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第124話 クジラ肉のすき焼きと再会
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「今日の夕食は、クジラ肉ですき焼きでもしない?」
母親にそう言われ、私はうん!とうなづいた。
「こういう時はぱーーっとごはん食べちゃいましょって思ってね」
「いいと思う。私もおなかすいてきたし」
「そうね。贅沢しちゃいましょう。千恵子はゆっくり休んでていいわよ」
母親のお言葉に甘える形で私はすき焼きが出来上がるまで自室でゆっくり過ごす事にした。部屋の窓から見える海は穏やかで、凪いでいる。
「いた」
時折、海面からクジラがやイルカの群れが顔を出す様子も確認できた。実に平和で穏やかな海。そんな景色を見ると、私の心も凪いでいく。
(もう、戦争は終わったんだ)
戦争が終わったという事は、空襲に合う恐れも無いという事。すなわち、篝先生も帰ってくるかもしれない。
(早く先生に会って、色々話したい。話したい事が多すぎる)
「できたわよ!」
夕方。クジラ肉を使ったすき焼きが完成したので私は自室から1階の居間に降りてぬらりひょんと夕食の準備を進める。
「夏にすき焼き食べるの楽しみ」
「ぬらりひょんもそう思う?」
「うん、ああいうのって冬の雰囲気あるもん」
「確かに。言われてみればそうかも」
沼霧さんが、食卓の真ん中に置かれた鍋敷きの上にぐつぐつ煮立っているすき焼きの鍋を置いた。
「わあ!」
ぬらりひょんが目を丸くさせて、鍋の中身に熱い視線を向ける。蒸気が沸き立ちしょうゆの匂いも鼻の奥へと伝わってくる。
「いただきます」
私は小皿にクジラ肉とキャベツをよそい、少し冷めるのを待ってから口に入れた。
「むっ……!」
しょうゆと砂糖の香ばしい味わいが口の中に広がる。クジラ肉を噛めば噛むほど、もっと食べたいという欲が胃の奥から泉のように湧き立つ。
「美味しい!」
「うん、千恵子姉ちゃん、美味しいよ!」
ぬらりひょんも口をほころばせながら、美味しそうにお肉と野菜を頬ばっている。その素朴な姿に私だけでなく母親と沼霧さん、そして黒猫のあやかしや、小さな海坊主達も彼女に視線を向けていた。
(そうだ。これからはもっともっとたくさん美味しいものが食べられるかもしれない)
ふと、そういった考えが私の脳裏に浮かんだのだった。その考えに呼応するかのように母親が口を開く。
「これからは、カツレツなんかも食べてみたいところよね。あと、汁かけなんちゃらはもうカレーライスって言っちゃっていいのかしらね?」
「あーー……どうなんだろう? 沼霧さんはどう思う?」
「私はいいと思いますよ。まだ外の世界ではだめでも、この別荘の中では私達だけしかいませんし許されるかと」
沼霧さんはにこっと笑った。熱々のすき焼きを食べているせいか、彼女の顔には所々汗の粒がくっついている。
「そうよね、うーーん、久しぶりにカレーライス食べたくなってきちゃったわ! そうだ、カレー粉送ってきてもらおうかしら」
母親が上機嫌にこれからの考えを巡らせながら、クジラ肉を口の中に入れていく。そうこう食べ進めていくうちにすき焼きはあっという間に空になった。
「ごちそうさまでした」
夏に食べるお鍋はやっぱり美味しい。それに、これからもしかしたらもっともっと美味しいものが食べられる。そう考えただけで期待が胸の中で大きく膨らんでいくのがわかる。
(雨月さんの大丈夫って言葉。強いなあ)
「私もカレーライス、食べたいなあ」
それから1週間後のお昼の事。
「ただいま戻りました。篝です」
篝先生が別荘に帰還した。けがもなく元気そうだ。私は沼霧さんと共に玄関で彼を出迎える。
「おかえりなさい!」
「千恵子さん! 元気そうでよかったです。沼霧さんもお元気ですか?」
「ええ、私もヨシさんもぬらりひょんも元気です」
「それはよかったです……! 久しぶりに皆さんのお顔が見れてよかったです!」
篝先生の久しぶりに見た笑みは、ものすごく晴れやかで落ち着いたものだった。
「ああ、千恵子さん。お父様からお手紙を預かっております。読まれますか?」
「わかりました。読みます」
父親からの手紙には弟2人も合わせて元気にしているという事と、お屋敷に空襲の被害は出ていないので安心してほしいという内容が記されていた。
『千恵子も皆も元気にしているか?落ち着いたらこちらに顔を出しに来てほしい』
という内容の文で締めくくられていた。
(お父さん……)
「千恵子、またお屋敷に行く?」
「お母さん……また行こうかな」
「カレーライスでも食べましょう」
「……うん!」
そして久しぶりに篝先生も交えて夕食を食べた。夕食の品は光さんが取って来たマグロを使った品々が並ぶ。
鉄火丼に煮付け。どれも美味しそうな品だ。
「頂きます」
鉄火丼を先に頂く。しょうゆ漬けのマグロの身は新鮮でしょうゆの味も染みていてとても美味しい。麦ごはんと合う。
煮付けも薄めの味付けがマグロの赤身の良さを引き出していて美味しい。
「こうしてゆっくり食事をするのは、久しぶりですね」
篝先生がマグロの煮付けを口にしながら、感慨深そうにそう呟いた。
「もう、これからはゆっくり食事出来ますね」
「篝先生、あちらはかなり酷かったんですか?」
「千恵子さん……はい。食事の暇はほとんど取れませんでしたね」
「そうだったんですね……」
