あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

文字の大きさ
上 下
127 / 130

第123話 熱い夏の日~終戦~

しおりを挟む
 梅雨も終わり、あっという間に7月が来て、8月が来た。その間にも竹槍訓練に定期的に参加したり、クジラ肉を食べたりする日が続いてきた。

「ごちそうさまでした」

 今朝の朝ご飯は変わらず麦ごはん。ごはんだけとはいえ食べるのと食べないのとでは大違いである。食べ終えてお皿を洗って片づけをする。その辺もずっと変わらない。
 そして、夕食が終わり寝る前。私は自室にて布団を広げて寝る準備をしていると、玄関からこんばんはー。という声が響いてきた。

「はーーい」

 私は沼霧さんとともに玄関に向かった。扉の先にいたのは陸軍兵士2名。しかも片方は魚道さんだった。

「あっ魚道さん! 久しぶりです!」
「どうも沼霧さん、千恵子さん、こんばんは。お元気そうで何よりです。実は皆さんにお伝えしなければならない事がありまして」

 魚道さんがそれまで朗らかだった表情を、すっと神妙そうな表情へと変えた。

「明日の正午に重大放送があります。ここにラジオはありますか? 一応軍の施設からも放送は行う予定です」

 重大放送。という言葉を聞いて私の胸の中がざわついた。
 何だろうか。

「ラジオ……沼霧さんラジオあったかな」
「この後探しておきます」
「沼霧さん、お願い」

 それを言い残して2人は別荘から去り、別の家へと歩いていった。
 その後。かつて篝先生がいた離れからラジオを取り出して食卓のある居間へと移動させた。ここなら皆へも伝わりやすいだろう。

「こんなとこにラジオ置いて何するの?」

 不思議そうな顔つきを見せるぬらりひょんに、私は明日大事な放送があると伝えたのだった。

「絶対に聞かないといけないやつ?」
「うん」
「そうなんだ、何だろう」
「気になるよね」

 夕食後。自室に戻り、布団を広げていた時、またも玄関からごめんくださーいと若い男性の声が聞こえてきた。

「こんばんは、夜分遅くにすみません」

 玄関の扉の向こうにいたのは、魚道さんと先程とは別の陸軍兵士だった。魚道さんが口を開く。

「明日の放送の件ですが、天皇陛下自らなさる放送となります。必ず聞き逃さないようにしてください」

 その言葉に、私と沼霧さんは了解です。と返事する。天皇陛下が直々に放送するという事は余程の事だろう。

(まさか、戦争が終わるとか?)

 と、一瞬だけ考えがよぎっては、シャボン玉のように消えた。

「何でしょうね? 天皇陛下からの放送」

 沼霧さんが首を傾げながら私にそう声をかけてきた。

「何だろう」
「まさか、この国が消えるとか……?」
「いや、それは無いでしょ」
(……無いよね?)
「もしくは、最後の1人になるまで戦え。とか?」
「あーー……」
(なんだかそっちの方が有りうるかもしれない)

 夜。布団の中。私の頭の中は明日の正午の放送の話で一杯になっていた。
 はたして天皇陛下は何を話されるのだろうか。そして話の内容によっては、これから先私達はどうなるのか。

(これからどうなるのかな)

 「先」が見えないというのは、こんなに不安にさせるものなのか。

(私も、戦わなくちゃいけないのかな)

 いくら竹槍訓練をしてきたとはいえ私は戦えるだけの腕は無い。体が弱い財閥令嬢に出来る事なんて正直ほとんど無い。

(戦えと言われても……無理だ)
 
 そして時間が経ち、あっという間に正午が訪れる。昼食は早めに済ませて置いたので、後は黙って聞くだけだ。

「朕深く世界の帝国の現状とに鑑み……」

 放送が始まる。私達は黙ってラジオや島内放送から流れる音声に耳を傾ける。陛下の声を聴くのは勿論初めての事だ。

「堪えがたきを堪え、忍び難きを忍び……」

 放送はあっという間に終わった。内容からして……多分、戦争が終わったという事は理解できた。

「……お母さん、戦争終わったって事?」
「……そうだと思う」
「終わったんだね……」

 静かな空気が、別荘の中を支配している。波の音だけがずっと聞こえていた。

「……みんな、夕ご飯まで好きに過ごしてていいわよ」

 母親にそう言われて、私はとりあえず別荘の外に出て島を散歩してみる事にした。島では島民がぽつぽつと2人3人程が集まって立ち話をしている様子が見て取れる。

「日本、負けたんですってね」
「もう、戦争終わったんだな」
「終わったのかあ」

 皆、それぞれにあの放送を受け止めていたのがわかる。私はそのままふらふらと桟橋まで歩き、近くを漂うように泳いでいた光さんと雨月を呼んだ。
 
「おう、さっきのはなんなんだ?」
「……戦争が終わったんだって」
「そう……」

 光さんと雨月も口をつぐんだ。そして雨月が口を開く。

「これからどうなるのかしらね?」
「わからない。ここにも兵隊さんが来たりするのかな」
「……まあ、なるようになるわよ。きっと大丈夫。根拠がないけどそんな気はするのよね」

 雨月の変わらぬ艶々とした唇から吐き出された言葉に、私はなぜか安心感を覚えたのだった。

「そっか……そうだよね」
「千恵子さん心配だと思うけど……大丈夫よ」
「ありがとう。なんかよくわかんないけど雨月さんにそう言われたら、落ち着いてきた」

 大丈夫。きっと大丈夫。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

あやかしが家族になりました

山いい奈
キャラ文芸
★お知らせ いつもありがとうございます。 当作品、3月末にて非公開にさせていただきます。再公開の日時は未定です。 ご迷惑をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。 母親に結婚をせっつかれている主人公、真琴。 一人前の料理人になるべく、天王寺の割烹で修行している。 ある日また母親にうるさく言われ、たわむれに観音さまに良縁を願うと、それがきっかけとなり、白狐のあやかしである雅玖と結婚することになってしまう。 そして5体のあやかしの子を預かり、5つ子として育てることになる。 真琴の夢を知った雅玖は、真琴のために和カフェを建ててくれた。真琴は昼は人間相手に、夜には子どもたちに会いに来るあやかし相手に切り盛りする。 しかし、子どもたちには、ある秘密があるのだった。 家族の行く末は、一体どこにたどり着くのだろうか。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

おおかみ宿舎の食堂でいただきます

ろいず
キャラ文芸
『おおかみ宿舎』に食堂で住み込みで働くことになった雛姫麻乃(ひなきまの)。麻乃は自分を『透明人間』だと言う。誰にも認識されず、すぐに忘れられてしまうような存在。 そんな麻乃が『おおかみ宿舎』で働くようになり、宿舎の住民達は二癖も三癖もある様な怪しい人々で、麻乃の周りには不思議な人々が集まっていく。 美味しい食事を提供しつつ、麻乃は自分の過去を取り戻していく。

処理中です...