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冬編②『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』
第一話「燐寸と双子とルビー」⑷
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「いらっしゃいませ」
「ようこそ、渡来屋へ」
由良は約束していた品を手に、再び渡来屋のもとを訪れた。
屋根裏部屋のドアを開くと、双子が初めて会った時と同じようにふくみのある笑みを浮かべ、由良を出迎えた。
「良かった。間に合った」
由良はホッと胸を撫で下ろすと、棚にもたれかかって手紙を読んでいた渡来屋に約束の品を渡した。
「はい、LAMPのマッチ」
「ほぉ……マッチを電球に見立てたのか。結構凝っているじゃないか」
「お店でも販売したかったので、こだわって作らせていただきました。それから、貴方達にはこれを」
続けて、由良はマッチと一緒に持ってきた二つの包みを双子にそれぞれ渡した。
「なぁに、これ?」
「お菓子よ。マッチの代わりに持って来るって約束してたでしょう?」
「開けていい?」
「どうぞ」
双子はビリビリと包装紙を破き、中に入っていた土産を取り出す。
それは子供が両手で抱えられるくらいの大きさのLAMPのマッチ箱だった。渡来屋に渡したものよりも縦長で、厚みがある。例えるならお菓子の箱に近かった。
「大きなマッチ箱だわ」
「それに重いわ」
「振っても、カサカサ音がしないわ」
「代わりに、隙間から甘い香りがするわ」
双子は訝しみつつも、箱を開ける。
棒が見えたので引き抜くと、それは大きくて丸いりんご飴だった。真っ赤に色付けされた表面がフローライトの赤い光を反射し、つやつやと輝く。
りんご飴を目にした瞬間、双子の瞳もキラキラと輝いた。
「ルビーだわ!」
「私達が探していたルビーだわ!」
「赤くてまん丸で、ピカピカ光っているわ!」
「やっぱり見間違いじゃあなかったのよ!」
両手でりんご飴を掲げ、由良の周りをぐるぐると嬉しそうに回る。
今までで一番、年相応の反応をしていた。
「どうしてりんご飴だと分かった?」
渡来屋はりんご飴が入っていた箱を手に取り、尋ねてくる。心なしか、由良に先を越されて悔しそうに見えた。
「マッチを見ているうちに気がついたの。私も初めてりんご飴を見た時、作り物だと勘違いしたから。オータムフェスでも屋台が出てたし、この子達もそう思ったんじゃないかなって」
「なるほど、食い物とは思わなかったな。親は買ってくれなかったのか?」
双子は「そうなの!」と声を揃え、むくれた。
「お父様もお母様も買って下さらなかったのよ!」
「屋台の食べ物は不衛生だからダメって! ルビーは食べ物じゃないのに!」
「これは食べ物なんだけどなぁ」
双子はまだりんご飴が宝石だと信じているらしい。
由良はその純粋さに呆れながらも、「ちょっとかじってみたら?」と双子に言った。
「それはりんご飴って言ってね、りんごに飴をまとわせているの。ちょっと硬いけど、甘くて美味しいよ」
「本当?」
「宝石じゃないの?」
「違う、違う」
双子は不安そうに顔を見合わせる。
そして半信半疑でりんご飴に歯を立て、思い切りかじりついた。飴の甘味とりんごの酸味が、口の中に広がる。不安げだった二人の顔は、パッと華やいだ。
「本当だ、甘い!」
「美味しい!」
「ね、言ったでしょ? 食べ物だって」
「うん。疑ってごめんなさい」
「こんなに綺麗で甘くて美味しいなんて、素敵ね」
双子は夢中でりんご飴にかじりつく。
これくらいの年の子供は大抵途中で食べ飽きてしまうが、双子は最後まで食べ切り、仕舞いには芯まで食べようとした。
「あぁ、美味しかった!」
「これはお姉さんのお店に売っているの?」
「うん。箱はテイクアウト限定だけどね」
「それなら、今度はお姉さんのお店に食べに行くわ!」
「屋台じゃないから、お父様もお母様も買うのを許して下さるだろうし!」
「それまで箱はお姉さんが持っていてくれる?」
「絶対にお店まで取りに行くから!」
双子は満面の笑みを残し、屋根裏部屋から消えた。
二人がいなくなった屋根裏部屋は、前よりも広く感じた。
「なぁ、俺の分はないのか?」
渡来屋は双子が消えたことには触れず、不満そうに尋ねてくる。由良よりもずっと長く彼女達と一緒にいたのだ、内心では寂しく思っているのかもしれない。
由良もあえて指摘せず、聞き返した。
「食べたいの? りんご飴」
「あぁ。このまま禁煙していないと、誰かさんがうるさそうだからな。口寂しさを紛らわしたいんだよ」
「ふーん」
由良は渡来屋から懐虫電燈のマッチを受け取ると、
「りんご飴は今度来た時に持ってくる」
と新たに約束を交わし、二つの空き箱を手に屋根裏部屋を後にした。