それほど過酷な環境に置かれていたのだろう。篝先生は食材をゆっくりと噛み締めながら味わっていたのだった。
母親にそう言われ、私はうん!とうなづいた。
「こういう時はぱーーっとごはん食べちゃいましょって思ってね」
「いいと思う。私もおなかすいてきたし」
「そうね。贅沢しちゃいましょう。千恵子はゆっくり休んでていいわよ」
母親のお言葉に甘える形で私はすき焼きが出来上がるまで自室でゆっくり過ごす事にした。部屋の窓から見える海は穏やかで、凪いでいる。
「いた」
時折、海面からクジラがやイルカの群れが顔を出す様子も確認できた。実に平和で穏やかな海。そんな景色を見ると、私の心も凪いでいく。
(もう、戦争は終わったんだ)
戦争が終わったという事は、空襲に合う恐れも無いという事。すなわち、篝先生も帰ってくるかもしれない。
(早く先生に会って、色々話したい。話したい事が多すぎる)
「できたわよ!」
夕方。クジラ肉を使ったすき焼きが完成したので私は自室から1階の居間に降りてぬらりひょんと夕食の準備を進める。
「夏にすき焼き食べるの楽しみ」
「ぬらりひょんもそう思う?」
「うん、ああいうのって冬の雰囲気あるもん」
「確かに。言われてみればそうかも」
沼霧さんが、食卓の真ん中に置かれた鍋敷きの上にぐつぐつ煮立っているすき焼きの鍋を置いた。
「わあ!」
ぬらりひょんが目を丸くさせて、鍋の中身に熱い視線を向ける。蒸気が沸き立ちしょうゆの匂いも鼻の奥へと伝わってくる。
「いただきます」
私は小皿にクジラ肉とキャベツをよそい、少し冷めるのを待ってから口に入れた。
「むっ……!」
しょうゆと砂糖の香ばしい味わいが口の中に広がる。クジラ肉を噛めば噛むほど、もっと食べたいという欲が胃の奥から泉のように湧き立つ。
「美味しい!」
「うん、千恵子姉ちゃん、美味しいよ!」
ぬらりひょんも口をほころばせながら、美味しそうにお肉と野菜を頬ばっている。その素朴な姿に私だけでなく母親と沼霧さん、そして黒猫のあやかしや、小さな海坊主達も彼女に視線を向けていた。
(そうだ。これからはもっともっとたくさん美味しいものが食べられるかもしれない)
ふと、そういった考えが私の脳裏に浮かんだのだった。その考えに呼応するかのように母親が口を開く。
「これからは、カツレツなんかも食べてみたいところよね。あと、汁かけなんちゃらはもうカレーライスって言っちゃっていいのかしらね?」
「あーー……どうなんだろう? 沼霧さんはどう思う?」
「私はいいと思いますよ。まだ外の世界ではだめでも、この別荘の中では私達だけしかいませんし許されるかと」
沼霧さんはにこっと笑った。熱々のすき焼きを食べているせいか、彼女の顔には所々汗の粒がくっついている。
「そうよね、うーーん、久しぶりにカレーライス食べたくなってきちゃったわ! そうだ、カレー粉送ってきてもらおうかしら」
母親が上機嫌にこれからの考えを巡らせながら、クジラ肉を口の中に入れていく。そうこう食べ進めていくうちにすき焼きはあっという間に空になった。
「ごちそうさまでした」
夏に食べるお鍋はやっぱり美味しい。それに、これからもしかしたらもっともっと美味しいものが食べられる。そう考えただけで期待が胸の中で大きく膨らんでいくのがわかる。
(雨月さんの大丈夫って言葉。強いなあ)
「私もカレーライス、食べたいなあ」
それから1週間後のお昼の事。
「ただいま戻りました。篝です」
篝先生が別荘に帰還した。けがもなく元気そうだ。私は沼霧さんと共に玄関で彼を出迎える。
「おかえりなさい!」
「千恵子さん! 元気そうでよかったです。沼霧さんもお元気ですか?」
「ええ、私もヨシさんもぬらりひょんも元気です」
「それはよかったです……! 久しぶりに皆さんのお顔が見れてよかったです!」
篝先生の久しぶりに見た笑みは、ものすごく晴れやかで落ち着いたものだった。
「ああ、千恵子さん。お父様からお手紙を預かっております。読まれますか?」
「わかりました。読みます」
父親からの手紙には弟2人も合わせて元気にしているという事と、お屋敷に空襲の被害は出ていないので安心してほしいという内容が記されていた。
『千恵子も皆も元気にしているか?落ち着いたらこちらに顔を出しに来てほしい』
という内容の文で締めくくられていた。
(お父さん……)
「千恵子、またお屋敷に行く?」
「お母さん……また行こうかな」
「カレーライスでも食べましょう」
「……うん!」
そして久しぶりに篝先生も交えて夕食を食べた。夕食の品は光さんが取って来たマグロを使った品々が並ぶ。
鉄火丼に煮付け。どれも美味しそうな品だ。
「頂きます」
鉄火丼を先に頂く。しょうゆ漬けのマグロの身は新鮮でしょうゆの味も染みていてとても美味しい。麦ごはんと合う。
煮付けも薄めの味付けがマグロの赤身の良さを引き出していて美味しい。
「こうしてゆっくり食事をするのは、久しぶりですね」
篝先生がマグロの煮付けを口にしながら、感慨深そうにそう呟いた。
「もう、これからはゆっくり食事出来ますね」
「篝先生、あちらはかなり酷かったんですか?」
「千恵子さん……はい。食事の暇はほとんど取れませんでしたね」
「そうだったんですね……」
それほど過酷な環境に置かれていたのだろう。篝先生は食材をゆっくりと噛み締めながら味わっていたのだった。
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