43 / 58
第42話 焦り(レゼッタ視点)
しおりを挟む
お母様が新しく何人かメイドを雇ってきた。なんて言って引き抜いたかは知らないけど工場で働く事には皆驚きの顔を浮かべていた。お母様が怒りながらあれこれ指示を出すとようやく動いてくれた。全く使えない奴らばかりだ。どうせ魔力は私よりかはあるくせに。
私は変わらず聖女としての努めに励んでいる。今日も私を求めてあちこちから人々が屋敷に訪れている。相手するのは面倒だけどそうは言っていられない。
「お次の方、どうぞ……」
次に入室してきたのはなんと全身膿だらけの汚い中年男だった。あまりの汚さと異臭さに思わず扇子で顔を隠してしまう。しかもこの男、にやにやと笑いを浮かべているのだ。
「聖女様のご加護を……」
「この膿を治せば良いのね?」
私はすぐに魔法薬を椅子の左横にあるテーブルから取ろうとしたが男は待て。と制する。何よ、何なのよほんと気持ち悪い……。
「聖女様が直に触れて拭ってくれなければ治らないと、神からのお告げだ」
「は、はあ?」
直に膿に触れる? そんな事出来る訳が無い。嫌よ触りたくなんか無いわよ。
「嫌よ。触りたく無いわ! 馬鹿にしないで!」
私は男から距離を取った。すると男は尚も歩いて距離を詰めてくる。その間にも膿が赤い絨毯にぽとりぽとりと滴り落ちる。
「嫌! 近寄らないで!」
私は怖くなり魔法薬を男に向けてぶち撒けた。魔法薬を掛ければ治る。これまでだってそうだった。
しかし、三分の一は治ったが三分の二はそのままだ。完全には治りきっていない。
「言った通りだろう。聖女が手で直に拭ってくれないと治らないと神はいった」
「嘘よ! 近寄らないで! 私の傍に近寄るなあああああああ!! 執事! 早く連れ出せええ!!」
執事に男を連れ出すよう命令しても固まって中々動こうとしない。結局私は走って大広間から離れて自室に入り鍵を掛けた。ここならやってこないだろう。
「はあっ……はあっ……」
鍵はかけた。この鍵には魔術的な効果もあるとお母様が言っていた。だから大丈夫なはずだ。するとどこからか悲鳴が上る。悲鳴の元になったのはあの男だろう。
しばらく部屋の扉の前で身を潜めているとドア越しに執事とお母様の声が聞こえた。
「レゼッタ、もう大丈夫よ」
「お嬢様、もうあの男は出ていきました。ご安心ください」
鍵を解除しおそるおそる扉を開ける。扉の前にはお母様と執事が心配そうに立っていた。私は思わずお母様に抱き付き涙を流した。ああ、良かった……良かった……。
「もう安心していいわよ。あの男はもういないから」
「良かったああ……うわあああん……」
それからは特にトラブルもなく無事に日没を迎えた。私はいつものように夜会に出る為に着飾って馬車に乗る。夜会では貴族や王族方と会話をし、時には夜を共にする事もある。こうして夜会を楽しみ屋敷に帰って来た時。玄関でメイドが騒いでいるのに出くわした。
「何してるのよ?」
「あ……ベルがいなくなったんです」
「ベル?」
確か魔法薬の工場で働いていたメイドか。そのメイドがいなくなったのだと言う。いつそれに気が付いたのかと彼女達に聞くとついさっきという馬鹿げた返事が返って来た。
「じゃあなぜ探しに行かないのよ! さっさと探しに行きなさいよ!!」
「は、はい……!」
さっき気が付いたのならなぜ探しに行かず玄関で留まっているんだ。私の指示が無いと行動できないのか。阿保らしい。私は呆れながら他のメイドや執事にも声をかけてベルを探させる。
何か事件に巻き込まれたとかならともかくお姉様のように隣国にでも連れていかれたか脱走したかだとまずい。ただでさえお姉様やルネがいなくなってるのに更に屋敷の関係者が隣国に連れていかれて私が魔力が無い事が知られたら……。
貴族や王族には私が魔力が無い事をまだ知られてないはず。早く見つけ出さなければ。
しかしベルは探しても探しても見つからなかったのだった。
「はあ? 本当に探したんでしょうね?」
「探したんですけど……」
「ですけどって何よ! ちゃんと探してないじゃない! はあ、もういいわ。お務めもあるしそれぞれ持ち場にもどりなさい」