『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』第一話「燐寸と双子とルビー」終わり
「ようこそ、渡来屋へ」
由良は約束していた品を手に、再び渡来屋のもとを訪れた。
屋根裏部屋のドアを開くと、双子が初めて会った時と同じようにふくみのある笑みを浮かべ、由良を出迎えた。
「良かった。間に合った」
由良はホッと胸を撫で下ろすと、棚にもたれかかって手紙を読んでいた渡来屋に約束の品を渡した。
「はい、LAMPのマッチ」
「ほぉ……マッチを電球に見立てたのか。結構凝っているじゃないか」
「お店でも販売したかったので、こだわって作らせていただきました。それから、貴方達にはこれを」
続けて、由良はマッチと一緒に持ってきた二つの包みを双子にそれぞれ渡した。
「なぁに、これ?」
「お菓子よ。マッチの代わりに持って来るって約束してたでしょう?」
「開けていい?」
「どうぞ」
双子はビリビリと包装紙を破き、中に入っていた土産を取り出す。
それは子供が両手で抱えられるくらいの大きさのLAMPのマッチ箱だった。渡来屋に渡したものよりも縦長で、厚みがある。例えるならお菓子の箱に近かった。
「大きなマッチ箱だわ」
「それに重いわ」
「振っても、カサカサ音がしないわ」
「代わりに、隙間から甘い香りがするわ」
双子は訝しみつつも、箱を開ける。
棒が見えたので引き抜くと、それは大きくて丸いりんご飴だった。真っ赤に色付けされた表面がフローライトの赤い光を反射し、つやつやと輝く。
りんご飴を目にした瞬間、双子の瞳もキラキラと輝いた。
「ルビーだわ!」
「私達が探していたルビーだわ!」
「赤くてまん丸で、ピカピカ光っているわ!」
「やっぱり見間違いじゃあなかったのよ!」
両手でりんご飴を掲げ、由良の周りをぐるぐると嬉しそうに回る。
今までで一番、年相応の反応をしていた。
「どうしてりんご飴だと分かった?」
渡来屋はりんご飴が入っていた箱を手に取り、尋ねてくる。心なしか、由良に先を越されて悔しそうに見えた。
「マッチを見ているうちに気がついたの。私も初めてりんご飴を見た時、作り物だと勘違いしたから。オータムフェスでも屋台が出てたし、この子達もそう思ったんじゃないかなって」
「なるほど、食い物とは思わなかったな。親は買ってくれなかったのか?」
双子は「そうなの!」と声を揃え、むくれた。
「お父様もお母様も買って下さらなかったのよ!」
「屋台の食べ物は不衛生だからダメって! ルビーは食べ物じゃないのに!」
「これは食べ物なんだけどなぁ」
双子はまだりんご飴が宝石だと信じているらしい。
由良はその純粋さに呆れながらも、「ちょっとかじってみたら?」と双子に言った。
「それはりんご飴って言ってね、りんごに飴をまとわせているの。ちょっと硬いけど、甘くて美味しいよ」
「本当?」
「宝石じゃないの?」
「違う、違う」
双子は不安そうに顔を見合わせる。
そして半信半疑でりんご飴に歯を立て、思い切りかじりついた。飴の甘味とりんごの酸味が、口の中に広がる。不安げだった二人の顔は、パッと華やいだ。
「本当だ、甘い!」
「美味しい!」
「ね、言ったでしょ? 食べ物だって」
「うん。疑ってごめんなさい」
「こんなに綺麗で甘くて美味しいなんて、素敵ね」
双子は夢中でりんご飴にかじりつく。
これくらいの年の子供は大抵途中で食べ飽きてしまうが、双子は最後まで食べ切り、仕舞いには芯まで食べようとした。
「あぁ、美味しかった!」
「これはお姉さんのお店に売っているの?」
「うん。箱はテイクアウト限定だけどね」
「それなら、今度はお姉さんのお店に食べに行くわ!」
「屋台じゃないから、お父様もお母様も買うのを許して下さるだろうし!」
「それまで箱はお姉さんが持っていてくれる?」
「絶対にお店まで取りに行くから!」
双子は満面の笑みを残し、屋根裏部屋から消えた。
二人がいなくなった屋根裏部屋は、前よりも広く感じた。
「なぁ、俺の分はないのか?」
渡来屋は双子が消えたことには触れず、不満そうに尋ねてくる。由良よりもずっと長く彼女達と一緒にいたのだ、内心では寂しく思っているのかもしれない。
由良もあえて指摘せず、聞き返した。
「食べたいの? りんご飴」
「あぁ。このまま禁煙していないと、誰かさんがうるさそうだからな。口寂しさを紛らわしたいんだよ」
「ふーん」
由良は渡来屋から懐虫電燈のマッチを受け取ると、
「りんご飴は今度来た時に持ってくる」
と新たに約束を交わし、二つの空き箱を手に屋根裏部屋を後にした。
『行く年来る年、ぬくもりは紅玉(ルビィ)色』第一話「燐寸と双子とルビー」終わり
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