あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

文字の大きさ
128 / 130

第124話 クジラ肉のすき焼きと再会

しおりを挟む
「今日の夕食は、クジラ肉ですき焼きでもしない?」

 母親にそう言われ、私はうん!とうなづいた。

「こういう時はぱーーっとごはん食べちゃいましょって思ってね」
「いいと思う。私もおなかすいてきたし」
「そうね。贅沢しちゃいましょう。千恵子はゆっくり休んでていいわよ」

 母親のお言葉に甘える形で私はすき焼きが出来上がるまで自室でゆっくり過ごす事にした。部屋の窓から見える海は穏やかで、凪いでいる。

「いた」

 時折、海面からクジラがやイルカの群れが顔を出す様子も確認できた。実に平和で穏やかな海。そんな景色を見ると、私の心も凪いでいく。

(もう、戦争は終わったんだ)

 戦争が終わったという事は、空襲に合う恐れも無いという事。すなわち、篝先生も帰ってくるかもしれない。

(早く先生に会って、色々話したい。話したい事が多すぎる)
「できたわよ!」

 夕方。クジラ肉を使ったすき焼きが完成したので私は自室から1階の居間に降りてぬらりひょんと夕食の準備を進める。

「夏にすき焼き食べるの楽しみ」
「ぬらりひょんもそう思う?」
「うん、ああいうのって冬の雰囲気あるもん」
「確かに。言われてみればそうかも」

 沼霧さんが、食卓の真ん中に置かれた鍋敷きの上にぐつぐつ煮立っているすき焼きの鍋を置いた。

「わあ!」

 ぬらりひょんが目を丸くさせて、鍋の中身に熱い視線を向ける。蒸気が沸き立ちしょうゆの匂いも鼻の奥へと伝わってくる。

「いただきます」

 私は小皿にクジラ肉とキャベツをよそい、少し冷めるのを待ってから口に入れた。

「むっ……!」

 しょうゆと砂糖の香ばしい味わいが口の中に広がる。クジラ肉を噛めば噛むほど、もっと食べたいという欲が胃の奥から泉のように湧き立つ。

「美味しい!」
「うん、千恵子姉ちゃん、美味しいよ!」

 ぬらりひょんも口をほころばせながら、美味しそうにお肉と野菜を頬ばっている。その素朴な姿に私だけでなく母親と沼霧さん、そして黒猫のあやかしや、小さな海坊主達も彼女に視線を向けていた。

(そうだ。これからはもっともっとたくさん美味しいものが食べられるかもしれない)

 ふと、そういった考えが私の脳裏に浮かんだのだった。その考えに呼応するかのように母親が口を開く。

「これからは、カツレツなんかも食べてみたいところよね。あと、汁かけなんちゃらはもうカレーライスって言っちゃっていいのかしらね?」
「あーー……どうなんだろう? 沼霧さんはどう思う?」
「私はいいと思いますよ。まだ外の世界ではだめでも、この別荘の中では私達だけしかいませんし許されるかと」

 沼霧さんはにこっと笑った。熱々のすき焼きを食べているせいか、彼女の顔には所々汗の粒がくっついている。

「そうよね、うーーん、久しぶりにカレーライス食べたくなってきちゃったわ! そうだ、カレー粉送ってきてもらおうかしら」

 母親が上機嫌にこれからの考えを巡らせながら、クジラ肉を口の中に入れていく。そうこう食べ進めていくうちにすき焼きはあっという間に空になった。

「ごちそうさまでした」

 夏に食べるお鍋はやっぱり美味しい。それに、これからもしかしたらもっともっと美味しいものが食べられる。そう考えただけで期待が胸の中で大きく膨らんでいくのがわかる。

(雨月さんの大丈夫って言葉。強いなあ)
「私もカレーライス、食べたいなあ」

 それから1週間後のお昼の事。

「ただいま戻りました。篝です」

 篝先生が別荘に帰還した。けがもなく元気そうだ。私は沼霧さんと共に玄関で彼を出迎える。

「おかえりなさい!」
「千恵子さん! 元気そうでよかったです。沼霧さんもお元気ですか?」
「ええ、私もヨシさんもぬらりひょんも元気です」
「それはよかったです……! 久しぶりに皆さんのお顔が見れてよかったです!」

 篝先生の久しぶりに見た笑みは、ものすごく晴れやかで落ち着いたものだった。

「ああ、千恵子さん。お父様からお手紙を預かっております。読まれますか?」
「わかりました。読みます」

 父親からの手紙には弟2人も合わせて元気にしているという事と、お屋敷に空襲の被害は出ていないので安心してほしいという内容が記されていた。

『千恵子も皆も元気にしているか?落ち着いたらこちらに顔を出しに来てほしい』

 という内容の文で締めくくられていた。

(お父さん……)
「千恵子、またお屋敷に行く?」
「お母さん……また行こうかな」
「カレーライスでも食べましょう」
「……うん!」

 そして久しぶりに篝先生も交えて夕食を食べた。夕食の品は光さんが取って来たマグロを使った品々が並ぶ。
 鉄火丼に煮付け。どれも美味しそうな品だ。

「頂きます」

 鉄火丼を先に頂く。しょうゆ漬けのマグロの身は新鮮でしょうゆの味も染みていてとても美味しい。麦ごはんと合う。
 煮付けも薄めの味付けがマグロの赤身の良さを引き出していて美味しい。

「こうしてゆっくり食事をするのは、久しぶりですね」

 篝先生がマグロの煮付けを口にしながら、感慨深そうにそう呟いた。

「もう、これからはゆっくり食事出来ますね」
「篝先生、あちらはかなり酷かったんですか?」
「千恵子さん……はい。食事の暇はほとんど取れませんでしたね」
「そうだったんですね……」

 それほど過酷な環境に置かれていたのだろう。篝先生は食材をゆっくりと噛み締めながら味わっていたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...