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7 マリアン視点
しおりを挟む私はロッテル侯爵家の次女。聖女になる前、私には婚約者が居た。
私が聖女に選ばれて魔王討伐の旅に出ることになっても、婚約者のカーティスは
「僕にはマリアンしかいない。君が役目を果たして無事に戻って来るのを待つよ」
そう言ってくれた。
カーティスはフラリア伯爵家の長男。地味な見た目だけど私にぞっこん。
だけど、私を好き過ぎてちょっと怖い所がある。
愛が重いというか……。
だから私は聖女としての旅をすることで、カーティスと少し離れることが出来たのが嬉しかった。
勇者との魔王討伐の旅は刺激的だった。
危険な事もあったけれど、オーウェンは勇者だけあって最後には必ず勝った。
戦いの高揚感の中、私は勇者オーウェンと恋に落ちた。
けれど、冷静になってみれば彼と私との教育には差があり、育った環境が違いすぎた。単純過ぎる彼に貴族として社交界に出る事なんて難しいと思う。
結婚出来ないと判断した私はオーウェンとは別れた。
そして、旅が終わった後直ぐにカーティスとの結婚式を挙げた。彼は私の旅が終わるのを待っていてくれた。
そして初夜ーー
「マリアン、僕が何も知らないと思ってる?」
「な、何を?」
「勇者と君の関係」
二人きりの部屋の中で彼は無表情で。だけど、やけに瞳がギラギラしていて、身体が竦んだ。
本能的に怖くなりオーウェンとの関係を正直に話した。
「僕はマリアンだけだったのに……君は僕を裏切ったね。そんな君を抱けないよ。寝室は別々にしよう」
「別れるって言わないの?」
「別れないよ。君が好きなことに、変わりはないからね」
それから私達は寝室は別のまま、夫婦として過ごした。貴族には珍しくも無い仮面夫婦。
「勇者との討伐は行っていいよ。君が聖女として活動している方が、フラリア伯爵家の評判も良くなるし、ね」
何故かカーティスはオーウェンとの魔物討伐を許可してくれた。けれど何処に監視があるか分からない。
私にはカーティスの考えていることが分からなかった。ただ、やっぱり勇者パーティーでの旅は楽しい。
人々を助けて感謝され、聖女として崇められるのは気持ちが良かった。
オーウェンの家に行った時、彼の奥さんと息子に会った。彼は馬鹿みたいに勇者稼業に夢中になっていて、奥さんは小さな家で子育てが大変そうだった。
髪もボサボサで、オーウェンと同じ年齢のはずなのに、何だか老けて見える。
やっぱりオーウェンと結婚しなくて良かった。
オーウェンは未だに私の事を思い続けている。そんな男のためにボロボロになった奥さんを見て、可哀想だと思う。
だけど、同時に、やっぱり小さな子供は可愛くて……。私も自分の子供が欲しいと思った。
子供だけは羨ましい。
私はカーティスに二人の子供を産みたいと話してみた。
「僕は子供はいらないな。他の男に抱かれた君を抱くことは、僕にはやっぱり出来ないね」
彼は養子をとるからと言って、実子にはこだわらないようだった。
そして彼は私に指一本触れようとはしない。
☆
「離婚しよう」
結婚して12年目、私は唐突に離婚を切り出された。
「え?どうして今更?」
「だって、若いうちに離婚したら、マリアンは再婚するかもしれないだろ?俺はマリアンが他の男の所に行くのも嫌だったのさ」
「はあ?」
「僕が君の浮気を知った時、どんな気分だったと思う?悔しくて、惨めで、なのに、君を嫌いにはなれない。それならいっそ、君を飼い殺しにしようと思ったんだ」
私は既に35歳。貴族として嫁ぐのは後妻としても難しいだろう。もっと早くに離婚していれば……。
「もう年齢のこともあるし、貴族への再婚は難しいよね。平民は嫌なんだっけ?ロッテル侯爵には、君を聖女として神殿に入れるよう薦めておくよ」
私はフラリア伯爵夫人としての務めを果たさない事を理由に離縁され実家に出戻った。
確かに私は伯爵夫人として何もしていなかった。
「お父様、私はカーティスに騙されたのよ!伯爵夫人としての務めなんかしなくていいから、聖女としての活動を続けて欲しいって言われてたの!」
「そうだとしても、儂にもどうしようもない」
「どうして?」
お父様は侯爵位。カーティスを王宮から締め出すことだって出来るはずだった。
「お前はカーティス君を下に見ていたようだが、この12年でフラリア伯爵家は大きな力を付けた。儂にカーティス君に圧力を掛けられるような力はもう無い。マリアン、お前が今更貴族として社交界に出ていってもどうしようもないぞ。カーティス君の薦め通りに、聖女として神殿に入るほかあるまい。儂としても家督はすでにウォルターに譲った。もうこの家にお前の居場所も無い」
12年の間にすっかり王宮での力関係は変わっていた。お父様にかつてのような影響力はもう無い。
私は娯楽も何も無い神殿で、生涯聖女として過ごすことになった。
そしてカーティスは若い後妻を迎えたそうだ。
お腹の大きい妻をとても大切にしていると、風の便りで聞いた。
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