございます」
由良が注文の品を運んでくると、振袖を着た二人組の女子は歓声を上げた。
「ちっちゃくて可愛い!」
「食べるのもったいないよー」
フルーツサンドはいつもと違い、ひと口サイズにカットしてあった。口紅がつかないようにと成人の日限定で行なっているサービスで、メイクの有無に関わらず「食べやすい」と好評だった。
また、ロシアンティーに入れるジャムは、おままごとで使うような小さな瓶に入っていた。ルビーを溶かしたように真っ赤な苺ジャムが、透明なガラスのジャム瓶の中で輝いている。別添えなので好みの量に調節できる上、余ったら持ち帰ってもいいことになっていた。
「紅茶のおかわりは半額で承っておりますので、お気軽にお申し付け下さい」
「やった! 半額だって!」
「帯がキツくなっちゃうから、ほどほどにしないとね」
そこへ、
「由良さーん、おかわりくーださい!」
と、常連客の真冬が文字通り"気軽に"おかわりを頼んできた。成人式帰りの客に混じり、カウンターでおやつを食べていたのだ。
「真冬さん……これで何杯目ですか?」
由良はカウンターを見て、呆れる。
どうやら真冬はおやつのピザサンドを食べた後、ひたすらロシアンティーばかりを飲んでいたらしい。彼女の前にはカラになったジャム瓶が三本、整然と並んでいた。
「んー、十杯くらいですかね」
「お腹、キツくないですか?」
「ゴムのスカートを履いてるので平気です。いくらでも飲めます」
「……そんなに振袖を見るのが楽しいですか?」
「はい!」
真冬は目をキラキラと輝かせ、頷いた。
今日彼女がLAMPへ来たのは新成人の振袖を見るためだった。現在、高校一年生の真冬もあと数年すれば成人になる。それに向けてリサーチ……というより、単純に暇だったから来たらしい。
「お花畑みたいで綺麗じゃないですかー。私も早く振袖を着て、成人式に出たいです」
「真冬さんはどんな振袖を着たいんですか?」
「もちろん、雪ちゃんの柄の振袖に決まってます!」
真冬は断言した。
雪だるま柄の振袖など見たことがない。探せばあるかもしれないが、少なくとも由良は覚えがなかった。
「売ってますかね? 雪だるまの振袖」
「無ければ、特注で作ってもらいます! そのためならいくらお金を払っても、惜しくはありません!」
「そ、そうですか。真冬さんがどんな振袖を着るのか楽しみにしてます」
「そう言う由良さんは、どんな振袖を着て成人式に参加したんですか?」
「私ですか?」
由良は十数年前に行った成人式を思い浮かべ、苦笑した。
「お金をかけたくなかったので、就活用のスーツで行きましたよ。一緒に行った友人は振袖でしたけど。レンタルで借りたり、母親からお下がりをもらったりしていました」
「その時のお友達って、もしかして日向子さんと珠緒さんですか?」
「えぇ。日向子は黄色いひまわり柄の振袖、珠緒は藤色の手毬柄の振袖でした。あの日は大変でしたよ……日向子は髪型が決まらないし、珠緒は寝坊するしで、遅刻ギリギリだったんですから。真冬さんも、当日は余裕をもって準備した方がいいですよ」
「うっす! 勉強になります!」
真冬はメモ帳に「成人式の日は、遅刻は絶対ダメ!」と書き記した。遅刻をしてはいけないのは、成人式に限った話ではないのだが。
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