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駆け寄ったキャサリーン様にアシュレッド様は凍りそうな程冷たい視線を向けた。
「どうして来た?」
地を這うような低い声にキャサリーン様は一瞬顔を強張らせた。
けれど、直ぐに目に涙を浮かべ震える手でアシュレッド様の袖を掴んだ。
「アシュレッド様。わ、わたくし………。うぅっ………。」
キャサリーン様の白いかんばせに涙が幾すじも流れ落ちる。
その涙は物語の光景のように美しくて思わず見とれてしまった。
アシュレッド様はそんなキャサリーン様に蔑むような視線を送り、いかにも迷惑そうに彼女の手を払った。
手を払われた事に驚いたキャサリーン様は上目遣いで彼を見上げる。
「……わ、わたくし、今日中にお金を用意しなければ、うぅ……。」
アシュレッド様の冷たい態度にキャサリーン様はとうとう泣き崩れてしまった。
侍女であるコリーが彼女を抱き起こしアシュレッド様に助けを求めた。
「アシュレッド様、お嬢様がこのままでは取り立て人に娼館に連れて行かれてしまいます。」
「自分たちで借金したのだろう?仕方がないのではないか?」
アシュレッド様の返答が思いもよらないものだったのか、コリーは黙ってしまった。
今度はその言葉を聞いたエルザ様が彼に詰め寄った。
「娘と結婚する筈では無かったのですか?娼館になんて連れて行かれたら、取り返しがつきませんわよ?」
エルザ様が非難するような口調で躙り寄るがアシュレッド様は一歩も引くこと無く、睨み返した。
「結婚するなんて、一言も言った覚えは無いが?」
「娘の純潔を守るために娼館では働かせないで欲しいって……。娘が好きなのでしょ?」
「わ、わたくし、アシュレッド様以外の殿方に抱かれるなど………。」
「気持ちの悪い事を言わないでくれ。俺が好きなのはここに居る妻のテティスだけだ。テティスに誤解されるような言い方は控えてもらおう。純潔を守るためなんて詭弁だ。君が身体を売る事は構わないさ。」
アシュレッド様は私の元に歩み寄ると、彼女達に向けていた表情を一変させ蕩けるように優しく微笑んだ。
「テティス。大丈夫?何もされて無い?」
「え?……ええ、…大丈夫……。」
アシュレッド様のあまりの変わりように驚いてしまう。
勿論、キャサリーン様達も予想とは違うアシュレッド様の行動に驚愕してその場で固まってしまっていた。
そんな中、アシュレッド様は冷たい口調でキャサリーン様に話し掛けた。
「護衛の男は?」
「お、お母様が暇を出しました。役に立たないと。」
アシュレッド様は呆れたように溜め息を吐いた。
「愚かだとは思っていたが、ここまでとは……。」
アシュレッド様は私の肩に手を回し、キャサリーン様から守るように自分に引き寄せた。
「レンザ、どうしてテティスの服をこの女が着ている?」
「キャサリーンさん達が使用人の貸した服は着れないと申しまして、奥様が私どもに気を遣い自分の服を……。」
「アシュレッド様、私が服を貸すように言ったの。皆を責めないで。」
元々私が言い出した事だ。この事でレンザ達が責められてはいけない。
「うん。分かってる。責めるつもりは無いよ。テティスは安心して。」
私を安心させるよう微笑む彼はいつも通りだ。けれど、キャサリーン様に向ける表情は今まで見たこともない程険しくて怖い。
「君たちがクビにした護衛は殿下が派遣した監視役だ。彼からの報告は受けている。随分勝手な事をテティスに言ったそうだな?」
え?あの護衛の人は監視役?
私は勿論、キャサリーン様達も驚いているなか、アストマイオス殿下が姿を表した。
「どうして来た?」
地を這うような低い声にキャサリーン様は一瞬顔を強張らせた。
けれど、直ぐに目に涙を浮かべ震える手でアシュレッド様の袖を掴んだ。
「アシュレッド様。わ、わたくし………。うぅっ………。」
キャサリーン様の白いかんばせに涙が幾すじも流れ落ちる。
その涙は物語の光景のように美しくて思わず見とれてしまった。
アシュレッド様はそんなキャサリーン様に蔑むような視線を送り、いかにも迷惑そうに彼女の手を払った。
手を払われた事に驚いたキャサリーン様は上目遣いで彼を見上げる。
「……わ、わたくし、今日中にお金を用意しなければ、うぅ……。」
アシュレッド様の冷たい態度にキャサリーン様はとうとう泣き崩れてしまった。
侍女であるコリーが彼女を抱き起こしアシュレッド様に助けを求めた。
「アシュレッド様、お嬢様がこのままでは取り立て人に娼館に連れて行かれてしまいます。」
「自分たちで借金したのだろう?仕方がないのではないか?」
アシュレッド様の返答が思いもよらないものだったのか、コリーは黙ってしまった。
今度はその言葉を聞いたエルザ様が彼に詰め寄った。
「娘と結婚する筈では無かったのですか?娼館になんて連れて行かれたら、取り返しがつきませんわよ?」
エルザ様が非難するような口調で躙り寄るがアシュレッド様は一歩も引くこと無く、睨み返した。
「結婚するなんて、一言も言った覚えは無いが?」
「娘の純潔を守るために娼館では働かせないで欲しいって……。娘が好きなのでしょ?」
「わ、わたくし、アシュレッド様以外の殿方に抱かれるなど………。」
「気持ちの悪い事を言わないでくれ。俺が好きなのはここに居る妻のテティスだけだ。テティスに誤解されるような言い方は控えてもらおう。純潔を守るためなんて詭弁だ。君が身体を売る事は構わないさ。」
アシュレッド様は私の元に歩み寄ると、彼女達に向けていた表情を一変させ蕩けるように優しく微笑んだ。
「テティス。大丈夫?何もされて無い?」
「え?……ええ、…大丈夫……。」
アシュレッド様のあまりの変わりように驚いてしまう。
勿論、キャサリーン様達も予想とは違うアシュレッド様の行動に驚愕してその場で固まってしまっていた。
そんな中、アシュレッド様は冷たい口調でキャサリーン様に話し掛けた。
「護衛の男は?」
「お、お母様が暇を出しました。役に立たないと。」
アシュレッド様は呆れたように溜め息を吐いた。
「愚かだとは思っていたが、ここまでとは……。」
アシュレッド様は私の肩に手を回し、キャサリーン様から守るように自分に引き寄せた。
「レンザ、どうしてテティスの服をこの女が着ている?」
「キャサリーンさん達が使用人の貸した服は着れないと申しまして、奥様が私どもに気を遣い自分の服を……。」
「アシュレッド様、私が服を貸すように言ったの。皆を責めないで。」
元々私が言い出した事だ。この事でレンザ達が責められてはいけない。
「うん。分かってる。責めるつもりは無いよ。テティスは安心して。」
私を安心させるよう微笑む彼はいつも通りだ。けれど、キャサリーン様に向ける表情は今まで見たこともない程険しくて怖い。
「君たちがクビにした護衛は殿下が派遣した監視役だ。彼からの報告は受けている。随分勝手な事をテティスに言ったそうだな?」
え?あの護衛の人は監視役?
私は勿論、キャサリーン様達も驚いているなか、アストマイオス殿下が姿を表した。
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