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夏編①『夏の太陽、檸檬色』
第一話「ホンを探す男性」⑴
しおりを挟む〈心の落とし物〉はありませんか?
どこで失くしたかも分からない物
ずっと居場所を探している人
過去の後悔
忘れていた夢
あなたは忘れているつもりでも
あなたの「心」が、あなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
「あ……」
由良は窓越しに、見覚えのある男性が店の前にいるのを見つけ、思わず声をもらした。
二十代前半くらいの若い男性で、今朝から何度も店の前を通っていた。もうかれこれ、二時間以上経つ。
男性は不安そうに周りをきょろきょろと見回しながら、由良がいる店の前を通り過ぎていった。
(あの人、今朝も店の前を通ったな。道に迷ってるのかも)
由良は駅前の大通り沿いに店を構える喫茶店、LAMPの店長だった。レトロで落ち着いた内装、美味しいコーヒー、季節限定のスイーツが評判を呼び、隠れた人気店となっている。
その日も数人の客が席を埋めていたが、由良はどうしても先程の男性を放っておけなかった。
「ちょっと出てくるわ」
とアルバイトに店を任せ、外へ飛び出す。ドアを開けた瞬間、夏独特のぬるい風が吹き込んだ。
この界隈は観光地から近く、平日休日問わず観光客で賑わっている。中には、道に迷って一日を無為に過ごす者もいた。
生まれも育ちも地元である由良はそのことを不憫に思い、自主的に道案内を買って出るようにしていた。
「あの、どこかお探しですか?」
由良は男性を追いかけ、声をかける。
男性は不安そうな面持ちのまま振り返った。真夏だというのに、不思議と汗一つかいていなかった。
「えぇ。知の蔵という古本屋を探しているんですけど、見当たらなくて……」
「知の蔵さんなら、何年か前にあちらの洋燈商店街へ移転されましたよ」
由良は大通りを挟んだ向かいにある商店街を、手で示した。
「今は言の葉の森という店名に変わり、お孫さんが経営なさっているんです。あの道を真っ直ぐ進んで、右手にありますよ」
「ははぁ……なるほど、そうだったんですか。どうりで、いくら探しても見つからないはずだ」
男性は商店街に目を向け、拍子抜けした様子で息を吐いた。
そして由良に向き直り、深々と頭を下げた。
「教えて下さり、ありがとうございます。おかげで、大事な本を見つけられそうです」
「いえいえ。こちらこそ、お役に立てて嬉しいです」
由良もほっと胸を撫で下ろし、男性に会釈する。
その、ほんのわずかに目を離した隙に、男性は由良の前から消えていた。辺りを見回し探すが、どこにもいない。
「……またか」
由良は呆れ、ため息をついた。
この不可思議な状況に慣れているのか、それ以上男性を探すことなく、踵を返して店に戻っていった。
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