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十日後、再びエルザ様とキャサリーン様が屋敷を訪ねてきた。
アシュレッド様はまだ戻っていない。今回はかなり遠方への殿下の視察に同行しているのだ。
「どういたしましょう?追い返しますか?」
レンザは心配してくれているが私だってこれからは家を守っていかなければならない。
目的が分からない以上、怒らせないように帰って貰うしか無いだろう。
レンザに調べて貰った結果、アシュレッド様は本当にキャサリーン様達に金銭的な援助をしていたようだった。
「出るわ。」
キャサリーン様は前回連れてきた侍女ともう一人護衛のような男を連れてきた。
暴れられても困るので、武器はレンザが預かっている。
此方も部屋に護衛を配置して会うことにした。
「随分と仰々しいですね。護衛なんて。」
侍女は此方の警戒したような対応に不満そうだ。
「申し訳ございません。もしもの事があるといけませんから。公爵家としては奥様を守ることが第一です。」
レンザのしれっとした口調にエルザ様と侍女は苛立つような視線をぶつける。
その空気を察したキャサリーン様は侍女を窘めるように合図を送り、にこやかに話した。
「それは勿論ですわ。」
私はエルザ様とキャサリーン様に向かい合うように座った。
「今日はどういったご用件ですの?」
「申し訳ありません、何度も。今日もアシュレッド様は不在ですの?」
「ええ。残念ですけど。」
「アシュレッド様はいつお屋敷に居ますか?わたくしどうしても直接会って話したい事がございますの。」
私が口を開きかけたところでレンザが会話に割って入る。
「公爵家子息の予定を軽々しく外部の者に言う訳にはいきません。」
「外部の者なんて……。アシュレッド様とは幼馴染ですのに……。」
「以前はそうでしたね。けれども、今は立場が違いますので。」
レンザは事務的な口調で素っ気なく言った。
すると、侍女がかっとなったようにレンザに食ってかかった。
「未来の公爵夫人に何て言い草!」
「っ!?未来の?なにを妄言を………。」
レンザは咄嗟に言い返すが、侍女は意味ありげに微笑むと勝ち誇ったような態度をとった。
「あなた、信用されてないのねぇー、何も聞いてないなんて。お嬢様が公爵夫人になったら貴方、…クビよ?」
侍女の煽るような口調で、反対にレンザは冷静さを取り戻した。
「貴女方が何を勘違いされているのかは想像がつきます。けれど、ここで私が申し上げる事はございません。」
自分の考えを勘違いと決めつけられた侍女は睨み付けるような表情で私を指差し尚も続けた。
「そんな人、直ぐに離縁されるに決まってるじゃない。」
「コリー、落ち着いて。」
あまりの無礼にキャサリーン様が侍女を窘めるが彼女は止まらない。
「アシュレッド様は幼い頃からお嬢様に夢中なんです。いつもお嬢様には優しく微笑みかけておいででしたわ。お嬢様の窮地に支援を申し出たのだって、いつかほとぼりが冷めたら迎えにくるつもりに決まってますもの。」
レンザが一層冷たく目を細め、侍女を見据えた。
「アシュレッド様がキャサリーンさんを愛人に迎えるとでも?」
そこでエルザ様が会話に割って入った。
「まぁ、ご冗談を。元とはいえ侯爵令嬢であるキャサリーンは高貴な生まれですのよ。愛人だなんて………。」
この人達は………、私がアシュレッド様に近々離縁されるとでも言いたいのだろうか?
「大体未来の公爵夫人たる者、社交界での恥とならぬようにある程度の美貌は必要でしょう?お嬢様だって侯爵令嬢だった頃それはそれは涙ぐましい努力で美しさを保っていたのです。なのに、ここにいるご夫人は少し努力が足りないんじゃありませんか?」
コリーと呼ばれた侍女は私に蔑んだような視線を向ける。
侍女がここまで私を悪く言うなんて………。
どうしてこんなに憎しみを込めた視線が向けられるのかも分からない。
あまりの事に呆気にとられて言葉を失っていると、レンザが私を庇うように前に出た。
「無礼です。これ以上の侮辱は許しません。お帰りください。侍女の言葉は主人であるキャサリーン様の言葉です。私の主人であるアシュレッド様には、キャサリーン様の言葉として報告いたします。」
レンザの言葉にハッとした侍女は自分の主人を振り返った。
エルザ様も不利だと悟ったのか、押し黙っている。
レンザに視線を向けられると、キャサリーン様は涙を浮かべ縋りつくように私を見る。
「そ、そんな………。コリーは昔から私に仕えてくれていて、私を心配するあまり母もコリーも言い過ぎただけですの。本当に申し訳ありません。テティス様、どうかこのことはアシュレッド様には………。」
彼女は他の男性が見たら守ってあげたいと思わせる程、弱々しく儚げだ。
彼女自身が私を貶めた訳ではない。
この場で彼女の責任を問うのは、私が非情な人間みたいになってしまう。
