夫の初恋の君が家へ訪ねて来ました

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番外編

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アストマイオス殿下視点

「はぁーー、今日もフローラには会いに行けないなぁ。」

ちらりと目をやれば、机上には書類の山。

この一ヶ月の間、睡眠時間を極限まで削って執務室に籠っているのに、書類は減った感じがしない。

「まだ、一ヶ月か………。はぁーーー。」

書類の要点を、予め纏めておいてくれるアシュレッドがいないと、処理が進まない。
ーーもうずっとフローラに会っていない。


「失礼します。殿下、キャサリーンはどうなさいます?」

侍従が疲れきった顔で聞いてきた。
彼女達は今、内密に王宮の地下牢に入れている。
生涯出さないつもりだ。

「そのまま、王宮の地下牢に入れておいてくれ。」
「それが……」
「何か問題でも?」
「……はぁ、食事が不味い、マットが固くて寝れない、臭い、お風呂に入りたい、着替えたい、牢屋の掃除をしろ、と要求が多くて。」

自分の立場をまだ理解していないのか?

「そんなもの、無視すれば良いだろう?」

「それが…………。エルザとコリーはキーキー叫ぶ為、牢番が疲れきっておりまして………。何せ始終、あの高音で叫ぶので、……地下牢では声が響きますし。」

確かに甲高いあの声を聞いていると頭痛がする。

「ああ、そうかもしれんな。」

「3日もあの声を聞き続けると発狂しそうになると、皆が移動願いを出しております。」
「………。」
「それと……」
「まだあるのか?」 

「キャサリーンは牢番を誘惑するそうで、牢番が代わる度に泣き落として誘惑するそうです。『私を連れて逃げて』と。」

全く何も変わっていない彼女達に呆れながらも、どうしようか考えを巡らせる。
ただ、私の心は今どうしようもなく荒んでいた。
フローラに会えていないのだ。

「食事の中に鎮静剤を常人の三倍混ぜておいてくれ。毎食だ。」

「え?大丈夫ですか?」

「しらんが、牢番の労働環境の方が大切だろう?」

「……まぁ、そうですね。もう二度と日の目を見ることの無いあの方達よりは、牢番の方が王宮としては大切ですね。」

「じゃあ、そうしてくれ。」

「いいのですか?一応元婚約者ですが?」

そんな事をすれば命が長くない事を知っている侍従は、気遣うような目を向けた。

「仕方がないだろう?静かには過ごせないんだ。」

「そうですね。じゃあ、そのように手配します。」
「ああ。」
「では、失礼します。」


「……………………ちょっと待て。」

部屋を出ようとする侍従を呼び止めた。

「……この事はアシュレッドには知られないように、頼む。」

侍従は驚いたように目を丸くした。

ーそして、短く了承の返事をするとスタスタと部屋を出ていった。



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