夫の初恋の君が家へ訪ねて来ました

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「奥様、エルザさんとキャサリーンさんが来てまして、娼館に売られそうだから匿って欲しいと………。」
「娼館!?」

朝食が終わって ゆっくりしていると、レンザがいつになく焦った様子でエルザ様とキャサリーン様の来訪を告げた。

娼館なんて………。

「アシュレッド様はまだお戻りにならないわよね。」
「キャサリーン様が来たことを報告したところ、視察を中断して戻ると連絡がありました。明日には到着するかと。」

アシュレッド様はキャサリーン様が心配に違いない。急いで戻ってくるのだろう。

あれ?
殿下の視察はいいのかしら?

なんにせよキャサリーン様はアシュレッド様が援助している相手だ。
匿った方が良いのだろう。

「じゃあ、客室を準備して。」
「いえ、使用人棟で十分かと。本邸へ滞在させるのは危険です。」
「そうなの?」

奥様は出なくていいとレンザに言われて、部屋で待っていたが気になって仕方がない。
様子を見に行こうと廊下を出ると、女性のヒステリックな声が響いてきた。

「お嬢様を使用人と同じ扱いにするなんて!!」
「娘にこんな扱いをするなんて、アシュレッド様が許しませんよ!」

この声は侍女とエルザ様だろう。
レンザだけでは対応が難しいのかもしれない。

「いいのです。わたくしは使用人棟で。けれども直接奥様にお詫びをしたいので会わせてください。」

近づくにつれ会話の内容が聞こえてくる。
侍女とエルザ様のレンザへの憤慨の声と、キャサリーン様の謝罪の声だ。

私が玄関ロビーに出ると、皆が一斉に此方を見た。
あまりに血走った目の迫力に後退りそうになる。

「ごめんなさい、レンザ。声が響いていて………気になって。」

「申し訳ありません。奥様が直接対応することはございません。どうぞお戻りになってくださいませ。」

レンザが私に戻るよう促すと、キャサリーン様が強引に話し掛けてきた。

「テティス様!!急に押し掛けて申し訳ございません。お金の支払いが滞ってしまって……娼館に連れていかれそうになりましたの。今までも娼館に連れていかれそうになる度にアシュレッド様がお金を工面してくださっていたので助けを求めて来てしまいました。ご無礼をお許しください。」

キャサリーン様は泣きそうになりながら縋るように膝を付いた。


「お嬢様!そんな膝を付くことありませんわ。当然ですもの。アシュレッド様が想い人であるお嬢様を娼館で働かせるわけがありません。」

侍女のコリーは相変わらず強気だ。

「兎に角、使用人棟へ。それ以外は認めません。」

レンザはこんなに泣いているキャサリーン様を見ても、キッパリとした態度のまま。
そんなレンザを見て、エルザ様は意味ありげに微笑んだ。

「アシュレッド様がこのことを知って、ここの使用人の方々が罰せられないといいのですが。」

エルザ様はぐるりと周囲の使用人達の顔を見渡すと、突き刺すような視線を私に向ける。

「そうですね。客室への滞在を許可します。」
「奥様!!!」

レンザは私を止めるが、使用人達がアシュレッド様に叱られたら申し訳無い。

エルザ様は近くにいた使用人に声を掛け、顎をくいっと上げて指示を出した。

「ほら、そこのあなた、奥様の許可があったわよ。客室まで案内なさい。」

エルザ様は手慣れた仕草で使用人に荷物を持たせる。

「わたくしは使用人棟で十分なんです。テティス様、申し訳ありません。」 

私にそう謝りながらも、キャサリーン様は客室へ案内されていった。


★★★


「テティス様、キャサリーンさんの侍女のコリーさんが『お嬢様の着る服が無い』と騒いでいます。私達の服をお貸ししたのですが、キャサリーンさんとエルザさんに『こんな安物は着せられない』と仰って………。」

昨夜は何とか静かに過ごしてくれたが、朝から三人は大騒ぎしているようだ。

「じゃあ、私の未だ袖を通して無い服をお貸しして。」
「奥様!!」

ミミリは止めるが、他に女性の服なんて無い。

「だって、コリーさんが納得しないのでしょう?仕方がないわ。」

私はもうすぐ離婚されるのかしら?
そしたらどうせ買って頂いた服も置いて実家に戻るのだから………。

今日はお茶会の招待状の返事も書く気がしない。
部屋で大好きな本を読もうと思うが、全然頭に入らない。

「はぁーーー。」

結婚してから楽しかったアシュレッド様との思い出が次々頭に浮かんでくる。

「幸せだったなぁーー。」

この幸せを失うと思うと、堪らない気持ちになる。

コンコン

「はい。」

「奥様、旦那様がお帰りになりました。」

「ありがとう。」

いよいよ…だ。

私は罪人が沙汰を待つような気持ちで玄関ロビーへと向かった。

★★★

玄関には既にアシュレッド様が到着していて、見たことも無いような険しい表情でレンザと話をしていた。

「お帰りな………」
「お帰りなさいませ。アシュレッド様。」

私が声を掛けようとすると、私の声を遮るようにキャサリーン様がアシュレッド様に駆け寄った。
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