私の中で焦りが湧いている。こんなのは初めてかもしれない。
私は変わらず聖女としての努めに励んでいる。今日も私を求めてあちこちから人々が屋敷に訪れている。相手するのは面倒だけどそうは言っていられない。
「お次の方、どうぞ……」
次に入室してきたのはなんと全身膿だらけの汚い中年男だった。あまりの汚さと異臭さに思わず扇子で顔を隠してしまう。しかもこの男、にやにやと笑いを浮かべているのだ。
「聖女様のご加護を……」
「この膿を治せば良いのね?」
私はすぐに魔法薬を椅子の左横にあるテーブルから取ろうとしたが男は待て。と制する。何よ、何なのよほんと気持ち悪い……。
「聖女様が直に触れて拭ってくれなければ治らないと、神からのお告げだ」
「は、はあ?」
直に膿に触れる? そんな事出来る訳が無い。嫌よ触りたくなんか無いわよ。
「嫌よ。触りたく無いわ! 馬鹿にしないで!」
私は男から距離を取った。すると男は尚も歩いて距離を詰めてくる。その間にも膿が赤い絨毯にぽとりぽとりと滴り落ちる。
「嫌! 近寄らないで!」
私は怖くなり魔法薬を男に向けてぶち撒けた。魔法薬を掛ければ治る。これまでだってそうだった。
しかし、三分の一は治ったが三分の二はそのままだ。完全には治りきっていない。
「言った通りだろう。聖女が手で直に拭ってくれないと治らないと神はいった」
「嘘よ! 近寄らないで! 私の傍に近寄るなあああああああ!! 執事! 早く連れ出せええ!!」
執事に男を連れ出すよう命令しても固まって中々動こうとしない。結局私は走って大広間から離れて自室に入り鍵を掛けた。ここならやってこないだろう。
「はあっ……はあっ……」
鍵はかけた。この鍵には魔術的な効果もあるとお母様が言っていた。だから大丈夫なはずだ。するとどこからか悲鳴が上る。悲鳴の元になったのはあの男だろう。
しばらく部屋の扉の前で身を潜めているとドア越しに執事とお母様の声が聞こえた。
「レゼッタ、もう大丈夫よ」
「お嬢様、もうあの男は出ていきました。ご安心ください」
鍵を解除しおそるおそる扉を開ける。扉の前にはお母様と執事が心配そうに立っていた。私は思わずお母様に抱き付き涙を流した。ああ、良かった……良かった……。
「もう安心していいわよ。あの男はもういないから」
「良かったああ……うわあああん……」
それからは特にトラブルもなく無事に日没を迎えた。私はいつものように夜会に出る為に着飾って馬車に乗る。夜会では貴族や王族方と会話をし、時には夜を共にする事もある。こうして夜会を楽しみ屋敷に帰って来た時。玄関でメイドが騒いでいるのに出くわした。
「何してるのよ?」
「あ……ベルがいなくなったんです」
「ベル?」
確か魔法薬の工場で働いていたメイドか。そのメイドがいなくなったのだと言う。いつそれに気が付いたのかと彼女達に聞くとついさっきという馬鹿げた返事が返って来た。
「じゃあなぜ探しに行かないのよ! さっさと探しに行きなさいよ!!」
「は、はい……!」
さっき気が付いたのならなぜ探しに行かず玄関で留まっているんだ。私の指示が無いと行動できないのか。阿保らしい。私は呆れながら他のメイドや執事にも声をかけてベルを探させる。
何か事件に巻き込まれたとかならともかくお姉様のように隣国にでも連れていかれたか脱走したかだとまずい。ただでさえお姉様やルネがいなくなってるのに更に屋敷の関係者が隣国に連れていかれて私が魔力が無い事が知られたら……。
貴族や王族には私が魔力が無い事をまだ知られてないはず。早く見つけ出さなければ。
しかしベルは探しても探しても見つからなかったのだった。
「はあ? 本当に探したんでしょうね?」
「探したんですけど……」
「ですけどって何よ! ちゃんと探してないじゃない! はあ、もういいわ。お務めもあるしそれぞれ持ち場にもどりなさい」
私の中で焦りが湧いている。こんなのは初めてかもしれない。
300
お気に入りに追加
1,360
あなたにおすすめの小説


だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる