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秋編①『紅葉散り散り、夕暮れ色』
第三話「過去のヒト」⑴
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「な……」
由良は目の前で客の男、紅葉谷が消え、愕然とした。彼が〈探し人〉だったとは、全く気づかなかった。
「買ったことを忘れるなんてパターン、あるの?」
「私はよくあるよー。在庫なんかいちいち気にしないし」
「アンタは気にしなきゃダメでしょ、珠緒」
由良はプロ意識の低い珠緒にダメ出しする。
珠緒が気づかなかったことも、由良が紅葉谷を〈探し人〉だと見抜けなかった要因の一つだった。
「何で言ってくれなかったのよ。私がずっと一人でしゃべってて、変だと思わなかったの?」
「ごめん。時差ボケで眠くて、ボーッとしてた。また出たの? 〈探し人〉」
珠緒は由良が体質を打ち明けている、数少ない人間の一人だった。
しかし、日向子や中林のように〈心の落とし物〉や〈探し人〉に興味があるわけではなく、由良が一人でしゃべっていても何ら違和感も持たない、鈍感な人間だった。
「ついさっき消えたわ。うちの店の常連さんで、そのサインを書いた人。だからてっきり、本人がオータムフェスに来てるとばかり思って、ここまで案内してきたのよ」
「へぇー、大変だったね。ご苦労様。ついでに商品、見てけば? いいの揃ってるよ」
「はぁ……そうするわ」
由良は深くため息を吐いた後、商品を見て回った。紅葉谷の〈探し人〉に振り回されたせいで、ひどく疲れていた。
中東へ買い付けしに行っただけあって、アラビアンな雑貨や絨毯などが目についたが、中には由良が探していた落ち着いた風合いのマグカップや湯呑みといった和風の商品も置かれていた。由良はカゴいっぱいに商品を入れ、レジへ持っていった。
「後で車で取りに来るから、店に置いといて」
「りょーかい。せっかくだし、チャイでも飲んでく? 面白いティーポット買ったから、試したいんだー」
そう言って珠緒が見せたのは、アラジンに登場する魔法のランプの形の、ティーポットだった。窓から差し込んだ日光を反射し、金色に輝いている。
金メッキかと思いきや、持ち上げてみるとかなりの重量があった。
「これ……もしかして、金で出来てるの?」
「うん」
「……いくらしたの?」
「えっとねー、大幅に値引きしてもらったからぁ……」
珠緒が口にした値段に、由良はひっくり返りそうになった。適正価格には違いなかったが、普段使い用のティーポットの値段ではなかった。
「そんな額払うなら、いっそ喫茶店を始めた方がマシよ」
「そう? じゃあ始めてみよっかなー、喫茶店」
「……やっぱ、なし。アンタが喫茶店を始めたら、うちの客が取られるかもしれない」
「えー。面白そうだと思ったのにー」
珠緒は不満そうに唇の先を尖らせた。
由良は目の前で客の男、紅葉谷が消え、愕然とした。彼が〈探し人〉だったとは、全く気づかなかった。
「買ったことを忘れるなんてパターン、あるの?」
「私はよくあるよー。在庫なんかいちいち気にしないし」
「アンタは気にしなきゃダメでしょ、珠緒」
由良はプロ意識の低い珠緒にダメ出しする。
珠緒が気づかなかったことも、由良が紅葉谷を〈探し人〉だと見抜けなかった要因の一つだった。
「何で言ってくれなかったのよ。私がずっと一人でしゃべってて、変だと思わなかったの?」
「ごめん。時差ボケで眠くて、ボーッとしてた。また出たの? 〈探し人〉」
珠緒は由良が体質を打ち明けている、数少ない人間の一人だった。
しかし、日向子や中林のように〈心の落とし物〉や〈探し人〉に興味があるわけではなく、由良が一人でしゃべっていても何ら違和感も持たない、鈍感な人間だった。
「ついさっき消えたわ。うちの店の常連さんで、そのサインを書いた人。だからてっきり、本人がオータムフェスに来てるとばかり思って、ここまで案内してきたのよ」
「へぇー、大変だったね。ご苦労様。ついでに商品、見てけば? いいの揃ってるよ」
「はぁ……そうするわ」
由良は深くため息を吐いた後、商品を見て回った。紅葉谷の〈探し人〉に振り回されたせいで、ひどく疲れていた。
中東へ買い付けしに行っただけあって、アラビアンな雑貨や絨毯などが目についたが、中には由良が探していた落ち着いた風合いのマグカップや湯呑みといった和風の商品も置かれていた。由良はカゴいっぱいに商品を入れ、レジへ持っていった。
「後で車で取りに来るから、店に置いといて」
「りょーかい。せっかくだし、チャイでも飲んでく? 面白いティーポット買ったから、試したいんだー」
そう言って珠緒が見せたのは、アラジンに登場する魔法のランプの形の、ティーポットだった。窓から差し込んだ日光を反射し、金色に輝いている。
金メッキかと思いきや、持ち上げてみるとかなりの重量があった。
「これ……もしかして、金で出来てるの?」
「うん」
「……いくらしたの?」
「えっとねー、大幅に値引きしてもらったからぁ……」
珠緒が口にした値段に、由良はひっくり返りそうになった。適正価格には違いなかったが、普段使い用のティーポットの値段ではなかった。
「そんな額払うなら、いっそ喫茶店を始めた方がマシよ」
「そう? じゃあ始めてみよっかなー、喫茶店」
「……やっぱ、なし。アンタが喫茶店を始めたら、うちの客が取られるかもしれない」
「えー。面白そうだと思ったのにー」
珠緒は不満そうに唇の先を尖らせた。
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