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第1章
なんでオトコのヒトってあんなにアホなんやろ。
しおりを挟むうちはいつも不思議に思っててん。なんでオトコのヒトってあんなにアホなんやろ。わーわー騒いで、桜の園に侵入して荒らしていく。うちはそんな彼らの姿を見てると、たまらない気持ちになる。オレンジが絞られるように、果汁がポタポタと滴り落ちる。それに向かって口を開けてるのんは、鞍馬寺の天狗さんか上賀茂神社の狛犬くらいちゃう?うちはそういうのんとは無関係を装って、白袴で歩いていく。夜の京都の街を。
別にうちは花魁ってわけちゃうで、もちろん舞妓さんには憧れちゃうけど。「憧れちゃう」やって、東京言葉を話すとなんかむずがゆいわ。
「なぁ静、そう思わへん?」うちがそう言うと、静は首をかしげて笑ってる。このコ大丈夫やろか。
「そろそろ帰らんと。」夜の木屋町のカフェで御茶するのはなかなかオツやけど、それなりに時間というものがやってくる。ほんまは永遠のような時間がこの街には流れてるねんけど。鴨川の流れのように。
「あんたお京阪やんな。ほな気ぃつけて。」うちはそう言うと、静と一緒に三条駅まで歩いていく。
「んぁ眠い。お姉ちゃん。」静はそう言うと三条大橋の入り口から地下に降りていく。まるで地下の国の住人みたいや。うちはそう思いながら、静に向かって手を振る。彼女は眠そうに消えていく。
うちはひるがえって、橋の上から夜の三条を眺める。街の赤いランプが淡々と鴨川の流れに照り返る。そして河岸で騒ぐ学生諸君。ってうちもその一人ではあるねんけど。彼らと一緒にはされたくないわ。げーげー吐きながらそれでも酒を飲む輩。夏目漱石もびっくりやね。いやや、うち間違うた、千円札は野口さんや今は。黄熱病のあの千円札の人。もちろん福沢諭吉にも会いたいけど。うちはそんなことを思いながら、鴨川沿いをゆるりと上がっていく。川は徐々に小さくなっていくねん。路面も石畳から砂利道になる。夜も更けて、うちはおっきなお月さんと談笑しながら歩く。元はと言えば、あんたが悪いんやん。うちはそう言う。「なんで。」って お月さんは答える。そらそうやん、あんたがしっかり出ててくれたらうちも間違えずに行けたんやん。「それは、」お月さんは困るとすぐに雲間に隠れてしまう。そんなん卑怯や、うちは闇夜を見上げて吠える。わーん、わーんと泣く。
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