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第4章

暗くてわかりにくいけど、それでも赤い鳥居がうちのことを待っててくれた。

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 せせらぎのすぐ横に流れるその川のほとりに、貴船神社はあった。暗くてわかりにくいけど、それでも赤い鳥居がうちのことを待っててくれた。
「ここです。」と巫女さんは親切に教えてくれながら、さらに足元に気を付けるように言う。
「ありがとう。」と京都弁のイントネーションで言いながらも、京都人のうちは貴船神社に来るのは初めてやった。京都の人やから清水寺や金閣寺に行ったことがあると思ったら大間違いや。と、うちは誰に向かって叫んでるねん。いや清水寺は遠い昔に行った気もするけど。
「中へどうぞ。」と月明かりに照らされた境内へと、巫女さんに連れられうちはのそのそと入っていく。今や味方はこの手元のリスと、目の前の巫女さんだけや。この世に誰も味方はおーへん、深夜の山奥にいるとそんな気さえしてくる。
「よっこらせ。」と言って、うちは靴を脱ぐ。また上賀茂神社みたいなお坊さんが出てくるんやろか。とうちは思いながら、巫女さんの美しい後ろ姿に見とれている。
「こちらです。」と彼女が言った先には、白い袴姿の女性がいた。うっすらとしていて、亡霊のよう。
「どうも。」うちがおずおずと声を上げると、その白髪交じりの女性はこちらを向いた。老婆というほどではないけど、中年くらいやろうか。
「待っておりました。」と女性は言う。ゆっくりとした口調ながら断固とした響きがある。
「はい。」としかうちは答えることができへん。どこか相手の迫力に負けてる。
「大変な目にあいましたね。」とすべてを知ってるような口調で彼女は言った。
「そ、そうですね。」とうちは相槌を打ちながら、どう答えたらええのかわからへん。
「すべては、仕組まれたことでもありますから。」と低い声で、女性は言った。
「仕組まれた?」とうちはようやく口に出すことができた。
「こちらへ。」と彼女に促されて、もう一歩近づく。何が始まるんやろ、どちらにしてもお祓いしてもらわなあかんのはわかってるけど。
「お祓い、できますか。」とうちは勇気を振り絞って聞く。
「はい。」と相手は言った。
「どうしたら。」とうちは聞いた。もっと言えば、なんでこんな目にあってるのかも教えてほしかった。でもまずはお祓いが先や。
「月を読むのです。」と女性は言った。
「月を読む?」うちの頭の中ではクエスションマークが蝶々のように飛んでいった。もう少し余裕があったらその蝶々を、一匹づつ採集したいくらいや。

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