「分かりました。言いませんから今日のところはお引き取りくださいませ。」
私はどうにか言葉を絞りだし、四人に帰って貰った。
アシュレッド様はまだ戻っていない。今回はかなり遠方への殿下の視察に同行しているのだ。
「どういたしましょう?追い返しますか?」
レンザは心配してくれているが私だってこれからは家を守っていかなければならない。
目的が分からない以上、怒らせないように帰って貰うしか無いだろう。
レンザに調べて貰った結果、アシュレッド様は本当にキャサリーン様達に金銭的な援助をしていたようだった。
「出るわ。」
キャサリーン様は前回連れてきた侍女ともう一人護衛のような男を連れてきた。
暴れられても困るので、武器はレンザが預かっている。
此方も部屋に護衛を配置して会うことにした。
「随分と仰々しいですね。護衛なんて。」
侍女は此方の警戒したような対応に不満そうだ。
「申し訳ございません。もしもの事があるといけませんから。公爵家としては奥様を守ることが第一です。」
レンザのしれっとした口調にエルザ様と侍女は苛立つような視線をぶつける。
その空気を察したキャサリーン様は侍女を窘めるように合図を送り、にこやかに話した。
「それは勿論ですわ。」
私はエルザ様とキャサリーン様に向かい合うように座った。
「今日はどういったご用件ですの?」
「申し訳ありません、何度も。今日もアシュレッド様は不在ですの?」
「ええ。残念ですけど。」
「アシュレッド様はいつお屋敷に居ますか?わたくしどうしても直接会って話したい事がございますの。」
私が口を開きかけたところでレンザが会話に割って入る。
「公爵家子息の予定を軽々しく外部の者に言う訳にはいきません。」
「外部の者なんて……。アシュレッド様とは幼馴染ですのに……。」
「以前はそうでしたね。けれども、今は立場が違いますので。」
レンザは事務的な口調で素っ気なく言った。
すると、侍女がかっとなったようにレンザに食ってかかった。
「未来の公爵夫人に何て言い草!」
「っ!?未来の?なにを妄言を………。」
レンザは咄嗟に言い返すが、侍女は意味ありげに微笑むと勝ち誇ったような態度をとった。
「あなた、信用されてないのねぇー、何も聞いてないなんて。お嬢様が公爵夫人になったら貴方、…クビよ?」
侍女の煽るような口調で、反対にレンザは冷静さを取り戻した。
「貴女方が何を勘違いされているのかは想像がつきます。けれど、ここで私が申し上げる事はございません。」
自分の考えを勘違いと決めつけられた侍女は睨み付けるような表情で私を指差し尚も続けた。
「そんな人、直ぐに離縁されるに決まってるじゃない。」
「コリー、落ち着いて。」
あまりの無礼にキャサリーン様が侍女を窘めるが彼女は止まらない。
「アシュレッド様は幼い頃からお嬢様に夢中なんです。いつもお嬢様には優しく微笑みかけておいででしたわ。お嬢様の窮地に支援を申し出たのだって、いつかほとぼりが冷めたら迎えにくるつもりに決まってますもの。」
レンザが一層冷たく目を細め、侍女を見据えた。
「アシュレッド様がキャサリーンさんを愛人に迎えるとでも?」
そこでエルザ様が会話に割って入った。
「まぁ、ご冗談を。元とはいえ侯爵令嬢であるキャサリーンは高貴な生まれですのよ。愛人だなんて………。」
この人達は………、私がアシュレッド様に近々離縁されるとでも言いたいのだろうか?
「大体未来の公爵夫人たる者、社交界での恥とならぬようにある程度の美貌は必要でしょう?お嬢様だって侯爵令嬢だった頃それはそれは涙ぐましい努力で美しさを保っていたのです。なのに、ここにいるご夫人は少し努力が足りないんじゃありませんか?」
コリーと呼ばれた侍女は私に蔑んだような視線を向ける。
侍女がここまで私を悪く言うなんて………。
どうしてこんなに憎しみを込めた視線が向けられるのかも分からない。
あまりの事に呆気にとられて言葉を失っていると、レンザが私を庇うように前に出た。
「無礼です。これ以上の侮辱は許しません。お帰りください。侍女の言葉は主人であるキャサリーン様の言葉です。私の主人であるアシュレッド様には、キャサリーン様の言葉として報告いたします。」
レンザの言葉にハッとした侍女は自分の主人を振り返った。
エルザ様も不利だと悟ったのか、押し黙っている。
レンザに視線を向けられると、キャサリーン様は涙を浮かべ縋りつくように私を見る。
「そ、そんな………。コリーは昔から私に仕えてくれていて、私を心配するあまり母もコリーも言い過ぎただけですの。本当に申し訳ありません。テティス様、どうかこのことはアシュレッド様には………。」
彼女は他の男性が見たら守ってあげたいと思わせる程、弱々しく儚げだ。
彼女自身が私を貶めた訳ではない。
この場で彼女の責任を問うのは、私が非情な人間みたいになってしまう。
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