11 / 14
番外編
しおりを挟む
アストマイオス殿下視点
「はぁーー、今日もフローラには会いに行けないなぁ。」
ちらりと目をやれば、机上には書類の山。
この一ヶ月の間、睡眠時間を極限まで削って執務室に籠っているのに、書類は減った感じがしない。
「まだ、一ヶ月か………。はぁーーー。」
書類の要点を、予め纏めておいてくれるアシュレッドがいないと、処理が進まない。
ーーもうずっとフローラに会っていない。
「失礼します。殿下、キャサリーンはどうなさいます?」
侍従が疲れきった顔で聞いてきた。
彼女達は今、内密に王宮の地下牢に入れている。
生涯出さないつもりだ。
「そのまま、王宮の地下牢に入れておいてくれ。」
「それが……」
「何か問題でも?」
「……はぁ、食事が不味い、マットが固くて寝れない、臭い、お風呂に入りたい、着替えたい、牢屋の掃除をしろ、と要求が多くて。」
自分の立場をまだ理解していないのか?
「そんなもの、無視すれば良いだろう?」
「それが…………。エルザとコリーはキーキー叫ぶ為、牢番が疲れきっておりまして………。何せ始終、あの高音で叫ぶので、……地下牢では声が響きますし。」
確かに甲高いあの声を聞いていると頭痛がする。
「ああ、そうかもしれんな。」
「3日もあの声を聞き続けると発狂しそうになると、皆が移動願いを出しております。」
「………。」
「それと……」
「まだあるのか?」
「キャサリーンは牢番を誘惑するそうで、牢番が代わる度に泣き落として誘惑するそうです。『私を連れて逃げて』と。」
全く何も変わっていない彼女達に呆れながらも、どうしようか考えを巡らせる。
ただ、私の心は今どうしようもなく荒んでいた。
フローラに会えていないのだ。
「食事の中に鎮静剤を常人の三倍混ぜておいてくれ。毎食だ。」
「え?大丈夫ですか?」
「しらんが、牢番の労働環境の方が大切だろう?」
「……まぁ、そうですね。もう二度と日の目を見ることの無いあの方達よりは、牢番の方が王宮としては大切ですね。」
「じゃあ、そうしてくれ。」
「いいのですか?一応元婚約者ですが?」
そんな事をすれば命が長くない事を知っている侍従は、気遣うような目を向けた。
「仕方がないだろう?静かには過ごせないんだ。」
「そうですね。じゃあ、そのように手配します。」
「ああ。」
「では、失礼します。」
「……………………ちょっと待て。」
部屋を出ようとする侍従を呼び止めた。
「……この事はアシュレッドには知られないように、頼む。」
侍従は驚いたように目を丸くした。
ーそして、短く了承の返事をするとスタスタと部屋を出ていった。
「はぁーー、今日もフローラには会いに行けないなぁ。」
ちらりと目をやれば、机上には書類の山。
この一ヶ月の間、睡眠時間を極限まで削って執務室に籠っているのに、書類は減った感じがしない。
「まだ、一ヶ月か………。はぁーーー。」
書類の要点を、予め纏めておいてくれるアシュレッドがいないと、処理が進まない。
ーーもうずっとフローラに会っていない。
「失礼します。殿下、キャサリーンはどうなさいます?」
侍従が疲れきった顔で聞いてきた。
彼女達は今、内密に王宮の地下牢に入れている。
生涯出さないつもりだ。
「そのまま、王宮の地下牢に入れておいてくれ。」
「それが……」
「何か問題でも?」
「……はぁ、食事が不味い、マットが固くて寝れない、臭い、お風呂に入りたい、着替えたい、牢屋の掃除をしろ、と要求が多くて。」
自分の立場をまだ理解していないのか?
「そんなもの、無視すれば良いだろう?」
「それが…………。エルザとコリーはキーキー叫ぶ為、牢番が疲れきっておりまして………。何せ始終、あの高音で叫ぶので、……地下牢では声が響きますし。」
確かに甲高いあの声を聞いていると頭痛がする。
「ああ、そうかもしれんな。」
「3日もあの声を聞き続けると発狂しそうになると、皆が移動願いを出しております。」
「………。」
「それと……」
「まだあるのか?」
「キャサリーンは牢番を誘惑するそうで、牢番が代わる度に泣き落として誘惑するそうです。『私を連れて逃げて』と。」
全く何も変わっていない彼女達に呆れながらも、どうしようか考えを巡らせる。
ただ、私の心は今どうしようもなく荒んでいた。
フローラに会えていないのだ。
「食事の中に鎮静剤を常人の三倍混ぜておいてくれ。毎食だ。」
「え?大丈夫ですか?」
「しらんが、牢番の労働環境の方が大切だろう?」
「……まぁ、そうですね。もう二度と日の目を見ることの無いあの方達よりは、牢番の方が王宮としては大切ですね。」
「じゃあ、そうしてくれ。」
「いいのですか?一応元婚約者ですが?」
そんな事をすれば命が長くない事を知っている侍従は、気遣うような目を向けた。
「仕方がないだろう?静かには過ごせないんだ。」
「そうですね。じゃあ、そのように手配します。」
「ああ。」
「では、失礼します。」
「……………………ちょっと待て。」
部屋を出ようとする侍従を呼び止めた。
「……この事はアシュレッドには知られないように、頼む。」
侍従は驚いたように目を丸くした。
ーそして、短く了承の返事をするとスタスタと部屋を出ていった。
140
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
だって悪女ですもの。
とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。
幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。
だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。
彼女の選択は。
小説家になろう様にも掲載予定です。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる